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BOXゲーム  作者: きょうか
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 喉元を押さえ床に落下した高須兄、幾人かの悲鳴と狼狽する周囲の人を抑えホテル従業員と高須弟がレストランから消えて行くのを見守る。

ほどなくして落ち着きを取り戻した人々が始まった、と口にし始めた頃には紅茶第二段の蒸らしが終わり、砂時計の砂が全部下に落ちていた。

「浅川君ミルクとレモンどっちがいい?」

 ティーポットからカップ二つに注ぎいれて差し出し、備え付けのポーションに入ったミルクとレモンを両手に一個づつ持って長谷が問いかけると浅川はにっこりと微笑み返す。

「すごく注目されてるけど」

「え・・・傍目から見ればイチャツクカップル?!」

 奇異な視線の火中にいるのは感じているが、そんなことはまったく気にしていないその言葉に浅川は嫌味なほどの最上級の微笑を浮かべてミルクのポーションを手にとり、シュガーポーションと一緒にかき混ぜていく。

「長谷さんは飲まないの?」

「飲むよ~」

 シュガーポーションとレモンを入れてクルクルとまわし、コクっと一口飲む。このレストランには紅茶の茶葉が6種類ほどあり、品名・地産・飲み方などが各容器に書いてある。茶葉から入れるお茶なので、シンプルな品のいいティーポットとティーカップ、蒸らし時間を計る砂時計がおいてあり、おいしい紅茶の淹れ方という案内もそえてあり至れり尽くせりだ。

「うん。美味しい」

 カップを見つめながら呟く。選んだのはミルクもレモンとも相性がよいと書かれていたケニア紅茶をチョイスした。、ストレートばかりを好んで飲んでいた長谷だがいつもと違った行動で美味しいものにあえる喜びは格別なものがある。

「おねぃさんいい性格してるよね」

 いつのまにか戻ってきた高須弟は呆れ顔で長谷と浅川を見ながら、同じテーブルの席へつく。周りの何人かの参加者は高須から話が聞きたくて間合いをはかりながらこちらを覗っているのだが、会話に参加しようという気配はない。

「あら、高須君おかえりなさい。お兄さんどうだった?」

「外でBOXって胸元と背中にロゴのはいったジャージ着た人がゲームオーバーってタスキもって待ち構えてた。一応医務室までは一緒について行かせてもらえたけどBOXジャージに戻ってくださいって言われて追いだされた」

「収穫は?」

「なし」

 もう混ぜても何の変化もないティーカップの中身をグルグルとかき混ぜる、何か違和感を感じるのだがそれが何、といえるほど長谷の中で明確にならなかった。

「皆様、この場にお引止めしておりまして申し訳ございません。私から高須英士様のご容態と現在ホテルが置かれています状況を説明させていただきます」

 普通、事件・事故が起これば警察に通報し介入するのが筋であるが、これはそういったゲームなのでどういった方法をとるのか。考えられるのは二つ、警察の介入を許さない状況におくか、警察役を置き科学的検証を小出しにしつつゲームを進めるか。

「最初に当ホテルは近隣道路の雪崩による通行止めで地域一帯が孤立状態になっております。麓からの連絡によりますと、皆様がお帰りになられるときには全面開通を予定しており、ご心配をおかけしない為ご報告をしていなかったことを謝罪申し上げます」

 外界からの侵入者の遮断をホテルスタッフは宣言し、ゲームの方向性が定まる。

「高須瑛士さまは、先ほどゲームアウトなされました。このことにより各関係機関にはホテル側から連絡を入れましたが、通行止めにてこちらに来ていただくのは通行解除されてからのこととなります」

 会場はとても静かにホテルの人の話しを聞いている。現実に置き換えるならば毒物を持った何者かが一緒の空間にいる、ということなのだ。未知の殺人犯に対する恐怖でステリックに叫ぶものがいてもおかしくはないのに、誰一人下山したいと唱えるものがいないこのギャップが滑稽であり、ゲームなのだと思わせるのに足る。

 介入設定が最終日ならば仕上げは前日の夕飯かな、グルグル回ったレモンティーを見つめてふっと一息つき長谷は飲み始める。

「当ホテルでも事態の解明をするべく担当を配置いたしました、質問等にはお答えいただきますようお願いいたします」

「桐生です」

 ごふっ、と何か嫌なところに水が入った感覚に長谷は立ち上がる。

「長谷さん?」

 吐き出したくないみっともないから、その一念でむりむり口に含んでたものを流し込むがひゅっっといやな音をたてて器官がなる。

「大丈夫だからあわてないで」

 しっかりと抱きとめられ背中を浅川がさする。むせたのが落ちついた頃には痛いほどの視線と浅川の顔が近距離すぎて、長谷は耳が熱くなる。

「お、お騒がせしました。飲み物でむせただけです続きをどうぞ・・・」

 恥ずかしくて顔が上げられない・・・ストンと椅子に座りなおし残りの飲み物をごきゅっと飲み干して、忍び笑いが漏れる中うつむき加減に視線を泳がせる。

「でわ皆様、申し訳ございませんがビュッフェ側を遮断すべく衝立を用意させていただきます。飲み物のサーバーのほうは安全を確認の上皆様がお過ごしいただけるほうへお出しいたします」

