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見習い魔法使いと魔王の眷属  作者: また太び
第1章 雨に沈む街
18/21

暴食の魔王と怠惰の魔王


それから2日後、ケッキガルドは元の姿を取り戻して空には太陽がさんさんと輝いていた。



「ミレイ、卒論の進捗はどうだ?」


「ん~………この前のダイダロス討伐の時、魔法石に自分の魔力を込めることで魔力が枯渇した時にある程度魔力を回復させることが出来るものを作ってみて、魔力を込められるのなら魔法も石に込められないか試しているんだけど、これがさっぱりでね。また違う方向から探さないといけないわ」


「というと?」


「はい、進んでいるようで卒論の方は全然進んでいません。あくまで師匠のテーマは魔法石に魔力を込め、使用者を通さなくても魔法を作れる知識させあれば誰でも魔法が使えるという、魔法石だけで自己完結するものですから」



して、平和なケッキガルドを進んだ裏路地の先にあるアトリエではミレイが魔法石と睨めっこしており、そんな様子をカイルとフィオナは心配そうに見ている。



「魔法石に魔力が込められるのは凄いじゃないか。これも新たな発見じゃ?」


「カイル、この前採掘場で少し話したけれど、魔法石というのは魔力を持っているから魔法石と言われているのであって、元々魔法石に魔力を込められることは知っていたのよ。ただ、通常の魔法石は魔素が強すぎて少し魔力を込めただけで石の中にある魔素と拒絶反応を起こして砕け散ったり、魔法石内の容量が少なすぎて同じく砕けたりとデリケートすぎるから、もしこれを生産するのなら相当熟練の職人でも雇わなければ無理ね」


「なら、それを作ったミレイって凄いのか?」


「当然よ、あたし天才だもの。でもね、あの時作った魔法石はカイルに採って貰った紫の魔法石を削って削って拒絶反応が出ない程度に徐々に魔素と魔力を入れ替えていったものだから、そんな苦労したものを世間に公表したくないわ。魔法石が注目されるようになるのは、あたしが論文を発表した後でいいのよ。今注目されて手柄を横取りされたくないもの」


「お前って意外と性格悪いよな……」


「なに!?なんか言った!?」


「い、いや、何でもない……」


「ふん……―――それでカイル、まだケッキガルドの採掘場に入れないの?」


「昨日も行ってきたが、ダメだな。洞窟内は既に俺達人間の手によって荒らされたことを忘れて、魔物同士がお互いの縄張りを荒らされたと勘違いして争いをしていてな。この争いは上層が騒げば下層に住んでいる凶悪な魔物達も上に上がってきて喧嘩を始めるから収集がつかないんだ」



段々とこのお嬢様の性格が分かってきたカイルはミレイの質問に答える。



「魔法石の備蓄もそろそろ底を尽きそうなのよね………」


「………なら俺が採ってくるか?」


「え、ほんと!?」


「ミレイを連れていくのは反対するが、俺だけ行くのなら問題はない。この前みたく青色以外の魔法石を取って来ればいいのだろう?」


「うんうん!あ、これ魔法石入れる袋!」


「これに入れてくればいいんだな?了解した。だが、俺は採取の知識がない。魔法石を傷つけないギリギリのラインまで斬るが、そこから先の作業はミレイとフィオナに任せることになる。それでいいか?」


