第六十九話 里帰り
「それではティアマト、ノア様の警護を頼みましたよ」
「はい、マーマ……早く帰ってきて」
エスカリオ家の馬車の前で、俺とティアマトはシエルと別れの挨拶をした。
ここからシエルはバルドルと共にリベラに向かい、そこから小型の高速船でグラーナ島へと向かうのだ。
片道一ヶ月程度を見込む長い旅になるが、それでも陸路を使った場合の半分にまで時間を短縮できる。
この時期にシエルが抜けるのは痛いが、それに関しては何度もシエルの方で今後の動向に関するシミュレーションを行った結果。
帰郷を後回しにするよりも、今のうちに行っておいたほうが利があると判断したのだ。
これに関しては俺がどうこう言える立場にはない。
シエルの判断を信じよう。
本当ならティアマトに乗って行ければさらに短い時間で往復できたのだが、生憎ティアマトの竜は療養中で動けない。
完治までにはあと一月以上かかる予定だ。
「それではノア様……どうかお気をつけて」
「こっちの心配はしなくていい、しっかり自分の思う事をやってきてくれ」
シエルの手を握り、軽くハグをする。
あまり長いと俺が離れたくなくなってしまうので、背中を二回軽く叩いて離れた。
「ノア様!」
「ふむっ!?」
離れたと思った瞬間、シエルが俺の腕を掴んで胸元に抱き込み、そのまま口吻を交わしてくる。
貪るような深い深い口付けの後、惜しむようにゆっくりとシエルが離れた。
隣ではティアマトが手を顔に当てており、向かい側にいたバルドルから「ヒュウ」と口笛の音が響く。
そこらの男がやるとギャグにしかならないが、バルドルがやると様になる。
これがイケメン力か……
などと脳内で茶々を入れ、照れる自分をごまかしながら、俺達はシエルに別れを告げた。
――――
「……という訳で、風呂の用意に時間がかかるようになったから、来る時は少し時間に余裕を持って頼むよ」
「そ、そうですか。別にお風呂に入りに行っている訳ではないので……良いのですけど」
シエルと別れた後、俺達はエリザベートの店に行き、新作の冬服や今度必要になる布などについて情報交換を行う。
ついでに、毎回俺の家で風呂に入ることを楽しみにしているようだったカーミラに、今後のシドー家の風呂事情についてそれとなく情報を流しておいた。
「で、それからはどうだい、儲かってる?」
「はい、おかげさまで。ノア様の工場が出来てからというもの、糸を探して走り回る事が無くなりましたので大変助かっておりますわ」
そう言って機嫌が良さそうに微笑むエリザベートの隣では、ファムがせっせと裁縫を行っている。
どうやらエリザベートから直々に縫製のやり方を教えてもらっているらしい。
こちらはこちらで頑張っているようだな。
「……また女の子が増えてる」
店の中を物珍しそうに見て回っているティアマトをちら見し、ファムが不機嫌そうに呟いた。
“また”という程増えてはいないはずだが、酷い言いがかりだ。まるで俺が見境のないスケベオヤジみたいではないか。
「それにしても急なお話ですね、シエル様はどちらに行かれたのですか?」
「ああ、ちょっとグラーナ島までだって……」
そこまで言いかけて俺は咄嗟に口をつぐむ。
何の気なしの会話で油断していたが、考えてみればエリザベート達はシエルの事情を知らないではないか。
グラーナ島に行ったなどと言ったら、シエルは魔族だと教えているようなものだ。
「グラーナ島!? 今、グラーナ島って言いました!?」
俺の失言にいち早く反応したのはカーミラだった。
そう言えば、グラーナ島にはダークエルフが住んでいるんだったな……という事はもしかして。
「ん、ああ……あまり大きな声では言わないくれよ。もしかしてカーミラはグラーナ島の出なのか?」
ばっちり聞かれてしまっていたようなので、今更否定しても粗が出るだけだ。
以前にもシエルのデタラメな魔法を見られている事だしな。
俺は観念して訂正はせず、エリザベート達の良識に期待することにした。
俺が口止めをお願いすれば、そう安々と他言するような事はないだろう……
その上でカーミラにグラーナ島の話を振る。
