戦いの結末
「良い余興だった。あの馬鹿にしてはなかなか面白いことをしてくれる」
「ヴェルミィーナさん?」
厚い雲はやがて晴れていき、雲の隙間から差し込んできた光を眩しそうにしながらヴェルミィーナは玉座から立ち上がる。
「余の助力があったとは言え、よくぞ魔王の眷獣を倒し、この街を守った。そなたらに褒美を与えよう」
ヴェルミィーナはまずミレイの前に立つ。
「これを解読して自分の物にして見せよ」
そう言ってヴェルミィーナは空間に手を突っ込んで一枚の羊皮紙を取り出した。手渡されたのは一冊の分厚い本だった。古代文字で書かれたその本は、随分と年月が経っているのか若干風化しており、ミレイの顔はどんどん好奇心から学者の目線となっていく。
「これは………まさか!!」
「ほう、タイトルは読めるのか。それはまだ他の地に眠る魔法石の在処が書いてある本だ。そなたの研究に役立てよ」
「あ、ありがとうございます!!!感激です!」
「で、次は………ふむ、フィオナ…と言ったな」
「は、はい!!」
「お前は魔法を扱う才能がないな…」
「あ、あう……分かっていましたが…やっぱり……」
「では、これを授けよう」
ヴェルミィーナは再び空間をまさぐって取り出したのは笛だった。手の平サイズの小さな笛であり、受け取ったフィオナは早速吹いてみる。
すると―――
「グル!」
笛を吹くと『ポン!』という煙と音とも共に60cm程度のドラゴンが現れた。身体は水竜のようにつるっとした青色で、翼はまるで極楽鳥のようにカラフルでふさふさな、書物にあるようなドラゴンとは明らかに違うことに気付いたフィオナは疑問に思う。
「わああ!?ち、ちっちゃいドラゴン!?」
「竜族というものは一つの家庭に1体の子供しか育てん。たまにおるのだ。必要とされない竜の子がな。それを余は竜封印の笛と言って、それに封印し、良き育て親が見つかった時に差し出すのだ。それはそなたが大事に育てよ。きっとお前の力になろう」
「あ、ありがとうござ―――うわあ!ちょ、ちょっと舐めないでくださいよー!」
「ドラゴンは主と決めた者には忠義を尽くす。そなたが思うままに育てるがいい」
「あの…ドラゴンって何食べるんですか?」
「そうさな………基本何でも食べるが、魔素が籠った肉を食べさせると強く育つ」
「魔素が籠った肉……つまり魔物の肉ということですか?」
「そういうことだ。そのドラゴンは種族的に5m程度までしか育たん種族ではあるが、今や絶滅した希少な最上級竜族ハーピネスドラゴンだ。頭も切れる、魔法も使える……―――かつての我が四天王の1人アデルタの息子だ。大事にせよ」
「四天王の1人………そんな子を貰ってしまって本当に良かったのでしょうか…」
「余が良いと言っているのだ。それに先ほども言ったが、ドラゴンはどんなことだろうと掟に従い1匹の子しか育てん。だから、そなたが貰ってくれると余も嬉しいし、幻想種の里に逝ったアデルタの顔も浮かばれよう」
「幻想種の里ってなんですか?」
「幻想種の里っていうのはユニコーンやドラゴンなどの幻想種がそうだね。人に崇められ、恐れられてた魔物が命を全うすると冥界や天国に行くんじゃなくて、幻想種の里っていう楽園に行くんだって。でも、幻想種の里は言い伝えによると人は天国に行くと次の人生を歩むために輪廻転生をするんだけど、幻想種の里に逝ったドラゴン達はそこで次の人生を待つこともなくずっと生活するんだって」
「要は首輪なのさ。我々幻想種は花が舞い、豊かな果実が実る大地に運ばれ、永い永い眠りにつく。余も一度だけ死に別れた兄に会いに幻想種の里に行ったが、あそこ以上の地獄を見たことはない」
フィオナの問いにカリンが答えるとヴェルミィーナは悲し気な表情を浮かべて昔のことを思い出す。
「ヴェルミィーナさん……」
「湿っぽくなってしまったな。では、次はカリンか」