「十分よ!もうやっぱりカイルは頼りになるわね!」


「はい、周りの岩を削る作業はお任せください」


「魔法石のことになるとほんと性格が180度変わるな……」


「お願いねー!!待ってるからー!!」


「気を付けて行ってきてくださいね!」



カイルはミレイから魔法石専用の分厚い革の青い袋を手にアトリエを出た。




『今のがヴェルミィーナの眷属よ』


「え…!?」


「間違いないわ………あの忌々しい竜族の気配を感じたもの……』



アトリエから出てきたカイルを陰から窺うイリムは手土産を手に出ていくかどうか躊躇ってしまう。



『何してるのよ!出て行かないと見失ってしまうわよ!』


「で、でも!なんだか滅茶苦茶強そうな人なんですけど!」


『ヴェルミィーナが選ぶ眷属が弱いわけないじゃない!!』


「そ、それもそうだね!ってあれ?」


『あぁもう……見失ったじゃない……』


「は、早い……あっという間にいなくなっちゃった……」



脳内のレイネと言い争いをしているうちにカイルの姿は消えており、陰から出てきてイリムは辺りをきょろきょろと見渡す。



「お前、何をしている」


「ひいいいいい!?」



突然背後からカイルの声がしたイリムはびくりと背筋を立たせ、そのまま前方へよろよろとふらついた後に振り返る。

そこには左手に大きな革の袋を持ち、剣を鞘から抜いて警戒しているカイルの姿があった。



「け、剣抜いてるううううううう!!も、もうだめだああああああ!!」


『あわわわわわ……』


「質問に答えろ。ここで何をしている」


「ご、ごめんなさいごめんなさい!!本当に悪気はなかったんです!うちは騙されただけで!!」


「一体何の話をしているんだ……?敵意はないようだが、何者だ…?」



それからカイルは剣を鞘に戻し、イリムが落ち着くまで待つのであった。



「なに!?お前があのダイダロスをここに送っただと!?」


「わー!!そんな怒らないでください!!!」


「あのですね、他の魔王の皆さんは先に暴食のヴェルミィーナ……さ…んを倒すべきだと考えておりまして、そこで強欲の人がまず逃げられないようにダイダロスを使った水攻めをすべきだと提案をしてきまして……」


「俺の中にいるヴェルミィーナに関係することか。大体話は分かった。お前はあとでクラインの下に連れて行って今の話をしてもらう義務があるが、その前に何故俺に会いに来た」


「い、いやぁ………ほら、ヴェルミィーナさ……んってとても怖い方だと伺っておりましたので、今回の件うちは反対していたのですが、皆さんに言い含められたうちが全部悪いと思っています。ですので、せめて謝罪だけはしておくべきかなと……それに、ヴェルミィーナさんは水が大嫌いだそうで……」


「………つまりお前は俺に命乞いをしに来たと?」


「…………………はい……」



遠回しに避けていた言葉をあっさり言い当てられたイリムは汗を滝のように流す。



「そんな話俺にはかん……けいが……―――」


「あ、あの?わわ!?ちょっと大丈夫ですか!?」



言葉を繋げようとしたカイルは突然糸が切れたかのようにその場に倒れ、イリムは慌てて駆け寄ろうとするが、彼の身体から炎が噴き出して眠そうなヴェルミィーナが現れる。



「で、でたあああああああ!!!」


『あああぁ……あぁあああぁ………』


「ちょっとレイネ!!しっかりしてよ!!」


『だ、だだだだって…』


「黙れ」


『はい』



騒ぐイリムと口をわなわな震わせているレイネにも聞こえるようにヴェルミィーナは鋭い眼光と短い言葉で明確な意思を伝える。



「久しいではないか。なぁ?我が旧友よ」


「ひ、久しぶりね。えっと、随分と前に会った以来ね」



同じくイリムの身体から出てきたレイネは震えながらも眼前のヴェルミィーナをしっかり見据える。



「話は聞かせて貰ったぞ。で、お前はもう一度死にたいのか?」


「ぜ、全然話を聞いてないじゃない!!その男の子が言い当てたでしょ!?」


「いやぁ?あくまで言ったのはカイルだ。お前自身から何をしに来たのか聞いてない以上、このままお前の眷属ごと魔法で殺すのもやむなしだ。ユグドラシルの里にある掟で、来る者には死を、だ」


「れ、レイネええええ!」


「わ、分かったわよ!!分かったからそんな楽しそうに笑って殺さないで!!命乞いですぅ!命乞いをしに来たんですってば!!だから助けてくれって言ってんでしょうがゴラア!!」


「くははは!!懐かしい。実に懐かしい。以前もそうやってお前は戦う意思はないと余に何度も会いに来たな。くだらない文句と共にな」


「だってあなたがうちに攻めに来る理由が『水が気に入らない』っていうあなたのくだらない理由だったからじゃない!だから私は何度も何度もあなたに停戦協定の話をしに行ったのに拒否するんだもん!あなた停戦協定をくだない文句ってほんと!!変わらないわね!!」


