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見習い魔法使いと魔王の眷属  作者: また太び
第1章 雨に沈む街
13/21

7つの大罪を司る魔王

「大きいな……」


「ここは一般の方にも公開している魔法学校で唯一の場所にしてマーレシュタイン王国最大の図書館ね」


「なるほど。それでミレイは何を探しに来たんだ?」


「古代文字に関する本を探しに来たわ。カイル達も好きにしていいわよ」



そう言ってミレイは1人でこの広大な図書館のどこかへ行ってしまい、残されたフィオナも―――



「あ、私もドラゴンについて調べたいことがありますので。行きますよ、アクセル」



彼女もまた肩の近くを飛ぶアクセルを連れてどこかへ行く。そして残された2人は―――



「俺は……」


「ここの勝手がわからないよね…」


「うむ……」



彼も調べたい書物があったのだが、カリン同様に途方に暮れた。





「ここの利用は初めてですか?」


「そうだ。調べたい本があるんだが、広すぎてどうすれば…」



カリンと別れてカイルは入り口にいるここの職員に聞いてみることにした。



「でしたら読みたい本のタイトルを。またはそれに関するキーワードを言っていただくだけで本が現れますので、例えば『キーワード検索―――森、熊』っと」



職員が言葉を発するとどこからともなく数多くの本が飛んできて職員とカイルの前に現れる。



「こんな感じです。そして本を戻す時は『検索―――終了』と言っていただけると…』



浮遊する本たちは自分のあるべき場所へ戻っていった。



「ほう……流石魔法学校だ。では、早速……―――『キーワード検索―――戦争、ヴェルミィーナ』」



……………――――本が現れる気配は一向にない。



「ん?」


「あ、あれ?おかしいですね。ちゃんと詠唱も合っていましたし……」


「………詠唱…?」


「あ、この検索の仕方は少量の魔力を用いたものでして、どんなに魔力がない人でも呼び出せないってことはないのですが…」


「……………すまない、俺の代わりに本を呼んでくれないか…」


「あ、はい。わかりました。えっと、戦争とヴェルミィーナに関する本ですね」


「よろしく頼む」



カイルは『流石魔法学校……』と思いながらも職員が呼び出してくれた本をいくつか受け取って席に着くのであった。



「………」



ジャズの音楽が小さいながらも透き通るように響く図書館の中でカイルは、先ほどの職員からいただいた紅茶を啜りながら本のページをめくる。


どうやらこの紅茶はシステムに不具合があったお詫びということらしいのだが、まさか本人に全く魔力がないと言えるわけもなく、カイルはそのご厚意に甘えた。



(2000年も前に戦争があった……7つの大罪をそれぞれ保有している魔王が4つの大陸……―――北の大陸ルシフェード、南の大陸イシュトパルド、東の大陸ユステグラ、西の大陸オーダインスト……この全ての大陸を巻き込んでの戦争は1500年も続いた……)



そしてカイルはその魔王達の名前が書かれた行に注目する。


並みいる強大な魔王の中で最強と謳われ、幻想種最強の竜族で結成された群を率いる暴食の大罪を司る魔王ヴェルミィーナ。


全ての男の性欲に応え、地上の種全てを跪かせたサキュバス達の女王にして色欲の大罪を司る魔王シュピナー。


ありとあらゆる欲をかき集め、富を積み、不動の守りを築いた悪魔シャイタンと契約した人間にして強欲の大罪を司る魔王パラケルス。


燃える怒りを胸に大地を我が物としようとした炎の魔人にして憤怒の大罪を司る魔王バグノーツ。


この世を諦め、種の繁栄のみを願い、唯一魔王達と対話を望んだ水の精霊ウンディーネにして怠惰の大罪を司る魔王レイネ。


我が力は地上最強なり、と奢りながらもその力は真を示し、全てを見下した悪魔最強種サタンにして傲慢の大罪を司る魔王ジャグラ。


憎むべき相手は世界。我が心に燃ゆる感情は全てを殺すまで決して消えることなく、誰よりも世界の破滅を望んだアンデット最強種エルダーリッチにして嫉妬の大罪を司る魔王ヌベルタ。



(こいつらが大罪を司る魔王………)