気持ちを入れ替えたヴェルミィーナは最後にカリンの前に立つ。
「そなたには言わねばならぬことがある」
「なんでしょうか」
「お前の里を襲ったドラゴンだが、あれは余の眷属だ」
「え………」
「いや、厳密に言うと余の支配下にある竜ではなく、ただ流れ着いただけの竜なのだが、ドラゴンである以上あれは余の眷属だ。そなたの里を滅ぼしたことを謝罪しよう」
「え、え、ちょっと!そんな頭を下げないでくださいよ!!物心つく頃の話ですし、それに今の暮らしを悪くないと思っていますから!」
「む、そうか。では、何を望む。そなたには余が叶えられるのであれば何でも願いを一つ聞き届けよう」
「あ……えっと、それじゃ……エルフ族が残した魔法書とはありますか!」
「ほう……しばし待て」
面白い、と言いたげな笑みを見せてヴェルミィーナは再び空間へ手を突っ込む。そして緑色の分厚い本を一冊取り出した。
「読めるか?」
「………はい…!読めます…!これ読めますよ!」
「ふふ、そうか。余は全く読めないのだが、やはり取っておいて正解だったか」
「ねね、カリン。あたしにもパラパラって見せて」
「あ、私も興味があります!」
「いいよ。どう?読めないでしょー」
「うわ、ほんとね……何だろう………この本の文字自体にエルフだけにしか読めない秘術でも施されているのかしら…多分、文字の形は覚えられても脳が読むことを拒んでいるようだわ…」
「これがエルフだけにしか伝わらんと言われている理由だ。大事に扱え、この本は世界に一つだけしかないエルフだけが持ち得る秘術の中の秘術。そして全ての魔法を覚えたら躊躇いもなく燃やせ」
「そう……ですね…これは………はい、確かに今の魔法界を揺るがし兼ねないほどの魔法かと」
早速本を読み始めたカリンは難しい顔をしながらヴェルミィーナの声に頷く。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「なんだ」
「どうしてあたし達にこんな報酬を…?」
「愚問だな、ミレイよ。そなたらは既に余の眷属。であれば、それ相応の働きをしたら褒美を与えなければ王として名が廃るというもの」
「眷属…?」
「服をめくり、余に腹を見せよ」
一瞬何を言っているのかわからなかったが、ミレイはとりあえずヴェルミィーナの言うことに従い、服をめくって綺麗なお腹を見せる。すると、へその下に金色の竜の紋様が浮かび上がっているではないか。
「ええええ!?な、なななななんですかこれえええ!!?」
「え、嘘、私にも…?な、ななな!」
「わ、私にもありますー!!!」
「くははははは!!等価交換という奴だ。そなたらは余から物を貰うことで余に忠誠を誓う眷属となったのだ。感謝するがいい。この紋様がある限り黄金竜の加護がそなたらを守ろう」
「き、聞いてないですよおおお!!」
「愉快愉快、これだから生きるということはやめられない!ではな、余の眷属たちよ。しっかり勉学に励め」
ヴェルミィーナは竜の翼を広げると、3人を置いてカイルの元へ行ってしまった。
「ぐすん……でも、何か悪さするって人じゃなかったから大丈夫ですよね…」
「ま、まぁ私はエルフ族に伝わる魔法書貰えたし悪くないかなぁ…とか思ってたり…」
「はぁ……やっぱりこういうのって騙されるのが悪いのよね…」
3人は受け入れるしかない状況にため息をつくのであった。
「バーゼちゃん」
「先ほどミレイ達の悲鳴が聞こえましたが、何かしましたか?」
「いや、あれは歓喜の悲鳴って奴だ」
「あまりカイルの友人で遊ばないでくださいね」
砦近くまで戻ってきたバーゼリオとカイルの元にくすくす笑うヴェルミィーナが降り立つ。
「バーゼリオ?なんだこの人、なんか靄がかかってて…」
「そういう人ですからお気になさらず。それでどうしましたか?あなたが現界しているとそれだけ彼に負担がかかるのですが」
