第七十話 作戦会議
これから俺達が向かう場所は、フィガロ、ロシュフォーン、ラギウス帝国の国境が交わる場所にある“ベルレッタ”と呼ばれるエルフの村だ。
国境が交わる場所とは言え、そこは滅多な事では人が踏み込まない山中。
さらに、エルフの住む地域は不可侵という決まり事が大昔から不文律としてあるのだ。
故に、人里に降りてきたエルフが拐われる事はあっても、エルフの住む地域に侵攻しようという勢力は存在しない。
そのような愚を犯せば、ラギウス帝国はおろか、その背後に控える天族をも敵に回す事になるからだ。
エルフ族に国という概念はない。
彼らは氏族と呼ばれる集団ごとに村を作り、そこで共同生活を営んでいる。
一つの村の規模は、大きくても五百名程度であり、その村の最年長者が代表者を務めるのが一般的だ。
基本的に氏族に連なる者は皆、血縁者である。
エルフ族は近親婚が珍しくない。人族と違って近親交配で発生するデメリットが存在しない為だ。
この特徴はダークエルフやオーク族にも当てはまるそうだ。
逆に、自身の種族特性を劣化させる可能性が高いと考えられている異種交配を嫌う傾向が強い。
異種族とのハーフなどが生まれると差別されるのはこの為だ。
性格は良く言えば勤勉で合理的、悪く言えば尊大で傲慢、そして極端な個人主義。
個体によって細かい性格は様々ではあるが、一般的には、自身の種族が最も優れているという思想を持ち、他種族を下に見る傾向がある。
かといってアリスのような、村の外に出ていって行方不明になった同族を捜索する、などという事は基本的にしない。
千年という長い寿命を持ち、天族という強力な後ろ盾を得ている彼らにとって重要なのは、天族の為にマナの真実を解き明かす事である。
その為に整えられた、他種族不可侵のエルフ族の領域があるにも関わらず、わざわざ外界に出て危険な目に会うのは、個人の自由であり自己責任という考え方だ。
「なんだか話を聞けば聞くほど厄介な種族じゃないのかエルフって……」
『私が関わっていた頃とはだいぶ違うわね。千年前のエルフ族はもう少し好戦的で情に厚い種族だったわ』
「五百年前に戦争が終わってからというもの、エルフ族は外敵からの侵略を受けた事がないですからね……もうすっごく平和ボケしてますよ」
「だからお前みたいなのが出てくるんだな……」
「わ、私はその……先祖返りですよ! 外界への好奇心が抑えられなかった勇敢なエルフなんです!」
「エルフ族は嫌い、竜族の事ですら馬鹿にしたような目で見る」
「殆どのエルフ族は自分が他者から攻撃されるなんて思ってもいませんからね、竜族の事も、天族に尻尾振る飼い犬くらいに考えている人が多いです」
シエルとカーミラが旅立った翌日、俺達は朝から主要なメンバーを集めてエルフ族に接触する為の作戦会議を行っていた。
アリスから現在のエルフ族についての説明を受け、その情報を元にこれからの行動を決めていくという予定だったのだが……状況は思った以上に厳しいようだ。
最も可能性があると思われるのは、アリスにエルフ族との仲介役を頼む事だ。
しかし現在のアリスはヴァンパイア化しているため、その事実が発覚すると恐らく状況は最悪になる。
アリスの話では、エルフ族はマナの流れをある程度読むことが出来、生物を見ればある程度の種族を特定することが出来るのだそうだ。
フェリスは普通の人間とは明らかに違う、特徴的なマナの流れを持っていたので魔族だと当たりを付けたという事だが、ユミナは通常の人間と変わらないらしい。
その例からすれば、アリスもまた通常のエルフと変わらないように見えるのではないかと思ったが、なにぶん確認が出来ないので判断のしようがない。
自分で自分のマナの形を見ることは難しいらしいのだ。
さすがに「恐らく大丈夫だろう」程度の適当さで突っ込めるほど、今回の任務は軽くない。ここは万全を期したいところである。
周りを見渡し、集まった面子を確認する。
