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BOXゲーム  作者: きょうか
5/6

さん

 ざわざわと落ち着きのない朝食タイム。点在している小グループに聞き込み・捜索、とばかりに朝食が終わったであろう人々がうろうろとしている。

ビュッフェメニューは前日と同じで、長谷は胃を休めるお粥をチョイスして長時間かけて口に運ぶ。

「長谷さん」

 食べている最中は遠慮して他の人から聞き込んでいたようだが、あまりにも食べ進み方が遅いので意を決した様子で話しかけられた。

「なにか?」

 内容は他の人に話しているのを盗み聞いているのでわかっていたのだが、そんなことは表情にも出さずに日高ににっこりと微笑み返す。

「小山しらない?」

「小山君がいないの?」

 耳にその話しが入ってきた時には嬉しくて思わずニヤニヤとしたが、そんな顔はせず真剣な面持ちで日高を見ると困ったような顔をして隣の席に座り込む。

「あいつ昨日から部屋に帰ってこなくて」

「心配だね」

「そうなの」

 ふーっとため息をもらし暗い表情で押し黙ってしまう。

「大丈夫?」

 そう長谷が問いかけると日高は思いつめたような顔つきで、こちらを伺い意を決したようにしゃべり始める。

「この集まり変じゃない?だから他の人に聞いても大体面白がって心配してくれる人がいないの」

 ゲームとして参加している人はわくわく顔で話しを聞いてしまうのも無理はない。参加者にゲームに興味がないものが混ざっているのが【RialBOX】の最大の違和感であり、どういった目がでるのかわからないバクチの要素ではある。

「他の人の部屋に泊まった、という話はでなかったのね?」

「あなたが泊めたっていわなければ」

「泊めてないわ。私がちゃんと覚えているのは・・・桜井君達とお茶したときかな」

「その集まりに参加した人はソレをいうのよね・・・」

「ホテルの人に聞いてみたら?」

「そういうのっていいの?」

 少しはゲームだということを理解しているのかもしれない問い。完全に理解していればホテル側の人間になにかを聞く、ということはやっても良いことだとわかるのだが。

「んーっと・・・少し待てばホテルの人経由でゲームの運営から安心してくださいっていわれると思うけど」

「長谷さんもやっぱり変人の一部なのか~。サワちゃんと奥井ちゃんなんか昨日からこの話で盛り上がって寝不足って」

「昨日の夜から居ないの?」

「昨日お昼は一緒に食べたんだけど、なんかほら・・その桜井君?の集まりに行くっていってから会ってないの。昨夜は望月ちゃん、こんなイベントだから他の人と一緒にいるのかも~って言ってて上田君も望月ちゃんとは一緒にいなかったから、そうなのかな?って思ってたんだけど帰ってこないし」

「何処かの部屋で盛り上がってたっていうのも考えられなくはないと思うけど。浅川君たちが居ないから帰ってくればはっきりすると思うよ」

 居ないというのをゲーム参加者が昨日の時点で知っていたとなると、いける範囲で探索をしたに違いない。まだ話しを聞けて居ない3人の中に居なければ、この可能性は限りなく低いので小山は昨日の時点でゲームアウトしていたと見るほうがいいだろう。こっちのほうは誰かが詰めて話をきいているであろう、と長谷は違う話を振る。

「奥井さんは昨日はサワさんの所に?」

「あ~、なんか同室の人が男の人だった?とかで初日からサワちゃんの所にいるよ」

「そんなこともあるんだ・・・」

「藤崎さんのところはうまくいってるみたいだけど」

「え・・・」

「なんかイメージとちょっと違う、みたいな事言ってたから。今ではラブラブだよね。桂木君岩崎君はガードが硬いって奏ちゃん、お姉さんの方がね言ってたけどアドレス交換した?」

「してない、よ?」

「そうなの?やっぱりガードは硬いのか~。まぁ長谷さんは浅川君といい感じだしいいのかな?でもどうなの?」

 どうなの?とはなにがどうなのだろうか、としばし考えたが、曖昧な笑みで返す以外に何も出来そうになかった。オフ会禁止・他媒体での接触禁止のBOX事項をキッチリと守っている人が少ない、少なくとも初対面で同室という荒行に踏み切ったペアが二組はいるということになる。

そんなことを考えながら視線をさまよわせていると、存在を丸ごと抹消したクラスメイト荻野が腕組みをしながらこちらに向かって歩いてくるのが見える。

「長谷さん」

 一応遠慮気味に声を出すが、腕組みして何かを考えている様子は崩す気がまったくないようだ。

「なにか?」

「加藤見なかったかな?」

「小山君探してるんじゃないの?」

「ああ、それは多分そうなんだけど・・・」

 チラっと日高のほうをみやってから、どうしたものかと言った感じでため息を一つ。はっきりしない態度に頬を引きつらせながら、長谷はビュッフェにいる人数を数え始める。

 23人。浅川・桂木・岩崎は最初から姿を見ないので、昨日から行方がわからない小山、荻野が見当たらないといっている加藤以外の全員がここに居る。

「いつまでは記憶がある?」

「ここに着た所までだね」

「誰と食事してた?」

「5.6人のグループだったと思うけど・・」

「他の人に聞いた?」

「まだなんだけど、長谷さんはずっとここに居たんじゃないかな?と思って」

「居たけど、結構出入り激しかったし、ご飯食べてたし」

「話の邪魔したね」

 話しを切って立ち去ろうとするのに、まてっと言いそうになるのをこらえ、席を立つ。

「探しにいくんでしょ?」

「もう探した」

「は?1人で?」

「ああ」

 肯定されてしまって頭痛がする。完全に引きつった頬で無理やり笑みをつくりニターっと荻野を見る。

「女子トイレも?」

「そこは入ってないけど・・・」

「日高さん申し訳ない、女子トイレ探索付き合ってもらえますか?」

「私でいいの?」

「はい」

 犯人の居るゲームなのだから複数で動くのは当たり前で、信用の置ける人もしくはゲームに興味のない人がベストである。一人でノコノコ歩いていたら狙ってくれ、と言っているようなものだ。

