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クローズZERO



 翌朝、そうそうに電話が鳴った。


「あなたのせいよ!」


 受話器をとった瞬間、電話口から叔母のヒステリックな声が響いて、もう朝から最悪な気分です。


 叔母、さすがオババの妹で、小さい頃から姉妹で、特にあのオババと切磋琢磨したわけで戦闘能力、高い。


 私みたく、もろさっていうの?

 ないから。

 言葉でも、声の大きさでも、ここぞってばかりのレベルを駆使して、


 最初から急所を狙ってきた!


 てっぺん取るぞってな勢い。

 鈴蘭高校でてっぺん取るって、あの小栗旬の勢い。

 あの、これ『クローズZERO』。

『クローズZERO Ⅱ』はまだ見てないから。


 で、時計を見ると、午前8時。

 やっと暇ができたっていう、主婦の時間じゃない


「あなたのせい、優ちゃんが……」


 私、なにが苦手って、こういう面と向かった言葉の暴力がダメなんだ。豆腐メンタルなんで身も心もやられるほう。


 だから静かに受話器をおいた。聞かなかった、そう、何もなかった。すべて、そういう風に終わらせようって、そう決めた。

 で、再びかかってきたので、今度は電話のコンセント抜いた。

 オババと違って、もともと内向的な叔母、自宅まで来る根性はないと思う。



 それにしても、あの2人。家に戻らなかったのだ。

 なにをした? 優ちゃん。

 って、ナニをしたんだ、きっと、優ちゃん。


 で、その結果が、「あなたのせいよ!」っていう電話だろう。

 もう知らんがな。


 ピンポ〜〜ン


 う、嘘やろ!


 思わず、ビクってしましたね。

 夫は、もう関わるなって言ってるし、ていうか、あんたの親戚じゃない。ていうか、インターフォンの音、電話から2分も過ぎてない。


 ピンポ〜〜ン


 警察に連絡しようかと、一瞬思った。日本の優秀な警官って、こういう時にあるんじゃないかって。悩んでいると、またまた、ピンポ〜ンってインターフォンの不吉な音がした。


 無視したら、案の定、ドンドンって玄関ドアから音が。これは危険なシグナル。


 ふふふ、でも、甘いな!


 私はパソコンを立ち上げた。

 そして、グーグルアースで世界旅行することにした。

 そうだ、パリに行こう。


 それにしても、すごい世界になった。

 グーグルアース、パリもロンドンもサウジアラビアもエジプトのピラミッドも見える。

 行きたいけど、情勢が不穏な場所でも、こうして家から見えてる。


 で、アメ、絶賛世界旅行中、今はパリ!


 パリの街角でクロワッサン食べて、コーヒー飲んでたら。


 庭先から、なにか気配がした。


 クロワッサン、口にくわえて、コーヒーを右手に持って……。

 で、チラっとね、チラっと窓側、左に黒目だけ動かしてみた。


 顔はパソコン向いてるから。

 これフェイクだからって、そんな態度を全身から匂わせながら、チラッと!


 ガラス窓越しにオババと対峙しちまった。視線、ばっちり合っちゃった。


 思わず、口からクロワッサンが、ポロと落っこちた!


 私、いま、パリだから。

 パリジャン風に肩をすくめてみたけど。


 オババ、右手を横に動かしている。

 で、私、右手にコーヒー持ってたから、左手で同じジェスチャーして、顔を傾けてみせた。


 意味は、

(どういうことでしょうか? わかりません)


 オババ、再び右手で同じ動作。

(ドアを開けなさい)って言ってる?


 私、右手のコーヒーを重そうに持って、椅子から腰を上げて下ろした。

(コーヒーが重くて立てない)って意。


 オババ、頭上に両手をあげてる。

(武器はもってない)


 私、両手をバッテンに。

(無理っす)


 そんな無言のパントマイムが数分。

 お互い、理解し合えたというか、これ以上の時間稼ぎは無理って段階になって、ついに私は掃きだし窓を開けた。


「優ちゃんが帰ってこないのよ」

「そうでしたか」


 オババ、あまり怒ってないようで、ちとホッとした。


「ちょっと、入るわね」


 一瞬で、籠城破られちまった。


「アメ、昨夜はすごかったわね。トラック運転しながらバックした時は、勝江を鬼にしたわね。それで、勝江が半狂乱になってね。ウチに来たのよ」

「コーヒー、お飲みになりますか」

「いいわね。美味しいほうの豆をひいてね」

「美味しいインスタントです」


 オババ、しばらく黙っている。

 コーヒー豆には一家言あるオババには珍しい。てか、この話題では横道に逸れないってことか。

 覚悟を決めるしかないと、天の声がした。


「優ちゃん、帰って来ないんですか」

「帰ってこないどころか、このまま太郎家で生活するって、連絡があってね」


 おっと、いきなりの超特大反抗期!


「叔母さんは、怒ってらっしゃいますよね」

「まあ、そうなりますよね」

「私にですね」

「なぜか、逆恨みで、私も悪いってことになってましてね、アメ 。そこは一緒よ」

「……」


 さ、逆恨みって……。そもそも、なぜ?


「勝江は子どもの頃から内向的で、外に出たがらないから。優ちゃんにへばりついてしまって。だからね、優ちゃんが反抗するなんてこと考えたくもなくて、だから、あなたに向かってるわ、ちょっと私にもね」


 ちょっとかい〜〜〜!


「まあ、それは、ここに置いといて」


 でもって、コーヒーの横に、自分の逆恨み置きやがった。

 私が手でそれを取ろうとすると、すかさず、別の場所に。


「ともかくね。これから、太郎くんのところへ行こうかと思ってね」


 それって、ここに来たって、私も?


 え? 大丈夫だから、私、ここだけで生きていけるから世界旅行に夢中で、パリが待っているし、だから、オババお一人でって、一応は抵抗してみた。


(つづく)


**************

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