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貞子vs伽倻子

 事実を受け入れたくなくて、叔母は落とし所を発見しちまった。


 誘拐。


 これが叔母の正義。

 ときどきね、自分だけの正義って持っちゃいけないって思う。


 叔母って、豪傑オババの影で、静かで優しいってが私のイメージだった。

 人を見る目、からきしないのかも。


「誘拐」って叔母が吠えたファミレス。


 私たち、先へ進めなくなった。

 このケースで、私たちって、私と太郎くんと優ちゃんと、それから暇を持て余したファミレスの店長さんのこと。


 店長、使命感を持ったおじさんなんだ。

 で、スピーカーにしたスマホの声、筒抜けだったわけ。


 右側斜め30度、3メートル向こうにいた店長、ピクってした。


「お金は払うから」っていう叔母の悲痛な声で、手がね、ちょっと動いた。


 私、とっさにスマホを切った。


 店長、困惑していたと思う。

 きっとね、きっとだけど、警察か? って頭に浮かんでいると思う。


 斜め30度3メートル向こう側から、警察通報オーラが出てた。


「あ、あの、誘拐犯がここに立てこもっているようです」って電話しようか迷っていた。


 目が合って、で、視線を外して窓の外側を見た。

 そこには髪が乱れ、化粧も取れ、目が血走った女がいたんだ。


 こ、こわ!

 思わず貞子か伽椰子かって思ってから、数秒後に気づいたのは、それが私の顔だってことだ。

 誘拐犯というよりホラー。

 貞子vs伽椰子vs私ってくらいで、迫力十分、勝負できそうだった。


「出ようか」


 私が言ったとき、店長がほっとした表情を浮かべた。


 定時に帰りたいし、深夜勤務で疲れるし、警察に通報すれば、面倒を背負い込むことになるからって。


 慣れた手つきでキャッシャーを叩き、少しだけ店長、逡巡した。

 頭のなかできっと考えたんだろう。

 もし、ホンモノの誘拐犯で、お金もらっていいのかって?


 で、迷った挙句に、プロ意識がね。


「3680円です」って


 きゃー、誘拐犯からお金取るんかい!

 そこはタダでしょ。


 で、このカオスな状態。

 駆け落ち(こちら側の言い分)

 誘拐(叔母の言い分)

 どっちよ(オババと愉快な老人会の仲間たち)


 3人vs1人vsその他の対決を制覇したのは、なんと眠気であった。


 優ちゃん、トラックに乗った瞬間、可愛い寝顔で眠っちゃった。

 運転している太郎くんに寄っかかろうとしたので、狭い座席で、強引に優ちゃんを、こっちへ引き寄せた。


「自宅にお送りします」って太郎くん。


 いい奴だ。

 それで、どうするの? なんて聞きませんでした。


 ともかく、私は帰った。そして、寝た。


 その後、2人がどうしたか、私は知らない。

 叔母のところへ戻ったと思ったけど、それは違った。


(つづく)


 **************

 映画「貞子vs伽椰子」

 ホラー映画『リング』シリーズの山村貞子と『呪怨』シリーズの佐伯伽椰子が共演という、なんというか、ホラー映画。

 でも、その合体が、なんていうか、ホラーなんだけど、コメディに見えてしまう。2016年の大ヒット映画です。


 キャッチコピーに、つい吹きました。

「どっちの呪いが、最恐か」

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