 スタッフがゾロゾロとでてきて収納扉から吊り壁を出し仕切りを始めていく。

「長谷さん行こう。欲しければお水先に貰ってくるよ?」

「ううん、大丈夫・・・なんかもう・・ソファーにめり込みたい・・・」

 足早に遠くのソファーに駆け込んで背もたれに額をゴンとつける。目をつぶると色々なことが駆け巡り思考が収集しなくてゴンゴンとソファーに頭を突きつけてなんとか頭を冷やそうとする。横目でそっと浅川をみるとにっこりと微笑まれてしまう。

「あきらめた?」

「半分くらい・・・」

 ソファーにもたれたまま雪のちらつく景色を眺める。外は案外寒そうだが窓から見る雪景色は幻想的で美しく雪を見慣れない長谷にとっては見入ってしまう白さだった。

「案外おねぃさんはうぶってやつなんだね」

 いつのまにか隣の席で高須がおやつとペットボトルを持って座っている。

「何とでも言って・・・」

「随分イメージ悪くなったけど大丈夫?」

「何で?」

 高須のいうイメージが悪くなった理由が長谷にはまったく思い当たらない。

「一に昨日のツーピース、今人気のブランド。なんとかって雑誌の表紙だったらしいじゃん。今日はフリルのシャツが可愛いけどパンツで戦闘モードだ」

「お洋服全部借り物。バイト先の先輩が嬉々として貸してくれた。髪形とお化粧の仕方の指導つき、慣れないから難儀でしょうがない。私全工程制服着てやろうと思ってたし」

 淡々と事実を述べたのに、豪快に高須は笑う。

「じゃぁ二に昨日の夜の初期PTで女の子が一人しか居なかった」

「そんなの私の知ったことじゃないし、その後は他の人とも交流したじゃない」

「桂木・岩崎コンビがいたからこそのやっかみ?」

「環をかけて知ったことじゃないし・・・」

「三に不用意な行動」

「なにそれ・・・私別に変な行動してない」

「お茶とりに行ってむせてたじゃん。危ないと思わなかったの?」

 この子は人のテーブルの上の物まで暗記していたのだろうか。確かに、高須兄が飲み物を口にして退場した後に紅茶のセットをとりに行ったのは事実ではある。

「100%思わなかった」

 白い煌くを放つ世界はその美しさとはうらはらに厳しい世界でもありそうだ。軽装でも全く困らない空調のととのった暖かい現状に魂を戻し、長谷は前へ向き直り自己嫌悪タイムを終了させる。

「一にお兄さんが飲んでいたのはアイスコーヒーであり、ホットの紅茶ではありません」

「まぁそうだよね」

「二にコールドのコーヒー・紅茶はお湯とは別サーバーです」

「その通りだね」

「三にアイスコーヒーのサーバーは中身取替えの為、7個以上コップに入った状態で置いてありました」

「見事な回答で」

「浅川くんだってわかってて飲んだんだし不用意な行動ではありません。以上弁明終わり」

「それがわかる人ばっかりじゃないってコトだよ」

「教訓としては注いである飲み物には手をださないこと、だと思うけど?」

 何となく感じる違和感の正体はきっとそこにある。長谷は倒れる前ににっこりと携帯越しに目のあった兄を思い浮かべ、弟の方をみやる。弟はなかなかの洞察力と推理力をみせているのに、兄が間抜けすぎる。

「高須君、お兄さんからなにか伝言ない?」

「なんで?」

 人間は何かを隠したい時は一点の曇りもない笑顔になるようだ。そんな笑顔を高須に見せ付けられ、まぁなるようになるかっと長谷は諦める。

「この時期は雪もすくなくてスキーはできず、かといって外は小雪がちらつく程度に寒い。閑散期・夏季にはなにするのか秘密を探りにいこう!浅川君」

「ナイト役ですか、姫君」

「騎士様が一人いらっしゃれば姫は安心ですわ」

「では姫お手をどうぞ」

 神妙な面持ちで手を差し伸べる浅川。

「姫は一人で歩けます」

 立ち上がってショールをまといなおす。

「いいの?ここほおって置いて」

「皆警戒心ガチガチで第二波があるとは思えない。もし聴取があるならお散歩にいっちゃいました~って言っておいて」

「おねぃさん楽しそうだね」

「楽しくなきゃ、来た意味がない」

 攪拌しなくては次に何も起こせない可能性がある。表立って行動すれば注意がそれ、犯人役の人が動きやすくなる。そうならなければ第一波で終わり、犯人わかりません・・・、とため息をつく。

 二階はレストランの他に中華・フレンチ・イタリアン・和食の専門店がはいるようで、外装がそれぞれの趣向で整えられている。

「姫、何をお考えですか?」

「姫は化粧を直してくる!そちもよきにはからえ~」

 専門店方面にあるトイレはひと気がなく、何かを起こすには最適そうである。入ってすぐのそこはトイレというよりはパウダールームだった。まず円状の目に付くのはソファー、中心にはテーブルが置かれ可愛らしくディスプレイがなされている。両壁にはずらっと椅子とが並んでいる。

「あははは・・・」

 乾いた笑いを漏らして長谷は一つの椅子に座る。小さいがデザイン性の高い手洗いボールにティッシュ・油とり紙・めん棒、一通りのアメニティーが並んでいる。化粧の直しはパウダーを適当にはたいて、薄い色の口紅を引く。

