湯上りはコーヒー牛乳が飲みたい(願望)
身体を洗い、お風呂から上がった沙耶。
「んー、喉が渇いた……」
風呂というものは、汗をかく。お湯に浸かりながらも、水分を飲まないので喉が渇くのだ。お風呂に水筒でも持ち込めば別だが。
冷蔵庫を開けても特にジュースが置いてあるわけでもない。ピッチャーで水を冷やしておいてあるくらいだ。ともかく、冷やした水を取り出し、100均で買ったガラスのコップに入れて飲む。
冷えた水が喉に染渡り、食道を冷やし、胃に納まった。
『味付きの飲み物はいかがですか、お嬢様?』
そこにコクヨウが声をかけた。心なしか微笑んでいるような声だ。
『よく冷えたコーヒー牛乳がありますよ』
「……いただきます!」
『ああ 御髪は乾かしておいてくださいね』
沙耶は髪を乾かしてからVR機器を装着し、VR空間に入ると、いつもの「おゴージャスな私室」に入りカロナになった。
「お嬢様、こちら、コーヒー牛乳でございます」
「ありがとうコクヨウ」
スッと差し出されたコーヒー牛乳は、ガラス瓶のそれだった。
であれば、飲み方の作法は一つ。
カロナはドレスの腰に左手を当てて、コーヒー牛乳を右手で掴んで口を付ける。
そのまま、ぐいっとコーヒー牛乳を持ち上げて中身を煽った。
「ごきゅ、ごきゅ、ごきゅ…………っぷはぁあーーーーー、ですわっ!!」
やはり、腰に手を当てて一気に飲み干すことこそ風呂上りコーヒー牛乳の作法。
「いい飲みっぷりですお嬢様」
「当然ですわ、おほほ」
コクヨウが差し出したハンカチを空瓶と交換して受け取り、そっと口を拭いた。
VRではあるが、この牛乳瓶シリーズには「牛乳を飲むと口の上に牛乳ヒゲができる」というギミックが搭載されていた。まぁコーヒー牛乳なので茶色いヒゲではあったが。
こだわりの逸品である――なぜかギミック無しより10円安かったのはここだけの秘密。
「フルーツ牛乳もありますよ」
「おなかたぷたぷにならないのもVRの良いところですわね。いただきますわ」
いくら飲んでもカロリーゼロだしお腹は膨れない。過剰なダイエットに使用されないため、満腹感はあまり得られないように設定されているのがVR飲食だ。
「んっきゅ、んっきゅ、んきゅ…………っぷはぁあーーーーー、ですわっ!!」
逆に言えばVR内では大量に飲み食いすることができる。現実ではさほど飲み食いできないカロナにとっては、それだけで楽しくて仕方ないのである。
ステーキもお寿司もカツカレーの大盛りやチャーシューメンだって食べ放題である!……現実に戻ると余計にお腹が空いている気がするけれど。
「時にお嬢様。振り込みは確認されましたか?」
「フリコミ? コクヨウ、私、麻雀はしていませんわよ」
「違います」
おそらく麻雀漫画を読んだだけであろう聞きかじりの知識で脊髄反射したカロナ。ある意味それは配信者としての才能かもしれない。
「スパチャや企業所属における給与振り込みがあったので、確認しないでよいのでしょうか、と」
「! そういえば! おいくらでしたの?」
「こちらをどうぞ」
と、コクヨウが明細を封蝋付きの封筒に入れて差し出す。メーラーで開けばワンタッチで見れるのだが、わざわざペーパーナイフ付きである。
だがお嬢様ロールプレイが大好きなカロナにとってはこのひと手間が地味に楽しいので、心の中でコクヨウにGJを送った。。
「さてさて、おいくらだったのかしら……!」
カロナはペーパーナイフで封筒をザリッと開封し、中の明細を取り出した。




