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13/16

後日譚.赤と黄色

 高校を卒業すると。


 四人が毎日顔を合わせる生活は。


 あっさりと終わった。


 白は。


 地元の大学へ。


 青は。


 都会の大学へ。


 黄色も。


 別の大学へ進んだ。


 そして。


 赤だけは。


 一足先に。


 社会人になった。


     ◇


『あいつ、またやったらしい』


 赤から。


 黄色へ。


 初めて個別にメッセージが届いたのは。


 卒業して。


 まだ。


 それほど経っていない頃だった。


『何を』


『人助け』


『それだけなら普通でしょ』


『怪我した』


『は?』


 返信は。


 すぐだった。


『どの程度』


『本人曰く、擦り傷』


『本人曰く、は信用ならない』


『だよな』


 白。


 つまり。


 四人の中で。


 昔から一番。


 妙なものを見つけてしまう男。


 大学から帰る途中。


 道路脇で。


 自転車に乗った子どもへ向かって。


 黒い厄が伸びているのを見つけたらしい。


 原因は。


 停車していた車。


 運転手が降りた直後。


 サイドブレーキが甘かったのか。


 ゆっくりと坂道を下り始めた。


 白は。


 子どもを引っ張って避けさせ。


 その際。


 自分が転んだ。


『病院は?』


『行ったって』


『ならいい』


『でも今神社いる』


『なんで』


『龍神様に報告だって』


『病院の次が神社なの?』


『あいつだから』


 黄色は。


 しばらく。


 画面を見ていた。


『今から行く?』


『行く』


 返事は。


 ほとんど同時だった。


     ◇


「二人とも、どうしたの?」


 神社へ着くと。


 白は。


 いつもの石段の途中に座っていた。


 右肘に。


 大きな絆創膏。


「どうしたの、じゃない」


 黄色が。


 その前へ立つ。


「見せて」


「いや、もう病院行ったし」


「見せて」


「大丈夫だって」


「見せろ」


「はい」


 素直に。


 腕を差し出した。


 赤が。


 それを見て笑う。


「お前、こいつには素直だよな」


「怖いから」


「誰が怖いって?」


「何でもないです」


「よろしい」


 傷そのものは。


 本当に。


 大したことはなかった。


「でもさ」


 白が言う。


「子ども無事だったから、よかったよ」


「それで自分が怪我していい理由にはならないでしょ」


「擦り傷くらいなら」


「そういうところ」


「何が?」


「何でもない」


 黄色が。


 ため息をつく。


 赤も。


 隣で。


 同じように。


 ため息をついた。


「……俺らさ」


「何?」


「こいつの保護者みたいになってない?」


「今さら?」


「お前もそう思ってた?」


「高校の頃から」


「ひどくない?」


 白が抗議する。


 二人は。


 無視した。


 その日から。


 赤と黄色の間には。


 四人のグループとは別に。


 二人だけの会話が。


 少しずつ。


 増えていった。


     ◇


『今日白なんか言ってた?』


『特に』


『青から連絡来た?』


『昨日』


『元気?』


『都会楽しいって』


『ならよかった』


 最初は。


 白と青の話ばかりだった。


 離れていても。


 妙なことをする二人。


 そして。


 それを気にする二人。


『今日仕事きつかった』


『急に何』


『聞いてほしいだけ』


『知らん』


『冷た』


『で、何があったの』


 いつの間にか。


 仕事の話が混じる。


『大学の教授めんどくさい』


『どんな』


『話長い』


『お前も人のこと言えない』


『は?』


 授業。


 仕事。


 昼飯。


 天気。


 くだらない写真。


 どうでもいい話。


 気づけば。


 毎日のように。


 何かしら。


 メッセージを送り合うようになっていた。


 けれど。


 二人とも。


 それを特別だとは。


 思っていなかった。


     ◇


 そんなある夜。


 久しぶりに。


 四人で通話した。


 青は。


 都会で一人暮らし。


『いやもう、人多すぎ』


「都会だもんな」


『朝の電車とか意味分かんない』


「楽しそうじゃん」


『楽しいよ。大学もまあまあ』


 いつもの。


 青だった。


 少なくとも。