 外に出ると岩崎が浅川の横にちょこん、とたたずんでいた。

「どうしたの?」

「なんや・・・ちょっとな・・・」

 歯切れの悪い岩崎の言葉を補うように浅川が口を開く。

「長谷さんの騎士志望らしいよ」

「・・・まだソレ続けるの・・・?」

「続けないの?」

「長谷は姫らしくありませんから続かないで結構です。それより、男のほう入った?」

「うん」

「特に感想なし?」

「ないよ」

「じゃぁ女性仕様か・・・、誰もいないから中見てきなすごいよ~」

 なんやこれ、と中から岩崎の驚いた声が聞こえて長谷は微笑む。

「なぁ・・・なんやサロンみたくなっとったわ・・・」

 今見たものが理解できない、と言った風の岩崎だったが浅川はそれほど驚いてもいなかった。

「なんだつまんない、浅川君はそれほど驚きもしないのね」

「この前TVでこんな感じのみたよ。下にはスキーセンターもあるし休憩するにはいいんじゃない?」

 的を射た答えがすんなりと返ってきてしまった。

「女子の方に入るのは初めてだから貴重な体験といえばそうだけどね」

 ちょっとしたフォローをして浅川はしめくくる。

 3人は軽く会話をしながら一階の動けるエリアを確認し、8階の大浴場へと足をすすめる。

「1階はキープアウトが多かったね」

 乗ったエレベータの中で浅川が呟く。フロント・フロント前ロビー・エレベーターホール以外は身動きが取れない、言い換えれば人目をさけて行動をすることができない。口に出しては言わないが考えていることは3人とも同じだろう。

 犯人役が次に事件を起こすとしたらどこがよいのか。

 8階にたどり着き案内板をみると大浴場が2つ、個室が3つ、休憩室が1つ。個室と休憩室は鍵がかかっていて入ることができないが大浴場は入浴可能で戸惑いもせず3人は脱衣室へと侵入する。

「ここも綺麗やな」

 男湯と女湯が清掃時間の深夜2~3時を境に日替わりで男湯と女湯が入れ替わることもあり、双方とも多めの化粧台に備え付けのドライヤー、アメニティの数々。女性客を意識していてシンプルにしつつも統一感のある落ちつける空間にしあげてある。