やはり彼女も元はグラーナ島に住んでいたらしい。
カーミラは懐かしそうに遠くを見るような目でしばし沈黙し、自身が奴隷としてラギウス帝国に連れてこられた経緯を簡単に話してくれた。
今から五年ほど前、カーミラは、グラーナ島の南にある、アクーラというダークエルフが集まる村に住んでいたそうだ。
ダークエルフ達の生活は、基本的には人間とそう変わらない。
狩りをし、漁をし、田畑を耕して牛馬を飼う、そんな生活を営んでいた。
しかしある日、グラーナ島の北に広がる海、ラギア海に漁に出かけたカーミラ達は、その沖で嵐に会い海に投げ出されてしまったそうだ。
そうして、聖都ラギウスの近くにある浜辺に打ち上げられていたところを人間に捕獲されたらしい。
滅多に出回る事のないダークエルフの奴隷は、帝国内では非常に高値で売買されるそうだ。
見目の良かったカーミラは、帝国にいた二年の間に何人もの貴族の間を渡っていった。
そうして、狂信的なラギウス教徒の手に渡り晒し者にされていたところを、エリザベートに助けられたという訳だ。
本当に簡単な経緯だけの話ではあったが、時折カーミラは何かを堪えるように口元を歪めていた。
一口では言い表せないような辛い事があったのだという事は容易に想像できる。
だがもちろん、そんな所まで突っ込んで聞くつもりもないし、聞きたいとも思わない。
自身の身の上を話してくれた、つまりそれだけ俺に心を開いてくれているという事だ。
それだけで十分なのだ。
「ええ!? ミルがノアさんの養女!?」
「まあまあ、それはおめでたい事ですね」
ファムの裁縫修行が一段落したところで、皆でテーブルを囲んで軽食を取る。
その席で、俺はミルフィオリが養女になった件を話した。
ミルフィオリの素性に関しては伏せてあるが、とにかく誰かに話さないと俺のモヤモヤが晴れない。
それにファムはミルフィオリの親友でもあるし、念の為言っておいたほうが良いだろうとも思った。
「それが、俺が知らないところで勝手に決められちゃってさ、ひどい話だろう?」
「そ、そうなんだ、大変だね……ノアさんはミルを養女にするのは嫌……だったの?」
「そりゃ嫌という訳じゃないけどさ。
ミルにはこれから色々な事を頼もうと思ってたし、仕事の上でも重要な立場になって行くだろうから都合が良いと言えばそうなんだけど、だからってなあ……」
ファムは俺の愚痴を聞きながら、何とも言えない微妙な表情を見せている。
まあ親友がこんな冴えないオヤジの娘になったと聞けば、微妙な気分にもなるのだろう。
好きでこうなった訳じゃないんだけどな。
「ファム、安心したのではなくて?」
「え、お、奥様!? いえ、あの……良かった、と思います」
エリザベートの言葉に顔を赤くしながら取り繕うファム。
確かにもうスラムの女と言われずには済むだろうから、そういう意味では安心だろうな。
「そうですわ、ノア様に見て頂きたいものがございましたのよ」
何がおかしいのか、クスクスと上品に笑いながらエリザベートは立ち上がり、店の奥から綺麗に畳まれた一着の服を持ってくる。
「以前ノア様から頂いた生地を研究して、ようやくできましたの……どうかお手にとって下さいませ」
そう言ってエリザベートから受け取ったそれは、深い藍色に染められたデニムパンツ。
俺がこちらの世界に飛ばされてきた時に身に付けていた衣服、中でもその頑丈さから、フィガロに到着するまでの間の過酷な生活に耐えきったデニムパンツ。
以前の世界では、三千円程度で買った安物。
それと殆ど同じモノが、今、俺の手の中にある。
「再現には非常に手間取りましたが、先日、試作品が完成しました。
あの不思議な金属の留め具はまだ出来ておりませんが、知り合いの金細工師にお渡ししていますのでいずれ同じ物が作れると思います。
これはあの素晴らしい生地を頂いたノア様へのお礼として……どうかお受け取り下さい」
デニムパンツを受け取った俺は、早速店の奥で着替えてみる。
サイズはピッタリで、買ったばかりのデニムパンツのように固い生地の感触が伝わってきた。
縫製はしっかりとしており、ポケットも前後に二つずつ付いている。
