第七十二話 襲撃者
旅は進み、俺達は半島の中央部分を縦に貫く長い山々――デラルナ山脈を越えようとしていた。
標高はさほど無い山々ではあるが、それでも真冬の山中のろくに整備もされていない道を歩くとなると、その苦労は並大抵のものではない。
途中何度も馬車の車輪が地面から出た石や溝などに引っかかり、その度にティアマトが馬車を押し上げながら進む事となった。
ティアマトがいなかったら馬車が道の溝などにはまり込んで、早々に立ち往生していたことだろう。本当に助かった。
「ん?」
不意に俺の鼻の頭に何かが落ちてきて、そしてすぐに消えてゆく。
ふと空を見上げると、いつの間にか周りには白い小さな結晶が舞っている。
「雪……ですねえ」
『ここまで気温が下がっていれば仕方ないわね』
空から降り注ぐ雪を、皆はげんなりとしたように見つめている。
平時であればその情緒を楽しむことも出来たのだろうが、山越えの最中に雪が降るなどあまり歓迎できる事ではない。
唯一ティアマトだけは、降り注ぐ雪を興味深そうに眺めては、落ちてくる雪を髪で振り払って楽しそうに笑っていた。
メイアの計測によると、現在地はデラルナ山脈の中腹辺りになるという。
標高が最も高くなるであろう位置のため、雪が降るのもやむ無しだ。
しかし同時に、安心できることもある。
ここまで来れば、盗賊などに襲撃される心配は無いという事だ。
盗賊とは言えその中身は普通の人間、わざわざ雪の降る真冬の山中に拠点など作るはずがない。
これまでも平地で襲われる事は無かったので、盗賊などによる襲撃の心配はこれでほぼ無くなったと言えるだろう。
心配の種が減るのは良いことだ。
『今日はどうするの、明るい内にキャンプする?』
「いや、ここらが一番高い場所らしいし、寒さが厳しい場所で止まるのはちょっとな、もう少し進んで少しでもキャンプしやすい場所を探そう」
『了解したわ』
俺なんかよりも山の歩き方を知っているであろうユニコーンが、俺に今後の方針を確認してくる。
俺をリーダーだと認め、筋を通してくれているのだ。
負けず嫌いでプライドが高く、性癖も特殊な変な馬だが、こういう気遣いが当たり前のように出来るのは本当に尊敬できるところだ。
そして、ユニコーンからのダメ出しが無かったという事は、俺の判断もそう間違った事ではないのだろう。
峠を越えると、今度は道が緩やかな下り坂となる。
下りの道は上りよりも気を使うと言うがそれは本当だ。
特に馬車などを運用していると、馬車が坂道を勝手に走り出さないよう細心の注意を払う必要があるのだ。
くねくねと曲がりくねった山道を歩く。
途中、崖のようになってる場所もあり、崖側から吹き付ける吹雪が非常にきつい。
雪はどんどんその勢いを増していき、多少山を下ったところで降り止む気配は無い様子だ。
「今日は馬車が雪に埋まらないように注意しないといけませんね」
『丁度いい横穴でもあればいいのだけれどね』
ユニコーンとアリスがそんな事を話しながら馬車の隣を歩いている。
俺はコートを掴んできつく閉じ、アリスの隣に立つ。
「おいアリス、エルフの村まであとどのくらいなんだ?」
「はい、えーっとですね……
多分この調子だと、後一日くらい進んで山を降りるとその先に川がありますので、その川に沿ってさらに一日北上した辺りですね。
大きな湖があるので、到着すればすぐ分かると思いますよ」
アリスの話の通りだとすると、片道五日といったところか。
少々かかりすぎだとは思うが、馬車で山越えをしているのだからまあ仕方ないのだろう。
ここまでだって、ティアマトがいなかったらもっと時間がかかっていたはずなのだから。
そして再び風が出てきたところで、前を歩くユニコーンが何やら鼻を鳴らし始めたのが目に入った。
