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見習い魔法使いと魔王の眷属  作者: また太び
第1章 雨に沈む街
17/21

動き出す怠惰の魔王

「バーゼリオ様、次はあなた様のお話を聞かせてくれませんか?」


「分かりました」



一通りカイルと話をしたユスティシア王女は彼の向かい側の席に座るバーゼリオに話しかけ、彼女は快く答える。



「あの、カイルくん…」


「なんだ?」



そしてバーゼリオとユスティシア王女が会話をしている最中、カイルの隣の席に座るカリンがおずおずと話しかけてくる。



「さっき王女様と話していたエルフの里についてだけど……それってほんと?」


「さぁな。今の俺にはあれが本当の出来事だったのかすら曖昧になってしまっている」


「………」


「でも、俺はその記憶が偽りではなかったと信じたい。過去の記憶がない俺だけど、あの時の記憶は本物だったって」


「そう……だよね………うん……」


「カリンは、他のエルフ族に会いたい?」


「……―――うん、会いたい。会って話がしたい」


「そうか…―――なら、俺の知り合いに調べさせておこう」


「ほんと!?」


「情報収集得意な奴なんだ。きっと何か情報を掴んでくれるはずだ」


「カイルくんにそんな知り合いいたの?」


「ん、まぁ……うん、いた」


「いた…?」


「なんでもない。とにかくそいつから情報を得たら一緒に行こう。ハーフエルフでもない純粋なエルフであるカリンと一緒なら道を開けてくれるかもしれない」


「うん、一緒に行こう!」



花が咲いたように笑ったカリンを見てカイルは微笑む。



「まぁ!バーゼリオ様はカグヤというお国からいらっしゃったのですね!」


「はい。ここの大陸に住む人のほとんどは知らないでしょうけど」


「あ、だからバーゼリオ様の髪は見たこともない黒色なのですね」


「黒髪は私の国の人達だけですから」


「ん、カイルもそうなの?あ、そっか…カイルは記憶が……」



という話を聞いていたミレイがそう言うが、カイルには記憶がないことを思い出して声が小さくなる。



「いい加減記憶がないことを口にして勝手に気分を落として貰いたくないものだが、記憶がないから自分がどこの出身なのかさっぱりだな。でも、案外当たっているかもしれない。実際昔旅をしていた時、バーゼリオとあいつ以外に黒髪の人間は見たことがなかったし」


「むぅ……カグヤっていう国がますます気になってきたわ」


「飽きない国ではある。だが、こことは文化がまるっきり違うから勝手が違うことに不便さを覚えることもあるかもしれない」


「一体どういう国なんですか?」


「ん~……歩いている人のほとんどが武術の達人な国…?」


「えー!?」


「え、カイル流石にそれは嘘でしょう…」


「いや、しかしな……実際あそこに行った時は皆腰に刀っていう俺とバーゼリオが持つ剣を帯刀してて、皆纏う空気が違ったしな」


「カイルに案内した場所が私の父が治める国でしたからね。他の国は違いますよ。あそこだけ異常なんです」



そこへ王女様と話していたバーゼリオがこちらを向いて『自分の父親が治める国を異常』と言って指摘した後再び王女様との会話に戻る。



「―――だそうだ。あの国が異常なだけで他は普通のここと変わらない国らしい」


「流石3剣士を生んだ国ね……」


「そのおかげで犯罪なんて起きないんじゃない?」


「確かに達人ばかりいては犯罪なんて起きなさそうですね」


「むしろあっちの人達は犯罪起きてくれた方が自分の腕を試せて嬉しいらしいけどな」


「でも、現実は犯罪も起きない治安のいい国になっていると」



と、カリンの締めの言葉にカイルはそれを頷いて肯定するのであった。





時は少し遡って4日前。



西の大陸の海に面した小さな村『アシェド』でスカイブルーの美しく長い髪をツインテールにした少女は家の中で頭を抱えていた。



「あぁぁああぁあ……どうしよう………ほ―――んとに!どうしよう!!」


『だから私は言ったのよ……あいつらと取引をしたところでなんの利益もないって…』



頭を抱える田舎の少女イリムは脳内に響く女性の声を聴いてより一層頭を抱える。



「他の魔王と結託してヴェルミィーナを倒そうなんていう作戦に乗らなければ良かった……」



そう、彼女は怠惰の魔王レイネを身体に宿す人間だった。



「あの強欲の人が!勝てる!って!」


『あと私達以外の魔王はまだ誰もヴェルミィーナに手を出してないらしいわよ。あなた完全に騙されたわね』


「そんなぁ!これじゃうちだけ狙われるじゃない!それにヴェルミィーナは水が大嫌いだって!ウンディーネのレイネを宿してるうちは速攻殺されるにきまってるー!!」


『まぁ戦いは避けられないでしょうね………それに私は戦闘向きの魔王じゃないから、戦いになっても先は見えているというか……』


「もうお終いだぁあああああ!」


『なら、ちょっと会いに行ってみたらどう?』


「へ?」


『私とヴェルミィーナが最後手を組んだようにいくら破壊と殺戮の限りを尽くした暴虐の魔王とは言え、話は通じる奴よ。ただ……機嫌を損ねると滅茶苦茶怖いけれど……』


「全然話が通じるように思えない言葉が並んだような気がするけど、それしかないよね……うちもレイネを宿したとは言え、戦いは苦手だし……」


『それにヴェルミィーナの他にもまだ魔王はいるのだから、一番の難敵であるヴェルミィーナと正面からやりあうのは愚行もいいとこよ。とりあえず今は彼女と話し合って謝って謝って謝って―――謝って謝罪の限りを尽くしてご機嫌取りをして停戦協定を結ぶのよ』


