君の名は
「勝江もかわいそうな子なのよ、昔、私がいじめてたから、だって、あの子、ほんと辛気臭かったんですよ。大人なって、ちょっと悪かったと思いましたがね」
いじめたんかい!
オババ、体格がいいし、叔母は小柄で華奢だしで、個体差からいっても圧勝でしょう。
「ともあれ、あの子の結婚は、とうの昔に破綻してますから、すべてのエネルギーが優ちゃんに向かっていて、結婚なんて認めないと歯ぎしりして連絡してくるのよ。もう朝昼夜かまわずにね。私にストーカーしても意味ないのですけどね」
叔母がストーカーって、ありそうで怖い。
なんてこと頭で考えていたら、オババ、おかしな人を見るような目で私を見ている。
照れ隠しに、ニッと笑ってみると。
オババ、片方の唇を上にあげ、ニッと対抗してくるので、しばらく、ニッ同士で固まっていたけど、やはり、熱量の差で負けた。
「それでも、優ちゃんにとっては結婚するほうが」
「勝江はね、 寂しいんです。だから優ちゃんに執着して、それが母親のすることだって、信じていますから。厄介で」
ま、そんなふうなこと話していると、夫が散歩から戻ってきた。
日曜日の朝は散歩からって、夫なんで。
で、オババを見ると………。
顔がぱあ〜〜って、まるで恋人に出会ったように明るくなり、夫のほうといえば、全く気づいてない。
なんだか、学生時代に見たことのある片思いのようで。
子育てってワリに合わんなって、人ごとのように感じた瞬間。
「それで、オババさま、こちらにいらしたのは?」
「勝江の電話が、ひっきりなしでね」
「……」
「だから、まあ、あなたと一緒に優ちゃんとこに行こうと。勝江が連絡しても出てくれないそうで、電話もメールも無視だそう」
いや、それはもう。私はやめたい。だから、思わず叫んだ。
「待ったっっっっぁ!」
「待った、なし!」
「いえ、待った、待ったづくし」
「ファイナルアンサー!」
「いや、私、行けないですから」
オババ、顔がギョロ目になってる。目だけになってる!
夫を振り返ると、なぜか散歩のお代わり中。脱いだスニーカーをまた履いていた。この裏切りもんがぁ!
………………(泣)
結局、翌日、オババに付き合って、私、太郎くんたちと話をすることになった。
そこでね。もう聞いてよ、みなさん。
訪ねて行って、見たものと言ったら。もう、なんちゅうか、がらーんとした飾りもない男所帯の古い畳の田舎家に。
後光がぁ〜〜〜っ!
光輝く女神様がぁ〜〜〜!
優ちゃん、肌も全身もすべて光り輝いていて、もう新婚オーラ満開でそこにいた。
思わず、眩しいって眩しすぎるって、顔をそむけちゃいました。
トラックで逃げて、たった3日で、この変化!
39年間、待って、待って、待ち続けた映倫R−18指定!
そんじょそこらで簡単に男を見つける若い女子には出せまいって、簡単にはでない、これはオーラだ。
優ちゃん、男の人と付き合ったことも初めてなら、手をつないでドッキドキの恋とか愛とか、その周辺のことが終わった次の段階。
39年間、義務教育で我慢してからの〜〜、待ちすぎちゃってからの、模試なし一発勝負! 逆転ホームラン!
そういう輝きってあるんだなぁ。
もう、これは熟成されたワインの輝き、年代物の美味。
「アメ姉様、伯母さん、こんにちは」って。
声から、かすれて色っぽい。いつの間に、そんなあだっぽい技を身につけた。もうびっくり。
まだ3日というのに、その場に馴染んでること、電線に馴染むスズメと同レベル。
女って魔物だなって思う。
オババも言葉を失なっている。
「もう、勝江のはいる余地はない」って呟いてから、「元気そうでよかった。太郎くんは?」って聞いた。
「畑に出ています、あとで手伝いに行こうって思っているの」
優ちゃんの手にはご飯粒がついていた。
「なにしているの?」
「お昼ご飯に、おにぎり、作ってるの」
私とオババ、以心伝心ちゅうか、心が、この件に関してはシンクロした。
シンクロナイズのペアカップルみたく、水面から伸びた足が、ピターと同時につま先まで合ってた。
なぜって、優ちゃんのおにぎりとかいう、キッチンに積み上がったコメの山を見たんであり。
そこは、やはり昔の優ちゃんだった。
せっかく掴んだ太郎くんという宝が一瞬で魂が折れちまうぞ、そのおにぎりという代物だった。
結婚って考えたとき、男性は、なにを思う?
決め手はなんだ?
そんなアンケート、検索すれば、いろいろ出てくる。集約すれば、
男性側アンケート:結婚の決め手になったのは何。
『いっしょにいて楽だから』
『子どもができたから』
『長いつきあいだから』
『家事や料理がうまいから』
いやあ〜〜〜。現実的ってか。もう現実。あなたたち、間違ってない。その通り。
だから、思いだした。
『君の名を。』
太郎くん、そうした男性の結婚への思い、すべて断ち切っている!
年上で、なんもできない優ちゃん。男性が結婚の決め手とするアンケート、すべて敵にして優ちゃんを選んだ。
そこはもう、君の名は。の世界観でしか語れない。
彗星が降って村を全壊するくらいの異常事態で恋をしたんだ
私、彼らを見ててわかった。
なぜ、運転下手なのにがんばって、トラック運転してまで応援したのか。
叔母のこと考えれば、あとが怖いってわかってたのに、がんばったのか。
要するに、私が忘れてしまっていたもの。もう、思い出すこともできないもの。たぶん、子どもを産むとき、陣痛とともに同時に産み出しちゃった何か。
そういうものを彼らは思い出させてくれた。
(つづく)