「どうした?」
『ちょっとね……これは何? 油の臭い?』
「油?」
その呟くようなユニコーンの言葉に、嫌なものを感じ取った俺は無意識に腰に差してある魂喰いに手をかけた。
すると見えたのは、目の前を通る一本の赤い線。
それは俺の目の前を並んで歩く、アリスとユニコーンを貫通していた。
総毛立つとはこの事だろう。
痺れるような感覚が全身を走り、俺は反射的に叫びながらアリスに向かって飛びかかっていた。
「走れユニコーン!」
俺がアリスを押し倒したのと、ユニコーンが地面を蹴って前へ飛び出したのは同時だった。
アリスと共に倒れ込む俺の耳に、空気を切り裂く音が響く。
離れた場所から放たれた“それ”は、俺の顔の僅か数センチ先を横切り、馬車を引いていた馬の前足に突き刺さった。
「ヒヒヒヒーン!!」
馬が激しく嘶き、前のめりに倒れる。
続けて見えたのは三本の赤い線。
それはどれも俺を狙っていた。
「させない!」
空を切り裂く音とともに飛来した矢は、ティアマトに全て打ち払われる。
しかし俺の目には、さらに幾筋もの赤い放物線がこちらに向かって来る様子が映し出されていた。
「数が来る! ティアマト!」
「大丈夫、見えてる」
次に飛来したのは幾つもの火球。
弓による狙撃よりもややゆっくりと飛来するそれは、着弾する前にティアマトが全て叩き落とした。
俺は最初の矢による狙撃を受けた馬を見る。
矢が刺さった場所が目に見えて黒ずんでおり、その範囲がみるみるうちに広がっていくのが見えた。
矢を受けた馬は悲痛な叫びを上げ続けている。
「アリス! 馬の治療を!」
俺はティアマトの後ろに下がりながらアリスに指示を出した。
「来るよ!」
ティアマトが叫び、その直後、地面に固いものが落ちるような音が重く響き、大きく地面が揺れた。
目を向けると、大きな影が三つ。
その姿は忘れる事はない。
四メートル程の巨躯に、頭から伸びる水牛のような角を持ち、ウロコに覆われた、直立するトカゲのような姿。
フィガロで起きたロフレ村の魔獣騒ぎの際に遭遇した、大トカゲの魔獣がそこにいた。
「何、こいつら!」
俺達の前に現れた魔獣は、素早い動きで俺達を攻撃し始めた。
二体はティアマトの方へ行き、もう一体はユニコーンへと襲いかかる。
ティアマトは二体の魔獣の攻撃を受け止めるが、その合間を縫って、遠距離から矢が俺やアリスや馬達を狙って放たれた。
「ぐっ! こいつら思った以上に力が強い!」
ティアマトは二体の魔獣を抑えながら飛来する矢を叩き落とすが、その度に徐々に魔獣に押されていく。
魔獣の力は思った以上に強いらしく、万全とは言えない状態のティアマトでは、軽々あしらうという訳にはいかないようだ。
一方ユニコーンは、華麗に魔獣の攻撃を避けながら氷の矢を叩き込んではいるが、このトカゲ魔獣にはユニコーンの氷の矢を持ってしても大したダメージは与えられていない様子だ。
以前現れた時より体が一回り大きく、さらに強力になっているような気がする。
「ノアさん! この傷変です、治癒の魔法も、解毒も効きません!」
馬の治療をしていたアリスから、泣き声のような叫びが聞こえる。
振り返ると、馬の足は全体が黒ずんだ状態になっており、矢を受けた部分はケロイド状になって今にも腐り落ちそうな酷い状態になっていた。
トカゲの魔獣に、長距離からの弓による狙撃、そして強力な毒。
あの時フェリスが受けた、腕が石化するような攻撃と同種のものなのだろうか。
という事はつまり、あの時俺達を襲った狙撃手が何処かにいるという事だ。
深刻な状況が重なりすぎて思考が追いつかない。
何故俺達が襲われているのか、そして、これがあの時の魔獣と同じものだというなら……どこかにコトナがいるということなのか?