 そう聞こえた。


『バイトも始めたし』


「何やってんの?」


『飲食』


「大変そう」


『慣れれば平気平気』


 笑っている。


 普通に。


 楽しそうに。


 やがて。


『明日一限だから、そろそろ寝るわ』


「おやすみ」


『またね』


 通話が切れた。


 少し。


 沈黙。


 最初に。


 白が言った。


「……青さ」


「うん」


 黄色が。


 すぐに返した。


「何か変だったよね」


 赤が。


 少し遅れて。


「そうか?」


「声」


 黄色が言う。


「妙に元気にしようとしてた」


「俺もそう思った」


 白も。


 スマートフォンを見ながら。


「なんとなくだけど」


 赤は。


 その言葉を。


 何度も聞いている。


「連絡する?」


 黄色が聞く。


 白は。


 少し考えた。


「いや」


「なんで?」


「聞いても大丈夫って言うと思う」


 黄色も。


 少し考える。


「……言うね」


「じゃあどうする?」


 赤が聞いた。


 白は。


 あっさり答えた。


「週末、行く?」


「行く」


 黄色。


「行くか」


 赤。


 決まった。


 青本人へは。


 連絡しなかった。


     ◇


 土曜日。


 朝。


 青の部屋。


 インターホン。


 しばらく。


 返事がない。


 もう一度。


 押す。


『……はい』


 明らかに。


 寝起きの声。


「俺」


『誰』


「白」


 沈黙。


『……は?』


 ドアが開いた。


 髪はぼさぼさ。


 部屋着。


 青が。


 三人を見る。


「……何してんの?」


「おはよ」


 白。


「来たぞ」


 赤。


「入れて」


 黄色。


「なんでいるの!?」


 青の声が。


 廊下へ響いた。


「遊びに」


「連絡してよ!」


「したら来なくていいって言うでしょ」


 黄色。


「言うよ!」


「だからしなかった」


 赤。


「最低!」


「まあまあ」


「白が一番悪いからね!?」


「なんで!?」


 結局。


 三人は。


 部屋へ入った。


 そして。


 黄色は。


 数秒で。


 黙った。


 洗濯物。


 コンビニの袋。


 空になったペットボトル。


 冷蔵庫。


 ほとんど。


 食べ物がない。


「……青」


「何」


「ちゃんと食べてる?」


「食べてる」


「昨日」


「……」


「一昨日」


「……パン」


「はいアウト」


「何が!?」


 赤は。


 何も言わず。


 ゴミ袋を広げた。


「ちょっと、勝手に片づけないで!」


「じゃあお前やる?」


「……後で」


「やらないやつだな」


「うるさい!」


 白は。


 青の顔を見る。


「寝てる?」


「寝てる」


「何時間?」


「……」


「何時間?」


「三、四時間くらい」


「寝ろ」


「何しに来たの!?」


「顔見に」


「もっと何かないの!?」


 黄色が。


 冷蔵庫を閉める。


「白。買い出し」


「はい」


「赤。ゴミ」


「了解」


「私、洗濯」


「待って。何その連携」


 青が。


 三人を見る。


「保護者会?」


 赤が言った。


「臨時開催」


 黄色。


「俺も保護者?」


 白。


「お前は保護される側」


 二人。


「ひどくない?」


 青が。


 とうとう。


 笑った。


 その顔を見て。


 三人も。


 少しだけ。


 安心した。


     ◇


 その日は。


 何か特別なことを。


 したわけではない。


 部屋を片づけ。


 洗濯をして。


 まともなものを食べ。


 少しだけ。


 街を歩いた。


 夜は。


 四人で。


 くだらない話をした。


 高校の頃と。


 変わらない話。


 それだけ。


 翌日。


 三人が帰る頃には。


 青の顔色は。


 少し。


 戻っていた。


「次は連絡して」


 駅で。


 青が言った。


「無理」


 黄色。


「却下」


 赤。


「また声変だったら来る」


 白。


「もうやだ、この三人……」


 そう言いながら。


 青は。


 笑っていた。


     ◇


 帰りの電車。


 白は。


 座って。


 十分もしないうちに。


 寝た。


「こいつ……」


 赤が呆れる。


「昨日一番遅くまで青と話してたからね」


「自分も寝ろって言われる側じゃん」


「だから世話が焼けるのよ」