テーブルの回りにいるのは、俺の他に、アリス、ティアマト、ユニコーン、そして、晴れて俺の養女となったお世話係のミルフィオリだ。
随分と動ける人数も少なくなったものだと思う。
フェリスは城に入り、魔術講師を兼ねながら周囲の警戒と情報収集を行っている。
ユミナは剣術の訓練を続行中だ。
何でもマイバッハの捜索のためにカタリナが休暇を取ったため、今日から講師が変わるらしい。
マイバッハの捜索隊は今日の朝、秘密裏に出発した。
早朝、ウチに挨拶を兼ねて連絡用コウモリを受け取りに来たのだが、そこには、ガドラス、カタリナ、カーナの他に、アストリアとユーリも何故かいた。
どうやらあれから色々とプチ騒動があったらしい。
アストリア達の分まで金は出せないぞと言っておいたのだが、本人は承知の上だったようだ。
まあ一人あたり経費込みで金貨四枚の報酬なので、三人で行動しても赤字にはならないだろうけどな。
ともかくマイバッハの件に関しては、彼らを信頼する以外にない。
そうなってくると、エルフの村攻略のメンバーは自然と、俺、アリス、ティアマト、ユニコーンとなる。
俺とアリスは外せない、ティアマトとユニコーンは護衛兼交渉役という立場だ。
四人で散々話し合った結果、まず俺とティアマトの二人でエルフの里を訪れ、アリスの母親と接触し、そこから交渉の糸口を探るという案で大体固まった。
話しによれば、アリスの母親は主に世界の歴史を研究している、エルフ族の中でも一風変わった思想を持った人物……言ってしまえば変わり者らしい。
何ともアリスの親族らしいと言えばらしいのだが、この場合はそれが良い方向に働く。
アリスの事を皮切りに接触を持ち、生き字引であるユニコーンを見せれば、恐らくこちらに興味を持つ可能性が高いからだ。
ティアマトの存在もエルフの村に入る際には役立つだろう。
いくら見下されているとは言え、帝国内で高い地位を持つ竜族である、その竜族が俺の身分を保証してくれれば、少なくとも門前払いとはなるまい。
エルフの村に入る為の方針は大体これで固まった。
その先はその時になってみないと何とも言えないところだ。
最悪の場合、アリスの帰郷は今回はお預けにせざるを得なくなる事もあるだろう。
同盟の話も、初訪問でそこまで持っていけるかどうかは分からない。
恐らく何度も通いながら徐々に交流を深めていくのが定石なのだろうが……果たしてそんな時間があるのだろうか。
不安は尽きないが、しかし始めなければ何も進まないというのも事実。
とにかくまずはやってみよう。
「よし、まずは今話したプランで行こうか。出発は……早い方がいい、今日準備をして明日の早朝にも出よう」
せっかくガドラス達が協力してくれる事で出来た時間だ、無駄にはしたくない。
皆が俺の意見に賛成したのを確認し、準備作業の割り振りを行う。
エルフの村に持っていくフィガロの手土産をアランが用意しているはずだ、それも取りにいかないとな。
馬車が要るが、家に残る面々を考えると黒王は家の護衛の為に残したい……となると。
『馬車なんて引かないわよ』
目を向ける前にユニコーンから強い口調が飛んでくる。
察しがよろしい事で……
「頼むよ、馬手が足りないんだよ」
『昨日は仕方がないから手伝ってあげたけど、荷車を引く役なんて御免よ。どうしてもと言うなら降りるわ』
あらま、今回はヨイショが効きそうにない。
しつこくやり過ぎて本当に一抜けされても困る。
仕方ない、今回はアランかハリードに普通の馬を借りるしかなさそうだ。
――――
「ああ? 馬車だと? ああいいぞ持ってけ持ってけ、おいリック! 二頭立ての馬車、良いヤツ持って来い!」
「えっと、借り賃はいかほどで……」
「いらねえよ、好きに使ってくれ、気が向いたらウチの馬に種付けてもらえりゃあそれでいいからな!」
久しぶりに訪れたハリード牧場で馬車の貸出しを頼んだ所、牧場主のハリードからは二つ返事でOKが貰えた。