エレベーターホールに設置してあるソファーに3人は座り込んで休憩をとる。休憩をとるほど疲れているわけではないのだが、レストランにもどるという具合にはならなかった。

「なんやなぁ~・・・」

 悩ましげな岩崎がだら~っとソファーに身を預ける。

「どうしたの?なんか楽しくなさそう」

「せっかくな、本名で楽しみにきてるんやからさ~いちいちBOXネーム持ち出して誹謗中傷することないんやないかな~思うてさ」

「あら、BOXネーム当てには不賛同?」

「そうやない。それはそれで面白いと思うわ・・・」

 しゅんとして言いにくそうにしている。

「随分イメージが悪くなった、か」

「だれや、そない余計なこというやつ・・・」

「親切な少年。ちなみになんてBOXネーム出して呼ばれてるのかな?」

 格段に言いにくそうにしながら呟いた名前はナナ、という名だった。誰が来ているかわからない状態で、よく言ったものだと長谷は思ったが違う考えが頭をよぎる。

「誰が言い出したかわかる?」

「長谷さんな・・・可愛いし、やっかみの対象になるっちゅーのは・・・女の子って・・・」

 続きは言わなかったが、なんとなくその後に続く言葉はわかりそうなものだ。

「女の子なの?」

「ちゃうわ、世の中は知らんでいたほうがええっちゅうこともあるし」

「思い出して!」

 肩をおして頭をシェイクさせるように揺する。ゆすっている間も岩崎は気にしだしたら負けや~などと見当違いに長谷をなだめようとする。

「ああ、なるほど」

「BOXネームリスト保持者」

 ユニゾンでの催促となった。なすがままに動かされていた岩崎がぴたっと止まり、視線が交差する。

「思い出せる?」

「んとな・・・」

「男性?」

 こくっと頷いたのを確認して、長谷はノートを取り出す。

「昨日の初期の男女混合PTにいた?」

「おらんかったな・・・」

「じゃあ、小野・桜井・時田・林・波多野・横井」

 初期PT別男性編の名前を読み上げる。

「手に入れられたらリスト横流しするから思い出して」

「っていわれてもなぁ~なんか嫌なやっちゃなぁ~としか思わんかったしな~しもうたわ~」

「イメージ変えたほうがいいかな・・・女性と親しかったような記憶は?」

「ないわ。よう男2人でつるんどる・・・ほら・・・名前がぱっとでてきーひんわ」

「桜井・波多野」

「波多野や」

 各々小さくガッツポーズを入れて、波多野の付箋にネーム持ちのマークを入れる。BOXネームリストが手元にきても、難解なゲームには変わりない。

「長谷さんはナナやあらへんなぁ・・・」

「どうだろう」

 朝食タイムで観察したとおり、桜井・波多野はペアで良いようだ。2人の付箋を部屋割りの方へと移動させる。

「長谷さんなにやっとん?」

「デスノートに書き込み」

「浅川君・・・デスノートって・・・。部屋割りをちょっとね」

「1人参加は確実にネームもってはるしなぁ~。何人のこっとるの?」

「綾瀬・今井・糸井・奥井・佐藤・広瀬。小野・時田・横井」

「長谷さん遅れてきはったしなぁ~。男で1人で来てるのは浅川君だけだと思うわ」

「難しいヒントだなぁ・・・それ・・・」

 小野の行動からして女性と来ているとは思いにくい、時田と横井の付箋をつついてみるがどちらが相方なのかまったく検討がつかない。

「桂木君どうしたの?」

「あ~・・・なんやホテル側と打ち合わせがあるみたいや」

「幹事さんは大変だね」

「まぁ~ええんちゃうか~?雑用係は好きみたいやしな」

「モテの秘訣はそこか。近隣まで名前が知れ渡ってるってどんなよ」

「それはまた別に要因はあるわ。中等部の制服な真っ白な学ランやねん」

 真っ白な学ランを着た高須弟をとりあえず思い浮かべてみることにする。生意気そうな笑顔に白い学ラン、そう悪くはなさそうだが汚れに気を使いそうだ。

「悪目立ちしそうだね」

「たしかに。それで有名なのか~」

「中等部は人数も少のうてな、白学ランの美少年は女子に目つけられるのや~」

 岩崎の決め台詞とともにエレベーターの扉が開く。

「今は美少年を越えて、美青年ね」

「ワイルドさにかけると思うんやけどな~」

 細身のストレートパンツはブラック、白のシャツはワンポイントでボタンダウンの生地がナナめったストライプで白とはまた違った印象をもたせ、手には黒のジャケットを手にしている。上から下に視線をさまよわせて、ワイルドとは言いがたいが男らしさは出ている十分だと思うけどな、と長谷は思うが口にはしなかった。

「誉められてるのかな?」

 複雑そうな顔つきで桂木がしまったエレベーターの前で立ち尽くす。その表情がなんとも男前で長谷は気後れする。

「もちろん」

 にっこり笑って立ち上がり、桂木の横をすりぬけエレベーターの下ボタンを押す。

「浅川君、交渉はお任せする。手札はあるし・・・出来れば早めに、もし乗ってこないなら次を考えるから、よろしく」

 バイバイ、と携帯を手にもった手で挨拶をして足早に退散と決め込んだ。



 昼の豪華コースランチが終わり、ほどなくして浅川が長谷の期待に答えて波多野との交渉を成立させたおやつ時、紅茶のセットを持参して指定の席へつく。ホテル側に用意してもらったのか場所的にはビュッフェと同じ所なのだが、高須兄の時に活躍した仕切りがはってあり、ちょっとした個室になっている。天井には吊りボードが移動できる溝がかなり多めに入っている。溝から見るに窓側の一面は個室になる作りになって通路としてのスペースもあり、4.5部屋は個室として区切れるようだ。元々置いてあったソファーが2セット半あり、広い空間といえるだろう。

「集まったし、始めようか」

対面の一人がけのソファーに座った男性が開始の言葉を口にする。参加者は長谷を入れて七名。だが長谷以外は全員男である。

「正面が長谷さん」

 そう、紹介されてにっこりと笑みを作る。

「時計回りに、小山君・波多野君・僕が桜井・水城君・荻野君・浅川君」

 そう自己紹介されて不適に長谷は笑みがこぼれるのがわかる。人物把握を懸命に努めていたおかげで水城兄弟の片割れは弟の方だとわかるようにまでなったからだ。

「ココに呼んだのは僕が探している人を見つけるためなんだけど」

 浅川は波多野に接触を試みたはずなのに、この場を仕切るのは桜井ということは2人とも早々にリストを共有しているのかもしれない、長谷は蒸らし終わったティーポットからゆっくりと紅茶をカップへと注ぐ。

「ナナちゃんが探してる人とは思えないけどな」

 嫌な笑みをたたえて小山が長谷をみやり、長谷は視線を受け流す。男性ばかりの集会に女性が居るのだからおかしな反応ではない。桜井は渋い顔をしながらもその問いに答える。

「長谷さんは別件の招待だから」

「ありがとう」

 口元だけで笑みをつくって優雅に長谷はお茶を口にする。お茶会にチョイスしたのはフランボワーズというフレーバーティで甘酸っぱい香と柔らかい酸味が口に広がりサッパリとした味わい。

男性を探しているのは間違えようがないのだが、どういった人物像で探しているのかがわからない上にその理由はなんなのだろうか。高須が居ないのは条件に達していないとわかるので、高校生もしくはそれ以上の年代ということなのかもしれない。