 奇妙な3人組でレストランを出るとホテルの人と浅川・桂木・岩崎の3名が前方から現れる。

「日高様、ここでお会いできてよかったです。お連れ様のことなのですが」

「小山?もしかしてゲームアウトとかいうやつ?」

 話が早いとばかりにホテルの人は頷く。

「私どうすればいいのかな?このまま参加なのか・・・小山と一緒にゲームアウトなのか・・・」

「どちらでも先方にはお伝えしておきますが」

「このまま参加します」

 にっこりとバッサリと彼氏を切り捨てて参加意思を伝える。かしこまりました、と静かに答えホテルの人は通常業務なのかレストランのほうへと消えていく。

「長谷さん探索は?」

 意外にもやる気を見せている日高に促される形で、一応長谷は大浴場から降りてきた3人に質問をする。

「ああ、うん。そうだ、上で加藤さん見なかった?」

 桂木と岩崎は顔を見合わせて、何か意思の疎通をはかり桂木が答える。

「いないの?」

「そうなの。小山もいなかったから心配だから探しましょうってことになって」

「僕らも一緒に行くよ」

 日高に向けてさわやかに笑う桂木の一言で微妙な6人組になった。

「長谷さん、どっちいくの?」

 進みだした方向が思惑と違ったのか荻野に呼び止められ長谷は足を止める。

「え・・・奥の煌びやかな女子トイレ・・・」

 指差す先は薄暗いがキープアウトの文字はない。オープン待ちのレストランには何の変わりもなく、クローズの看板が見て取れる。

「小山は上にいたの?」

 ちゃっかりというべきなのか、桂木の隣をキープして日高は話しかける。

「上にはいなかったから多分スタッフが使っている階にいると思うよ」

 ゲーム外の人という認識が出来ているのか桂木は躊躇することなく、裏側の話しで答える。彼氏のいなくなった狼狽は1ミリたりともない、そして関心は彼氏よりも桂木に向いているようにしか思えないのが空恐ろしく思える。

 先発隊、中に他の女性がいるかもしれないことを考慮して長谷と日高が進む。前日にきたパウダールーム一見変ったところはなさそうに見えるが、かなり広いスペースなので入り口からは死角がないともいえず、長谷は奥へと進む。

「すごい~」

 初めてきたのか日高は目をキラキラさせて手近な席にすわり、備品のチェックを始める。

「日高さんそこに居る?」

「どうしたの?」

「外の人たち呼んでくる」

「あっ、私がいく」

 なになに?といわんばかりに長谷の横にやってきて、ソファーにもたれかかっているソレを見る。

「コレ、加藤さんなのかな?」

「多分・・・。人型のクッションに自分の服を着せる趣味がある人がいなければ・・・」

 プリントのあるジップアップパーカーにプリーツのミニスカート、足元はショートブーツ。手荷物はないようだが、持ち運ぶのは携帯くらいなものでそれくらいならポケットで十分ことたりるだろう。

 人気はない。個室のほうにもキット誰も潜んでは居ないだろう。落ち着き払った外組みの人が中に入り、人型クッションの周りに集まり視線を落とす。

「このお人形さん大活躍やな~」

 小山もこんな状態で置いてあったのだろうか、何ともいえない顔で岩崎は人形を突っつく。

「とりあえず、さっきの木村さんに報告をしてくる」

 てきぱきと行動にでる桂木に日高が着いて行き、女子トイレにはなんとも言えない空気が流れる。

「長谷さんもう検討ついていたりするの?」

「難しいね・・・」

 荻野の問いに対して正直な感想で答え、長谷は奥の個室をぞんざいにすべて開け放して人の有無を確認する。

「誰もおらんな~」

 各々何を考えているのかはわからないが、長谷としてはゲームの運営側が人形を置き、生身の加藤さんを回収し逃げる時間があったという正攻法とはいえないうがった考えをしていた。

「浅川君よかったなぁ~これで完全にセーフやわ」

「ああ、本当?おめでとう、脱容疑者」

「浅川君がな~上での検証おわっても一人で行動したくない、ゆうてて一緒に行動しとったんよ」

 浅川の自己防衛能力は高レベルで備わっているらしい。

「そんなこと言ってる前に、加藤さんなのかの検討からじゃないの?」

 複雑な面持ちで浅川が話しの軌道を元に戻す。

「レストランに小山・浅川・桂木・岩崎を除く全員がいたから確定。小山君はなんでわかったの?」

「悠が小山君の服装覚えとった」

「うは・・・」

 ゲームアウト者が人形とすり替わる事態が起こらなければ、無駄な記憶力の使い方だが桂木の優秀さに長谷は呆れる。

「この人形。素手による絞殺でいいのかな?」

 まじまじと人形を覗っている荻野が全員思っているだろうことを口に出す。人形の首にはくっきりと黒い手形が残っている。

「警察介入指紋照合でQED」

「ああ・・・そない現実的なこと言わんといてあげて・・・長谷さん・・・」

「短絡的な愉快犯」

「ああ・・みもふたもない・・・」

「小山君はどんな感じだったの?」

「お洋服きたまーんま、湯船にぼっちゃりつかっとって頭からきれいな赤い毛糸だしとった。まぁ・・・頭部一撃力技って感じやな」

 推定されるのは撲殺。

「犯人は男性?」

「そやなぁ~」

 荻野の問いに律儀に岩崎が答え、一同は沈黙の思考タイムに入る。

 普通に考えるのならば、まずこの一連の殺人事件は同一犯か否かから。犯人の性別。動機。

 犯人は事件を起こすことが出来た、探偵は犯人を突き止めることができるのか、ゲームのクライマックスは近い。




 立て続けに事件が起こってしまったので、一堂がビュッフェに集い誰に言われたわけでもなく軽い軟禁状態に陥っていた。微妙な空気の中幹事が持ってきた1枚の紙で、なんとなく全員がBOXネームを当てるべく格闘を始めている。

