マーレシュタイン王国へ
「よし、皆の衣装も決まったことだし、出発するとしようか!」
その後、無事に皆の衣装も決まったことでクラインはカイル達や騎士達を引き連れて列車に乗る。
王様も乗るということで、列車もこの日だけ豪華に装飾され、王族専用となっていた。
「カイルくん!この駅弁とってもおいしいよ!」
「クラインが乗るって聞いて街一番のシェフが作った弁当だ。うまくないわけないよな」
「そうなの!?このステーキもとてもおいしい……」
現在の列車はダイダロスを討伐したということで、カーテンも取り除かれて綺麗な自然に満ち溢れた大地の上を走っていた。
ダイダロスがいなくなり、水も減るには減ったが、それでも列車の窓から見える大地にはところどころ大きな水溜りが出来ていた。いや、上から見ただけで実際は底の深い湖になっているのかもしれない。
隣に座るカリンはきゃっきゃと嬉しそうに弁当を食べており、あまり食欲のないカイルは少しずつ弁当を食べながらケッキガルド周辺地域の惨状を見ていた。
「どうしたの?あまり食欲がない?」
「ん、まぁな」
向かい側に座るミレイはそんな様子のカイルに話しかける。
「どうも昔から王族というのは苦手でさ。それにこれから会うと思うと気分が」
「カイルさん、何かあったんです?」
アクセルに肉を分けているフィオナも彼の様子が気になったのか、心配そうに尋ねる。
「いや、なんでもないよ。ミレイ達が気にするほどのことじゃない」
「それならいいのですが…」
「でも、弁当はしっかり食べなさいよ?」
「わかってるさ」
残すのは勿体ない、と言いたげなミレイの気持ちを汲み取ってカイルは深く頷く。
「それにしても綺麗ね。たまにこの列車の線路が高い位置にあって落ちないか怖くなるけれど、こうして景色を眺めるのもいいものだわ」
「何だかんだここに来るときはカーテンがあって景色なんて見れませんでしたからね」
「それが蓋を開けてみれば街周辺が水に沈んでいたなんて、とんでもない話だよね~」
先に弁当を食べ終えたカリンは皆が眺める外の景色を見て語る。
「あ、そう言えば城の騎士さんに聞いたのだけれど、なんでも水が引いて行ってできた湖に魚がいっぱいいるそうよ」
「らしいね。街の人たちもその湖を使って新たな物売りを始めるとか」
「たくましいですね。先日ダイダロスが襲ってきたばかりだというのに」
「フィオナ、この国の人たちは大雨だろうと晴れた日にはそれに感謝して祭りを開くような人たちだぞ?」
「それもそうでしたね」
「たくましさだけはどこの国にも負けないんだから!それに神霊クラスの魔物に2回も襲われる国なんて早々ある?ないでしょ」
「それもそうだな。普通神霊クラスの魔物に襲われた国は廃れていくものだが、ケッキガルドの人たちは本当に逞しいものだ」
列車の窓からはちらほらと街から出て早速湖へ投網をしている人たちもおり、人の適応力というものは凄まじいものだとカイルは改めて思った。
途中休憩を挟んだりと長い列車の旅を続けること7時間。一行はようやくケッキガルドから南大陸最大の国、マーレシュタイン王国へ着いた。
朝の7時に出発し、着いたのは午後の2時ということで列車から降りると駅にはマーレシュタインを守る王国騎士達が左右に並んでクライン達を出迎えた。
「お待ちしておりました!!クライン王!」
「出迎えご苦労。我々はこのまま城へ?」
「はっ!我が国の魔法使いがテレポートで送らせて貰います!」
騎士団長が指示を出し、10人ほどの本物の魔法使いが現れる。その姿にミレイとフィオナは猛烈に感激している。
「では、クライン王と従者の皆様はこちらへ」