「誇り高き竜族が人間共が作り上げたルールに縛られてたまるものか。それにくだらないと言ったが、余が何故お前たちの領土を一番初めに攻めに行ったのかまだ理解していなかったのか。つくづく阿呆よなぁ」


「え?」


「あの時代4英雄が現れてから他の大罪魔王達は次々と倒されて行ったなか、魔王最弱のお前が何故余と共に最後まで生き延びた理由を本当に分からないのか?」


「え、ただ私は話し合えるのなら話し合って……」


「それだ。強欲の詐欺師も舌先がうまい男であったが、あいつは元より自分の利益しか考えない奴であった。それに対しお前は本気でこの戦争を対話によって終結させようとする変な魔王だった。余はそれを恐れた。余は戦争が大好きでな、それが終わることを何より悔やんだ。だから、戦争そのものをくだらん対話如きで終わらせようとするお前が大層気に入らなくて、お前を真っ先に潰すことにしたのだ」


「………なるほどね、本当にそういう性格はあなたらしいわ。あの時は民を守ることで精いっぱいで考えている暇なんて全然なくて、いつ滅ぼさせるか分からないあなた達の侵攻に怯えて生きている毎日だった」


「お前が我が軍門に下れば早かったのだがな」


「だってあなた性格最悪だもの。軍門に下ったら何されるか分かったものじゃなかったから、おいそれと負けを認めるわけにはいかなかったのよ」


「ふふ、まるでテストの答え合わせだな。まぁ良い、過去の話に花を咲かせるのも終いだ。それで要件はなんだったか……すまん、もう一度言ってくれるか?」


「こ、この…!!」


「くはははは!!命乞いであったな!そうか!そうかそうか!余に命乞いをするか!」


「………私はもう戦争なんてごめんなのよ………もう私たちの時代は終わった……なんで今になってこの子の身体の中で蘇ったのかはわからないけど、今更あの時の災厄を再現するのは間違いよ。ヴェルミィーナ、分かるでしょう?もうこの大陸はこんなにも輝きに溢れている。東の大陸では多種多様な種族が人間と共存している国もあるし、もう争いなんてしなくていいのよ」


「……………」


「私の命と引き換えでもいいから、もう戦いはやめましょう」


「ちょっとレイネ!!」


「小娘、黙っていろ。これは魔王たる余とこいつの話だ」


「あ、はい……すみません……」



レイネはしっかりとヴェルミィーナを見据え、彼女の言葉を待つ。



「お前の考えはよく分かった。だが、それには賛同しかねる」


「なぜ!?」


「まぁ待て。こんな言葉があるだろう?人の話は最後まで聞くものだと」


「………」


「余とカイルの関係は浅くはない。余はこやつが赤子の頃から世話をし、10歳になるまでこやつを育てた」


「え?あなたが?」


「そうとも。話が長くなるので省くし、お前に聞かせてやる義理もないから喋らんが、余もこの世界を好いておる。このカイルがしっかりと大地を踏みしめ、歩く世界を好いておるのだ。余はこやつが生きる将来を見たいと本気で思っている。だから、貴様ら雑魚魔王達が勝手にまた始めた争いに構っている暇などないのだ」


「わ、私はやる気ないって!!」


「あぁ、そうだったな。で、お前から聞いた限りではどうやら他の魔王は余を殺したいらしいな」


「そうね。やっぱり前の大戦で最後まで生き残って3剣士のうち2人を倒したあなたを先に倒すべきだと考えているのね」


「シュピナーがいる限りあの詐欺師と沸点が低い阿呆とフォークにはまず負けんよ」


「相手が男性であれば問答無用でチャームがかけられるシュピナーね……それにしても強欲と憤怒と傲慢をそう呼ぶのは……」


「まぁ憤怒だけは愛すべき馬鹿と言えるか。あやつとの戦争は楽しかったぞ」


「はいはい、楽しくて良かったですね。でも、驚きね。あのヴェルミィーナがこんなに丸くなるなんて」


「余も驚いているくらいだからな。これが母性という奴なのだろうか。余は子供を作ったことがないからよく分からないのだが、レイネ。お前は子供を作ったのか?」


「へ!?あ、あ、あ……うん、一応ね……」


「ほう、であれば余のこの何とも言えぬ感情も母性という奴なのだろうか」


「そ、そうなんじゃないかしら……って!さっきから話が脱線してばかりよ!とにかく争わないってことでいいのね?」


「あぁ、そう認識しておけ。だが、来る者には死を与える。レイネ、お前のその誰であろうとまずは話し合いをしてみるという行為は評価に値するが、時には武器を取らなければならないこともあると知れ」