 縦29・横2、見事な58枡の用紙。人数のヒントしかない見事な出来栄えである。定位置になりつつある、人気のすくないソファーで昼食のお弁当を突っつきながら、まずは簡単なところから埋めていくのが手っ取り早そうではアル。

 戦利品のBOXネームリスト・高須お土産の参加者リストを見比べる。

「浅川君もっとひねったBOXネーム思いつかなかったの?」

 とりあえず、個人技ということで対角のソファーに座り込んだ浅川がうーん、とうなり声を上げつつの反撃をする。

「長谷さんもひねってないよね」

「ひねってはないけど・・・結びつきもしないとは思うんだけど」

「長谷さんの彼氏に名刺貰ってるんだよね」

「いつのまに・・・」

 さわやかな笑顔の浅川に、最大限さわやかに装った笑顔を返して、これ以上この話題は危険だと判断して長谷はそそくさとリストに目を戻す。

 これまで判明しているのは、桂木・NaGaと岩崎・noise。簡単に解いていくと今井佐和子・SAWA、近江遥・はるか、奥井由紀・おく、佐藤和泉・さと、広瀬香織・瀬香。

 ここまできたら4組のネーム保持者組みを割り出す。1組目桂木・岩崎・2組目波多野桜井、3組目横井・奥井、4組目林・藤崎。ペア参加の場合もう片方だけしかBOXネームを持ち合わせていないことになる。BOXネームを持っていないと思われる人物が、荻野・日高・望月。したがってBOXネームを持っているのは上田隆志・加藤美奈子・小山隆太。

 ペア参加でどちらがBOXネーム保持者であるか判明していないのは高須兄弟、小野・時田ペア、水城兄弟。どちらがよりゲームに参加しているか、と問われれば高須兄弟は弟、小野・時田ペアは時田、水城兄弟は弟であるが・・・。

「わかるわけないぢゃん・・・」

 思わず声が出てしまうのはもう仕方ない。高須弟の助言を組み入れればこの中にアナグラムを活用している人がいるはずである。その後はもうただたんにインスピレーションのみで表を埋め込むと、もうムリといわんばかりにお弁当に集中する。

「単純そうな人が多くて良かったね」

「単純そうな人以外はちょっとムリがあるよねコレ」

「まぁそうだね」

「何か余裕そうじゃない」

「事前の情報収集の差かな~」

「うわ~。博士さ~誰にリスト渡す、とか言ってなかったの?」

「それはリストの交渉を僕に任せた長谷さんのミスかな~」

「うわ・・・。ひしひしと負けそうな予感が・・・」

「博士と直で話している差はでると思うよ」

「浅川君がイジワルする・・・」

 残る日程もあと1日を切った。三名ものゲームアウトしたものが出れば警戒心はどう動いたところで緩和できそうにない。

「さて・・・」

 他の人の様子はどうかな、と振り向いたその先に桂木がいて視線が合う。この視線があうとふわっと笑うのが桂木のクセなのか、女子に人気の理由がだんだんわかり始める。

「長谷さん・浅川君書けたかな?」

 迷いなく2人は用紙を差し出すので桂木が2人分の用紙を回収し、まじめな顔で向き直る。

「桂木君、全員分回収した?」

 何か言い出そうとしていたところを遮っての質問だったが、桂木は長谷ににこやかに答えてくれる。

「うん。一応ネーム持ちじゃない人も名前だけは書いてもらってる」

「そう。桂木君、岩崎君って女の子だよね?」

 一瞬だけ目を見開くが、何事もなかったようにさわやかな笑みに戻る。

「黙っておくから、25人分の回収した用紙渡して頂戴」

「えーと、渡してしまうと認めたことになるのかな?」

「っていうか外れてても頂戴」

 何が何でもここは入手あるのみ、手段は選ばす攻めあるのみである。

「自分のはいらないんだよね」

「書き直した、なんて言われる不安要素はないに限ります」

 うん、と頷いて紙の束が長谷の手元にやってくる。

「それでは、始めましょうか」

 長谷が言うまでもなく、桂木はそのつもりだったようで中央へと促される。

 各自椅子と飲み物をもって楕円形の形で集合する。

「高須瑛士君・小山君・加藤さんがゲームアウトして、残りの日数も1日をきりました。検討を始めてもいいころあいだと判断しました。異存の声は聞こえなかったので、始めさせていただきます」

 岩崎の良く通る声をBGMに貰い受けた用紙をカサカサとめくりながら、分類を始める。

「誰が犯人であるか、明確に理論的に答えをお持ちで披露していただける方はいますか?」

 犯人の自白は求めない探偵役の募集だ。

 誰も何も言わない中、分類した紙を数枚椅子の背に置いてから再度分類を始める。

「まずは三つの事件を明確にしてみたらどうかな?」

 言うと思ったよ、と荻野の発言に一瞥もくれずせっせと長谷は作業を進める。

「一番目は僕から解読しようか」

 高須皓士が役を買って出る。

「兄がゲームアウトしたわけだけど、理由は薬物による中毒死ってことになるのかな。兄は二日目の朝食時にアイスコーヒーを飲んで倒れ、その要因はアイスコーヒーのサーバーはなくグラスに注がれていいたのをとったこと。何個トラップがあったのかは今としては確認できないけど、倒れていた時点で残っていたグラスは7つ」