それぞれの魔法使いがテレポートの準備をはじめ、床に魔法陣が現れる。そこにクラインを始めとするカイル達が続き、不思議な浮遊感と共に視界が揺らぐと、気付けばそこはマーレシュタイン城の中だった。
「テレポートって凄いな。カリン、お前は使えるのか?」
「う~ん……もう少し経験積めば?」
共にテレポートした騎士団長に連れられて城の中を歩く最中にカイルは隣を歩くカリンに聞く。
「つまりお前も将来テレポート魔法が使えるようになるんだな?」
「なに、カイルくんったら私にテレポート魔法覚えてこいっていうの?なかなか酷なことを言うね」
「そんなに酷なのか?もし覚えられたら色々な地域に日帰りで行けて便利だと思ったんだが」
「テレポート魔法は何人か集まって同時に唱える結構大規模な魔法でね。正直私一人が覚えたところで…」
「そいつは残念だな」
「それに距離が開けば開くほど消費する魔力も多いから燃費が悪くて…」
テレポート魔法の難しさをカリンの口から語ってもらったところで、クラインが振り返った。
「では、私とバーゼリオはこれからここの王様と会ってくる。皆はそのまま与えられた部屋で待機するのもよし、街に出るのもよし、好きにしてくれ」
と、クラインに言われて4人は自由行動となった。
「ねね、カイルくんはどうするの?」
「俺か?俺はこれからミレイとフィオナがホラルド魔法学校に行くというからついていくつもりだ」
部屋で荷物の整理をしていたカイルは部屋にやってきたカリンにそう告げる。
「あ、そうなんだ。私もついていちゃっていいかな?」
「俺は分からないな。ミレイに聞いてみるといい」
「カイル~準備できた?ってカリンどうしたの?」
丁度そこへ一応学校の制服らしい魔法使いのようなローブと帽子を身にまとったミレイがやってきた。
「私も暇だから学校について行っていいかな~って」
「いいんじゃない?今日は休日だし、特に学校で授業をやっているというわけでもないから」
「やった!ありがとう!」
「どういたしまして。カイル行くわよ」
「あぁ、俺も準備できた」
剣を腰に刺し、ソーイングセットも腰に装備したカイルは部屋を出た。
「日中のマーレシュタインに来るのは何だかんだ久しぶりかも」
「カリンは夜に来るんだっけ」
「そうそう。と言っても歌ったらすぐ帰るんだけどね」
流石南大陸最大規模の国ともあって人の数が段違いであり、表通りはまともに歩けないくらいの人でいっぱいになっている。
休日というせいもあるが、それでもとにかく人が多く、4人は何とかホラルド魔法学校の門前にまでやってきた。
ミレイとフィオナは門にいる警備員に学生証を見せてここの生徒であることを証明し、来賓用の札を貰ってくる。
「2人ともこれを首に下げて」
ミレイから受け取った来賓であることを証明する首から下げる札を貰い、2人は言われた通りにする。
「さ、行きましょう」
大きな門が開かれてカイルとカリンは魔法使いしかいない学びの園に足を踏み入れた。
まるで教会のような白と青のカラーリングの巨大な建物の中庭には人工芝が敷かれ、穏やか気候とあって2人と似た格好をした生徒達は昼食を楽しんでいた。
「本当に魔法使いしかいないのね……」
「俺も最後にここに来たのは随分と前だからな……なんだか新鮮だ」
そこでカイルは気付く。男性の生徒が全くいないことに。
「なぁ、ミレイ。男の魔法使いって少ないのか?」
「そうね。とても少ないわ。一つの学年にいたとしても2人くらいでほとんどの魔法使いは女性よ」
「私のクラスに男の人はいません!」
そこでようやくカイルは理解した。自分と初めて会った時に2人の怯えを。どうやらこの2人は男性と話す免疫が全くないだけだったようだ。
「なるほどね」
「過去の偉人を見るに魔法使いは皆女性ね」
今もカイルの姿を見た生徒達は奇異を見るような目で見てくるので大変居心地が悪く、早く目的の場所に行きたいとカイルは切に願う。