カイルはバーゼリオに言われた通りその魔王の中でもヴェルミィーナについて詳しく知るため、ページを飛ばして彼女に関するページを開く。



暴食の大罪を司る魔王ヴェルミィーナ。


彼女に関する情報は他の魔王と比べて多くの情報が残っている。その理由の1つとして魔王ヴェルミィーナは他の魔王が4英雄に打倒されて行くなか、唯一怠惰の魔王レイネと取引し、持ち前の奇策と竜族による力によって3剣士のうち2人を倒した強大な魔王とされている。


この所説には色々意見が分かれており、本当にヴェルミィーナが3剣士を倒したという確固たる証拠は残ってはいない。


魔王ヴェルミィーナは変化なき日々を特に嫌う竜族だったと言われている。通常竜族という種族は永遠のような長い時を生き、100年の月日も呼吸をするように過ぎるとされており、いかにヴェルミィーナの性格が竜族らしかぬものだったか想像に難くない。

彼女が求める日々は常に刺激と新しさに溢れているものとされており、特に彼女を高揚させたものは戦争だったそうだ。


魔王達が戦争を始めると、真っ先に動いたのは竜族を率いるヴェルミィーナとされ、以前から気にくわないと目の敵にしていた西の大陸に陣を構える怠惰の魔王レイネを狙った。その時に残されていた書物によるとヴェルミィーナは水が嫌いだったそうな。


そして自国で争いに加えないという理由で保護したエルフ族を用いた奇策や大量のドラゴンによる火炎のブレスで辺り一帯の水を焼き払うなど力に物を言わせた戦術にレイネの軍は日に日に疲弊していったという。研究者の間によればあと5年戦争が続いていたら間違いなく魔王レイネは魔王ヴェルミィーナの手によって滅ぼされていたとされる。



(………1体だけで国を滅ぼせるドラゴンが群をなして襲い掛かってくる……冗談じゃないな…)



本を読み進めるカイルはこのヴェルミィーナに嫌われた怠惰の魔王レイネは、相当困り果てたのではないかと少しだけ同情した。



ヴェルミィーナが構える南の大陸イシュトパルドは山岳と緑と水に恵まれた土地であり、彼女はその最果ての地にしてドラゴン族が住むと言われる『ユグドラシルの里』に住んでいたそうだ。


現在は天へ続く巨大な大樹があるだけの森となっているが、一説によるとこの大樹は地下で眠り続ける巨大なドラゴンの生命力を吸って成長したと言われており、以降この地は神聖な場所として指定され、現在はマーレシュタインの王族のみが立ち入ることができる。



カイルはその文が気になった。



「ちょっといいか」


「あ、はい。どうしましたか?紅茶のおかわりならいくらでも…」


「それは是非おかわりしたいところだが、その前にこのユグドラシルの里っていうのが気になって」


「あぁ、ユグドラシルの里ですか。私は行ったことがないんですよねぇ………なんでも空気が透き通っていて、森の精霊や今もこの地に住む様々な種類のドラゴンがいるそうです。でも、なぜかどのドラゴンも性格がとても穏やかでこちらが敵意を示さない限り襲ってこないとか」


「へえ……ここの国の王様はもちろん行ったことあるんだろうな…」


「えと、1年に1度王族の儀という儀式をユグドラシルの里で行うそうですよ」


「それはなぜだ?」


「噂の域を出ないのですが、マーレシュタインの王族はドラゴンの血を引いていると言われていまして、例え世界を恐怖で支配した魔王ヴェルミィーナであっても竜族の未来を導いた者として感謝の意を込め、そこで儀式を行うそうです」