「そうだな。だから、別れを告げに来た」
「そうですか。今回の件、あなたなしでは到底果たせぬものでした。本当に助力には感謝します」
「いや、余がいなくとも何とかやったのではないのか?」
「いえ、それは買い被りが過ぎるというものです。流石にあの水のブレスは防ぎきれませんよ」
「む、そうか。バーゼちゃんよ、これから記憶の消去を行う。やはり余の存在はまだ隠しておいた方がいいと思うのだ」
「魔王の眷属の復活が各地で確認されているようですが…」
「それでも余はまだ安寧の日々を愛す。来る者には死を。余はこれを信条としている。とにかく余が本格的に動き出すのは、坊やがちゃんと余の存在を確認出来た時だ」
「私から助言しても?」
「ん~……ちょっとな…!ちょっとだけだぞ!あまり言いすぎると余はバーゼちゃんを嫌いになるかもしれん」
「それは困りますね。私の数少ない友人から嫌われてしまってはますます人間不信が進んでしまいます」
「変わらんな、バーゼちゃんも」
「あなたこそ、出会った頃と全く同じです」
ヴェルミィーナはそこでカイルを見つめ、そして優しく抱きしめた。
「んお!?な、なんだ!?」
「カイル、いつもお姉ちゃんはあなたを見守っていますからね」
「あ……え…?ね、ねえちゃん…?」
「バーゼリオ、しばらく私の弟を任せます」
「待ってくれ!姉ちゃん!!くそ!!視界に靄が!!」
「ゆっくり休んでください。我が友よ」
ヴェルミィーナ?はそっとカイルから離れると光になって消えていき、最後に天へ小さな光の球を打ち上げた。光は空で弾けると、太陽よりも眩い光を放ち、余りの眩しさにバーゼリオを除く全ての人々は目を瞑ってしまう。
そしてやがて光が収まると、緑豊かな大地と雲一つない青空が広がっており、バーゼリオは髪をなびかせながら消えていった友へ思いを馳せた。
「あれ………俺、なんで泣いて……」
「帰りましょう、カイル……」
何故自分が涙を流しているのか分からず、カイルはバーゼリオに引かれて皆が待つケッキガルドへ帰った。
門の中へ入るとおっちゃんの騎士たちは一斉にカイルとバーゼリオを取り囲んで2人を祝福した。カリンに至っては調子に乗って風の魔法でカイルの体重を軽くすると、皆で世界一高い胴上げを騎士の皆に行わせて彼を涙目にしたりした。
カイル一行と騎士たちはそのままクラインの元へ行き、ささやかではあるが、宴を開くことになった。クライン王に見せたい人がいると言われ、カイル、ミレイ、カリンの3人はフィオナがせっせと働いている調理室に足を運ぶ。
「よ!英雄様!」
「ザッシュ!!」
「あれ、ザッシュさん」
「ザッシュくん!?どうしてここに!?」
厨房を仕切っているのはザッシュだった。コック帽をかぶり、忙しく料理を作るザッシュは3人の姿を見るといつも通り変わらず挨拶をしてきた。
「ザッシュさんは、今日一番早い電車に乗って食材と一緒に来てもらったんです」
「出来れば皆がダイダロスと戦う前にうまい飯を食って英気を養ってもらってから戦いに出したかったんだけどさ。やっぱり電車動かなくて」
「いや、お前が来てくれてすげえ嬉しいよ」
「フィオナはザッシュさんのお手伝いをしているのね」
「はい!ザッシュさんの料理の腕!とても勉強になります!」
「いやあ、僕も見たかったよ。カイルとバーゼリオさんがダイダロスを倒す瞬間を」
「はははは、どうせそれを尾ひれつけて客に話すんだろ?」
「お、分かっているじゃないか」
「相変わらずね~ザッシュくんったら」
「商売人だからね。それより今日の宴、楽しみにしていてくれ。マーレシュタイン王国から新鮮な魚や肉や野菜に高級なお酒も仕入れてきた」
「おおおお!魚は見飽きたが肉はいいぞ!!」
「え?」
「そうね、魚はダメだわ。もううんざりするほど焼いたもの」
