番外編
めでたく?恋人になって少し後だったように思う。
「お前、夜中にあのリアトリスに相手、して貰ってんだろ?」
相手。はぁ…相手、ねぇ...。
ニヤニヤした顔が複数近づいてきたと思えばこれだ。
恐らく付き合っていることが噂になったのだろう。しかも、悪い方向に。特に隠してはいなかったが、噂というものの広まる速さは計り知れない。
「ついでにオレらの相手もしてくれよ」と抜かす目の前の男子生徒達。残念ながら周りに他に人はいない。断りたいのは山々だが、彼らが易々とはいそうですかと見逃すとも思えない。かといって一般生徒を決闘でもないのに魔法でのしてしまうのも返って面倒事が増える。
「黙っちゃって、怖がってんの〜?」
「名誉学生ちゃんにも可愛いところがあるんだねぇ」
やかましい。
どうやってこの場を回避しようかと頭の中で考えをめぐらせていた時だった。
「誰が、誰の相手だって?」
いつもよりも低いドスの効いた声が後ろから聞こえた。頭の上にポン、と大きな手がのせられる。振り向かなくとも分かる、こんなことをするのは一人しかいない。
「ひっ、り、リアトリス」
目の前の彼らが後ずさる。声が張り付いているあたり相当怖いんだろう。
彼の顔はここからだと見えないが、背の高い彼のことだから睨みつけただけでもかなり迫力は出るにちがいない。
「そうだな…次もしそんなことを口にしたら、翌日にはお前の実家、風通しのいい焼け野原になってるかもな」
暗に「次何かしたらお前の家を潰すぞ」と彼が脅すと「すみませんでしたー!!」と叫びながら逃げ出してしまった。逃げ出すくらいならはじめからしなきゃいいのに。
「おい、シオン。肝が据わりすぎだろお前」
「俺が助けてやるまでもなかったか?」なんて自嘲気味に言う彼。断じてそんなことはない。助けて貰わなかったらあの場面ではどうしようもなかっただろうから。
「むしろ助けて貰ってよかったよ。これでも困ってた方だから」
「ありがとう」と素直に言うと、彼はふんと鼻を鳴らして頬をつまみたくなるようなドヤ顔をした。
「そういえば、どうして私がここにいるのがわかったの?」
「お前がいないからキョロキョロしてたら、他のやつらが教えてくれた」
その答えに思わず納得した。
確かに、彼は昔から私に決闘を挑むために探し回っていた。その様子を見ていた周りが「ああ、またあいつ探してんだな」とでも思ったんだろう。
「そ・れ・よ・り!助けたんだから当然ご褒美、くれるよな?」
彼はわっるい笑顔でそう言う。成程、ご褒美目当てか。何が欲しいんだろう。そんな大層なものなんて私の財力ではあげられないのだが。
お目当てのものは何か一応聞いてみると、彼はその笑顔のまま告げた。
「エルと呼べ」
……ん?
聞き返すと「2人の時は!エルと呼べ!」と大きめの声で返ってくる。
ああ、ほしいものじゃなくて、してほしいことだったのか。「これは世界でただひとりの、名誉ある事なんだからな!」なんて自慢げに彼は言っている。鼻でもつまんでやろうかな。
「リアトリス君」
「おい」
からかい半分で苗字を呼んだら不機嫌になってしまった。仕方なく、彼の要望通りに名前を呼ぶ。
「…………エル」
そう呼べば、彼は「ん、上出来だ」と満足げな様子で私の頭をがしがしと撫でた。
なんでこんなめんどくさい人を好きになっちゃったかなあ……なんて思いつつも、どこか可愛いと思ってしまうあたり、私は重症にちがいなかった。