「NaGaとnoiseは探し人じゃないってこと?」

「小山君」

 桜井に牽制されていったん小山は身をすくめるが、余裕の態度で話しを進める。

「だって誰にだってわかるでしょ。ナナにだって関西弁の明るい男がnoiseで幹事さんがNaGaだってわかってるでしょ?チャットで正論で叩き潰されてた彼らだよ」

 そんな経緯しりません、とは思うのだが周りの反応をうかがうに間違ってはいないようにも思える。

「知らなかった。教えてくれてありがとう、でも私そういう話をするのだったら別の席へ行きたいのだけど」

「さっすがナナちゃん」

 口元を押さえてにたにたと笑いを押し殺しているのが、不愉快でいっそどうでもよくなってくる。

「そういえば無双とか焔・ガガリなんかもやりこめられていたよね」

 波多野がそう口ぞえすると、あいつらその場のノリってのを知らないよな、と反撃したのだがおとなしくはなった。

二杯目の紅茶をティーポットから注ぐと、今度は口をつけずににっこりと桜井に微笑み話しを促す。

「進めようか、最新の赤箱の推理合戦をしようかと思って皆を呼んだんだ」

「それをもとにを人探そうとしてるということは、名の通った人なんだね」

 水城弟の反応には曖昧に答える桜井だが、BOXネームリスト持ってます、と宣言したようなものだ。博士から宿題でもでたのだろうリアルBOXゲームの最中にBOXネーム当てをしようとした人にリストを渡すように、とでも。

「まぁ察しの通り、BOXネームリスト保持者なわけだけど。ここに集まってくれた全員にリストを渡すけれど、交換条件として人にリストを渡さないと約束してもらいたい」

「そんなに簡単に全員に渡しちゃっていいわけ?つまんないよそれじゃ」

「うん、まぁ小山君の言うとおりなんだけど赤箱の模範解答がここで出るとも限らないし一応誰に渡してもかまわないと博士から言われているしね」

「そう」

 小山はチラチラと周りを伺ってふーっと大げさにため息をついてみせる。

「でもやっぱりなんの対価もなく情報を手に入れるのは面白くないよ。僕達が思う正解に近かった人くらいでどうかな?」

「うーん、まぁ他に異論がなければ・・・」

 そんな曖昧な設定をしてリストをもらえる人が居るのだろうか、別件でのリスト確保をしているので長谷は異論を唱えることはしない。

「それじゃあ、僕の流儀で犯人、推理で。僕から時計回りで犯人でまわして、推理は犯人の分かれ方を聞いててからと言うことでいいかな?」

 静かに長谷は手をあげる。頷いて桜井が促す。

「犯人、とは罪を犯した人・犯罪人。という解釈でいいのかしら・・・?」

「ナナちゃんわざわざ辞書を引かなくてもいいんだよ?」

 長谷がとても嫌な顔をしたのを読み取って、桜井がどうしようという顔をしていたが、強引に話しを進めるしかないと思ったのか無視した形で進行する。

「では僕から。七瀬杏奈」

「日比野洋二」

「七瀬杏奈」

「日比野洋二」

「日比野洋二」

「七瀬杏奈」

「七瀬杏奈」

 見事な二択ではある。

「ナナちゃんこんな簡単な二択でそれはないよね?」

「そのナナと呼ぶのが私をさしているのだとしたら、そのままそっくり同じ言葉をお返しします。あいきゅー・・・じゃなくて、小山さん」

 足を組んで小山をじっくりと見据える。

「お前さ、七人のうち四人が違う答えなんだぜ?その余裕どこから出て来るんだよ」

「あら?これって多数決の問題だったのかしら?違うわよね?」

 全員の顔を見渡し、目を伏せる。まず必要なのは認識の共有、頭の中に図面を思い描いて、口を開こうとしたその瞬間。

「まずは話しの道筋、別荘へ招かれた人数及びその動機、首謀者を明確にしよう」

 だからコイツ好きじゃない、とクラスメイト荻野を見ることなく侮蔑の念を送る。とりあえず鞄からかさこそとおやつを出してみる。

「長谷さん・・・」

 浅川がしょうがない子だな、と言いたげだ。かまわずにクッキーをお皿にカラコロと乗せると音がやけに響く。

「気にしないで進めちゃって」

 ホテル従業員オススメチョコナッツクッキーをもぐもぐと口にする。オススメされただけあってさしっとりとしたチョコ生地にナッツの感触がとても楽しい。

「物語の筋は、息子の死に疑問を感じた母親が、死んだ場所、予備校にその日に残っていた人物五人を手紙で呼び出し、その中の犯人を探そうとする」

 荻野がそう確認すると、自分の出番をとられまいとかぶせるように小山が続ける。

「出てくる登場人物は5人。男性が日比野、西宮。女性が七瀬・滝川・牧原」

「西宮は毒殺、滝川は撲殺、牧原は首を吊られ死亡。最終的に2人、日比野と七瀬しかのこらないこの問題は二択。日比野か七瀬ってことになる」

 お昼のコースランチ結構ボリュームあったのにおやつは別腹なんだな、紅茶を口元にやって、会話が止まっていることに気づく。

「5人を招待した人って何が目的だったんだろうね?」

 紅茶おいしすぎて飲みすぎるかも・・・、ほわっと自然に顔が綻ぶ。その笑顔が神経にさわったのか、小山が声を荒げる。

「息子を殺した犯人を付きとめるのが目的だろ」

 その矛盾に気づいたのは波多野と桜井だった。

「桜井さん、どうぞ」

「息子を殺した犯人を付きとめるのが目的だとしたら3人を殺してしまって、もしその中に本当の犯人が居たら全員を殺す。つまり5人を殺さなくてはいけない。呼んだ主は、自白を求めていながら、矛盾している」

