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見習い魔法使いと魔王の眷属  作者: また太び
第1章 雨に沈む街
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セリア再び

「こ、怖かったぁ………もううちあのまま国家犯罪者として処刑されるんじゃないかと……」


『多分私がヴェルミィーナの仲間にならなかったら問答無用で王様のところに連れていかれたわね……』


「あの人に逆らわないようにしとこう……」


『賢明な判断ね………丸くなったとは言え、あの魔王は魔物の中で頂点に位置する竜族のその長………最も魔王らしいというかなんというか……』


「あんなに美人でも怖い人なんだね……」


『え?あぁ、そうね……でも、前見た時と姿が違ったような気がしたけれど……まぁ、もう1000年以上も前のことですし、忘れてしまっているのかもしれないわね……』


「どうかしたの?」


『いえ、何でもないわ。さ、早く帰りましょう』


「う、うん……今のところうちは中立ってことでいいんだよね…?」


『一応ヴェルミィーナの傘下に入ったけれど、このことを他の魔王に知られると厄介だわ。そうね、今のところ中立という立場を貫いておきましょう。ヴェルミィーナも今すぐどうこうするというわけでもなさそうだし』


「分かった。それじゃマーレシュタイン王国で何か食べて帰ろうか」



気持ちを切り替えたイリムはそそくさとケッキガルドを後にするのであった。




「ん………んん……」



そしてイリムが消えてから10分後。カイルは目を覚ます。



「あれ、何で俺こんなアトリエ前で寝てんだ……―――いつつ!なんか頭が痛むな……酒飲んだわけじゃないってのに……」



ヴェルミィーナの記憶操作によって綺麗さっぱりイリムとの出来事を忘れているカイルは、痛む頭をさすりながら急いでミレイに頼まれた魔法石を回収しに向かった。




「これくらいで足りるだろうか……―――だが……」



いまいち記憶に欠損が見られる彼は、若干の気持ち悪さを感じながらもミレイに頼まれた魔法石の回収を済ませて採掘場を出る。



「やはり場所を変えた方が良いな……」



そう言ってカイルは自分の左腕を強く抑え、苦い表情を見せ、額には脂汗が浮かぶ。



「毒を持っている相手ではなかったから良かったがこれでは……」



カイルの左腕から流れる真紅の血は、応急処置で巻いた包帯も既に赤く滲んでおり、このままアトリエに帰ればいらん心配をかけると思ったカイルは、カリンの家に向かうことにした。


今日潜った採掘場は、荒れに荒れていた。弱い魔物は淘汰され、強い魔物しか生き残れない環境になった採掘場には強力な魔物だけしか住んでおらず、浅い層にも関わらずカイルの手を焼かせる魔物で溢れかえっていた。


それも強者のオーラを感じとるのか、それとも彼の体内にいるヴェルミィーナに反応するのか分からないが、とにかく行く先々でカイルは魔物と遭遇してばかりで、それはたとえ彼が完全に気配を消して岩陰に隠れていても見つかるのである。


いくら神霊魔物を倒したカイルとは言えど、続く連戦と複数の魔物との戦いは流石に辛いものがあり、ミレイに渡された袋がいっぱいになる頃にはもう彼はボロボロだった。


それでもカイルは依頼人に頼まれた品物と頼まれてはいないが、それでも持ち帰れば喜ぶと信じてフィオナが育てるハーピネスドラゴンのアクセル用に魔素がたっぷり入った肉を剝ぎ取ってきた。


彼は仕事に関してはプロ意識が強く、ダメなものは断り、可能なものなら受けると言った仕事としての線引きも心得ている。


その線引きを見間違うと自分の身分に合わない要求をされ、最悪命を落とすと言った冒険者は少なくなく、報酬金に目が眩んで自分の力量と照らし合わせることも忘れて死んでいった冒険者を彼は幾度も見ているからこそカイルはこの線引きが一番大事だと常日頃考えている。


しかし、今回の件に関して本来ならば、ミレイの申し出を断るつもりだったのだが、やはり自分よりも年下で夢に向かって真っすぐ走る少女を見ていると応援したくなるというか、そんな気持ちが芽生えてしまい、無茶をした結果このざまなのだ。



「肉を……」



一番手強かった地竜の巨大な肉を剣でスライスしたカイルは、ミレイが魔法で作ってくれた袋の中に肉を入れる。

すると肉は一瞬で凍結し、カイルはこれで鮮度が保たれると安心する。


この袋の中身は氷結魔法で満たされ、マイナス20℃になっている冷凍保存用の袋であり、魔法石の研究に煮詰まった時何となく考えたものらしい。



「よし―――ってもう血が……」



いざカリンの家に向かおうとしたところで、服の袖まで垂れてきた自分の血を見てカイルは包帯を張り直すべく服を脱ぐ。



「傷はそんなに深いわけではないが………これは……」


「それは呪いみたいなものですね」


「呪い?」


「はい。傷口を広げる呪いの類のようです。多分カリンさんなら解除できるかと」


「それは良かった―――………お前、どこでも現れるな。流石に今は驚く気力もないが」


「あはは、先日頼まれていたユグドラシルの里についてご報告がありまして―――あ、包帯私がやりますよ。カイルさんはじっとしていてください」


「……助かる」


「いえいえ、これもカイルさんのためと思えば」



そう、突然現れたのは盗賊のセリアだった。カイルから包帯を受け取ったセリアは、彼の横に片膝をついて左腕を取ると、慣れた手つきで溢れる血を拭き取り、そして素早く包帯を巻いていく。



「珍しいですね、カイルさんがお怪我をされるなんて」


「ここの魔物が予想以上に強くてな。もうここは当分近づけないかもしれない」


「そのようですね。カイルさんがお怪我をされるレベルとなれば、3剣士クラスの人間じゃないと死んでしまいますね」


「流石に買い被り過ぎだが、このことはクラインに報告しておいた方がよさそうだ。下手に冒険者が近づいて死んでしまってはケッキガルドの評判も下がってしまう」


「それが良さそうですね。はい、包帯巻き終わりましたよ」


「サンキュ。それでセリア、調べてみてどうだった」



包帯を巻き終わったセリアに礼を言って立ち上がったカイルは、服を着ながら彼女に尋ねる。



「カイルさんが調べになった通り、あそこの森は珍しい森の妖精や地竜、竜人、翼竜種など数多くのドラゴンが住んでいますね。まぁ入り口が一つしかない上に入り口にはでっかいドラゴンが居座っていますから」


「大丈夫だったのか…?」


「はい、問題はなかったですよ。本当にあそこの魔物は不思議と穏やかで、敵対意思さえ見せなければ誰も襲ってきませんし、入り口のドラゴンともお話が出来ましたので」


「なに!?話せたのか!?」


「マーレシュタインの王様しか通さないの一点張りでして。話せたと言ってもほとんど話せなかったと言った方が正しいのですが」


「やはり王族だけか………」


「強引に突破するとか言いませんよね」


「流石にそんなことはしない。だが、なんとかなりそうな気もする」


「本当ですか?」


「まぁな。俺に考えがある。セリア、道案内頼めるか?」


「はい!喜んで!ユグドラシルの里に行く途中ある検問とかすり抜ける方法も調べて来ましたので!」


「いい仕事をする。それで返事はまた後日となってしまうが、しばらくここに滞在するか?」


「あ!カイルさんが待てと言ったらいつまでもいますよ!」



まるで犬のようなセリアにカイルは苦笑いを浮かべつつも『それじゃ具体的な打ち合わせはまた後日に』と言って彼女と別れた。

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