社会の窓の部分は……ジッパーではなく、ボタン式となっていた。
「とても良くお似合いですわ」
そう言いながら渡された革のベルトを腰に通すと、何とも懐かしい、あの頃の感覚が蘇ってきた。
二九八〇円で買ったアウトレット品のデニムパンツ……俺の一張羅。
丈夫で長持ち、多少洗わなくても問題ない、まさに俺向きの衣服だった。
今思えば服に無頓着だったという点も、俺がモテない要因の一つだったのだろう。
「すごくいい出来だよ」
「お気に召して頂けたようで良かったですわ。そちらは私からの感謝の気持ちでございます、どうぞお収め下さい」
「でもこれ、凄くお金かかってるんじゃ……」
俺も繊維業に関わるようになって、ある程度の目利きは出来るようになっている。
このジーンズに使われている糸は、通常の綿糸よりもきめ細かい、一級品と呼ばれるクラスの糸を使っているように見える、つまりそれだけ素材の値が張るという事。
さらには縫込みも普通の服とは比べ物にならない。
接合部の強度を上げるためか、至る所に細かくびっしりと針が通されているのだ。
これだけでも一日二日で終わるような作業ではないだろう。
「ふふ、お気になさらず。元々ノア様から頂いたものです、お渡しするのが試作品で心苦しいくらいですわ」
「いや……ありがとう、凄く嬉しいよ。故郷の服なんてもう二度と着る事は無いと思っていたから」
「こちら、新しい商品として売りに出してしまってもよろしいでしょうか?」
「ああ勿論だよ、どんどん売っちゃってくれ。これはストレートだけど、他にもスリムとかブーツカットとか色々種類があるから、それは後で教えるよ」
「まあ、夢が広がるお話ですね。ノア様ご愛用品ともなればこれはきっと人気が出ますわ」
俺は試作品のデニムパンツをもらって気分が良くなり、その後の展開などをエリザベートと話し合った。
今まで世話になったレザーパンツよさようなら。
長いこと穿いていたおかげですっかり慣れてしまったけど、やはり綿の肌触りというのは良いものだ。
「それで……ノア様、もし宜しければなのですが」
次の糸の納品について一通り話がまとまった頃、エリザベートがそう改まって話を切り出した。
「カーミラをグラーナ島へ連れて行って頂くことはできないでしょうか?」
「お、奥様!?」
隣で俺達の話を聞いていたカーミラは、エリザベートの言葉に大きな声を上げる。
「奥様、私はそのような……」
「どうでしょう? ノア様」
まるで抗議するようなカーミラの声を無視し、エリザベートは俺の目をしっかりと見据える。
そして、今まで決して人前では取らなかったベール付きの帽子を外し、俺に向かって頭を下げた。
「奥様! お止め下さい!」
叫びのようになったカーミラの声にも応えず、頭を下げたエリザベート。
美人だとは思っていたが、こうやって遮るものが無くなると、その美しさがはっきりと分かる。
金髪ドリルヘアと言えば、一般人が選択するような髪型ではない。
それ相応の装いと、気品を持ち合わせなければギャグにしかならない。
しかしエリザベートはそのどちらも持ち合わせている。
それだけに、色のない左目の痛々しさが余計目を引いた。
次に俺は、エリザベートの真意を考える。
とは言え、誰に対しても優しく裏表のないエリザベートの事だ、そこまで複雑な意味など無いだろう。
グラーナ島という一般の人間では決して行くことの出来ない島へ渡れると聞き、カーミラを故郷に帰してやりたいと考えたのだ。
相変わらず、身内の為なら自分の利益など度外視だ。
今この店からカーミラがいなくなったらどうなるか、分からないはずは無い。
それでも他人の幸せをまず考えてしまう、エリザベートとはそういう人間なのだ。
そういう人間がいるという事を知った時、俺は少なからず衝撃を受けたものだ。
人は誰でも腹に一物を抱えている、表に出すのは建前だけ、それが当たり前、そんな風に思っていた。
しかし、こういう人間も確かにいるのだ。
そして、そういう尊い人間には、ずっと尊いままでいてほしいと思う。
こういう人間こそ、真に幸せになってほしいと思う。