 付け加える必要のない見事な解説に一同は沈黙する。

「二番目はな~発見者3名は浅川・桂木・岩崎の三名。発見場所は男性露天風呂、時間は8時すぎ死因は頭部打撲による脳挫傷やと思う。夜に朝風呂皆でいこうかーって盛り上がって集まったのが3人やった」

 何人で盛り上がっていたのかは不明だが、やった、ということは少なかったという意味を含んでいそうではある。桂木の解説にもう一人付け足して完全にしたいところではあるが、とりあえず、と長谷は数枚の紙を見比べて迷う。

 三番目は僕が、と荻野がしゃべり始める。

「発見者は6名。僕と桂木君、岩崎君、浅川君、長谷さん、日高さん。発見場所はちょっと奥にあるパウダールーム?っていうのかな?時間は10時頃だったと思う。死因は首圧迫による窒息でいいとおもう。加藤とは同室だから9時少し前に一緒に部屋を出て、ビュッフェでは別に席をとったわけだけど。小山君が居ない話がでて探しに行ったりして落ちついたら姿が見えなくなった。長谷さんと日高さんが話しをしていたんだけど、長谷さんはずっとビュッフェで食事を取っていたようだから加藤を見ていないか聞いたところ、一緒に探してくれるという話になってにビュッフェを出た、露天から帰ってきた3人と合流して発見にいたった」

 素敵な編集をしているが、間違ってはいなし前例をならって抜けている点もない。長谷が荻野を嫌い遠巻きにしていたのはこういった編集をしてしまうのを経験上知っているからなのだが、体験した人にしかわからないものはある。

 事件を明確にしたのちの沈黙。話しを動かした荻野に視線は集まるのだがその続きを言い出せないで居る。助けるつもりはさらさら無いのだが、たっぷりと沈黙を味わったあとですべての用紙をまとめわざと音をたてて二つに折り、足を組みなおして全員を見渡す。全員の視線を受け流して長谷は声を出す。

「まず確認したいのはこの三つの事件は、同一犯なのか個々の事件なのか」

 視線はきっちりと桂木を捉える。

「僕個人としては同一の単独犯とみているけれど」

 期待どおりに桂木が自分の意見をいい皆を促す。参加者は仲が良いものが隣り合っているのでぼそぼそ、と話がそこかしこで始まる。犯人がどう、という前になぜ長谷が主導権をかっさらって話しを始めるのかに反発を買っているような空気が流れるが、そんなこと知ったことじゃないので長谷は続ける。

「他の意見も無い様だし、私もそう考えています。理由としては色々あるけれど、ここはあえて理由を保留して補足事項をうかがいます。日高さん、小山君と離れてから小山君のゲームアウトを聞かされるまでを自分の行動も交えて教えてもらえるかな?」

同一犯とでる最有力の理由がBOXが募集したゲーム犯人役として、しょっぱなから複数犯であるわけがない、という身も蓋もない理由なのだから犯人の人数の話題は置いておくに限る。

「えっと、小山と離れたのはお昼ご飯が終わった後くらいから。桜井君なんかの集まりに呼ばれているから、そっちに行ってくるって言うので別れて、私は望月ちゃんとずっと一緒に居て・・・本格的に居ないなって思ったのは夕飯の頃からかな?他の人と盛り上がってるのかもしれないと思って放って置いたんだけど、夜にも部屋に戻ってこなかったから今日の朝皆に聞きまわって・・・誰にも知らないって言われて。そのうち加藤さんもいないってことになって探しに行こうってレストランを出たら、ホテルの人にゲームアウトを聞きました」

「夜の時点で他の人に相談した、と私は聞いたけど」

「望月ちゃんとサワちゃんと奥井ちゃん」

 視線で今井と奥井を捕らえてから正面を見据える。

「踏まえて犯人として考えられる性別は男性であるか、女性であるか」

「ごめんなさい、問うような言い回しだけど、私は長谷さんの意見を聞きたい」

「男性。その理由を綾瀬さんは答えられますか?出来ないようでしたら続けますが」

 思わぬ反撃とそれくらいわかるわよね?、と言いたげな挑発に会場の空気はいてつく。いてついてしまったので、自分でさくさくと進めることにする。

「一番目は、薬物によるもので腕力の自信の無い子供か女の人が使う手段だと言うのはBOXの住人としては定石として考えることが出来ると思われます。ですが二番目、三番目は女性に犯行可能とはいえ男性に有利な力を使った犯行といったところでいいでしょうか。もう少し付け加えるならば・・・望月さん・今井さん・奥井さん昨日の夜小山君を探しませんでしたか?」

「サワちゃんと一緒に探しました」

 奥井さんが完結に答える。もう少し説明が欲しいところなんだけれど。

「つまり考えられるのは知らないと答えていた中に犯人がいて部屋に泊め朝風呂に誘った、か。居ないという時点で既にゲームアウトしていて場所を移動させたか。大浴場に異性が誘うのは不自然だし、移動させるのは女性には無理とはいえないけど重労働。どちらにしても男性が有利なのはかわりないね」

 波多野が納得したように呟くが、もう一声欲しいところなので、あえて長谷は促すことはせず考える時間を与える。

「大浴場は清掃時間の2~3時を境に男女が入れ替わるって書いてあった。奥井さんと今井さんが8階の大浴場を見て回ったかはわからないけど、小山君が発見されたのは前日は女湯だったわけだよね?」