「まぁあんなに魚と戦えばもう魚は見たくない…かな…」
「こ、コック……つみれとかにしましょうか…」
「そ、そうだね。どうやら君たちは魚に拒否感を示しているようだから、原型がなくなるものでいこう……」
事情を深く知らないザッシュではあるが、3人の顔を見て魚に相当なトラウマを植え付けられたに違いないと3人の気持ちを汲み取って料理を変更した。
もちろんその日は城に残ったカイル達や老騎士達と共に盛大ではないが、大きな庭でパーティーが行われた。
「今日は無礼講だ!!私も皆の良き友人として酒を飲ませて欲しい!」
『おおおおおおおおお!!!!』
既にパーティーが始まる前から酒を飲んでいた老騎士達はクラインの言葉に歓声を上げる。
「皆は私の誇りだ!小うるさい家臣達もいないことだし、盛大に騒ぎ!そしてこの宴を楽しんでほしい!では!!乾杯!!」
『乾杯!!!』
王様らしいマントや装飾が施された服を着ていないクラインは早速老騎士達の元へ酒を持って絡みに行き、老騎士達はそれを歓迎し、フィオナやミレイやカリンまでもそれに巻き込まれていた。
「バーゼリオ、乾杯」
「ええ、この勝利に乾杯」
「ザッシュも」
「あぁ、乾杯。バーゼリオさんも」
「はい、こんな素敵な料理を用意してくれたザッシュさんにも乾杯」
珍しく酒を飲むバーゼリオと老騎士たちの喧騒を見守るザッシュとカイルはグラスをカチン!と合わせて乾杯する。
「神霊魔物かぁ……あのドラゴンが来た時僕はまだ物心もついていなかった頃だから実感はないんだけど、今も水が引いていく音が聞こえるってことは本当に現れたんだね」
「80mはあったでしょうか。あまり悠長にもしていられなかったので、具体的なサイズは覚えていないのですが、私が戦った神霊魔物の中では最大級になりますかね」
「ダイダロス………事の発端は結局なんだったんだ?」
カイルの疑問にバーゼリオは考えるような素振りを見せてから口を開く。
「事の発端は大罪魔王との争いに関係しています」
「大罪魔王!?そ、それは本当なんですか!?」
「ザッシュさん、このことはくれぐれも内密に」
「は、はい…もちろんです…」
「あの水蛇の魔物ダイダロスは怠惰の魔王レイネの眷獣ですね。なぜ今になって大罪魔王達が活動を始めたのかわかりませんが、此度の件は恐らくそれかと」
「大罪魔王か………とんでもない話になってきたな。でも、なんだってケッキガルドに?」
「それは………カイル、あなたが原因です」
「え!?お、俺!?」
「あなたの身体の中には暴食を司る大罪魔王ヴェルミィーナの魂が封印されています」
「待って……バーゼリオ……それは本当なのか…?」
「あなたが『女性』に全く興味がないのも、『女性の裸を見ても!』全く興味を示さないのも全部ヴェルミィーナのせいです」
どこか含みがある言い方をするバーゼリオにカイルは冗談でしょ?という顔をしている。
「なんで俺の身体に………」
「それはあなたの記憶がないことに関係しているのではないでしょうか」
「なるほど……でも、今更どうすることもできないんだろ?ヴェルミィーナが俺の中にいたとしても離れることもさ」
「ええ、もはやあなたとヴェルミィーナは魂が混ざり合っているというか、一心同体なので」
「バーゼリオさん、カイルはこれからどうすれば?」
「自分の記憶とヴェルミィーナについて調べればいいのではないでしょうか」
「なんかやけに物知りなバーゼリオが胡散臭いが……まぁとにかくこれからはそうしてみるさ。ミレイが面白いものを貰ったそうだからな」
「確か魔法石が採れる場所が書かれた古の書物でしたか」
「へえ、誰から貰ったんだ?」
「あ、それは……まぁ私の友人からでしょうか…」
カイルの何気ない質問に珍しくバーゼリオが狼狽えた。
「ん?そんな人いたのか?」