 黄色は。


 窓の外を見る。


 しばらく。


 電車の音だけ。


 赤が。


 ぽつりと。


 言った。


「俺らさ」


「何」


「ずっとあいつらの面倒見てない?」


 黄色が。


 赤を見る。


「……今さら?」


「やっぱそう?」


「白は昔から」


「うん」


「青は今回」


「うん」


「たぶん、これからも」


「だよなあ」


 二人で。


 ため息。


 そして。


 笑った。


「でも」


 赤が言う。


「今日、お前いて助かった」


「何が?」


「俺一人だったら、あいつんち行っても何していいか分からん」


「ゴミ捨ててたじゃん」


「それくらいしかできん」


「十分でしょ」


「お前いなかったら、飯も洗濯も多分無理だった」


「私だって、あんたいなかったら全部一人でやることになった」


 少し。


 間。


「白は?」


「買い出し」


「一応、最初に気づいたの白だけどな」


「そういうところだけ妙に鋭いのよ、あいつ」


 また。


 笑った。


 そして。


 赤は。


 ほんの少しだけ。


 思った。


 こいつがいると。


 楽だ。


 何も。


 説明しなくていい。


 自分が動けば。


 向こうも動く。


 向こうが動けば。


 自分も。


 自然に。


 その隣へ行ける。


 そのときは。


 まだ。


 それを。


 恋とは。


 呼ばなかった。


     ◇


「それ、彼氏じゃないの?」


 大学で。


 黄色は。


 友人から。


 唐突にそう言われた。


「誰が?」


「いつもLINEしてる人」


「違う」


「毎日してるじゃん」


「友達」


「二人でご飯行くじゃん」


「友達でも行くでしょ」


「高校の同級生?」


「そう」


「好きじゃないの?」


「ないない」


 即答。


 友人は。


 じっと。


 黄色を見る。


「その人に彼女できたら?」


「別に」


 答えようとして。


 少し。


 止まった。


 赤が。


 知らない女の子と。


 並んで歩いているところを。


 想像した。


 何故か。


 妙に。


 面白くない。


「……どうしたの?」


「別に」


「今、めちゃくちゃ嫌そうな顔したけど」


「してない」


「してた」


「してない!」


 その日の夜。


 赤から。


 いつものように。


 メッセージ。


『今日先輩に女紹介するって言われた』


 黄色は。


 画面を見た。


 数秒。


 返信。


『へえ』


『興味なさすぎない?』


『好きにすれば』


『なんで怒ってんの?』


『怒ってない』


『怒ってるじゃん』


『うるさい』


 送信。


 スマートフォンを。


 ベッドへ投げた。


「……何これ」


 初めて。


 少しだけ。


 自分の気持ちが。


 分からなくなった。


     ◇


 赤の方も。


 似たようなものだった。


「お前、彼女いる?」


 職場の先輩に。


 そう聞かれた。


「いないっす」


「じゃあ今度――」


「いや、いいです」


「まだ何も言ってねえよ」


「あ」


「何だよ」


「いや」


「好きな子でもいんの?」


「……いないです」


「間があったぞ」


「いないですって」


「じゃあ、よく飯行く女とか」


 赤の頭に。


 黄色が。


 浮かんだ。


「……いますけど」


「それじゃん」


「違います」


「何が違う」


「友達です」


「二人で飯行く?」


「行きます」


「LINEは?」


「まあ」


「毎日?」


「……だいたい」


 先輩は。


 しばらく。


 赤を見た。


「お前それ、もう彼女じゃん」


「違いますって」


「じゃあその子に彼氏できても平気?」


「……」


「はい終了」


「いやいやいや」


「自覚しろ」


 その日の帰り。


 赤は。


 黄色へ。


 メッセージを送ろうとして。


 少し。


 指を止めた。


 いつもなら。


 何も考えず。


 送れる。


 なのに。


 その日から。


 少しだけ。


 違って見えた。


     ◇


 恋愛感情を。


 自覚したからといって。


 すぐに。


 何かが変わったわけではない。


『明日飯行く?』


『行く』


『何食う』


『何でも』


 今まで通り。


 二人で会う。


 今まで通り。


 話す。


 今まで通り。


 笑う。


 ただ。


 時々。


 妙に。