 時田がうーん、とうなるように言葉をこぼすと、あっと上田が声を上げる。

「千夏大浴場行ってたよね?」

 千夏と呼ばれた上田の連れ望月がうん、と頷く。

「日高さんと一緒に昨日もその前も行ってるよ。1日目は鍵で開かなくなっちゃったから時間前に絶対かえらないとって余裕を持って出たけど」

「女湯だった時はギリギリまで人が居たわけだし、鍵が使える時間は男湯だったんだから小山君と同性男でいいんじゃないかな?」

 その線が濃いかな、という空気になったのを読み取って長谷は次の手に出る。

「男性ということでわかりやすく、移動しましょうか。桂木君を基点に左男性・右女性と別れていただくのと同時に二番目の発見者は三番目の犯行が行えないので女性側へどうぞ」

 境目はやや空間をあけ、男性11名の塊と女性12名プラス男性3名の楕円に会場はシフトする。

「自白は求めませんが、この時点で行動・言動から犯人のわかった方いらっしゃいますか?」

 静まりかえる会場に寒気のようなものを感じずにはいられない。

「この場合、二番目の件でどちらの行動をとったにせよ最有力なのは誰でしょう」

 はーいっと元気良く高須が手をあげる。

「僕と横井さん。理由は一人で部屋を使っていたから~。そして探偵はこの言葉を期待していると思うので付け加えます~。僕が犯人だったとしてそんな危険は犯しません~」

 自己申告のうえ付加価値までつけてきた。

「この2人も疑わしさは抜け着れないので保留しておきましょう」

「マジ?!」

 もう少し回り道をして全員の意思がそう向いたのなら省きたかったところなのだが仕方ない。

「あの・・二番目の発見者が犯人じゃないっていうのがよくわからない」

 望月が不思議そうに声を上げる。

「じゃぁそれは俺から」

 彼女の問いに答えるように上田が説明を始める。

「浅川君・桂木君・岩崎君3人が8時ごろ風呂へ行って小山君を見つけたわけで、この後3人は一緒に行動してたって聞いた」

「一緒に行動してたらできないのよね?」

「3人は8時から一緒に行動をしてて、加藤さんが荻野君とビュッフェへ降りてきたのは9時過ぎ」

「あ・・なるほど・・・」

「9時から10時の間に居なくなったと思うんだけど、この時間日高さんからの相談で皆結構色んなところを捜索してたんじゃないかな・・・皆どう?」

 ゆったりごはん食べてました、というのは荻野が言ったので何も言わずに話しを覗う。やはりここで何も出ないということは、犯人は上手に加藤のみをおびき出していることが覗える。誰と一緒だった、とかどの順に探索したなど口々には出てくるのだがハッキリとこの人はいなかった等の話がまったく出てこない。

「それで、長谷さんは誰が犯人だと・・・?」

 ざわつきが収まり長谷に視線が集中し、ごくっと誰かが息を呑む。

「そんな前菜からデザートみたいなすっとばししたらおねーさん泣いちゃうよ、時田さん」

 ケタケタと子供のように笑い、高須が話しを戻してくれる。

「三番目の事件では、複数人が混ざり合って行動してて足取りをたどるのが明確ではない上に証言は不安定。二番目の件で掘り下げたほうが賢明」

 小生意気な、と何人もの人が思ったに違いない。

「でわ高須君の助言に従って二番目の件を考察してみようか。日高さんの話からすると小山君は桜井君の集まりにいったようだけど」

 上手に高須の生意気さを流し、次へのアプローチも忘れない幹事桂木。ゲームの運営はいい人選をしたものだ。

「集まりに参加したのは7人。僕、桜井・波多野・水城・小山・荻野・浅川・長谷、敬称略。ちょっとした特別空間を作ってもらって最新の赤箱の推理をしたわけだけど」

 歯切れの悪い、なにか言葉を選んでいるように桜井は口元に手を当てる。

「推理していたのは30分くらいで、長谷さんが先に部屋をでたんだよね長谷さん以外は男だったし何か窮屈そうな感じがしてて、のことだったと思うんだけど」

「はっきり言っちゃえば?長谷さんが波多野君にだけ何かを見せていたから、長谷さんが出て行った後小山君が誹謗中傷下世話な話を交えて延々と繰り返していたって」

 参加していた水城弟が言いにくそうにしていた桜井を受け継ぐ形で話し始める。長谷は思わずそんな話し伝え聞いてませんが?、と浅川君を見てしまう。

「最初はさ皆聞き流してたんだけど、さすがに浅川君がキレたというか怒鳴ったりしてないよ?むしろ静かに、でも確実に粉々に小山君のプライドを叩きのめした。すごかったよ男でも惚れたって思ったし。それで解散」

「16時は過ぎていなかったと思うけど、どうかな?前後の時間に見かけたとか」

 話しを締めくくった水城に荻野が時間を付け加えて話はいったん途切れる。そして見かけたものは居ない。この後時間をあけることなく犯人は小山をゲームアウトに追い込んだに違いない。