しかも借り賃はタダ、なんとも太っ腹だ。
「最近はウチの馬っ子も黒王に慣れたもんでな、こりゃあそろそろ期待できるんじゃないか?」
「はあ……まあ、アイツが自分で誰かを選ぶなら、俺からは何も言う事は無いですね」
ハリードと雑談しながら牝馬用の厩舎の方を見ると、外で黒王が干し草をもぐもぐと食べている側に他の牝馬が群がっている。
数ヶ月前とは大違いだ。
いつの間にそんなモテモテになっちまったんだ黒王よ……俺を置いて行かないでくれよ。
自らのイケメンパワーで見事にハーレムを切り開いた黒王に軽くジェラシーを感じつつ、俺はリックが持ってきた馬車の確認を行う。
これまた立派な荷馬車だ。
引いている馬もなかなか立派である、もし借りるとなったら相当な金額が必要だろう。
「ご無沙汰してますノアさん。黒王、モテモテになっちゃいましたね」
リックも何か期待するような目で黒王を見る。
こいつはきっと黒王の子供を育てたくてたまらないのだろう。
何と言っても稀代の馬フェチだからな。
心なしか馬車を引いてきた二頭の馬も、黒王に嫉妬と羨望が入り混じった眼差しを向けているように感じる。
「あれ、あの白い馬は……」
黒王に群がる牝馬達から離れた場所で干し草を食んでいる白い馬を見つけた。
あれは確か、初日に黒王に頭突きをした勇者じゃないか。
「ああ、マユですね……あの子だけは今も黒王に近寄らないんですよ、馬の好みって難しいですよね」
見れば黒王の方は立派な牝馬に囲まれながらも、マユという名のポニーの方をチラチラとチラ見している。
……そういう事か。
手を伸ばせばいくらでも美女がいるというのに、一人遠くにいるあの子が気になるというのか。
何とも難儀な事だ。
本当に俺の周りは、ままならない不器用な男ばかりだな。
マユは草を食べ終わると、黒王の方をちらりと一目見てから、そのまま厩舎の中に入ってしまった。
その様子を見ていた黒王の目にも残念そうな光が灯る。
俺はその一部始終を見届けた後、黒王を呼んで帰路についた。
その後、町の中心部へと足を運び、必要な物資を集めて回ったところで俺は珍しい人物を目にした。
道の端に座っていたその男は、人々の行き交う町並みを眺めながら、白いキャンバスに筆を走らせていたのだ。
その男は画家の様だった。
絵描きなど、この世界に来てから初めて見る。
城などには様々な絵画が飾ってはあったので、そういう職業がある事は何となく想像していたが、実際に作業の現場を見るのはこれが初めてだった。
俺は物珍しさから、黒王から降りてその男に近づいていく。
元々芸術方面の絵画になどさして興味は無かったのだが、この娯楽の少ない世界に長くいたせいだろうか、こういった僅かな変化でも興味が湧いてきてしまうようになっていた。
しかしある程度近付き、その男の描いている絵を見て俺は驚愕する。
下書きだろうか、黒い鉛筆のようなもので描かれた、一見ただの風景画のようにも見えるそれは、よく見ると俺の馴染みのある加工が施されていたのだ。
それはいわゆるアニメ絵。
キャンバスに描かれた町並みは、所々がディフォルメ化されており、描かれている人々はアニメ調のものに差し替えられて描かれていた。
もちろんそんな特徴を持った絵画は、この世界では今まで見たことがない。
「あんた誰?」
言葉を失っている俺に、その男から声がかかる。
振り返ったその顔は俺と同じ、この辺りでは珍しい東洋系。
いや、日本人の顔……
年齢は二十代半ばくらいだろうか。
手櫛で整えたような短い黒髪、黒い目、黄色がかった肌。
俺の知っている日本人の特徴を持った男が、そこにいた。
「あ……いや……絵なんて、この辺じゃ珍しかったからつい」
「ふうん、もしかしてあんた日本人?」
「え!?」
どう話をしてよいか迷っていた所、そのものズバリを先に聞かれてこれ以上無い動揺が走る。
この人は一体……俺は何て答えればいいんだ?