 意識する。


 肩が触れる。


 少し。


 黙る。


 スマートフォンを。


 一緒に覗き込む。


 近い。


 何故。


 今まで。


 平気だったのか。


 二人とも。


 分からなかった。


 それでも。


 言わない。


 関係を変えるのが。


 少し。


 怖かった。


 今のままでも。


 十分。


 楽しかったから。


     ◇


 数年後。


 黄色が。


 大学を卒業した。


 白も。


 同じ春に。


 大学を出た。


 青も。


 都会で。


 新しい道へ進んだ。


 四人で。


 久しぶりに。


 地元へ集まった。


「卒業おめでとう」


 赤が。


 三人へ。


 グラスを上げる。


「一人だけ先輩風吹かせてる」


 黄色。


「社会人歴だけなら先輩だぞ」


「はいはい」


 青も。


 笑う。


 白は。


「これでみんな社会人かあ」


 などと。


 少し。


 感慨深そうにしていた。


 宴会は。


 いつも通り。


 くだらない。


 高校の話。


 台風の話。


 青の部屋へ。


 三人で突撃した話。


「本当にあれ最低だったからね」


「助かっただろ」


「助かったけど!」


「じゃあいいじゃん」


「白は黙って」


 笑う。


 何も。


 変わらない。


 けれど。


 帰り道。


 白と青が。


 先に別れ。


 赤と黄色。


 二人だけになった。


 いつものように。


 並んで歩く。


「なあ」


「何」


「これからも飯行く?」


「何その質問」


「いや」


「行くでしょ」


「だよな」


「急にどうしたの」


 赤は。


 少し。


 黙った。


「俺らさ」


「うん」


「もう、付き合ってるようなもんじゃね?」


 黄色が。


 足を止めた。


「……何それ」


「違う?」


「それ告白?」


「……多分」


「多分って何」


「いや、初めてだから分からん」


「普通一回しかやらないからね」


「じゃあ」


 赤が。


 少し。


 照れたように笑う。


「付き合う?」


 黄色は。


 少しだけ。


 赤を見た。


「……いいよ」


「マジ?」


「嫌なら言わない」


「そっか」


「うん」


「じゃあ、よろしく」


「よろしく」


 少し。


 沈黙。


 そして。


 二人は。


 また。


 歩き始めた。


 数十秒。


 黄色が。


 ちらりと。


 赤の手を見る。


 赤も。


 同じことを考えていた。


 指先が。


 少し。


 触れた。


 二人とも。


 離れた。


「……」


「……」


「何これ」


 黄色が言った。


「俺に聞くなよ」


「今まで何ともなかったのに」


「俺もだよ」


 二人は。


 笑った。


 付き合う前より。


 付き合った後の方が。


 少し。


 距離が遠くなった。


     ◇


 もちろん。


 そんな期間は。


 長くは続かなかった。


 数か月もすれば。


 元通り。


「帰りスーパー寄る?」


「牛乳ない」


「じゃあ寄るか」


 付き合う前と。


 ほとんど。


 変わらない。


 ただ。


 少しだけ。


 違う。


 疲れれば。


 肩へ寄りかかる。


 手をつなぐ。


 家族へ紹介する。


 赤の祖母とも。


 黄色は。


 何度も会った。


「あんたたち、いつ結婚するの」


 祖母に。


 笑いながら聞かれたこともある。


「まだしないよ」


 黄色。


「そのうちな」


 赤。


「そのうち、そのうちって言ってたら、ばあちゃんいなくなるよ」


「縁起でもないこと言うなよ」


「人はいつか死ぬんだから」


 そう言って。


 祖母は。


 笑っていた。


     ◇


 そして。


 本当に。


 その日は。


 来た。


 十分に。


 長く。


 生きた。


 病気もあり。


 最後は。


 眠るように。


 静かに。


 赤の祖母は。


 天寿を全うした。


 悲しい。


 当然。


 悲しい。


 けれど。


 誰も。


 理不尽だとは。


 言わなかった。


 よく生きた。


 そう。


 言える別れだった。


 通夜。


 黄色は。


 当然のように。


 来た。


 誰に。


 呼ばれたわけでもない。


 黒い服を着て。


 赤の両親へ。


 頭を下げ。


 できることを。


 手伝った。


 赤が。


