15話
卒業式から数年くらいは経っただろうか。私は生まれ育った町に帰ってから、まるで空いた穴を埋めるように色んな場所を転々としていた。
今は、必死に頼み込んだスミス魔法道具店の店主スミスさんの元で、魔法道具のあれこれについて学んでいる。彼は発明から修理まで手がけているそうだ。彼がいなかったら今頃私は職なしのニート生活まっしぐらだっただろう。
「あんまりコンを詰めすぎないほうがいいわ、シオンちゃん」
スミスさんの奥さんが、暇さえあれば機械いじりに没頭する私を心配して声をかけてくれる。私にとってはもう今世で第二のお母さんみたいなポジションだ。
「悩み事があればいつでも話していいからね」
彼女にそう言われ、私は曖昧に笑顔を返す。こうしているのは、純粋にこれが好きなだけでなく何かしら別の理由もあるのだと彼女は感じ取っているのだろうか。もしそうだとしたら、あながち間違いでは無い。ただ、思い出話として話せるほど、まだまだこの気持ちを整理出来ていないのだ。
誰にも言いたくない。他のことに集中していれば、少しでも彼のことを忘れられるかもしれないから、なんて。
「そういえば、町でこんな話を聞いたのよ」と彼女が話を切り出す。
「ある貴族の方が、人を探しにこの町に来ているんですって。とっても美しい方だと聞いたわ、気分転換にでも見に行ったらどう?」
恋バナ好きの彼女は「まるでどこかの御伽噺から出てきたみたいな方らしいわよ〜」なんてきゃっきゃとはしゃぎながら話している。
へぇ……貴族の人の探し人なんて、この町にいるのかな。彼女の言う通り、野次馬根性で気分転換にでも見に行ってみようか。
そう考えた私は、スミス夫妻に「少しだけ外の空気を吸ってきます」と告げて店を後にした。
・・・
町の乙女たちが色めきたつ声がする。多分、あそこら辺だな。人と人との隙間からちらりとその姿を覗き見る。
視界に飛び込んできたのは、見慣れた黒い色の髪。
……あれ?
不審に思っていると、見覚えのある赤い瞳と目があった気がした。
やばい、逃げなければ。
直感的にそう思った私は、人混みに紛れてその場から離れ、なんとか店に戻ることが出来た。
・・・
間違いない。見間違えるはずもない。
エルヴィン・リアトリス。私の初恋。なんで、何故彼がここに。
確か、奥さんは『人を探しに』と言っていなかっただろうか。まさか、私?いや、別の人かも。人を探しに来るだけなら従者の人に頼めばいいような気もするが……。
借りている部屋のベッドで悶々と考えていると、コンコンとドアを叩かれる。それに応じると、スミス夫人が「来客よ、あなたを一目見たいんですって」と微笑みながら言った。
私に客人?誰だろう。とにかく、この衝撃を忘れたいから考える以外のことがしたい。
彼女にひとりで奥の客室に通され、例の客人と対面する。
「はじめまして。私、シオン・トレニアと申し……」
「はじめまして、なんて酷いな」
「っ...!?」
「あれだけ一緒にいたのに」
驚いて目線を上げると、私のよく知る彼より少し大人びた顔つきになったエルヴィンが、光の映らない赤い目で私を見下ろしていた。
彼の口が歪む。
「みつけた」
私は、目の前の出来事を正しく理解できなかった。