 ちら、ちらっと視線が横井に集まり始める。

「小山君は16時以降姿を見ている人がいないのですが、小山君はどう行動していたとおもわれますか?上田君」

「あ・・・ご指名・・・。部屋に帰ったとか?あ・・でも帰ってこなかったって日高さんが言ってたか」

「今井さん」

「理由はわからないけど誰かの部屋にいた?軟禁?」

「浅川君」

「ゲームアウトしてどこかに隠されていた」

 欲しい答えは浅川君に振るにかぎる。うんうん、と思うが浅川君は少々ご機嫌ナナメそうな表情をしている。

「発見場所は大浴場だよ、隠す必要ないし生きていれば運ぶ手間もないのに」

 今井のソレにあぁ・・・と何人かが感嘆の声を漏らす。

「アリバイが欲しかったんやなぁ~。生きている可能性を否定できひん場合完全に疑いの目が行くのは一人部屋にいる男やわ。高須君は、どこでゲームアウトさせたんかわからんけど体格が男としては華奢すぎるし、横井君はたまたま一人で部屋つこーとるけどいつ連れがかえってくるかわからんやろ、浅川君狙われとったなぁ~自分と悠が一緒に行動しておらんかったら犯人扱いされとったわ」

「見つけたときに一人部屋に圧倒的に不利だなって思ったんだよね、理由をつけて逃れることができたとしても完全否定できない」

「だから言ったじゃん、僕犯人です、なんて行動するわけないじゃん。こんなにちゃんと確実に狙ってるのにさ。今度こそそっち移動してもいいよね?」

 余計な一言プラス無言を肯定と受け取り、いそいそと高須は移動をはじめ、横井さんも早く、とせかす。

「では、視点をかえて犯人視線で考えてみましょう。一番目高須君のお兄さんがなぜ狙われたのか」

「それは誰でも良かったんじゃないの?そそがれた飲み物なんて誰がとるかなんてわからないし、狙いようがない」

 模範解答をだす綾瀬に長谷は視線を向けて次を促す。

「無差別・・・?」

「一番目、は。私たちは連れは興味のない人もいるけど、BOXのオフ会として集まっているのよ。薬を使うのは女性・子供の常套手段、そんなことまず最初に考えたはずだわ監視・・じゃないけど行動を注視するのは割合的に女性の方が多かったはず」

 纏め上げるまであと一歩。

「騒ぎを起こして注意をそらし2番目・3番目の事件を起こしたかったんだわ」

「狙っていたと?私たちはさっきも綾瀬さんが言っていたとおりBOXのオフ会連れいがいは例外を除き初対面ですよね狙われる理由あります?」

「雅・・・雅なら狙われてもおかしくない、IQもよ私あの2人大嫌い。あの2人絶対他媒体で連絡取り合ってるし、白箱の模範にならなかったのはなんでなのかとかの検討を馬鹿にしたように始めるし、黒箱匿名なのにあなたじゃないの?とか、もう本当に最悪っ」

「なるほど・・・」

 1枚の紙を見えるように差し出す。

「水城武さん。小山君を見た最終グループに属しなおかつ小山君をIQ、加藤さんを雅、と書いていますね」

「僕が犯人?小山君を見た最終グループに含まれているからってそれはないよね?用紙を見せてよ、僕以外にそう書いていてこっち側に残っているのは複数居ると思うよ」

 長谷の持つ用紙を渡せ、と手を出しながら余裕の顔で水城が答える。

「残念ですが、確かに小山君をIQ、加藤さんを雅と書いている方はそちらに4名残っています」

「林君」

「はい」

「藤崎さんとは初対面ですよね?」

「そ・・・そうです」

「水城譲さん。IQ・雅をご存知かもしれませんが、直に2人とチャットした経験はなく、BOX自体に参加されたのはリニューアル以降ではないですか?」

「BOX自体参加したことはないです」

「小野君」

「僕も時田の付き添いみたいなもので、BOXは知りません」

「ありがとうございます。初対面で相手がどういう反応行動をとるか予測できない事態で二番目の犯行を行うことは不可能です。そして譲さん小野君はBOX自体をしらない、当然犯行を起こす理由はありません」

 じっと水城を見つめるが、落ちる気配はない。やっぱりこれじゃダメか・・・、と長谷は心の中だけで呟く。これ以上の台詞は用意していたけれどあまり使いたくない、しかし使いたくないと言ってもそれ以外の方法がないこの状況では使うしかない、葛藤するが長谷は使うことを選んでしまう性格だ。

「水城君は最大のミスを犯しているんです。あなたが狙ったIQはそこで楽しげに行く末を見守っている、高須皓士君」

 呼ばれた~、とでも言いたげに高須は楽しそうに声をあげる。

「ばぁっかだよね~、あんなのがIQだなんてどこ見てるのさ。ちゃーんとさ上位常連は僕がIQだってわかってくれたよね~、さ・す・がミズキって感じ」

 高須が小生意気さに環をかけて挑発する態度をみせる。この場合これが長谷が高須にもっとも求める態度なのでそれをわかってやってくれるのはありがたいのではあるが。

「・・・クソガギっ」

「私が雅なんだよ」

 意地悪そうに、高飛車に上から目線での演技するのが常套手段である。この事態になることも想定して、最初からあえて上から目線の物言いを心がけてはいたのだが。

「おっまえらっ・・・」

 真っ赤な顔をして立ち上がる。

「俺が犯人だよっ、くっそ・・・・」

 犯人役としての心が折れ、水城武は告白する。

「自白、ありがとうございます。以上・・です」

 同時に探偵やくとして場を促していた長谷の心も折れるのだった。頬から耳にかけてがとてもあつい、きっとはたから見ても顔を真っ赤にしているに違いなく、人の視線を避けるべくうつむく。