魂喰い握りながら周囲を見回すが、コトナの姿も狙撃者の姿も見つけることは出来ない。
そうしている間にも三体の魔獣は攻勢を強め、状況はどんどん悪くなっていった。
「ノアまずい、押し切られそう!」
二体の魔獣の攻撃を受けていたティアマトが、数歩下がりながら苦戦を訴える。
ティアマトの攻撃は魔獣に当たりはするが、決定的といえるダメージを与えるには及ばず、飛来する矢への対応と合わせて限界が近くなっているようだ。
「きゃあ!」
馬の治療を続けていたアリスが悲鳴を上げて地面に倒れ込む。
見れば矢が左肩を貫いていた。
とうとうティアマトが全ての攻撃に対応できなくなってきたのだろう、弾きそこねた矢がアリスを襲ったのだ。
「アリス!」
急いで魂喰いを引き抜き、アリスの側に駆け寄る。
もし馬を攻撃した毒矢と同じものだったとしたら……俺の背筋に冷たいものが走る。
俺は必死にアリスを抱き起こし、ティアマトの影に隠れるように場所を移動した。
馬は……恐らくもうダメだろう、フェリスの時のように切り落として何とかなるレベルではなくなってしまっている。
唇を噛み締めながら被弾したアリスの様子を急いで確認する。
矢が刺さった場所からジワリと血が滲んでいくのが見える。
しかし、良かったと言うべきなのだろうか……矢を受けた場所は傷以外に変わった様子はなく、毒が仕込んであるようには見えなかった。
素人目なので詳しい所は分からないが、少なくとも今まで見たような強力な毒矢ではないようだ。
一先ず安心するが、状況は全く改善していない。
敵の狙撃手の狙いは正確そのもので、ティアマトの影から出ようものならすぐに俺達を狙ってくる事だろう。
「ノア!? 今アリスの悲鳴が……」
そこで馬車の中にいたメイアが幌を捲って顔を出した。
戦闘が開始された事は感じていたのだろうが、アリスの悲鳴で状況が心配になったのだろう。
だが今はタイミングが悪い、これ以上守る対象が増えたら、ティアマトが対応できなくなる。
「メイア、顔出すな! 中に入ってろ!」
そう叫んだのと同時だった。
敵からの攻撃を示す赤い予測線が、ピッタリとメイアの額を捉える。
そこからはもう無我夢中だった。
俺は何を考えるまでもなく、馬車の車輪に足をかけ、狙撃手とメイアの射線上に体を投げ出すと同時に、メイアを馬車の中に押し返した。
直後、背中にハンマーで殴られたような衝撃が走る。
「がはっ……ぐううう!」
「ノア!」
「ぐ……ううう! メイア! 伏せろ! 中に入って伏せろ!」
激痛で馬車にしがみつくことも出来ず、そのまま地面に倒れ込む。
「ノアさん!」
矢を引き抜いて自身を治療していたアリスがこちらに駆け寄ってくるのが見える。
アリスは俺の体に手をかざすと、即座に魔法による治療を始めた。
目の前がチカチカするほどの激痛が急速に和らいでいく。
シエルに貰ったコートのおかげだろう、矢はコートを貫通しておらず、肉をえぐるほどの深手には至らなかったようだ。
しかし骨くらいはやられたのかもしれない、腕を上げようとすると胸に激痛が走った。
「無茶苦茶しすぎですよ!」
いつものおちゃらけた雰囲気は無く、半べそをかきながら俺の体に手をかざすアリス。
その間ティアマトは魔獣の魔法を受け、更なる後退を余儀なくされていた。
少し離れた場所でユニコーンが戦っているが、そちらもまだ魔獣を打ち倒すには至っていない。
状況は悪い。
いや、このまま行けばあと数分も経たずに、こちらに致命的な損害が出るだろう。
ティアマトが攻撃に全力を注げれば良いのだが、この状況ではそれも難しい。
このままでは次の犠牲が出るのも時間の問題だ。
逃げるか?