「構えんなよ、別になんもしねえって。俺は司馬一馬、身の上は多分……あんたと同じってとこかな」
「……同じ?」
「ああ、顔見りゃこの辺りの連中と違うってのはすぐ分かる。
呼ばれたんだろ? あのクソッタレな何とか召喚ってヤツでさ」
「え……あ、い、いや……」
「心配すんなよ、俺のほうが多分アンタよりこっちでは先輩だ。そっちはいつごろ来たんだ?」
「……半年前くらい」
「ふうん、よく生き残れたな、何かすげえ能力でもあるのかい?」
「いや……俺は特に何も。ただ、たまたま親切な人達に恵まれただけだよ」
「そうか、まあその様子だと、ようやくこっちにも慣れ始まったって感じだな。
正直な所、過ぎた事をあれこれ言っても仕方ねえし、ま、せっかく珍しい者同士が出会ったんだ、仲良くしようぜ」
「う、うん」
「俺は以前は中目黒に住んでたんだ、しがないイラストレーターをやっててね。こいつはまあ、唯一の特技ってやつだ」
「あ、俺は三茶」
「近いじゃん! 奇遇だな」
全く予想だにしていなかった突然の出会い。
カズマと言う名のその日本人は、俺とそう変わらない時代からこちらに呼ばれたのだという。
こちらに来て三年目の二五歳だそうだ。
同郷の人間との出会い、それは俺にとってとてつもない衝撃だった。
この世界に呼ばれて来たのは、俺だけではなかったのだ。
今でも世界のあちこちで、数は少ないのだろうが召喚術が行使されているのだろう。
異世界召喚という名なのに、俺もカズマも蓋を開ければ過去の人間だ。
これは偶然だろうか。
シエルが帰ってきたら、さっそく話さないといけない事だろう。
しかし今は、この出会いに感謝したい。
俺は……一人ではなかったのだ。
その日、雲の丘亭に場所を移し、俺はカズマと共に元の世界の事を暗くなるまで語り合った。
久しぶりの故郷の会話、日本語での会話も少しだけした。
俺の置かれた状況について、深くは話せないのがもどかしかったが、非常に充実した一日になった。
帰り際にカズマの住所を聞いたのだが、現在は絵を描くためにフィガロに旅をしてきていただけで、実家はラギウス帝国のバルトリッジという町にあるらしい。
距離はあるが、馬車で四日程だそうだ。既にこちら側で家族も出来ているようで、この出会いに関しては、まずは秘密でという事でその日は別れた。
「遅いぞ主よ、どこをほっつき歩いておったのじゃ」
「ご主人様、心配しました」
家に帰ると、俺の帰りが遅い事を心配していたユミナに抱きつかれ、フェリスにこっぴどく叱られた。
同郷人に会った嬉しさで、すっかり帰るのが遅くなってしまい、連絡も入れていなかった事を思い出し反省する。
見ればリビングのテーブルの上に見慣れない書類が置かれており、その隣で冷めた料理と一緒にミルフィオリが頬を膨らませていた。
「ミル……ごめん」
「外で食べて来られるなら一言くださいませ」
「ごめん……」
いつも以上に機嫌が悪いのは、隣に置かれた書類のせいもあるのだろう。
ちらと目を向けると、そこには俺とミルフィオリが養父養女の関係になった事を証明する書類が見えた。
「ひどいです陛下……私が、あんなに……皆の前で恥ずかしい思いまでして……勇気を出したのに」
以前からミルフィオリの気持ちには薄々勘付いてはいたが、それが鮮明になったのは先日の事だ。
俺に保護してもらっている立場のミルフィオリが、周囲に遠慮しつつも、それでも精一杯の気持ちで行った、ある意味告白とも取れる行動。
そしてそれを認め、後押ししたシエル……やり方は直球過ぎたが。
それが、この書類で全て振り出しに戻ってしまった。
