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見習い魔法使いと魔王の眷属  作者: また太び
第1章 雨に沈む街
11/21

功績を称えて

その後、ミレイとフィオナによるマジックショーやクライン王との酒の一気飲み勝負など楽しい宴は刻々と過ぎていき、夜も遅くなったところで宴はお開きとなった。



「片づけは僕の方でやっておくよ。皆はこの街の英雄なんだ。せめてこれくらいの仕事は僕に任せてくれ」



と、酔い潰れた皆の代わりにザッシュが一人で片づけをすると言い出し、そのご厚意に甘えることにしたカイル達は城の中へ戻っていった。



「いやぁ、僕一人でいいと言ったのに…」


「いえ、お片付けをザッシュさん一人にやらせるわけにはいきませんので」



しかし、フィオナだけはザッシュと共に片づけをしており、ザッシュはこんな小さな子に手伝わせて申し訳ない気持ちになった。



「フィオナさん、疲れていない?」


「大丈夫です!」



ザッシュはフィオナの簡単な嘘を見破って言葉をかけようとするが―――



「というのは建前でして、ザッシュさんの言う通りかもしれません」


「なら……―――」


「ですが、今私すっごく楽しいんです」


「楽しい?神霊魔物と戦ったばかりだというのに凄いね」


「自分でもびっくりしていますよ。でも、皆とあのでっかい魔物を倒したっていう達成感が今猛烈に自分の中にありまして、今凄く楽しくて楽しくて」


「皆と何かを成し遂げる―――とてもいいことだよ」


「そう、それです!門にやってくる大きな魚のような魔物達が牙を向いてくるのがもう怖くて怖くてたまらなかったのですが、奥でダイダロスと戦うお二人を見ていたらそんな泣き言も言っていられないと思いまして」


「カイルとバーゼリオさんはダイダロスと戦ったんだもんね。よくやるもんだよ」


「ほんとですよ。一瞬光ったと思ったらダイダロスがバラバラになってたりと本当にあの2人は人間を超越していますよ」


「まぁあながち間違いではないね…」



片づけを進めながらフィオナの言葉を聞いたザッシュは2人を思い出して苦笑する。



「何かを皆と成し遂げる、その達成感ももちろんあったのですが、何よりも誰一人として欠けることなくこの場所に戻って来れたというのが一番だったんでしょうね」



フィオナは酔ってまだ騒いでいる老騎士達の声が聞こえ、くすくすと笑う。



「ここに残っている騎士達はもう気付いていると思うけどお爺さんばかりなんだ。彼らは元よりケッキガルドのために死ぬつもりで残った人たちでね、まさか生き残るとは思ってなかったと思うよ」


「そうだったんですか………なら、本当に良かったです……本当に誰一人死ぬことなく…………一緒にご飯を食べれて……」



そこでフィオナの瞳から涙が零れ始めた。拭いて綺麗になったテーブルに涙が落ち、彼女は慌ててふき取るが、また涙が落ちる。



「フィオナさん…」


「良かったぁ………あの騎士さん達は戦い前に不安になっている私に何度も声をかけてくれて……タネがバレバレの手品を見せてくれたり……そんな、そんな…優しい人たちばかりで…」


「キューイ……」



フィオナは涙を流しながらその場に崩れると『良かった、良かった』と何度も何度も言葉を漏らした。


そんな様子のフィオナにハーピネスドラゴンのアクセルはご主人の肩に止まって涙をなめとった。




それから数日の時が流れ、ケッキガルドは夏の前触れを感じさせる暑さと晴天が戻り、王都から帰ってきた住民たちを迎えた。



「君たちを呼んだのは他でもない。この国を救ってくれた報酬と勲章についてだ」



大臣たちから受け取った書類に目を通し、ハンコを押しているクラインに呼ばれたカイル達は現在王城にいた。



「あぁ、これは問題ない。持って行ってくれ」


「かしこまりました。王よ、こちらの書類も」


「む、これは?」


「こちらは今まで水没していた近隣の土地を開拓したいという市民の声が…」



どっさりと山積みされた書類を見てぐったりするクラインにカイルは日を改めるべきか問うが、彼は首を横に振る。



「君たちは我が国を救うべく命をかけてダイダロスを倒してくれた英雄だ。是非勲章を授与したいと思う」


「しかし、クライン。今あなたは激務に追われていてそれどころではないのでは?」


「いや、君たちのために時間を割くためならこんな雑務放り投げてもいいくらいだ」


「お、王よそれは…」


「む、まぁ冗談だが、時間の件については気にするな」


「それもそうですが、現在のケッキガルドは周辺地域の復興に人員を割いているではないですか」



バーゼリオの次にミレイが聞くとクラインは『ふっ…』と笑う。



「それも気にしないでもらいたい」


「どういうことなんだろ…」


「聞いて驚け!なんと勲章の授与式をマーレシュタイン王国でやることに決まったのだ!!」


『えええええええええ!?』


「本気ですか?」


「本気だとも。なんでも此度の戦いでバーゼリオが参加したと聞いてマーレシュタインのお姫様が是非会いたいと言っていてな。まぁ、要はお前に会いたいからついでにその勲章の式もやってやるよ、ということなのだろう」


