6話
彼は泣いて赤くなった鼻を擦る。
全部吐き出して気が済んだのか、先程よりすっきりした顔をしている。いつもの調子を取り戻したようでなによりだ。
「いいか、俺が泣いていたことは絶対他にバラすんじゃないぞ。男同士の約束だからな!」
泣いてたのは認めるんだ...って違う、そこじゃない。
それより……。
「男同士?」
聞き間違いかと思い尋ねると「ああ」と特に何も疑問に思ってなさそうな返事がかえってくる。
ああ、これは……。
「勘違いしてるところ悪いけど、私は女だよ」
そう言うと彼は石みたいに固まって「え…え?」と目を白黒させている。確かに私は間違われやすい容姿をしているけれど、まさかここまでとは。
「だから、女だってば」
もう一度言うとようやく彼は状況が飲み込めたようで、「俺は、今まで女相手に散々負けてきたと言うのか……ッ!」と顔をしかめた。表情が忙しい人だな、この人。
その様子を見てるとなんだかおかしくなって、ふっ、と小さく吹き出してしまう。
はじめて、この人生で心から笑えた気がした。
●○●○
彼…否、彼女が一瞬微笑んだ。あの、鉄仮面が。
それは性別を誤解していたことよりも、頭をガツンと殴られたような大きな衝撃だった。
こいつも他と同じように笑うんだ。そんな当たり前のように思えることも、俺の中ではとんでもなく重大なことのように感じた。
きゅう、と心臓が悲鳴をあげているような感覚に陥る。
なに、なんだこれ。自分が自分じゃないような。こんなにも俺をめちゃくちゃにして、何なんだよお前は。
やっぱり嫌いだ、お前なんて。
いい加減、俺の平穏を返してくれよ。
●○●○
決闘は中断されることはなかったが、次第に決闘後に雑談をするような仲になった。かたや嫌っていて、かたや多少の興味しかないなんて、不思議な関係だ。
それでも、思ったより居心地は悪くなかった。
その時はどういう話をしていたんだったか、何かの経緯で将来の話になった。
「私は、魔法道具の発明家になりたいの」
気が緩んでいたからか、ついその言葉を零してしまった。両親以外からは女が発明家なんて、と馬鹿にされてきたささやかな夢。この世界に生まれて出来た、機械いじりという新たな趣味。心の柔らかいところに触れさせるようなことを言ってしまい、取り消そうと口を開きかけた時だった。
「フン、お前にお似合いだな」
私を嫌いな彼のことだから、てっきり否定されると思っていた。家族以外から初めて言われた肯定の言葉に、柄にもなく鼻の奥がツンとした。彼にその顔を見られないよう、視線を地面にずらす。
「そういえば、お前のそれは大きめな気がするがお下がりか?」
制服を指さして、彼はそう聞いてきた。
「ああ、これはお母さんが『これから身長伸びるんだから大きめのにしときなさい』って。だから、お下がりじゃなくて新品」
「ふぅん…新品ってことは兄弟とかはいないのか?」
「うん、一人っ子」
「君は?」と聞き返すと、少し間を置いて「…異母兄弟なら上にも下にもいる」とかなり返事に困る返しをした。
「君ん家って複雑だね」
「結構正直に言ったな、お前」
「だって他に言葉が思いつかなかったし」と白状すれば、彼のツボにハマったのか笑いが押えきれず肩が揺れている。彼の笑いのツボはよく分からない。




