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15/16

後日譚.青

 赤と黄の。


 結婚式が。


 終わった。


     ◇


「疲れたあ……」


 黄が。


 テーブルへ。


 突っ伏した。


「花嫁が一番最初に言う台詞じゃないだろ」


 赤が笑う。


「だって疲れたんだもん」


「ドレス似合ってたよ」


 青が言う。


「ほんと?」


「うん。悔しいけど」


「何で悔しいの」


「黄のくせに綺麗だった」


「喧嘩売ってる?」


「褒めてる」


「下手すぎるでしょ」


 白が。


 隣で笑っている。


 結婚式が終わったあと。


 四人だけで。


 小さな。


 お疲れ様会をしていた。


 高校を卒業してから。


 何年も経った。


 赤と黄は。


 夫婦になった。


 白は。


 消防士。


 青は。


 都会で働いている。


 それぞれ。


 違う生活。


 違う場所。


 それでも。


 四人集まれば。


 ほとんど。


 昔と変わらない。


「しかし」


 青が。


 赤と黄を。


 交互に見る。


「本当に結婚したんだねえ」


「何だよ」


「いや」


 少し。


 笑う。


「高校の頃さ」


「うん」


「この二人が結婚するって言われても、絶対信じなかったと思う」


「俺も」


 白。


「白は黙って」


 黄。


「何で!?」


「そもそも私たちが仲良くなった原因の半分、あんただから」


「俺?」


「お前」


 赤も頷く。


「何したっけ」


「色々」


「覚えてない」


「でしょうね」


 黄が。


 ため息。


 青が吹き出す。


「あと私もでしょ?」


「分かってるじゃん」


「都会まで三人で勝手に来たやつ?」


「あれは白が言い出した」


「赤と黄も来たじゃん!」


「行って正解だっただろ」


「それは……まあ」


 青は。


 少しだけ。


 言葉を濁す。


「助かったけど」


「ならいいじゃん」


「白はそういうとこだぞ」


「何が?」


「分かってないところ」


 赤。


 黄。


 青。


 三人。


 同時に。


 ため息をついた。


「ひどくない?」


 白が言う。


 三人が。


 笑った。


     ◇


 酒も。


 少し。


 進んだ頃。


 白が。


 何でもないことのように。


「あ」


 と言った。


「何」


 黄。


「そういえば」


「うん」


「俺も近いうち、入籍することになった」


「……」


 三人が。


 止まった。


「は?」


 最初に。


 青。


「お前」


 赤。


「今言う!?」


 黄。


「え?」


 白だけが。


 きょとんとしている。


「いや、今日みんな揃ってるし」


「今日誰の結婚式だったと思ってんの!?」


「赤と黄」


「分かってるじゃん!」


「だから終わってから言ったんだけど」


「そういう問題じゃない!」


 黄が。


 白の肩を叩く。


 赤は。


 腹を抱えて笑っていた。


「白らしいわ」


「何が」


「発表の仕方」


「普通に言っただけじゃん」


 青も。


 笑った。


「で?」


「何?」


「いつ?」


「まだ日にちは決めてないけど。近いうち」


「そっか」


 青は。


 グラスを持ち上げた。


「おめでとう」


 自然に。


 言えた。


 嘘ではない。


 本当に。


 嬉しかった。


「あの人なら安心だわ」


「何が?」


「白が多少無茶しても止めてくれるでしょ」


「俺、そんな無茶しないよ」


 赤と黄が。


 同時に。


「する」


「する」


「なんで即答なの」


 青が。


 笑う。


「全員同じ意見なんだよ」


「本人だけ分かってない」


「最近はちゃんと気をつけてるって」


「誰のおかげ?」


 黄。


「……彼女です」


「よろしい」


「黄と同じこと言うんだよなあ」


「そりゃ気が合うわ」


 楽しかった。


 本当に。


 いつも通り。


 よく笑った。


     ◇


 翌日。


 青は。


 一人で。


 都会へ戻った。


 新幹線の窓。


 流れていく景色。


 昨日まで。


 ずっと。


 誰かが隣にいた。


 今日は。


 一人。


 イヤホンをして。


 音楽を流す。


 でも。


 何となく。


 頭へ入ってこない。


「……」


 鞄へ。


 手を伸ばす。


 小さな。


 青い龍。


 高校卒業の日。


 四人で買った。


 龍の守り。


 今も。


 持っている。


 指先で。


 触れる。


「赤と黄、結婚したんだなあ」


 小さく。


 呟いた。


 嬉しかった。


 黄は。