「随分とはっちゃけたな……で、いつ行くんだ?」


「3日後だったかな?だから、準備だけはしておけ。服はこちらで用意するから心配はいらない」


「し、師匠どうしましょう……!あの王女様に会うなんて!」


「あ、ああああたしだって緊張するわよ!」


「参ったなぁ……私、あんまり人前に出たくないんだけど…」


「エルフは珍しいからな」


「そうそう、マーレシュタイン王国でもエルフの種族はいないっていうのに物珍しそうに見られるのは好きじゃないんだよね」


「今更断れんぞ?」


「私と会ってなにかあるわけでもないでしょうに……」



自分のせいで皆に迷惑がかかると思っているバーゼリオは、とんでもないことを言い出す。



「クライン、その日ばっくれてもよろしいですか?」


「おお、おおお前なんてこと言い出すんだ!!そんなことしたら私が怒られるだろうが!!」


「だっておかしいじゃないですか!私、人が嫌いなんですよ!?ここの人達には大分慣れてきましたが…それでも人が嫌いなんです!それにマーレシュタインの城にいる大臣たちなんて自分の私利私欲のためにしか動かない阿呆どもですよ!?人の心が読める私がそんな場所に言ったらいつ刀を抜くかわかりませんよ!?いいんですか!?」


「落ち着け!!一回お前は落ち着けって!!」



大臣たちのことを滅茶苦茶に言うバーゼリオの言葉を聞いて若干思うところがあるのか、この場にいる大臣の数名はバツが悪そうに顔を背ける。



「バーゼリオさんって人の心が読めるんだ…」


「そうだ……だから幼い頃自分のことを利用しようとする大人と会ってきて以来人間が嫌いになったらしい……」



本気になってクラインと取っ組み合いを始めたバーゼリオを見てミレイは、カイルに耳打ちする。



「ちなみにバーゼリオの親父さんはそろそろ娘には結婚して貰いたいらしいが、見ての通り本人の人間嫌いが災いしているプラス3剣士の1人ということもあって誰も貰い手がいな――――」


「ひい!?」



そこでカイルの前髪が切られ、ミレイはいつの間にか抜刀しているバーゼリオに気付いた。



「カイル……」


「はい……申し訳ございませんでした…自分はとてもデリカシーのない男です…」



冷や汗を流しながらカイルはバーゼリオの国に伝わるDOGEZAを華麗に決めて許しを請う。



「ふぅ………分かりました。それには出ます。ですが、私は大臣という人間が一番嫌いです。大臣の出席を許さないのであれば王女様との会話の席を設けましょう」


「わ、分かった!その旨を伝えておく」


「バーゼリオさん、そんなに大臣さん嫌いなんですか?頑張っている人もいると思うのですが」


「もちろんカリンさんの言う通りここの大臣の何人かは本当に自国のためを思って日夜身を粉にして働いている人もいます。ですが、そうですね」



ぎろりと心情が穏やかじゃないバーゼリオは1人の大臣を睨み付ける。



「そこの大臣はこの復興につけ込んでいかに自分の土地と富を増やすか考えているどうしようもない屑です。そういう男がいるから私は大臣という人間そのものが嫌いなんです」



太刀の剣先を向けられた大臣は情けない声を出してその場に倒れる。



「オーボルト……お前、そんなこと考えていたのか…」


「め、滅相もございません!!こ、このオーボルト!王のために国民のために働いて―――」



それを聞いたバーゼリオは一瞬で怒りが臨界点に達し、オーボルトに詰め寄って彼の横にある壁を思いっきり殴りつけて壁を破壊する。



「私が?嘘をついているとでも?貴様!!嘘も休み休み言え!!!!」


「ひいいいいい!!」



ダン―――!!と怒りに任せたバーゼリオの足によるストンプは大理石の床をガラスのように破壊し、彼女は肩を揺らしながら荒い息を吐く。



「他の大臣もだ……今回はこいつだけで許してやるが、まだくだらん考えを捨てようと思わぬのならば次は剣の錆としてくれるぞ!」


「うわ……バーゼリオがいつの間にか敬語を忘れているよ…」


「ゆ、許してください!!そんなつもりはないんです!!」


「まだそんなことを言うか!!今ここで貴様が行っている悪行をばらしてやってもいいのだぞ!!!」


「だからな、バーゼリオの前で嘘だけはつかないようにな。この人、嘘だけは大嫌いなんだ」



小太りの大臣オーボルトはバーゼリオの言葉を受けて泣きながら許しを請い、クラインは深くため息をつきながら親友の怒りをなだめるのであった。



「すみません……怒りに任せて壁と床を破壊してしまいました……私もまだまだ修行が足りませんね…」


「それは気にしなくていい。オーボルトの家は翌日調べさせて貰うことにして……―――勲章の件だが、明後日の朝ここに来て貰えるかい?衣装合わせと一緒にマーレシュタイン王国へ行こうと思うのだが」