 何も言えないときには。


 ただ。


 隣にいた。


 親戚の一人が。


 黄色へ聞いた。


「赤くんのお友達?」


 黄色は。


 一瞬。


 赤を見る。


 そして。


「はい。高校からの友人です」


 そう。


 答えた。


 間違っていない。


 高校からの。


 友人。


 そして。


 今は。


 恋人。


 それだけ。


 なのに。


 赤は。


 その言葉が。


 妙に。


 嫌だった。


     ◇


 全部が。


 終わった夜。


 黄色は。


 帰ろうとしていた。


「今日はありがとな」


「別に」


「ばあちゃんも喜んでると思う」


「そうかな」


「お前のこと結構気に入ってたし」


「結婚しろってうるさかったけどね」


「言ってたな」


 二人。


 少し。


 笑った。


「じゃあ帰る」


「うん」


 黄色が。


 歩き出す。


「なあ」


 赤が。


 呼び止めた。


「何?」


「今日さ」


「うん」


「お前のこと聞かれたじゃん」


「……うん」


「友達って」


「まあ、高校からの友達だし」


「違う」


「何が?」


「いや、違わないんだけど」


 赤は。


 言葉を探した。


 上手く。


 出てこない。


「彼女でもあるし」


「うん」


「でも」


「何」


「なんか、それだけなのが嫌だった」


 黄色が。


 黙った。


「今日さ」


 赤は。


 続ける。


「ばあちゃん死んで」


「うん」


「家族が集まって」


「うん」


「一番しんどいとき」


 少し。


 息を吐く。


「お前がいてくれて、よかったんだよ」


 黄色の目が。


 僅かに。


 揺れた。


「多分」


 赤は言う。


「これからも」


「うん」


「俺に何かあったとき、一番いてほしいの、お前だと思う」


「……うん」


「お前になんかあったときも」


 赤が。


 黄色を見る。


「俺が、そこにいたい」


 黄色は。


 しばらく。


 何も言わなかった。


「だから」


「うん」


「もう」


 少し。


 照れくさそうに。


 赤は。


 笑った。


「家族にならない?」


 黄色が。


 目を瞬いた。


「……それ」


「うん」


「プロポーズ?」


「多分」


「また多分って言った」


「じゃあ違う」


「撤回すんな!」


「いやだって」


「もう!」


 黄色は。


 笑った。


 でも。


 目には。


 少し。


 涙があった。


「……私もさ」


「うん」


「今日」


 黄色が。


 小さく。


 息を吐いた。


「『友人です』って言ったとき」


「うん」


「ちょっと嫌だった」


 赤が。


 黙る。


「友達で」


「うん」


「恋人で」


「うん」


「でも、それだけじゃないのになって」


 赤が。


 笑った。


「じゃあ」


「うん」


「結婚する?」


 黄色は。


 今度は。


 迷わなかった。


「する」


 短い。


 答えだった。


     ◇


 数日後。


 二人は。


 龍神社へ来た。


 まだ。


 入籍したわけではない。


 式も。


 何も。


 決まっていない。


 けれど。


 まず。


 ここへ。


 報告しようと思った。


 高校卒業の日。


 四人で選んだ。


 龍の守り。


 赤。


 黄色。


 今も。


 二人とも。


 持っている。


 並んで。


 賽銭を入れる。


 二礼。


 二拍手。


 手を合わせる。


「結婚することになりました」


 赤が。


 小さく言う。


「よろしくお願いします」


 黄色も。


 頭を下げた。


 二人には。


 何も。


 見えない。


 何も。


 聞こえない。


 けれど。


 社殿の奥。


 白い龍は。


 二人を。


 静かに見ていた。


 赤い守り。


 黄色い守り。


 そこから。


 長い年月をかけて。


 我が社へ伸びていた。


 二本の縁。


 それが。


 いつしか。


 隣り合い。


 重なり。


 今では。


 互いへ絡むように。


 一つの形を。


 作り始めていた。


 白い龍は。


 その様子を見て。


 僅かに。


 目を細めた。


 そして。


 誰にも聞こえぬ声で。


 呟いた。


 ――ようやくか。


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