 綺麗だった。


 赤は。


 今まで見たことがないくらい。


 幸せそうだった。


「……白も」


 結婚する。


 もう一度。


 言葉にしてみる。


「白、結婚するんだ」


 胸の奥が。


 ほんの少し。


 痛んだ。


「……」


 青は。


 窓を見る。


「何これ」


 嫌ではない。


 結婚してほしくないわけでもない。


 相手の女性も。


 知っている。


 白には。


 よく似合う人だと思う。


 本当に。


 幸せになってほしい。


 なのに。


 少し。


 痛い。


 中学生。


 思い出した。


 黒いものが。


 見える。


 そんな。


 意味の分からない話をされた。


 怖かった。


 避けた。


 でも。


 白は。


 自分が嫌われたことより。


 事故に遭わなかったことを。


 喜んだ。


 高校。


 また。


 普通に。


 話すようになった。


 四人で。


 勉強した。


 笑った。


 町が。


 黒く覆われた夜。


 全員で。


 走った。


 卒業。


 青い龍。


 都会へ出た。


 疲れて。


 誰にも。


 言わなかったのに。


 ある週末。


 インターホンが鳴って。


 扉を開けたら。


 三人とも。


 いた。


『おはよ』


『来たぞ』


『入れて』


「……最低だったな、あれ」


 思い出して。


 少し。


 笑う。


 それから。


 笑みが。


 消えた。


「……私」


 ずっと。


 終わったと。


 思っていた。


 中学生の。


 初恋。


 一度。


 失敗して。


 友達になった。


 だから。


 終わったものだと。


 思っていた。


 でも。


 たぶん。


 完全には。


 なくなっていなかった。


「……まだ」


 言葉を。


 探す。


「好きだったのかな」


 現在形なのか。


 過去形なのか。


 自分でも。


 分からない。


 ただ。


 確かに。


 そこに。


 あった。


 だから。


 少しだけ。


 痛かった。


「今さらだなあ」


 青は。


 青い龍を。


 握った。


 白へ。


 言うつもりは。


 なかった。


 言って。


 どうしたいわけでもない。


 白は。


 幸せになる。


 それで。


 いい。


 自分も。


 昨日。


 心から。


 祝った。


 それも。


 本当。


「……そっか」


 青は。


 少し。


 笑った。


「私、ちゃんと好きだったんだ」


 それだけ。


 分かれば。


 十分だった。


 青い龍を。


 鞄へ戻す。


 窓の向こう。


 地元が。


 少しずつ。


 遠くなる。


 初恋も。


 静かに。


 そこへ。


 置いていった。


     ◇


 それから。


 しばらく経った。


 都会での生活は。


 変わらない。


 仕事。


 残業。


 休日。


 友人。


 たまに。


 地元へ帰る。


 四人で。


 連絡を取る。


 白の入籍。


 写真が。


 グループへ送られてきた。


『おめでとう!』


 青も。


 普通に。


 返信した。


 今度は。


 胸が。


 ほとんど。


 痛まなかった。


「よし」


 自分でも。


 少し。


 嬉しかった。


     ◇


 彼と。


 知り合ったのは。


 その頃だった。


 同じ会社。


 部署は。


 少し違う。


 仕事上。


 時々。


 顔を合わせる。


 最初は。


 それだけ。


「最近さ」


 ある昼休み。


 彼が。


 妙に。


 疲れた顔をしていた。


「何?」


「なんか、ついてない」


「仕事?」


「それもある」


 スマートフォンを。


 机へ置く。


「先週、家の給湯器壊れた」


「それは災難」


「次の日、自転車パンク」


「うん」


「昨日、親父が階段から落ちた」


「大丈夫だったの?」


「軽い打撲」


「ならよかった」


「で、今朝スマホ落として画面割れた」


「……」


 青は。


 彼を見る。


「何」


「いや」


 少し。


 考える。


 昔なら。


『気をつけなよ』


 それだけだったかもしれない。


 でも。


 青は。


 一つ。


 知っている。


「厄除けでも行ってきたら?」


「厄除け?」


「うん」


「青、そういうの信じるタイプ?」


「……」


 青が。


 少し。


 遠い目をした。


「色々あるのよ」


「何それ」


「説明すると長い」


「気になるんだけど」


「地元にさ」


 スマートフォンを。


 取り出す。


「龍神様の神社があるの」


「龍神様?」