だがこの状況では、逃走したとしても何とか逃げ切れるのはユニコーンとティアマトくらいだろう。
俺達を庇いながら逃げる余力はない。
先に待つものは死
その疑いようのない未来を事実として受け入れた時、今まで混乱してまとまる事のなかった思考が一気にクリアになった。
痛みは消え、周囲の音が消え、恐怖さえも消えていく。
時間にしてみればほんの一瞬の出来事だっただろう。
無我の境地とでもいうのだろうか、そんな大層なものではないとは思うが、それでもその一瞬だけ静かになった時間の中で、俺は俺に出来る最後の行動を見つけることが出来た。
「ノアさん? ノアさん!?」
耳元で聞こえるアリスの声で意識が引き戻される。
僅かに気を失っていたのだろうか、肩からのジクジクとした鈍い痛みが戻り、ティアマトが魔獣を押し返そうと死力を振り絞る雄叫びが耳に入った。
「アリス……一分でいい、痛みを忘れて動けるようにしてくれ」
「何をするんですか?」
「どうなるか分からないが、反撃をする」
「それは……いえ、分かりました。活性魔法をかけます、力を抜いて下さい」
アリスはうなされたように話す俺の言葉に驚いたようだが、すぐに何かを決意するように頷くと、俺の体に手を付けて魔法を使用する。
体が熱くなり、痛みが急速に消えていく感覚が実感できた。
それと同時に俺は魂喰いを握りしめ、語りかける。
俺の中にいる、もう一人の竜族に。
ティアマトとの戦いで作り出したあの光の剣。
それを作り出すエネルギーとなったのは、俺の中に眠るマナ。
そしてそれを外に出していたのが、俺の中にいるクラリスだ。
ならば、シエルがいない今でも、もしかしたらそれを作る事が出来るのではないか。
うまく出来る確証はない、しかし今やらねば、このままでは全滅を待つばかりだ。
頼む、俺の声よクラリスに届いてくれ……
魂喰いを握りしめながら俺は祈るような気持ちで、俺の中にいるであろうクラリスの魂に呼びかける。
どうやったら声が届くのかなんて分からないし、届いているような実感もない。
ただほんの少しだけ、俺の握る剣の柄が熱を帯びたような気がした。
「これで大丈夫です、ほんの少しなら普段通りに動けるはずです」
「ありがとう、嘘みたいに楽になったよ、お前は凄いな」
そう言ってアリスの頭を撫でると、アリスは泣きそうな顔をして俺の腕を抱きしめた。
「ユニコーン! そのトカゲを連れてこっちに来い! ティアマト! あと少しだけ堪えてくれ、そして俺の合図と同時に全力で下がれ!」
ティアマトは驚いたような顔で一瞬だけ俺の方を見るが、一言だけ了解の返事を返すと、最後の力を振り絞るかのように前に出て魔獣を押していく。
ユニコーンからは返事がないが、こちらの様子を窺いながら方向を変えて徐々に接近してくるのが見えた。
どちらかと言えばユニコーンの方はまだ余裕がありそうだ。
俺は魂喰いを縦に構えて意識を集中させる。
すると次第に魂喰いが熱を帯びてくるのが分かった。
あティアマトとの戦いの時には感じられなかった変化が、今は自分の体の一部であるかのように感じ取ることが出来る。
「確か一二秒……」
呟きながら心のなかでカウントダウンを開始する。
状況が違うので何とも言えないところだが、前回の経験を頼る以外に無いだろう。
問題は力の制御だ、今回はシエルがいない、狙った相手だけ攻撃するなんて器用な真似は恐らく出来まい。
だが力を出すのはクラリスの仕事。
つまり力を出すだけなら、シエルがいなくても出来るはずなのだ。
魂喰いが僅かに震え、一層熱を持ち始める。