「え、ええ……ザッシュさんが乗ってきた電車と入れ違いで帰っていきましたが…」
「そうなのか。それじゃフィオナが連れてるあの珍しいドラゴンの子供もか?」
「は、はい…」
「カリンが持っている本もか?」
「え、ええ……」
「バーゼリオ………―――まぁいい。それは俺に関係がないことだしな。深く聞かないであげよう」
「た、助かります……」
弟子にため息をつかれたバーゼリオは若干頭に来るものがあった。それはヴェルミィーナの尻拭いを何故自分が弟子に軽く失望されながらしなければならないのか、というものであった。
「ところでカイルは気にならないかい?採掘場の一番底にある魔法石」
そこで師匠と弟子の間に流れる微妙な空気を変えるべくザッシュは話題を打ち出す。
「もちろん気になるが、そもそも以前のケッキガルドの採掘はどこまで進んでいたんだ?」
「大体5層くらいまでかなぁ?確かミレイさんの話を聞いた限りでは10層まであったそうじゃないか」
「あの偽ギルドが適当に掘った穴だぞ?それに俺も多少無茶をしたせいか洞窟内の魔物達が縄張りを荒らされたと怒り狂ってしまってな。当分近づけないのが現状だ」
「ふむ……その奥には神霊クラスの魔物の反応を感じたって言っていたけど」
「それはダイダロスではないのですか?ダイダロスの反応は採掘場から南門へ進んでいましたし」
「それは本当にダイダロスのものだったんですか?」
ザッシュの言葉を受けてバーゼリオはグラスをテーブルに置き、採掘場のある方角を向いて意識を集中させる。
「………まさか…別の神霊魔物がいる……?」
「バーゼリオ…勘弁してくれ……」
「いえ、私の索敵を舐めないでください。ザッシュさんの言う通り採掘場から入り混じるように神霊魔物の気配が…」
「それが本当の採掘場を守る神霊魔物なんじゃないですかね」
「ええ……この感じる波動は……はい、とても穏やかなものです。この神霊魔物はちょっかいをかけなければ我々に被害をもたらすものではないでしょう」
「それじゃどの道ザッシュが言う奥底にある魔法石とやらの顔を拝めないんじゃないのか?」
「そうだね。ちょっと気になったけど好奇心と引き換えに街を危険に晒すわけにはいかないしね」
「あの魔物はダイダロスより強力な可能性があります。くれぐれもミレイさんに頼まれたからと言って挑戦しないように」
「しねえよ。流石にあのダイダロス以上と言われたら手は出さん」
「案外ここいらを守る女神様だったりして」
「なんだそれは?」
グラスを煽るザッシュにカイルはテーブルのフライドポテトが入った容器ごと手に取りながら尋ねる。
「ここケッキガルドにはね、昔から言い伝えがあるんだ。自然を豊かにし、大地を潤す水の女神様がいるって」
「有名な話ですね。神霊クラスの魔物は時に人間と共存の環境にあり、恵みをもたらすと。恐らくそれをなぞられたものでしょう」
「だが、ザッシュの話によると魔物ではなく女神様だぞ?」
「言い伝えるに魔物では格好が悪いと女神にでも変えたのでしょうか。ある場所では神霊魔物を信仰の対象として崇める変な宗教もあるみたいですし」
「その宗教やばくないか……」
「触らぬ神に祟りなし、ですよ」
「バーゼリオさんそれは?」
「私の国にある言葉です。その物事に関わりを持たなければ災いを招くことはない、と」
「良い言葉ですね。余計なことに首を突っ込みたがるカイルに聞かせたいくらいだ」
「おい、ちゃんと聞こえているからな」
ザッシュを睨みつけたカイルは空になった容器を置いて、次は花のように包丁で切り開かれ、そのまま油でカリカリに揚げられたオニオンフライに手を出す。
「うははは!カイルー!!」
「おい………酒臭いぞ」
「むぅ?女の子に酒臭いとか言っちゃダメなんだよー!」
「カリンってばまたこんなに酒を…」