「昔から厄除けで有名」


「へえ」


「今度、近く行くことあったら寄ってみたら?」


「遠い?」


「ここからなら、ちょっと」


「じゃあ休みの日かな」


「別に、本当に行かなくてもいいけど」


「勧めたのそっちじゃん」


「まあね」


 そこで。


 話は。


 終わった。


     ◇


 一週間ほど。


 経った。


「行ってきたよ」


「どこに?」


「神社」


「……神社?」


「龍神様の」


「え!?」


 青が。


 思わず。


 声を上げた。


「本当に行ったの?」


「勧めたのお前だろ」


「いや、そうだけど」


「結構遠かった」


「でしょうね」


「でも、いいところだった」


 彼が。


 笑う。


「観光地っぽくなくて」


「うん」


「地元の人が普通に来てる感じ」


「うん」


「子どももいたし」


「昔からそんな感じ」


「お守りも買った」


「そこまで!?」


「厄除け勧めたのお前じゃん」


 青は。


 笑った。


「そうだった」


「でさ」


「何?」


「なんか、いいな」


「何が?」


「あの神社」


 彼が。


 少し。


 考える。


「大事にされてる感じがした」


「……」


 青は。


 少しだけ。


 嬉しくなった。


「でしょ?」


「何で青が得意げなんだよ」


「地元だから」


「なるほど」


 それから。


 彼も。


 時々。


 その神社の話をするようになった。


     ◇


 不思議なことに。


 彼の不運が。


 全部消えた。


 ということは。


 なかった。


 電車は。


 遅れる。


 仕事では。


 失敗もする。


 傘も。


 忘れる。


「普通じゃん」


 青が言う。


「普通だな」


「厄除けって、宝くじ当てるものじゃないから」


「それ、神社の人にも言われた」


「神主さん?」


「うん」


「何聞いたのよ」


「宝くじ当たりますかって」


「聞いたの!?」


「冗談で」


「何て?」


「自分で働けって」


 青が。


 吹き出した。


「言いそう!」


 彼も。


 笑った。


 そんな。


 どうでもいい会話が。


 少しずつ。


 増えた。


     ◇


 彼は。


 人の話を。


 よく聞く人だった。


 青が。


 愚痴を言えば。


 途中で。


 勝手に結論を出さない。


「それ大変だったな」


 と。


 まず。


 聞く。


 困っている人がいれば。


 無理のない範囲で。


 手を貸す。


 職場で。


 新人が。


 一人。


 残っていれば。


「手伝おうか」


 と。


 自然に声をかける。


 それを。


 誰かへ。


 誇ることもない。


 ある日。


 青が。


 遅くまで。


 残っていた。


「まだ帰らないの?」


「これ終わったら」


「それ今日じゃないとダメ?」


「明日でもいいけど」


「じゃあ帰れば?」


「でも、ちょっとだけ――」


「明日やればいいじゃん」


「……」


「何?」


 青は。


 彼を見る。


 少し。


 昔を。


 思い出した。


「別に」


「変な顔」


「うるさい」


「飯食って帰る?」


「おごり?」


「何で」


「誘ったから」


「じゃあ割り勘」


「ケチ」


「理不尽」


 二人で。


 会社を出た。


     ◇


 付き合い始めたのは。


 もっと。


 後だった。


 大げさな。


 出来事は。


 なかった。


 仕事帰りに。


 食事をする。


 休日に。


 出かける。


 連絡が。


 増える。


 会わない日も。


 何かしら。


 話す。


 気づけば。


 近くにいるのが。


 当たり前になっていた。


 青自身。


 少し。


 怖かった。


 また。


 誰かを。


 好きになることが。


 ではなく。


 過去と。


 比べてしまうことが。


 でも。


 実際には。


 そんなことは。


 ほとんど。


 なかった。


 彼は。


 白とは。


 違う。


 妙なものなど。


 見えない。


 無茶をして。


 危険へ飛び込むわけでもない。


 消防士でもない。


 龍神と。


 話せるわけでもない。


 普通の人。


 でも。


 少しだけ。


 似ていた。


 困っている人を。


 見つける。


 人の話を。


 聞く。


 自分ができる範囲なら。


 自然に。


 手を差し出す。


 そして。


 それを。


 特別なことだとは。


 思っていない。


     ◇


「ねえ」


 ある日。


 地元へ帰ったとき。


 青は。


 黄と。


 二人で。


 食事をしていた。


「何?」


「写真見せて」