俺はどうしようもない人間だけど、だからこそ、俺を支えてくれた人が幸せになる手伝いくらいはしてあげたい……そう思うのだ。
「シエルが出たのは数時間前だ、今から伝言を飛ばせば十分間に合うと思う。
人が一人増えるくらいなら問題ないはずだ、船長のバルドルもそのくらいで文句を言うような度量の狭い人間じゃないから」
「それでは……」
「カーミラをグラーナ島へ、里帰りさせよう」
俺の答えに、エリザベートは目に涙を浮かべながら俺の手を取って何度もお辞儀をした。
自分の店が回らなくなるかもしれないというのに、まるで自分の事のように喜んでいる。
「奥様! そんな……それでは、この店はどうするのですか
「大丈夫よカーミラ、今残っている分は私とファムで仕上げます。その後は……少しだけ受ける仕事を減らしましょう」
「いけません! 今は新しい注文がどんどん増えてきて、やっとこれからだという時なのに」
「大切な家族が故郷へ戻れるかもしれない、今、それ以上に重要な事がありますか?」
「奥様……」
その言葉に、カーミラは感極まったようにエリザベートにしがみつき、流れる涙を拭うこともなくただ泣いていた。
その数刻後、俺は旅支度を終えたカーミラと共に、自分の家の前でユニコーンを待っていた。
バルドルの元へは、こうもりに伝言を乗せて事の次第を伝えてはあるのだが、その他に何か不測の事態が起きてもまずい。
バルドル達の馬車に追いつくだけなら黒王でも問題無いが、行った先でコミュニケーションが取れたほうがいいだろうと考え、カーミラの送迎をユニコーンに頼むことにしたのだ。
しばらく待つと、丘の向こうから白い馬が走ってくるのが見えた。
近付くに連れてその姿がはっきりしてくるが、後ろ足で土を蹴り上げて猛然と走るその姿に違和感のようなものを覚える。
もしかして……怒ってる?
『こんなモノで私を呼びつけるなんてどういう了見かしら』
俺達の前で荒々しく停止したユニコーンは、開口一番、呼びつけられた事への不満を露わにする。
よく見ると白い角の先には、ユニコーンへ使いに行かせたコウモリが紐で縛り付けてあった。
激しく揺れたため目が回ったのか、コウモリは羽をぴくぴくさせながらぐったりとしてる……哀れ。
「事情は送っただろ、ちょっと先行してるバルドル達の馬車までこのカーミラを送ってほしいんだよ」
『私を馬車馬代わりにしようという事かしら、いい度胸ね』
「そう言うなよ、素早く移動できて、行った先で人と話せる完璧な存在なんてお前くらいしかいないんだからさ。
世話になってる人なんだよ、頼むよ」
『……そう、まあ事情を聞けば私くらいしか頼れないというのは理解できるわ。仕方ないわね、今回だけは特別よ』
ちょろい。
今までのユニコーンの言動や行動から、この馬が人に頼られると嫌とは言えない性分だという事は分かっていた。
だが同時にプライドも非常に高いため、こちらから是非にとお願いされたという状況を作ってやらなければへそを曲げてしまうのだ。
扱い難いようで、実は誰にでもホイホイ手を貸しちゃう寂しがり屋さん。それがユニコーンという女(牝?)なのである。
……悪い連中に騙されないように注意しておいてやらないとな。
「お、お願いします」
『あら、誰かと思えば裁縫屋のダークエルフじゃない』
深いフードをかぶったままおずおずと挨拶をするカーミラを見て、合点がいったという様子でユニコーンは鼻を鳴らした。
「おい、嗅ぐんじゃないぞ」
『……いくら私でもその辺りの分別は付くわ』
ユニコーンは女性を乗せる際に、下腹部の臭いを嗅ぐ癖がある。
それで相手が処女かどうかを判断するらしいのだが……恐らくカーミラはそうではあるまい。
それは奴隷だった過去の事を考えれば、ほぼ間違いのない事だ。
ユニコーンがその辺りの事情に気付かず、余計な事を言い出さないかと心配だったが、さすがにその辺りの配慮は分かっていたようだ。
伊達に年は取ってないな。
『まあいいわ、エルフ族は知らない相手ではないしね』
ユニコーンに促され、カーミラがおっかなびっくりその背に乗る。
「カーミラ、グラーナ島行きの船の船長はバルドルって奴だけど、今度はひっぱたかないようにな」