養父養女の関係となれば、それなりに規制の緩いこの世界でも交わることは難しくなる、倫理や立場が許さなくなる。
なかなか上手いことを考えたものだ。
もっとも、始めから手を出すつもりなんて無かったのだが……これではミルフィオリの機嫌が悪くなっただけ丸損だ、本当に困ったものだ。
「ま、まあ、妾は良かったと思うぞ、ミルフィオリにはもっと良い男がいくらでもおると思うておった。
言うなれば妾はミルフィオリの母になったという事であるから、これからは妾がぬしに相応しい男を探してやろうではないか。
これでも顔は広い方であるぞ、のう?」
「……旦那様以外の男性なんて必要ありません」
不機嫌なミルフィオリをフォローしようとして、ますますドツボにハマってしまったフェリス。
提案を一刀の元に切り捨てられて落ち込んでいる……あ、体育座りを始めた。
「ゆ、ユミナが二番の奥さんなんだよ、ミルちゃん、ユミナより先にご主人様と……し、しちゃだめなんだよ!?」
「はい、勿論ですユミナ様。私は何があっても先の奥様方を蔑ろにするつもりはありません。
ただ一番後ろで、旦那様を想っていさせて頂ければそれで良いのです」
「……え、そ、そうなの? ユミナをのけ者にしない?」
「はい、するはずがありません」
「じゃあいいよ! 一緒にご主人様の為に頑張ろうね!」
あっと言う間に一番妻撃沈、二番妻を懐柔、三番妻からの了承は既に得ている状態だ。
本当にこの養女証明書さえなければ、あれよと言う間に認められてしまっただろう……ミルフィオリ、恐ろしい子。
「……燃やしてしまいましょうか、見なかったことにすれば」
忌々しそうに養女証明書を見ながら掌から炎を出し物騒な事を呟き出した。
まずい、このままではミルフィオリが暗黒面に堕ちてしまう。
『お止しなさいミルフィオリ、それを処分してはこの男の立場が悪くなるわ』
既の所でユニコーンの助け舟が入った。
さすが最年長者、こんな時でも常に冷静だ、助かった。
「でも……」
『考えなさい、たかが人間の作った紙切れで、貴方の思いが縛られる事などあり得ないのよ。
番うことはいつでもできるわ、でも一度妻となってしまったらもう娘には戻れないのよ、ならばその前に今の父と娘という立場を利用しなさい』
「それは……どういう事でしょう?」
『父と娘、いつでも共にいる事は何ら不思議ではないわ。
娘が甘えれば、父は喜んで娘を抱き寄せるでしょう。
貴方はこの男に常に守られる立場になった。そう、何よりも、誰よりも優先して抱きしめてもらえる立場にね』
不思議そうにユニコーンの話を聞いていたミルフィオリだったが、次第にその頬に赤みがさしてくる。
『一緒に入浴する事も当然あるでしょう、寝所を共にするのも、何ら不思議ではないわ。
朝起きれば、挨拶のキスを交わすのも普通ね。
妻になれば四番でも、娘となれば一番よ。ほら考えなさい、どちらが得かしら?』
ユニコーンの話を聞き終わり、呆けたような顔でぽーっとしてたミルフィオリであったが、その顔が突然花開いたようにぱっと明るくなった。
先程までの陰鬱な表情とはまるで別人のようにニコニコと笑顔で俺の隣に来ると、その腕を絡める。
そうして満面の笑みで挨拶するのだ。
「これから末永くよろしくお願い致します、お父様!」
一瞬だけ静まり返るリビングに、ユニコーンのしてやった感溢れる鼻息と、ティアマトのミルクを啜る音が響く。
「だ……だめええええええええええええ!!」
そして間を置かずして、ユミナの悲痛な叫びが夜の丘に響き渡った。




