18話
その後、スミスご夫妻に「働き詰めもなんだし、ちょっとは休んできな」と言われてしまった私は、エルヴィンに誘われてとある場所に向かっていた。今は彼の家が所有する馬車の中。マイカーならぬマイ馬車というやつか。馬車に気後れする私なんぞお構い無しに、彼に引っ張られてきてしまった。
ふたりで外の景色を見て話しながら、心地よい揺れに身を任せる。あの頃に戻ったみたいなこの雰囲気が愛おしい。
しばらく外の景色を見ていると、懐かしい風景が目に映る。馬車はそこで止まった。
青春を過ごした魔法学園。彼との思い出が詰まった場所。「いいところに連れてってやる」と彼が言っていたのはこのことだったのか。
手を引かれながら学園の中を巡る。今学園は長期休暇中で、帰省したり遊びに出かけたりしているのか学生は見当たらない。
彼の足が、ある場所でピタリと止まった。そこは彼といちばん一緒に時を過ごした場所、大きな樹の下。彼はもう覚えていないかもしれないけれど、彼が私の夢を否定せずに受け入れてくれた場所だ。
彼はこほん、とひとつ咳払いをする。繋いでいた手を離して私の方にくるりと向き合うと、堂々とした声で言い放った。
「おいシオン、俺と結婚しろ!」
その光景に、昔の思い出が蘇る。
『おいお前、俺と決闘しろ!』
あの出会いがなかったら、多分この気持ちを知ることは一生なかっただろう。私によく勝負を挑んできたあの少年は、いまや立派な青年になった。あの時は、まさかこんな関係になるなんて思ってもみなかったな。
昔を懐かしむ私に、返事がなくて焦ったのか彼がまくし立てる。
「よ、喜べ!お前はこの俺の妻兼リアトリス家専属の魔法道具発明家だ!家に金だけはあるからじゃんじゃん発明できるぞ」
「それは、とっても素敵だね」
私が笑顔でそう言えば、彼はほっとした表情を見せた。
「無論、この結婚に誰も文句は言わせない。そのためにわざわざリアトリス家当主の座をもぎ取ってきたんだからな」
「ふ、ふふっ……もうほんと、暴君だなあ」
「別にいいだろ?お前だって卒業式の前の夜、あんなに『この時間が続けばいいのに』って言って、いた、痛いって、肘で脇腹をつつくのをやめろ」
当時の恥ずかしい記憶まで蘇ってきて、つい八つ当たりをしてしまった。とりあえず、その事については触れないでいただきたい。
「もー、あの時みたいにびしょ濡れにしてあげようか」
「俺だってあの時よりは成長したんたからな!…でももしそうなったら、俺の妻にタオルで拭いてもらうとするかな」
あら可愛い、甘えんぼさんだ。こんな彼、あの時の私がみたらきっと信じられないと思うだろうな。
「……あ、そうだ。俺としたことが、いちばん重要なものを忘れていた」
そう言って彼は私の左手に触れると、私の薬指にそっと指輪をはめた。美しくそれでいて主張の激しすぎないダイヤが、光を受けて鮮やかに輝いている。素直に、今まで見た中でいちばん綺麗だと思った。
「ぜ、絶対に外すなよな」
この状況に照れくさくなってきたのか、彼がそう言う。
「もちろん。返してと言われたって返さないから」
冗談交じりに言うと、彼は子供っぽく笑い「そうこなくっちゃな」と返事をした。