「おめでとうございます」

 拍手を手に長洲が扉から燦然と現れる。

「おねいさん、サスガだね~。でもなんでそんなに顔真っ赤にして落ち込んでるのよ」

「個人的理由」

「先に一つ訂正、僕リニューアル前のチャット参加はあいみって名前使ってたんで。IQではあるんだけどチャットとは別人物なんでよろしく」

あいみちゃん・・・、と数人から名前が漏れるのでそこそこ有名な子だったに違いない。

「何度も運営側に偽者でてるから改善しろって要求だしてたんだけど、この前のリニューアルでやっと要望が通りました。偽者が偽者にお前偽者だ!って喧嘩してた時は面白おかしく観戦させてもらったけど、さすがに殺意覚えられるほど嫌われてたら僕じゃありませんって否定したくなるよね。雅も同じ状況だと思うんだけど」

 コクコク、と頷くだけで胸のうちに敗北感が漂って何かをする、という気になれずにいる。

「で、おねいさんは何に凹んでるの?追い詰めてから、心を折る、見事な手法で探偵としての役回りきっちりこなしてたのに」

 高須弟は呆れた顔つきで、なにが不満なのさ、と長谷を問い詰める。口を割る気はないんです、とばかりに視線を受けないようにカーペットの一点をただひたすら見つめていた。

「長谷さんは追い詰めたところでの自白を期待してたんだよね」

 終始傍観気味だった浅川がぼそっと言葉を吐く。

「そんなのムリだよ。水城さんすげーもん、俺わからなかったし。本当のところさ、警察介入の強制終了だと思ってたんだよね。これ犯人役は大変だわ、本当にマジですごい」

 思わぬ高須の賞賛に、長洲が同意なのか拍手をして皆がそれに習う。

「すばらしい動きを見せていただいて、運営側も水城君には大変感謝しています。犯人役ありがとうございました」

「で、おねいさん?」

「うん。すごかった、自白以外なかった。科学的な検証ができないこの状態で、この人数だもの人の動きがどうしても不確定にならざるおえない。人に見られることなく事件を起こせさえすればこのゲーム犯人に断然有利・・・水城さん犯人役本当にありがとうございました」

 違う方向へ持っていって話を強引に長谷は終わらせようとする。

「いや、違うし。凹んでる理由だから」

 早く進めてください、とばかりに長洲にアイコンタクトを計る。

「ここは僕の出番かな」

 自分の出番なんかなくても普段は気にしないくせに、何事なのか、と浅川をみやると涼しげな表情で座っている。

「浅川のおにーさんにはわかってるんだ」

 キラーン、と目の色が変りワクワクした表情で高須が浅川を催促している。

「長谷さんはね。自分でBOXネーム名乗りたくなかったんだよ」

「浅川君?!」

 酸欠の金魚のように口をパクパクさせてしまう。

「彼氏の下の名前を一字とってBOXネームにしたなんて案外長谷さん少女趣味だよね」

 可愛いねおねいさん、などと言いながら高須はいまにも笑い出しそうにしている。

「すごくイジワルされてる・・・」

「桂木君から皆のBOXネーム用紙を強引に奪い取った仕返しです」

「それは、博士から貰ったヒント教えてくれないからじゃない」

「あ・・・ネームリストを博士に頼んだのは浅川君?」

「博士からBOXネームリスト貰ったのは波多野君だよね。僕は博士からBOXネームで渡した人教えてもらったんだけど」

「結果的にリスト渡ったからおつかい成功・・・?」

「ですね。どうもありがとうございました」

「発案者2人はリアル知り合いって聞いてたけど?」

「あ・・・そこは長谷さん案外少女趣味だから、別枠招待じゃないと行かないって言うものだから、二人とも招待きたのでついでに他人を装ってみました」

「浅川君・・・・」

「水城君すごかったね。危うく犯人にされるとこだった。犯人役ご苦労様でした、すごくスリリングで楽しかったです」

「でも、探偵勝利で終わったし」

 誉められて嬉しいが居心地が悪そうに水城は落ち着かないようである。

「犯人にされれば良かったのに」

「保身にはしって良かった」

「ではホテルの方にテーブルセットしてもらいまして、ティータイムと同時に水城君に行動をトレースしてもらい全貌の解明を行いましょう」

 ホテル側の人がテーブルセッティングをしているので、あっという間に会場は整いティータイムの用意なのかデザートや軽食が並び始める。

 13人つづの対面で、中心に長谷と水城が指定されて座る。

ゲームアウトした人が復帰することなく進められるなんともいえない状況のまま運営側の長洲に促される形で水城が会話を進める。

「犯人をやらせてもらいました、水城です。BOXの方と音声チャットで打ち合わせを行いました。BOX側からの要求は2件以上の事件を起こして欲しい、動機を考えて欲しい、手法は任せるとのことでした」

 事件の回数と動機の制約。厳しい要求をするものだ。

「何人かのターゲットは伝えてたんだけど、誰が参加するかは教えてもらってなかったので正直いきあたりばったり・・・・」

「厳しくない?それ・・・・」

 上田が呟くのにまったくだ、という表情で頷いて水城は続ける。

「打ち合わせでゲームアウト者を出した場合に死体のフリをしてもらう、ゲームアウトタスキってのがあって今も持ってるんだけど」

 ポケットからゲームアウトと書かれたタスキが出てきて横の人に回る。

「裏側に死体の心得書いてあるんだけど、これが案外荷物になるよね・・・・。まぁ時間があればスタッフが人形とすりかえるっていうのは事前に聞いてた。他に準備としては毒物に装えるタブレットかな・・・。鞄を持つ習慣があれば中に入れればいいんだけど俺そういうのなかったし、普段と変ったことしてたら兄貴にお前だって言われそうで」

 手元にきたタスキの裏には、死体心得がびっちりと書かれている。

一、声を出さない。

二、犯人の要求以外で動かない。

三、発見されても犯人を特定するような行動をとらない。視線を向けるなど

発見されずスタッフが保護可能と判断した際、衣服(下着以外)をお借りいたしますが、着替えをご用意していますのでご安心ください。遺体役特典としまして着替えていただいた洋服をプレゼントさせていただきます。