「肝に銘じておくわ」


「それとそこの小娘」


「は、はい!」



完全に蚊帳の外となっていたイリムは突然ヴェルミィーナに呼びかけられ、背筋を立たせる。



「今回のダイダロスをケッキガルドに放った件だが、お前はそれが国家犯罪に当たるものと理解してやったものか?」


「へ?」


「え?ヴェルミィーナそれどういうことよ」


「なに?お前たちケッキガルド周辺地域が湖と化した話を知らないのか?」


「え、え……嘘………う、うちそんなこと知らない……強欲の人が眷獣を貸してくれれば全てうまくやるって……」


「………騙されたわね……」


「大方レイネの性格上余に会いに来てそのままカイルに今回の件をここの王の前で洗いざらい話し、国家犯罪で処刑という流れだったのだろう。あんな眷獣一匹如きで余が殺されるとあちらも思っていないだろう……―――小娘、これは初めからお前を陥れる作戦だったようだな」


「強欲め…!!よくも!!」


「小さな国とは言え、ここも国だ。それを襲ったとあれば重い罪に問われる。幸い誰も死ななかったとは言え、数か月の間大雨による作物の被害、ダイダロス出現により、ケッキガルドの売りである魔法石採掘場の採掘被害、雨を嫌ってケッキガルドを離れる市民からもたらされる税の減少など、これ全て小娘お前1人でやったことだぞ」


「あぁぁああぁああああ!!!!う、うちは…!!」


「ダイダロスを撃破したことでケッキガルドは元の姿に戻りつつあるが、お前がやった行為は重い罪だ」


「ヴェルミィーナ……お願い、今回だけは……!」


「このままカイルが目を覚ませば間違いなくお前はこのままここの王に連れていかれるだろう。あやつは優しい王ではあるが、民のためとあれば冷酷にもなれる良い王だ」


「お願い!!ヴェルミィーナ!!」



顔面が白くなって震えだしたイリムを見てレイネは『見逃してくれ』とヴェルミィーナに懇願する。



「………レイネ……ごめんね、うちが騙されたばかりに……」


「イリム――――!!お願い!!ヴェルミィーナ!!お願いだから見逃してください!!」



この世を諦めたような顔をするイリムの言葉にレイネはプライドを捨ててヴェルミィーナに泣きながら抱き着く。



「お願いだからぁぁああ……!!」


「レイネ、お前は我が軍門に下るか?」


「え……?」


「同じ言葉を余に言わせるのか?」


「く、下ります!!下りますからイリムを助けてください!!」


「良かろう。今後余の呼びかけには必ず応え、お前の情報は全て余に流せ。そうすれば余はお前たちを守ろう」


「あ、ありがとうございます…!!」


「では、今日はもう去れ。カイルの記憶は余が消しておく。お前たちはこのまま自分の故郷に帰るがいい」


「ありがとう……ヴェルミィーナ……感謝します……」


「ありがとうございます……助かりました……」



立ち上がったレイネは涙をふき取り、笑顔を見せる。



「レイネよ、やはり強欲は先に潰さねばなるまいか」


「………私は戦いが嫌いだけど、強欲は誰かを操ることに関しては他の追随を許さない。それにここはもう人間の時代……下手すると身内ですら敵に回る可能性が出てくるから、多分今回の戦いに関しては強欲は間違いなく最強ね」


「厄介な魔王が復活したものだな」


「気を付けて、ヴェルミィーナ」


「それはこちらのセリフだ。もう他の魔王と関わるのはよせ。お前は永遠と対話だけしていればいいのだ」


「ええ、そうする」



水の泡となって消えたレイネを見届けたヴェルミィーナは、最後にペコリと頭を下げて手土産を置いて去っていったイリムを見てから自分もカイルに魔法をかけた後に炎となって消えた。

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