14話
筒に入った卒業証書を持ちながら、はらはらと涙を流す同級生たちを横目に、ひとり俯きながら学園内を歩く。
この学園にいられるのはもう、今日で最後だ。
それから多分、彼との関係も今日で最後。
彼は貴族で、私は平民。
今まで、一度もそれを意識しなかったかと言われれば嘘になる。彼に直接言われたことこそないが、どうみたって身分不相応だった。この前時代的な世界では女というだけで下に見られやすい。幾ら『名誉学生』という称号があったって、平民という立場は変わらない。身分の壁は埋まらない。この関係は学生の間だけ許されるもので、卒業して大人になるとその違いは顕著に現れる。
彼だってそれは知っているはずだ。
学生の間だけ許された短い恋だった、ただそれだけ。多分それは、きっと前世の学校でもあまり変わらない。私が今まで付き合ったことのある人はただ1人だけだから、そのあたりには詳しくない。が、前世の、学生時代は青春の1ページのような恋をしていた友人が、大人になってその相手と別れた話が脳裏に浮かぶ。
ここまでダラダラと話してきたが、つまり何が言いたいか手短に言わせてもらおう。
私は、彼と別れようと思う。
きっと、私は彼の迷惑になるだろうから。
荷物も全部片付けて実家に送った。
部屋にちゃんと置き手紙も置いた。
こういうのは直接言った方がいいのは分かってるけれど、どうしても彼を前にしてしまうと泣いて縋る未来しか見えなくて諦めた。
私は卑怯だ。卑怯で臆病者だ。前まではこんなんじゃなかったのにな。彼に会って、世界はモノクロなんかじゃなく色鮮やかなのだと教えられて。恋を知って、私は随分弱くなった。
あの頃の私なら、こんなに心が痛むことなく、人生を過ごせていただろうに。
彼をめんどくさいと思っていた時期もあったが、果たして本当にめんどうなのはどちらだったのだろうか。
いつの間にかこんなに愛してしまって、なんと惨めなことだろう。あてもなく歩いていると、人目につかない場所に出た。
ここなら、泣いたって誰も気づかない。そう思ったら、涙が、嗚咽が抑えられなかった。
この涙が枯れるまで泣いたら、彼へのこの気持ちも枯れてくれないかな、なんてありもしないことを頭の隅で考える。
その日、私は彼の前から姿を消した。
●○●○
今日は朝から彼女の姿が見当たらない。
昨日の夜には確かに隣にいたはずなのに。はじめは遅れるといけないから先に卒業式に向かったんだろうかと勝手に思っていたが、普通ここまで出会わないだろうか。せっかく人が一世一代の告白をしようと思っていたのに、まるで幻でもみていたかのように彼女の姿だけがなかった。
流石におかしい。式が終わった後何時間も校内を探しても、どこにもいない。
部屋にならいるんじゃないかとコンコンと扉をノックをするが何も返ってこない。ドアノブを回してみると鍵はかかっていないようで簡単に扉は開いた。何か嫌な予感がする。
中に入ると、彼女の痕跡は何も残っていなかった。机の上の『それ』を除いては。ご丁寧にエルヴィン・リアトリス伯爵子息様と名前が記された手紙。間違いなく彼女の字だ。
俺は、その手紙を手に取った。