「何人くらいの生徒がいるの?」
「ここの学校は6年生まであって、大体合わせて300人程度ね。やっぱり少ないのは魔法使いになろうとする人が少ないのが原因かしら」
「年々減っていっていると聞いています。校長先生も手を打とうとしているのですが、やはり魔法というのは扱いを間違えるとそれだけで凶悪なものになるので…」
「あら、ミレイさんじゃありませんの?」
突然横から声をかけられてカイルは思わず剣に手をかけて殺気を放つ。それを受けて話しかけてきた女生徒は目を見開いて驚き、慌ててミレイはそれを制した。
「ちょ、ちょっとカイルこの子はあたしの友達だってば」
「す、すまない…」
「な、なんですのこの野蛮な男は…」
声をかけてきた女生徒は、いかにも家柄も良さそうなお嬢様のようで、金髪のドリルツインテールに少し広がったおでこが特徴的な女の子だった。
「アシェリー…大丈夫…?」
「だ、大丈夫よ。それより戻ってきていたんですのね」
「ええ、今日ちょっとね」
「アシェリー先輩!こんにちは!」
「フィオナも元気そうね。わたくしの弟子も心配していたのよ。それにしてもあなた……魔法使いが使い魔を連れているのは珍しくないのだけれど、それはもしかしてドラゴン…?」
「はい!ハーピネスドラゴンのアクセルと言います!」
「……わたくしの記憶に間違いなければハーピネスドラゴンはその美しい羽根を狙われ、とっくの昔に絶滅したドラゴンじゃなかったかしら…」
「誰だ…?」
「あたしの同級生のアシェリー・エストカルドよ。魔法適正が代々ある本物の貴族」
「なるほど…」
フィオナと扇子を持って優雅に笑いながら話すアシェリーが気になってミレイに尋ねると、ミレイが耳打ちしてくれた。
「ミレイさん?この野蛮な男は誰ですの?」
野蛮、という言葉を受けて一瞬カイルが目を鋭くするが、先ほど無礼を働いた詫びとミレイの友人ということですぐ表情を崩して言葉を流す。そして関わりをこれ以上持ちたくないのか、カイルは目を閉じて沈黙に徹した。
そんな様子の彼を見てミレイは『きっと悪気はないのだろうけど』と呆れながらも高飛車なお嬢様に彼の説明をすることにした。
「この人はカイル・ワグナルって言ってあたしとフィオナの護衛を務めてくれている剣士よ。アシェリー?野蛮だと言うけれど、この人ホラルド校長先生の養子だから今後そんな言葉を使わないように」
「ほ、ほんとですの!?こ、これは失礼しました…!」
「こちらこそいきなり失礼なことをしてしまった。そんなに謝らないでくれ」
「あ、あら……よく見ると顔立ちもそんな悪くなくて…?」
「アシェリー?」
「い、いえ!それでこちらは?」
「私はカリン・オリフェルド・カーマインよ。よろしくね」
「あら、あらあら!?もしかしてあのカリンさん!?」
「え、え?私のこと知ってるの?」
「それはもちろん!あなたの歌のことは父からよく聞かせて貰ってますわ!今度のコンサートは私も行く予定なんですの!」
「あぁ、お客さんだったんだね」
「はい!」
ぶんぶんと握手した手を縦に振って喜ぶアシェリーにカリンは苦笑している。
「そういえばアシェリーも論文やっているのでしょう?」
「ええ、順調よ。あなたくらいなんですのよ?学校の外を出て論文を書いているのは」
「まぁあたしくらいだろうね。それじゃあたし達は図書室に用があるから」
「カリンさーん!今度のコンサート楽しみにしてますわよー!」
「うん!楽しみにしててねー!」
「ほんとに貴族の間で有名なんだな」
「でへへ…」
「下品な笑い方すんなよ…」
アシェリーにファンだと言われてデレデレのカリンを連れてミレイは学校の図書館にやってきた。