 各々そうなるとどう展開していくのか考え始めているようだが、やはりここでも小山が長谷をキツクにらみ反撃する。

「狂ってるんだよ、第一手紙事態が狂喜のさただっただろう」

「狂喜に狂っている人間がわざわざ疑わしい人物を集めて一緒に殺すか、って所だね」

 波多野が正しく促す。しかし、難しい顔を崩さず続けて話す。

「読んでみると主体で動いている七瀬は何かを隠していると言うことが分かる。常に何かおびえた感情で肝心のところはなにかオブラードに包んだようなものの言い方。行動から言うと人が死んだ中で七瀬を口説いている日比野も十分怪しいがそれを利用していると考えられる。被害者が出ているわけだけれど、トリックに付いてはそう言ったものを推理する仕立てになっていない。やはり答えは変らないよ」

 きょとん、と長谷は目を丸くしてしまう。きちんとショート小説を理解しているのにナゼ答えが違ってしまうんだろう。

「ねぇ、ナナちゃん。他の箇所に気をとられすぎてさ、間違った答えだしちゃったね」

 今度の小山の言葉には引きずられて苦笑する面々が伺える。そして、おやつタイムだともいいたげにバリバリっと袋を開ける音が響く。

「ねぇ、浅川君・・・」

「うん・・・」

「今回挑戦状までの総ページ数40枚・・・しっかりと読み込めてるのにこの違和感ってなに・・・?」

「僕にもわからないや・・・」

 カツンと音をたててカップをソーサーに戻し、視線をあげると浅川以外の全員がこちらを凝視していた。

「挑戦状あっ・・た・・?」

 桜井がひきつった面持ちで長谷に問う。

「いつもの赤い封筒。クリックでいつもの文面」

「俺・・・送信画面に飛ばされた。リアルBOX発表と同時にHPもリニューアルしてなくなったのかと思ってた」

「ログインしないとBOX観覧できないよね、面倒だなとは思ったけど他の変りはなかったけど?」

 リニューアルする前は赤箱を読んで、挑戦状が出てきて送信するときに自分のメールアドレスとBOXネームを打ち込むだけだった。リニューアル後はBOXとついたものを見ようとするにはまずログインしないといけない。

「長谷さんもしかして二度読みとかしない人?」

「そんなこと出来るの?」

 浅川がソファーの背もたれにぽすっと身を預けなおして、長谷を見て笑う。

「昔は出来たよ。でも今回のはページバックはできないし、時間でページめくれるしなんか嫌な予感がして自分でページめくってたんだけど正解だったかな。僕もいつもの挑戦状は見てるよ」

 ページってめくるものじゃなかったんだ・・・、と言葉を飲み込んでさっさと仕上げに入ることにする。

「浅川君、気になった点は」

「まず、手紙には子供とあるだけで息子だか娘だか分からない」

「それは別荘に残っていた子供の部屋を調べたからわかったんだろ?」

 小山の表情からは余裕が消え、うなるように声がでている。

「ミスリード。最後にひっくり返すための仕掛けだと思ってるけれど」

「やっぱり出した答えは一緒か」

「日比野以外の狂言。七瀬の一人称で肝心の部分が抜けているのはそのせい、この物語には遺体の描写がなさすぎる。誰一人登場人物は死んではいない」

 しーんと静まってしまっている。

「犯人、とは罪を犯した人・犯罪人。手紙を送った人の子供を死に至らしめた人。日比野洋二と私は考えます」

 唖然とした表情の人の中、最後の一口とばかりにゆったりした動作で紅茶を飲み干す。ここでの収穫はBOXネームリストと桂木・岩崎のBOXネーム、ここに居る人たちはBOXネームを持っている、といったところか。

「あ・・・」

「長谷さんまだなにかある・・?」

 桜井が注視してました、とばかりにその反応に気づいて問う。

「BOXネームリストって何月に作ったものなのかな・・・?」

「リアルBOX公示前と博士から聞いてる」

「そっか。荻野」

 すっかり無視を決め込んでいたクラスメートを呼びつけると、ふーっと深いため息をついて荻野は答える。

「僕のBOXネームはそのリストにはないよ」

「ヒントをありがとう」

「知り合いなんだっけ?その割には話ししてないみたいだけど」

 初日の最初に一緒のPTに居た水城が不思議そうにしている面々に一言大目に説明をしてくれる。

「ほら、女の子と一緒にきてるから話しかけるのもなんだし」

「まぁそうだろうね。なんか知り合い、とか近所の学校とか多いよね」

「水城君も聞いてみたら近所の人いるかも?」

「でも、どこに住んでるんですか?って聞くのもなんだよね」

 そうかも、とにっこり笑って微笑んでから桜井に向き直る。

「この場合、リストは誰に渡るのかしら?」

「僕は・・・長谷さんと浅川君でいいと思うけど・・・」

 そういって桜井は周りを見渡して反応を覗う。全員押し黙っている中で、何度目かのにっこり笑いを作り出す。

「ありがたくいただいて帰ります」

 折りたたまれたリストを鞄の中にしまいこみ、視線を波多野へと向ける。

「波多野君ちょっとだけいいかな?」

 紅茶セットののったプレートを手に立ち上がり、別の場所へと促し座り込む。

「お見事でした」

「どういたしまして。で、浅川君が交渉した件なんだけど」

「ああ、どうしよう?もう必要ないよね」

「情報提供者への横流しを理由にお見せしてもいいのだけれど」

「それでお願いします。でもまさか録画してる人が居ようとは・・・突然のこと過ぎて呆然としてたよ皆」

「丁度ね携帯だしてたからつい」

「つい、で出来ることでもないと思うけどね」

「私と浅川君の声が大きく入ってると思うけど、気にしないでもらえるとありがたいわ」

「了解」

 そして今朝の浅川兄が倒れた直後からの動画が再生された。




 リアルBOX、本当の敵は食事かもしれない・・・。夕食に用意された豪華な重箱弁当をヒッソリとソファーでつつきながら完食しおえると、死力を尽くして戦いました感が漂ってしまう。