 そうそうにゲームアウトしても特典付というオマケがつくらしい。

「最終手段で2件の起こして無差別、で許してもらおうかと思ってたんだけど。BOXネームをそれとなく聞き出せばいい、とも思ってた、ここがいきあたりばったりのポイントだよね。早い段階で目標としたターゲットのBOXネームを入手できたと思ったんだけど、他の人に直接BOXネームを聞けなかったのは今思えばひどい痛手だったっぽい。BOXネーム当てなんて考えるやついるんだな~くらいにしか思ってなかったからな・・・」

 考えるようなしぐさで口元を手で覆いうん、と水城が頷く。

「今思えば、長谷さんは赤箱の謎解きしてる時は白箱の雅っぽい言動してたよな・・・。まさかチャットに現れるのが偽者で名乗ってたのが偽者だったなんて本人以外わかんねーよ」

「いや、雅は白箱回答者とチャットに現れる奴違うんじゃないか説はあったよ」

「そうなんだ、あまり関わりたくないと思って話題も避けてたしな・・・」

「その節が根強かったのはさ、赤箱締め切ってから白箱の公開までチャットには雅現れないんだよ、締め切ってるからさ考察はできるわけ。でも現れてチャットするのは絶対白箱出てから、例の模範解答にならなかったーって台詞」

「狙いを定めた上で1番目は陽動、と内心は二回は事件起こさなきゃいけなかったから保険って意味合いも」

 会場はかすかに笑いが漏れる。

「もうほとんど長谷さんが解説してくれたんで、どこ話せばいいのか・・・」

「小山君はいつ?」

「ああ、赤箱の検討終わってすぐ。ちょっと話がしたいんだけどっていったら2人っきりになってくれた。場所は奥の男子トイレ、タスキをつけてもらってから個室に押しこんだ」

 今思ってみれば異様にネームリストが拡散するのを防いでいたので、きっと怯えていたのかもしれない、IQと呼ばれる人物が挑戦状までたどり着けないわけはない。

「あ、高須君。今回の赤箱犯人誰?」

「犯人?うーん・・・犯人イコール犯罪者でいい?」

「ああ、やっぱりわかってるんだ」

「へ?」

「長谷さんもそういう聞き方してたから」

「あ~。うんうん、確認したくなるのはわかる。回答はいつになく長文作ったし、犯人っていう言い方はちょっとね~。ま、それでいいなら日比野洋二だね」

「なんていうか・・・本当に中学生?」

 どういう教育をされればこういった少年ができるのか疑問ではあるが、本人の資質も十分にあったに違いない。

「小山君は運んだのかな?」

 話が停滞しそうになると、タイミングよく桂木が促してくれる。

「23時までに発見されなかったからね。なんていうか奥のトイレのほうって人気ないし、次のターゲット狙うにしてもあの辺がいいと思ってたし、発見が早ければまた皆動いてくれるだろう、とか色々考えて。兄貴がぐっすり眠ってるの確認して、部屋を抜け出して人形に変ってたから運ぶの楽だった」

「部屋オートロックかかるよね?私初日に0時過ぎちゃってフロントの人に扉開けてもらったんだけど」

 広瀬が

「6時には自分のキーであけられるから、少し前に部屋を抜け出して開錠できると同時に部屋に入ったよ。フロントに頼んだら誰かがそういう人いませんか?って聞き込みにいったら終わりだし、実際初日にフロントで開けてもらった人は教えてもらえたし」

 ホテル側の人を完全に抱きこんだゲームではなかったようだ。

「加藤さんはナンパみたいな感じかな・・・他の人に見られたら、と思ってあせってたし結構雑にやったかも」

 警察やら科学検証をいっさい無視した逃げ切る感が伝わってきたのは確かに三番目の件だった。

「雑でもありだよ、あり。今後ゲーム設定クリアして逃げ切る犯人役でてくると思うよ。今回はさ~ゲーム前からなにか画策してたり、企画してたり、おつかいだったり盛り込みすぎたし、探偵役がリアルでも見事に優秀だったダケ」

 高須君のそれに一同が頷く形でゲームのトレースが終わった。それを機に包みを何個か乗せた荷台をおして関係者と思われる人が入ってくる。

「では今回の探偵は長谷さんでよろしいですか?」

 にっこりと長洲が長谷に歩み寄る。

「探偵役担っていただいた長谷さんに探偵賞を贈呈します」

 ちょっとした大きさの包みをうやうやしく受けとる。

「波多野君にはおつかい賞です」

 大きさは同じなのだか、波多野も満足げに受け取る。

「犯人役の水城君、幹事をやっていただいた桂木君。BOXネーム当ての方は確認しまして後日発送させてもらいます。中身が気になりますか?」

 それぞれにいきわたったところで長洲がそう言うと、気になりマース、と期待に答えて数名が返事をする。長洲は満足げににっこりと笑って言う。

「BOXロゴいりジャージです」

 なんとも言えない空気が会場を流れる。荷物持ってきた人が皆に見せるように背中のロゴを向けジャージをアピールする。

「作成枚数少ないですから貴重ですよ。フリーサイズなので長谷さんには少し大きいかもしれませんね」

 手渡された包みを見つめて、喜べない自分がいるのは何故だろう、と考え込んでしまう。

「良かったね、長谷さん」

「浅川君・・・・」

「僕も欲しかったな」

「後日送られてきたら、大笑いしてあげるから覚悟しておいて」

 第一回リアルBOXのゲームが終了した。


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