「何の」


「彼氏」


「何で」


「いいじゃん」


「嫌」


「見せてよ」


「赤に見せてもらえば」


「赤は見たの!?」


「グループの流れで」


「私まだ見てないんだけど」


「じゃあ見せない」


「性格悪!」


 結局。


 見せた。


 黄が。


 写真を見る。


「……」


「何」


「いや」


「何よ」


「青」


「うん」


「やっぱりあんた、こういう人好きなんだね」


「は?」


 青の。


 眉が。


 動いた。


「どういう意味?」


「いや、顔じゃないよ」


「白に似てるって言いたいんでしょ!」


「私まだ白って言ってないんだけど」


「言う気だったでしょ!」


「まあ」


「似てない!」


「だから顔じゃないって」


「性格も違う!」


「うん。違うね」


「じゃあ何!」


 黄が。


 笑う。


「周りよく見てて」


「……」


「困ってる人放っとけなくて」


「……」


「でもそれを大したことだと思ってない人」


 青が。


 黙った。


「……」


「違う?」


「……うるさい」


「当たってるじゃん」


「うるさい!」


 黄が。


 楽しそうに。


 笑った。


     ◇


 その夜。


 青は。


 一人で。


 考えた。


 白と。


 彼。


 似ている。


 そう言われれば。


 少し。


 似ている。


 でも。


 白だから。


 似た人を。


 選んだ。


 そうではない。


「……ああ」


 やっと。


 分かった。


「私」


 青い龍を。


 手に取る。


「こういう人が、好きだったんだ」


 最初に。


 それを。


 教えてくれた人が。


 白だった。


 ただ。


 それだけ。


 白への初恋は。


 失敗では。


 なかった。


 叶わなかった。


 でも。


 自分が。


 どんな人へ。


 心を惹かれるのか。


 教えてくれた。


 大切な。


 最初の恋だった。


「……ありがと」


 誰へ。


 言ったのか。


 自分でも。


 よく分からなかった。


     ◇


 さらに。


 年月が。


 経った。


「本当にここでいいの?」


「何が?」


「報告」


 青の隣で。


 彼が。


 鳥居を。


 見上げていた。


「いいの」


 青が言う。


「私にとって、大事な場所だから」


 二人が。


 来たのは。


 地元の。


 龍神社。


 彼が。


 青に勧められて。


 一人で。


 参ったことのある場所。


「最初ここ教えてもらったとき」


「うん」


「まさか青と一緒に来るようになるとは思わなかった」


「私も」


「そもそも、あのとき俺がついてないって愚痴らなかったら」


「来てないね」


「じゃああのスマホ割れたのも、案外悪くなかったな」


「それ龍神様に言ったら怒られそう」


「何で」


「厄をありがたがるなって」


「言われたの?」


「……多分言う」


「何それ」


 二人で。


 笑った。


 拝殿へ。


 進む。


 賽銭。


 二礼。


 二拍手。


 手を合わせる。


 青は。


 目を閉じる。


 願い。


 というより。


 報告。


 赤と黄が。


 家族になった。


 白も。


 大切な人を。


 見つけた。


 そして。


 自分も。


 見つけた。


 隣にいる人と。


 これから。


 家族になる。


 そのことを。


 伝えたかった。


 目を開ける。


 彼が。


 まだ。


 手を合わせている。


「長いね」


「お願いしてた」


「何を?」


「言わない」


「言うと叶わない系?」


「別に」


「じゃあ教えて」


「嫌」


「何それ」


 青が。


 笑う。


 鞄には。


 今も。


 青い龍が。


 入っている。


 高校卒業の日。


 四人で。


 選んだ。


 青。


 遠い都会まで。


 ずっと。


 一緒に来た。


 あの日。


 新幹線の中で。


 初恋を。


 静かに。


 終わらせた。


 その青い龍が。


 今度は。


 新しい人を。


 この神社へ。


 連れてきた。


「行こ」


「うん」


 二人が。


 並んで。


 鳥居へ向かう。


 青は。


 一度だけ。


 振り返った。


「ありがとうございました」


 小さく。


 誰にも。


 聞こえないくらいの声。


 白い龍は。


 何も。


 答えなかった。


 ただ。


 社の奥で。


 遠く。


 長く。


 伸びてきた。


 青い縁を。


 静かに。


 見ていた。

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