 戦利品である二枚のBOXネームリストは1枚を岩崎へと渡し、残る1枚を見つめる。21名のBOXネーム。

『ENZO・ICHI・IQ・NaGa・noise・SAWA・おく・さくら・さと・はるか・クロノス・ナナ・ホーク・ミズキ・鍵屋・清緒・瀬香・久夏・久弥・雅・無双』

これまた頭痛がするほどの難題だ。

「姫、食後に紅茶でもいかがですか?」

「ええ、お願いするわ。ってねぇ・・・・」

 2人分のカップをトレイに乗せた浅川が対面の席へとつく。

「紅茶の種類なんてわからなかったから適当だけど」

「うん。大丈夫」

「一人でこんな隅っこに物凄く話題に上がってたよ」

「まだもう少し情報は欲しいところだけど・・・整理しないとどこに的絞って良いかわかんなくて」

 リストの紙の端っこを持ちぷらんぷらん、と振る。

「ネーム保持者21名・・・。参加者が17組29名・・・」

「4組がネーム保持者同士。5人が単身できてるわけだね」

 砂時計の砂が落ち終わったところで、浅川はカップに注ぎいれ長谷の前にカップを置く。

「2人は秘密のお話?」

「高須君」

 チラッと手の中のものを見やり、にこーっと高須は笑う。

「手に入れたんだ。サスガ」

 子供の表情の面持ちでしっかりとソファーに座り込み、話しに加わる気満々のようだ。

「大丈夫。僕もそのリスト持ってるから」

 ポケットから四つ織の同じ用紙が出てくる。

「まぁ、一番目立つのが岩崎・桂木のペアだよね」

「そう、だね」

「やっぱり皆わかるものなんだね・・・」

 まったくわからなかったんですが、と思うがそれは長谷個人がチャットでその2人に遭遇できなかっただけだ。

「だってさーネームリスト入手してこの名前見ちゃったら、NaGaとnoiseしかありえないじゃん。仕切りやサンのNaGaとちょっと関西なまりで打つnoise 。2人は友人だって周知だったしね」

