マイティ・ソー/バトルロイヤル
「3500万円、支払ってもらいます。あの、男に」
駆け落ちした相手には、太郎という名前があるが、叔母、あの男って、名前も口にしたくない様子。
声も憎々しげで、唇を曲げ、憎悪100倍ってか、憎悪度マックスってか。
憎悪、全身で表現している。もうアーティスト、どう表現すれば相手に気持ちが伝わるかって執念を感じる。
そして、39歳まで育てた娘の養育費に、な、なんと3500万円の請求。
憎悪、お金に換算したぁ〜〜!
完全に狂っている。もう、目がイっちゃてる。
オババ、目を細めました。
「3500万円、ほほう」
「びた一文まけません」
「そう」
「な、なによ、その顔」
ふたり、にらみあってる。
え? リアル姉妹ゲンカ?
「セコいわね」と、オババが静かに言った。
「セコいですって」
叔母の声、裏返ってる。私のもろい感情も裏返っているけど。
「そうよ、小さいころからセコかったけど、さらに磨きをかけたわね。忘れてませんよ。バナナ事件」
「バナナ事件って、あ、あれは姉さんがいらないって」
「なに言ってるのよ。当時、バナナがどんだけ高級品だったか。それをあんた、私のぶんまで食べてちゃって、こっそり食べて、犬のコロのせいにしたでしょ。昔っからセコかったわ」
バナナが高級品?
いつの話よ、それ。戦後のことか?
てか、今する話?
「それで、3500万円、ますますセコいわよ、あんた」
そうそう、話はそれで、3500万円を寄こせなんて。
え? セコい金額じゃなくって、大金だけど。
「それでいいわけ。案外と少ないわね、たったの3500万円って」
3500万円がたったって言ったぁ!
言い切った!
オ、オババ〜〜〜!!
なに言うた?
少ない? 自分で言うとること、理解してっのか?
家一軒建つぞ! 車ならフェラーリ買えっから。
うまい棒なら、主食にして一生涯かけても、食べきれんほど買えて、隣近所に配り歩くレベルだから。
なんなら、私にくれ!
「す、少ないですって」と言った叔母の声、さらに高音で裏返ってる。
「ああ、少ない、勝江。あなたの娘に対する愛情って、そんなもんですか」
「違うわよ!」
「ほお?」
姉妹、鼻息が荒いです。
見合っる。言葉を先に発したほうが負けって、そんな感じに見合っていて。
私、行司役?
姉弟喧嘩で世界を滅ぼしたのは、映画『マイティ・ソー/バトルロイヤル』であって、オババと叔母の間でも火花、パチパチ! 雷になりそう、炎あげそう。
そこで繰り広げられているのは北欧神話じゃなく、日本神話からある姉妹喧嘩。地球は破壊されないけど、私のメンタル破壊しつつある。
「安い! あんたの娘への思い、たった3500万円」
「ち、違うわよ、ほんとは4000万よ」
「また、ちびちびと値上げすんのね」
「そう、そんなに言うなら5000万よ。もうこれ以上はまけられない」
お、おいっ! オークションじゃないんだから、そこで金額あげてどうすってのよ。
だいたい3500万円でも非常識で、それを5000万円って。
オババ、裏切ったのか。敵に、妹に肩入れすんのか。
優ちゃんを結婚させるってのは、崖っぷち婚活の唯一の道で、この道しかないって言ったの。オババでしょ。
なにしてんの?
が、オババ、それから、さらに不敵に笑ったんである。片方の唇をあげてニッとして。そして、言い放った。
「10億!」
私と叔母、同時にオババを見つめ、なぜか叔母とシンクロ率100パーセント。
10億って。
私の鼓膜、破れてる?
「ジュ、……10……億」
「そう10億」
なに言っとるじゃあ。太郎くん、どう逆立ちしたって、そんな金ないっしょ。
てか、そんな金、ビル・ゲイツに言えって話で。
で、なんでオババが……。
「い、いいわよ。10億、そう10億ね、いただきましょう」
って、言う叔母の声が震えてる。
……私だって震えてる。
(つづく)
映画『マイティ・ソー/バトルロイヤル』
2017年公開。
面白かったぁ。単純に見てる間、楽しめる映画だった。
これ、壮大な姉弟喧嘩の映画。
ソー:北欧神話の雷神トールがモデル。
姉と弟の兄弟喧嘩を壮大に繰り広げるのがマイティーソー/バトルロイヤルであって、大ヒットした映画『アベンジャーズ・エンドゲーム』より前の作品。




