ワンキル ~ 仮想戦場入り 〜
「ん、もう朝か。」
俺…「黒埼 悠」は目覚ましを止めて、ベッドから体を起こした。
手早く顔を洗い、朝飯を作り、朝のニュースを見ながら朝飯をかっ込む。
そしてすぐにベッドに戻り、円環型の機械を頭に装着した。
『ユグドラシル』
この機械はVRが当たり前のこの時代で、誰しも持っているVR機器だ。
この機械によって人々は日々仮想の世界に旅立ち、様々なことを見たり、聞いたり、感じたりしている。
そして俺にとってこれは・・・
自分がどこまでやれるか試す世界に行くための切符だ。
電源を入れると体がふわっと浮く感覚と目の前が次第に暗くなっていき、俺は仮想の戦場、『クルーエル・ウォー』の世界に旅立っていった。
ふっと体に重圧がかかると共に、大地に足が着く感覚を得る。
いつもの感覚だが、毎回俺は初めてこの世界に来たときのことを思い出す。
あれは俺が大学生になって初めての夏休みを迎えた時だった・・・
「『クルーエル・ウォー』、ねぇ…」
「おう。お前軍隊物のアクション映画とか好きって言ってたじゃん?だから興味持つかなって思ったんだけど。」
大学の構内を歩きながら俺は友人の「一条 実友」と話していた。
こいつは俺の幼なじみで筋金入りのゲーマーでもある。大学に入ったのも遊ぶ時間欲しさ、と公言してはばからない男だ。
そして今、俺は実友から話題のVRFPSゲームについての熱心な講義を受けていた。
普段は眼鏡をかけていて典型的文系青年のようだが、こいつはゲームの話になると止まらない。特に銃を使うゲームの話になるとまさにマシンガンのようによどみなくしゃべる。
「この『クルーエル・ウォー』は昨今のVRMMOの中でもかなり面白いFPSゲームだって言われてるんだよ!」
「ほう。」
「特に銃のディテールや、硝煙の匂いなんかもリアルでさ!今一番盛り上がってるVRMMOなんだぜ!」
「ほうほう。」
「俺も発売当初からどっぷりはまっちゃってさ!悠にもこの面白さを分かってほしいわけよ!」
「そうか。」
「だからさ!いっしょにやろうぜ!」
「無理だ。」
その瞬間、実友は文字通りフリーズした。
「・・・ふぁ?」
「無理だ。」
「・・・はい?」
「無理だと言ってるだろ?」
「・・・理由を述べよ。」
俺は臆面もなく実友に言ってやった。
「美雨のとこに帰らなくてはいけないからな。」
「妹かよ!」
実友からの熱いツッコミが入るが気にしない。俺は夏休みは妹である美雨のところに帰ると決めているのだ。
「実家に戻ったら、美雨とたくさん遊んでやるって決めてるからな、俺にそのクルーエル・ウォーとかいうのをやる暇はない。」
「悠・・・」
実友が困ったような顔をしてこっちを見てきた。
「何だ?」
「実はな・・・・・・美雨ちゃんもクルーエル・ウォーにはまってて、お前と遊ぶ時間は無いと思うんだ。」
今度は俺がフリーズする番だった。
その後、美雨に電話をかけて聞いたところ、確かにクルーエル・ウォーをやっていると聞いた俺は、実家に帰らない決心と貯めてきたバイト代を切り崩す覚悟をした。
「いよいよか・・・」
翌日、ネットショップで『クルーエル・ウォー』を購入、ダウンロードして、すぐに家でVR機器のユグドラシルで起動する。
前にも一人用VRRPGはやったことがあるため、身体測定などはせずにそのまますんなりと起動できた。
目の前が暗くなっていき、VR特有の浮遊感を感じた後に、何も無いただっ広い白い空間が目の前に広がった。
そして初期ステータス設定が始まる。
購入を決めた時に、実友から色々レクチャーは受けたが、やはり俺なりに考えてステータスは決めたかった。
まずは容姿を決める。
身長や体つきもある程度変えられるらしいが、VRゲームをやった時の経験上、こういったリーチや重心が現実と異なるようになってしまう設定はいじらない方が好ましいと知っているため、そのままスキップ。
髪型は色々あるが、現実の髪を立てず、前髪を斜めに流した髪型が好きなため、これもいじらない。
髪色も夜間行動時に明るい髪色は邪魔ため、黒くした。
そしてできたキャラの容姿を見て一言。
「現実のまんまじゃん・・・」
必要なことだと自分を納得させ、初期スキル取得画面に移る。
スキルとは『クルーエル・ウォー』のゲーム性の根幹にあるシステムで、スキルによって銃の反動を自動的に吸収してくれたり、手榴弾などの投擲距離が伸びるらしい。
早速目の前にリスト状に並んでいるスキルから気になったものを選んでいく。
「アサルトライフルマスタリーか、取る・・・いや、待て、バトルライフルってかっこいいな・・・アクロバット・・・?俺にもハリウッドスターの動きが・・・お、こっちは軍隊格闘術・・・これもいるな・・・」
けっこうな数の気になるスキルから初期スキル上限である6つに選び抜いたスキルが
・バトルライフルマスタリー
・アクロバット
・軍隊格闘術
・見切り
・ハンドガンマスタリー
・ダッシュ
実友が勧めるスキルはとっていないが、楽しくプレイするためにも必要なことだと自分を納得させる。
設定は終了し、いよいよ、俺は『クルーエル・ウォー』の世界への一歩を踏み出した。