そこにベロンベロンになったカリンが背後からカイルに抱き着くが、彼は鬱陶しそうにするだけだった。
「なんだー!?魔法が使えることをベラベラ喋りやがった幼馴染くんじゃないかー!!」
「そ、それは悪かったけども!カリンだらしないよ」
「うるさーい!!今は口軽幼馴染くんに構っている暇なんてないの!!ねえカイルってば、聞いてよー」
「ひ、酷い……」
「なんだ」
「あのね、いつものマーレシュタイン王国の貴族からコンサート開いてくれーってうるさいからまた私を守ってくれる?」
甘えるように首へ手を回し耳元で囁くカリンにカイルは全く動じず、宴会芸でも持っているのか魔法を使ってクラインや老騎士達を盛り上がらせるミレイを見る。
「ミレイとフィオナが同伴するのなら構わない。俺は今あの2人に雇われているからな。雇い主の意見もなしに他の護衛任務を受けるわけにはいかない」
「むぅ……カイルと一緒にマーレシュタインの街を歩きたかったのに~」
「貴族のコンサートはどうした」
「それはほんと~。終わった後の話だってば~」
「俺はミレイとフィオナの傍を離れることはできない。もしそれが嫌ならば他の奴に頼んだ方がいいぞ。というかいい加減離れてくれ」
「もうカイルったら!いいもん、3人だって同じだもん」
酔ったカリンはカイルから名残惜しそうに離れると、再び老騎士達の元へ戻っていった。
「ほんとに動じないんだね」
「なにがだ」
「いや、幼馴染の僕から贔屓目で見てもカリンは可愛い。それに酔っているとは言え、あのカリンから抱き着かれたりしたら狼狽えるものなんだけど」
「まぁ説明した通り、カイルの中にはヴェルミィーナがいますからね。それにヴェルミィーナは色欲の大罪魔王シュピナーの魂を食っています。恋愛とかそういう感情はヴェルミィーナが食べてしまうんですよ」
「……カイル、お前って結構可哀想なんだな…」
「今更どうこう言われてもな……俺はずっとこうだったし…」
「ちなみにミレイさん、フィオナさん、カリン、バーゼリオさんに囲まれているお前だけども、実際どう見えてるの?」
「どうもこうも普通の女性?」
「さらっと私が入っていたことに少し抗議したいところですが、この通りです」
「それじゃ女性の裸を見てもか?」
「なんとも思わない」
「まじ?」
「以前バーゼリオと住んでいた時があって、裸を見たこともあったが、何とも思わなかったしな」
「な――――なななな―――か、カイル―――!」
「すまん、これ内緒だった。忘れてくれ」
「お、おう……凄い…あの3剣士のバーゼリオさんがまるで恋も知らぬ乙女のように顔を真っ赤にして羞恥に震えている…」
「ふぅ……死にます」
「待て待て!!お前何する気だ!!!」
「バーゼリオさん!?」
湯気が出そうなくらい顔を真っ赤にしているバーゼリオは震える手つきで背中の太刀に手をかけ、首に刃を持っていこうとするので慌てて2人はそれを止めに入る。
「離してください!!私はここで死にます!!もう忘れたと思ったのに!!!なんで!!今になってそれをさらっと人前で言うんですか!!!」
「わ、悪かった!!!どうも酒が入って口が軽くなってしまったんだ!!!謝るからその太刀しまえって!!」
「でも、1回だけじゃないよね?」
「あぁ、バーゼリオの裸は結構見た」
「死にます」
「おいゴラアアアアア!!ザッシュてめええええええ!!」
「ご、ごめん!!!!待って!!バーゼリオさん本気で待って!!!!3剣士が羞恥したあまり自殺したとか洒落にならないから!!!」
「この!!3剣士である私を止める気ですか!?よし、来なさい!!!」
「なに張り合ってんだ!!!ただお前の自殺を止めようとしているだけだ!!!つかお前!!地味に酒で酔っているだろ!!!」
それから子供のように泣きながら自殺しようとするバーゼリオを止めるのに30分もの時間を要すのであった。