「なるほどな……」



職員から紅茶のおかわりをいただきつつカイルは彼女の言葉に耳を傾けた。



「紅茶を淹れるのがうまいな……」


「ありがとうございます。これ、私の特技でして」


「とても良い香りだ……―――もうちょっと話を聞かせてもらってもいいか?」


「はい!是非私で答えられるものであれば!」



その後カイルは職員に数々の質問を投げながら魔王ヴェルミィーナについて知識を深めていった。




「どう?カイルが探している本はあった?」


「あったぞ。それにしてもここの図書館は凄いな。俺が今欲しいと思った情報がほとんどあった」



そして2時間後。カイルは図書館の入り口でミレイ達と合流し、図書館を後にしていた。日も段々と落ちていき、魔法学校も門を閉めるという。



「何を調べていたの?」


「大罪の魔王についてだ。バーゼリオに調べろって言われたものでな」


「今になってなんでそんなこと調べようと思ったのでしょうか。確かに調べてみると面白いものではありますが」


「さぁな。バーゼリオが突然なにかを俺に頼むってのも今に始まったことじゃないし、今は言われた通り調べてみる。それにしてもここの本の多さには驚いた。俺も思わず本を読み進めるうちに職員さんに何度も質問していたよ。しばらく冒険者をしていたせいか、本を読むという習慣がなくなっていて、改めて本の良さに気付いた」


「流石南大陸最大の国だよね~。私もこんなに大きいとは思わなかったよ」


「カイルもカリンも喜んでくれてあたしも嬉しいわ。さ、暗くなる前に帰ろう」



4人は何を調べていたのかを各々話し合い、楽しそうに談笑しながら王城へ帰るのであった。




城に戻ったカイルは3人と別れて部屋で自分の剣を磨いていた。


80cmほどの剣の刀身はサファイアのように青く透き通っており、膝に置いた剣が透けて膝が見えるほどの透明度だった。

この剣との付き合いは浅く、まだ使い始めて半年ほどしか経っていない。それ故にまだまだ自分の未熟さが現れるかのように剣が欠けてしまい、アセリナの世話になる日々を過ごしていることを思い出してカイルの指に力が入る。



「………ふぅ……」



ポンポンと剣についた汚れを取っていくこの作業は己の精神をも整えるものでもあり、もしこの場にバーゼリオがいたら今の自分の心情を悟って殴り飛ばされていることだろう。



「………………」



それからカイルは無言で精神を整えながら己の剣を磨いた。その集中力はそれはそれは凄まじいもので、今現在カイルの視線は剣のみに注がれ、例え自分の目の前で爆発が起きても気にしないほどである。


カイルがバーゼリオの弟子になった経緯としては、自分から言い出したわけではない。なんとなく彼女と一緒に住んでいてなんとなく彼女の朝ご飯を作り、なんとなく彼女の修練を見ていたら『居合術を学びませんか?』と言われた。


初めから乗り気だったわけではない。あくまで記憶がない自分にとって居合術というものは暇潰しみたいなもので、バーゼリオの修行に身体がついていかなくなったらすぐにでもやめるつもりだった。


だが、自分の身体は師匠のバーゼリオすら驚くほどの身体能力を持っていたようで、どんなに過酷な修行もあっさりとクリアしてしまう。



「………」



そして気付けば師匠のバーゼリオと手合わせが出来る形にまで成長しており、居合術もいつの間にか習得していた。


我ながら自分の身体について全く分からない身ではあるが、自分の能力が恐ろしく思えたほどである。


バーゼリオは自分の身の上のことをあまり喋りたがらない女性だった。いつも凛としていてお茶を飲むその姿すら絵になるほど美しく、前ミレイがバーゼリオが美人云々と言った時に否定的な言葉を口にしたが、彼女が美人であることは誰よりも分かっているつもりだ。


そんな『美人』の師匠がいるカイルは、修業が終えるまで一切山から出ることはなかった。まぁバーゼリオ本人の言いつけということもあったのだが、カイル自身も外の世界に大した興味はなかったのだ。


元々記憶もない自分が外に出て何をするのか、と自分に問うが、その答えは一向に出てこない。


今もこうして外の世界にいる理由としてはバーゼリオが自分の弟子を見つけろと言ったからに過ぎない。そう、先ほどの図書館での調べものも全てバーゼリオが調べろ、と言ったから。


結局のところ自分はバーゼリオが道を指し示してくれなければ何も出ない人間なのだろうか。



「ダメだな……こんなんじゃ……」



ため息をついたカイルは剣の掃除もそこそこに剣を鞘へ収め、部屋を出た。


事前に夕食の席には出ないことをクラインに伝えているカイルは、そのまま王宮を出て夜の街に繰り出す。

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