「まぁそこは・・・乗っかっておこうかな・・・」

 ネームリストの横に名前を2人分書き込む。

「っていうかさ、2人はなんで一緒に来なかったわけ?」

「ああ、やっぱりバレてた」

 ぼそっと言った一言にだろうね・・・とでも言いたげに浅川は頷く。

「多分他の人は気づいてないだろうけどね。浅川のおにーさんがナナの毒牙にかかった!ってさ。そもそもそこが間違いの元だしさ。まぁやっぱこんなもんなのかなー」

「とりあえず小細工は成功のようね、浅川君」

「だね」

「ってかなんでなのさ。その仲の良さは付き合ってるとしか思えないよ」

 ないない、と2人で大否定する。

「長谷さんは彼氏がいるからね」

 よけいな一言まで浅川が付け加えてくれる。

「だから別部屋なのか・・・。ああ、ネーム当ての発案者か」

 何がどうなってそういう発想が導き出されるのか皆無だが当たっている事実に驚愕を隠し切れない。

「浅川君・・・この子怖いわ・・・」

「白箱常連だろうね・・・」

「まぁお互いのネームはこの辺で詮索なしの方向で。ってかよくやるよこんなの・・・」

「ね・・・。考えたはいいけど恐ろしく難解・・・」

「予定通りリストは手にしたけど危惧してたとおり向こうもなんか仕掛けてきてるし、博士に頼んだのが一番の原因かな・・・」

「博士ってBOX関係者じゃん。言動が一致しないことあるし、中身何人かで交代でやってるよ」

 呆れた顔つきで見ていると、高須がにっこりと笑い返してくれる。

「これもチャットじゃ有名な話だよ。長谷のおねーさんはチャットには参加してないようだね」

「あー・・・。うん。参加決まってからは入るようにしたんだけどね・・・」

 なぜか皆様蜘蛛の子散らすように逃げて行かれるんですよ、と言うのは何か言うのがはばかられて長谷は沈黙してしまう。

「そうなんだ」

 この少年に何を気取られたんだろうか・・・。沈黙していても喋っていてもなにか吸い取られるように納得している。

「まぁ偽者が横行するのは良くあったことだしね。有名どころはひととおり被害にあってるよ。今はIDのっとられなければ安全・安心」

「んーまぁ・・・19人絞り込もうか・・・。狙う線としてはペアできてる組中どのペアがネーム保持者か、ってとこ?」

「シングルは確定だしね~。敬称略でいいよね?浅川・綾瀬・今井・高橋・長谷は当確」

「高須君が長谷さんにヒント出してる」

「え・・・まだシングル参加絞り込んでなかったの?おねーさん遅すぎ」

「遅刻のハンデが・・・少し痛い・・・」

「あ~、じゃぁペアもわかんないとこあるんじゃないの?知恵出し合う以前の問題なんだけど」

 嫌そうな顔で高須に見られる。

「まぁ・・・いいや。おねーさんのBOXネームわかった気がするし。どこまでわかってるのさ?」

 浅川いわくデスノートを高須に差し出すと、ペアの判別ができずに表紙の裏に張ってあった付箋が綺麗にシングルとペアに別れる。

「貸しだからね」

「いつ返せるかわからない借りは作りたくないんだけど・・・」

「もうやっちゃったんだから貸し」

「じゃ・・・じゃぁ荻野はネームなしってことで・・・」

「薄いなぁ・・・」

 情報の密度が薄いと催促されて視線をさまよわせて考え込んではっと携帯を取り出す。

「お兄さんが映ってる動画消去する」

 高須は噴出してから大笑いを始める。

「それ兄貴に貸し1じゃん、うける・・・俺の携帯に移動させてから消去ね~」

 数分大いに笑ってから目に貯めた涙をふき取って姿勢を立て直し携帯をとりだして、データを移動させる。

「おねーさんやっぱりヤルネ・・・。方向性が間違ってる気がしないでもないけど。俺にとっては最高だよ」

 何やら兄弟間の確執がありそうな発言ののちに1枚の紙を差し出す。

「考えられるのは単純性・知識・アナグラムってとこだと思うよ。僕はここで満足しちゃったから降りるよバイバイ」

 少年は携帯の画像をニヤニヤしながらみつつ、ゲームメンバーの中に再び入ることもせず軽い足取りでレストランを出て行ったのだった。

「浅川君・・兄弟ってあんなもんなの・・・?」

「出来のいい兄だと確執があったりするのもわからないでもないかな・・・」

「弟で飛びぬけてるのに、あれ以上なの・・・」

「世の中には見てみぬふりしたほうがいいってこともあるんじゃないかな・・・」

 なかったことにしよう、的な空気で長谷と浅川は落ちつき残していった1枚の紙を広げる。

「うわ・・・。参加者リスト・フルネーム・・・」

「桂木君から奪い取ったのか・・・」

「あ~でもわからないでもないかなぁ・・・奪い取る方法」

「その心は?」

「岩崎君は女の子だ」

「え・・・」

 瞬きを忘れる勢いで浅川は驚く。

「多分、だけど」

「さっき一緒に明日、朝風呂しに大浴場に行こうって話ししてたよ・・・」

「理由をつけて居なくなるか、こないか・・・しれ~っと女湯にいくとか男だったら問題ないし、結果教えてね?」

「了解。まぁそれは置いておいて。高須君の置き土産でかなり楽になったとはいえ・・・」

「興味のなさそうな人は省くしかないよね・・・。水城兄、といいたいところだけど後で情報の共有って線もありえなくはないし・・・。見る限り・・おかしいのは奥井さん・横井君、ペアなのに一緒にいない、よそよそしい感じかな・・・」

「周りをいっさい無視していちゃついてる藤崎さん・林君ペアもどことなくおかしい・・・」

「小野君・時田君ペアは単身行動してるし・・・」

 ドリンクサーバーが置いてあるほうでは、まだまだ参加者がグループに分かれ食後のお茶を楽しんでいる。

「食事とってた人少なくない?」

「ああ、部屋に持っていってもいいって言ってたからね」

「そうなんだ、まぁナイスアシスト運営。この状態で誰か居なくなってなければ、猟奇殺人誰でも良かったです終了してしまう・・・」

 全員とはいえないレストランの人数に期待する反面、あまりにも荒っぽい第一の事件を思うと無理かもしれないと思うのだ。

「長谷さんは桂木君が苦手なの?」

 唐突な質問にドキン、と心臓が跳ね返る。

「何でそう思うのかな?」

 至って普通の声を出し返答に成功して、長谷はごくごく普通に飲み物を手に乗せて会話の成り行きを待つ。

「ほらエレベーターのとこでよけて帰ったでしょ?岩崎君が女の子に避けられるの初なんじゃ?とか言ってからかってたんだよね。嫌いな場合は露骨に顔に出すし、速攻逃げるのが長谷さんだけど。なんだろうな・・・、話題に出てもイヤな顔はしないし、複数人で話す時は全然問題ない」

 長谷観察日記を披露する浅川。結構細かく見られているものなんだな、と感心する。

「やや女の子には甘くはあるけど公平でいて好青年。男女共にモテを発揮する桂木君を巧妙な間合いで避けてる感じがするんだよね」

 一通り喋ってから絶妙な間合いで、なんで?と付け加える浅川。それ以上追求の言葉は無いのだが、なぜか答えを要求しているしている空気になる。うーん、と考えてみる長谷だがとりあえず素直に返答してみることにする。

「なんでだろうね?」

 その言葉にぴくっと頬を引きつらせる浅川。あまり見たことの無い表情だったので驚きつつも、やはり思ったことを長谷は素直に言葉にしてみる。

「カッコイイのはわかる。うん。行動は嫌味がないうえに洗練されているというか、周りの人が寄っていくのも納得できる。嫌いではないよ?むしろ好印象、だけど近寄りたくない」

 その言葉に唖然とした感はあったのだが浅川はそれ以上の追及をすることは無かった。


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