「もしかしてレイネってヴェルミィーナのことを心の底から恐れてる…?」


『………はい……怖いですあの魔王……』


「………気が遠のくよ……」


『なにか手土産を買って行かないとなりませんね。スフィニアに行きましょうか』


「そだね………えっと、眷獣のダイちゃんが消えた場所の反応を見る限りケッキガルドだっけ……」


『そうね。なぜユグドラシルの里ではなく、あんな辺境の国にいるのか分からないけれど、とにかくケッキガルドに行ってみましょう』



イリムはハイライトが消えた瞳とふらふらした足取りをしながら旅の支度をするのであった。






「今日はとても有意義な時間を過ごさせていただき、誠にありがとうございました」


「いえ、我々もユスティシア王女様と会食ができ、光栄の至りです」


「ユスティシア王女様、最後に聞きたいことが」



王女様との食事も終わり、彼女が自室に戻ろうとしたとき、カイルはユスティシア王女を呼び止めた。



「はい?なんでしょうか」


「ユグドラシルの里についてお聞きしたいのですが、率直に申し上げてユスティシア王女様はあそこに入ったことがあるのでしょうか」


「いえ、あそこに私が入ったことはありません。あの場所に入れる者は我が父と兄だけですので、女の身であり、王位継承者としての順位が低い私があの場所に入ることは生涯一度もないことでしょう」


「そうですか……呼び止めてすみませんでした」


「いえいえ、私もあそこには興味があるのですが、何分お兄様もお父様もあそこについてお話を聞かせてくれませんので、その名を久しぶりに聴いて昔のことを思い出しました。あ、知っていることと言えばユグドラシルの里には何でも永い時を生きている物知りなドラゴンがいるとか、そんな話をお父様とお兄様が話をしていたことを思い出しました。これくらいしか知りませんが、満足でしょうか?」


「はい、貴重な話を聞かせていただきありがとうございます」


「では、皆さん。またいつかどこかでお会いしましょう」



頭を下げたカイルに微笑んだユスティシア王女は最後にバーゼリオ達を見渡してから侍女を連れて部屋を出て行った。



「ドラゴンか……」


「人間の言葉を解し、話すことが出来るドラゴンは恐ろしく強力です。王族しか入れないそうですが、どうせあなたは行くのでしょう?気をつけて行ってきなさい」


「分かってるって」


「あたしとフィオナは犯罪者になんてなりたくないからお留守番ね。カイル、あなたはあたしとフィオナの護衛しているってことだけ忘れないでね」


「もちろん。忘れてないって―――で、特に用事もないからってカリンはついてくるなよ」


「え!?まだ私何も言ってないんですけど!?」


「いや、お前のことだから先にくぎを刺しておいた」


「ひどーい!まぁついていくつもりだったけどさ!」


「………本当に今回だけはついてくるなよ」


「分かったよ。何も好き好んでドラゴンだらけの森に行くつもりはないから安心して」


「ならいいが……」



そしてカイル達が話していると先にバーゼリオが部屋から出ていこうとし、カイルの方へ振り返る。



「では私は、ケッキガルドの件も片付いたのでここを離れようと思います」


「外は夜だが、行くのか」


「むしろ私の場合夜の方が何かと都合がいいので」


「バーゼリオさん……行っちゃうんですか……」


「はい、まだまだ私も修行をしなければならない身なので。フィオナさん、あなたはミレイさんのお手伝い頑張ってくださいね。そのドラゴンも含めて、あなたの未来はミレイさんの手によって大きく変わっていくことでしょう」


「視えたのか」


「ええ……朧げでしたが、あなたには輝かしい未来が待っている……」


「バーゼリオさんの目って見通すの範疇を超えて未来視に近いよね」


「この目には本当に困っているのですよ。年々力を増しているようで、もう……まともに人を見ることは出来ないのです……―――だから、ここに来たついでに祖父からこういうものをいただきまして」



そう言ってバーゼリオは懐から黒いスカーフのようなものを取り出す。それを見たミレイ、フィオナ、カリンの3人は目を見開く。



「す、凄い魔力を感じるわ……それ魔道具なんですか?」


「はい。祖父が私のために作ってくれたものです。これで目を隠すとある程度は楽になるんです」



バーゼリオはスカーフで目を覆い、後ろで結ぶ。



「見た限り視界がゼロになっているように見えますが、ちゃんと見えていますのでご安心を。さて、次に3人と会うのは論文の中間発表の時でしょうか。カリンさんは分かりませんが、その時に会えることを楽しみにしていますよ」



バーゼリオは最後に『クラインに挨拶をしてきます』と言って部屋を出て行った。



「行っちゃいましたね……」


「バーゼリオは元々俺と同じくあちこちを旅している人間だ。いつも通りに戻っただけさ」


「修行と言っていたわね。3剣士と呼ばれるようになってもなお上を目指すのね」


「あいつは武人だからな。さ、部屋に戻ろうぜ」



その後カイル達はクラインと共にバーゼリオを見送ってからそれぞれの部屋に戻り、休息についた。


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