「了解した。ミレイ達もそれでいいな?」


「ええ、大丈夫よ」


「私も大丈夫です!」


「うん、分かったよ」


「私も……それで構いません………ですが、その私はドレスを着ません…私はこの服でいいので…」


「まぁ3剣士のバーゼリオならば許されるか…」



恥ずかしそうに萎縮してるバーゼリオは俯きながらこの服でいいと言う。



「バーゼリオの服はある神霊魔物の革から出来ていてな。その服を着ているだけである程度の魔法を無効化したり、寒さや暑さから身を守ってくれるもんなんだ」


「はい、カイルの言う通りそういうことなので…」


「それならば仕方ないな。とすると、カイルもか?」


「俺の服もバーゼリオと全く同じだが、俺はそこまで気にしない。それに知名度もない俺がバーゼリオと一緒に私服でいて王女様になんだこいつと思われたくないしな」


「そっか、カイルってバーゼイオさんの弟子だって公表してないんだっけ」


「一部の者にしか知らせていません。それに知られればカイルが余計な奴らに巻き込まれるのは目に見えていますし、私も人に絡まれたくないので」


「ミレイも余計な奴に絡まれたくないだろ?俺も動きにくくなるのは困るしな」


「まぁ……それもそうね。有名になって言いことなんてあまりなさそうだし…」


「仕事に困らなくなったりとそれなりに利点はあるが、俺は億万長者になろうというわけでもない」


「こう言ってはなんだが、今回の主賓はあくまでバーゼリオだ。我々はあまり目立たず事を済ませよう」



クラインの言葉に皆が頷き、要件も済んだということで城を後にした。



「そういや、カイルって何度か神霊魔物倒しているんでしょ?勲章とかあるの?」


「ちょっと待て」



その後、バーゼリオ、カリンと別れた3人はアトリエに帰ると早々ミレイがそんなこと聞いてきたので、カイルは自室から黒革の高級そうな箱を持ってきてテーブルに置く。



「え……カイルさんこれなんすか…」


「勲章専用の入れ物だ」



思わず変な口調になっているミレイは恐る恐る箱に手を付けて開けると、そこにはこれまでカイルが各地で武勇を立てた証である勲章が埋め込まれていていっぱいだった。



「うわぁ……これ全部神霊魔物を倒したときに…?」


「そうだな。その他にも火山が噴火した時に街を守るために溶岩をせき止めりと色々あったな」


「あの……普通勲章って一般の冒険者が一生かけて一つ貰えるかどうかのものなんだけど…」


「貰ってしまったもんは仕方ないだろ」


「もう一つ聞きたいんだけど、こんなに勲章もらうってことはあんたへの依頼料って相当なもの…?」


「………聞かないほうがいい」



そっと視線を外したカイルにミレイとフィオナは生唾を呑み込んだ。





それから2日後、クラインに言われた通り4人は衣装合わせのため王城を訪れていた。



「わぁ……素敵な衣装ね」


「ほんとですね!これ好きに着てみても!?」


「はい、お好きにどうぞ。お選びになられましたらこちらの者が着付けのお手伝いをさせていただきます」


「んーなんだか迷っちゃうね」



メイドの人達に案内された部屋はたくさんの衣装があり、3人は目を輝かせて早速ドレスを手に取る。


一方カイルは何故かバーゼリオも同伴で選んでおり―――



「カイル、あなたはこれにしなさい」


「なんであんたがついてくるんだ…」


「なかなか似合っていると思うよ?」



バーゼリオが選んだタキシードを手に取った不機嫌なカイルにクラインも『おっ』という顔をする。



「カイルにはこれが一番似合います。大丈夫、私が保証します。もし似合わないと言うのであればこの背中にある太刀が荒ぶることもやむなしです」


「そんなことしなくていいから!クライン、俺はこれにするよ」


「分かった。ミハイル、これでカイルを見繕ってくれ」


「かしこまりました。では、当日はカイル様がお持ちの勲章と合わせて装飾も考えさせていただきます」


「ミハイルさん、これを」


「はい、確かに受け取りました」



老執事のミハイルに勲章が入った箱を渡す。



「カイルってばそんなに持っていたのか」


「ん、まぁな」


「ちょっと見せてくれ」


「いいぞ」



カイルの許しを得たクラインは早速ミハイルが開けた勲章箱の中を見ると絶句した。



「へ、陛下……これは…!」


「か、カイル……君は西大陸の水の大王国スフィニアから勲章を貰っているのかい…?」


「その青い雫を模した勲章か。なんかあるのか?」


「これは……公爵の地位を授ける勲章だよ……つまり、君は普通の貴族より上の存在なんだけど…」


「あのお姫様、そんなのくれたのか」


「カイル様……つまり、その勲章を持っている限り国を背負う者とも結婚できるということなのですよ…」


「そうなのか。とにかく俺の服は決まっただろ?もういいだろ、この部屋は暑くて敵わん」



結婚という単語にすら反応せず、軽く済ませてしまうカイルにクラインは彼らしいと苦笑いをする。


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