「え……それはもしかして」
俺の一言で相手が誰なのか見当が付いたのだろう。
若干げんなりした様子を見せる。
「良い奴だから心配することは無いさ、万一エロい事されそうになったらシエルに相談しなよ」
「あ、はい……」
カーミラは釈然としない様子だったが、今は不安よりも故郷に帰れるという期待のほうが大きいのだろう。
バルドルについてそれ以上何かを聞いてくる様子は無かった。
「じゃあユニコーン、頼んだぞ。送ったら話があるから道草せずに帰って来いよ」
『どこまで私をこき使えば気が済むのかしら貴方』
「頼むよ、ユニコーンにしか出来ない仕事がまだまだあるんだから」
『ふん、仕方ないわね』
俺のヨイショに満更でもないと言った様子のユニコーン、分かりやすくて俺は好きだよ。
最後に何か忘れ物はないかと確認を行っていると、馬上からカーミラがおずおずといった様子で話しかけてきた。
「あの……ノア様。シエル様は、どのようなお方なのでしょうか?」
どのような方……恐らくカーミラはこれまでの事から、シエルが自身と同じ魔族に連なる者だという事は薄々勘付いているのだろう。
エリザベートの店で簡単には説明したが、素性についての詳細はぼかしてある、しかしこれから長い期間共に生活するのだ、不安もあろう。
「うーん、魔族のお偉いさんっていうか、デーモンロードみたいなものだよ、グラーナ島に住んでいたなら知ってるんだろ?」
「はい……ただ、デーモンロードの方々にお目にかかった事はありません。
そうですか、そんなに凄い方だったのですか……私、随分と失礼な事を言ってしまっていたような」
「とは言え俺の身内だから遠慮はいらないよ、ウチに来た時みたいに気軽に付き合ってくれれば、シエルもそのほうが嬉しいはずだ」
「わ、分かりました……善処します」
そう言っている間にも確認は済み、ユニコーンは一鳴きすると、港町リベラの方向に疾風のように走り出した。
「絶対に帰ってきますから! 奥様によろしく伝えてください!」
そう言って手を振るカーミラに俺は手を振り返して見送る。
ユニコーンはすごいスピードであっと言う間に丘を駆け下り、数分と経たない間に視界から消えてしまった。
あの調子なら、シエルの乗った馬車がリベラに着く前に十分追いつくだろう。
我ながらお節介なことをしてしまったが、長い船旅だ、シエルも地元が同じ人間がいたほうが退屈しないだろう。
それにバルドル……これで貸し一つだ、イケメンに貸しを作るのは楽しいな。
長い船旅の果てに、どういう関係になって帰ってくるのか楽しみだ。
そして、これでシエルの里帰りと、マイバッハの捜索の件は手を回し終えた。
後は最大の難関、エルフ族との同盟の件を残すのみ。
しかしこれにも俺は、解決策とまではいかないものの、取っ掛かりになりそうな手段は頭の中に出来ていた。
それは先程のユニコーンとの会話の中で偶然見つけたのだ。
そう、ユニコーンはずっと以前にエルフ族と共闘していたのだ。
ただそれは千年以上昔の話になるので、果たして現在のエルフ族にどれほどの効果があるかは分からないが、どうせ俺だけではどうにもならないのだ、一緒に連れて行く価値はある。
もしエルフ族の中に、ユニコーンについての記録でも残っていればしめたもの。
もしくは、直接覚えているエルフが存在していればなお良いのだが、さすがにそれは無いか。
とにかくユニコーンに一緒について行ってもらおう。
それでダメなら他の方法を考えるしか無い。
それは希望と言うにはあまりにも細い糸であったが、今回の仕事はフェリスとユミナを頼る事は出来ない。
正直、何とか出来る自信なんてこれっぽっちもない。
しかし、この国で俺が認められる為には、やらねばならないのだ。
その為なら何だってやるつもりだ。
「よし、まずはエルフの基本知識でも覚えるとするか」
俺は誰にともなく呟くと、まずはアリスにエルフについての一般知識を教えてもらうために家へと向かう。
そしてその途中で、はたと重要な事に気が付いたのだ。
ユニコーンの角からコウモリを外すのを忘れていた。