目の前に掲げた刀身が輝き出し、そして、その光は音もなく伸びて行った。
バルドル曰く“光の剣”がその姿を現したのだ。
「皆下がれ!」
叫ぶと同時に、俺は前に向かって走り出す。
ティアマトは弾かれたように後方に大きく跳躍し馬車の側へと避難する。
魔獣は突然現れた巨大な光の剣に一瞬だけ驚いた様子で足踏みしたが、俺が向かってくる事を確認すると、目標をティアマトから俺に変更して迎撃の体勢を作った。
その目の前にユニコーンが、三匹目の魔獣を連れて飛び込んでくる。
『やられっぱなしは性に合わないわ、これでも喰らいなさい』
俺の目の前を横切ったユニコーンは反転すると、丁度三体の魔獣が集まった場所に向けて大きな水の弾を発射する。
魔獣の一体がそれを払おうと炎を宿した腕で振り払うと、水の弾は弾けて、魔獣達の足元に厚い氷の膜を張った。
足元を覆う氷に阻まれ、魔獣達は一瞬だけ動きが止まる。
「でかしたユニコーン!」
俺は皆が後ろに下がったのを確認すると、長さが二〇メートルにも達するであろう光の剣を慎重に振りかぶり、横薙ぎに薙いだ。
その威力は相変わらず凄まじく、光が通った場所にあった岩や木などを、全て飲み込んだ端から消滅させていく。
後ろの馬車や味方を巻き込まないように慎重に、それでも一秒程度の時間で魔獣達のいた場所を光が横切ったその後には、文字通り何も残されていなかった。
ただ地面に張り付いた氷に囚われた魔獣の足首だけが、そこに以前生物が立っていたことを物語っていた。
「やった! やりました!」
「……凄い」
感嘆と賞賛の入り混じった声を聞きながら、俺は再度光の剣を縦に構え直すと、今度はそれを前方に突き出しながら前へと走り出す。
後方からは驚きの声が上がるが、それは無視だ。
あの時、メイアを狙った攻撃を教えてくれた赤い線。
あれで狙撃手がどの辺りに潜んでいるのかは大体目安がついたのだ。
あの狙撃手は危険過ぎる、ここで、この攻撃で消し去ってしまわないと、また誰かがあの毒矢の犠牲にならないとも限らない。
やるなら全てを消し去れる剣が使えている今しかない。
雄叫びを上げながら、剣を突き出し直進する。
敵は恐らく五〇メートルほど先にある岩場のどこかに潜んでいる。
普通に戦ったら、探し出す前にいくらか反撃を受けるか、探す前に逃げ出されてしまう事だろう。
だがこの攻撃なら、逃げ出す前に消滅させる事が出来る。
前方から狙撃手の攻撃を示す赤い線が伸びてくる。
しかしそれは全て光の剣に阻まれ、恐らく消えてしまったのだろう。
俺の体に矢が到達することは無かった。
そしてその攻撃により、狙撃手が潜んでいる場所はより正確に分かってしまったのだ。
「ここまでだ! 消えろ!」
最小の動きで、狙撃手が潜んでいると思われる岩場を薙ぎ払う。
一瞬で岩場が消失し、後にはおかしな形に削り取られたような岩のオブジェが残った。
その歪な形となった岩陰から、黒い人影が飛び出すのが見える。
どうやら一撃目は辛うじて回避したようだ。
だが敵が後退するよりも、俺の再攻撃のほうが早い。
俺は小さく振り被って、背中を見せる黒い影に向かって光の剣を振り下ろした。
そして光の剣が黒い影を飲み込む……まさにその時だった。
「まて! 俺だ! カズマだ!」
カズマ……?
唐突に聞こえたその名前に、俺が振り下ろそうとしていた光の剣の剣先が鈍る。
動揺し、無意識に剣の軌道を変えた結果、光の剣はカズマの名を叫んだ男の腕をかすめる。
そしてそのまま勢い余って地面を数メートル程穿ったところで止まると、弾けるように消失した。




