お風呂シーンは嗜み
ざばぁん、お風呂に身体を沈める沙夜。
「ふぁぁ……お風呂は良いね、リリンが生み出した最高の文化だよぅ……」
普段は水道代節約のためにシャワーで済ませているのだが、今日は企業勢として配信した記念ということもあり、この狭いバスタブに贅沢にお湯を張ってみたのだ。しかもラベンダーの入浴剤付き。
リアルがどれだけ不潔でもVRでは関係ない、ということもあり、実はお風呂キャンセル勢のB-Casterも多い。モニターごしの彼・彼女らに対しては、多少お風呂に入らない方がニオイを感じられる気がして沙耶は好みだったりもするのはここだけの話。
まぁ現実でくっさいのは御免なので、沙耶はちゃんとシャワーは毎日浴びている。
「それはそうと、コクヨウ。さすがにお風呂は一緒に入れないから、ごめんね?」
『いえ。VRゴーグルを浴室に持ち込んでは湿気で故障する恐れがあります、当然の判断です』
と、浴室のすぐ外、洗濯籠の上にあるVRゴーグルからコクヨウが返事した。
「うん、それもそうなんだけど、カメラに裸体を映すのはね、流石にね」
『おや? 大丈夫ですよお嬢様。仮に実写配信に乗ってしまっても私が利用規約に基づいて安全マージンを取った十分なモザイクをかけます、BANになることはありません』
「うーん、コクヨウに裸みられるのが恥ずかしいっていう感じでお願い」
『なるほど、それは仕方ありませんね』
配信に裸体など論外である。安全マージンがあったところで、外の人ならともかく、中の人に需要はないだろう。
とはいえ、脱衣所も満足にない狭い部屋。普通に浴室から出入りするときにちらりちらりと見えていたりするわけだが。コクヨウは黙っていることにした。
『それでお嬢様。いかがでしたか? 初めての企業配信は』
「……うん、なんというかとても、とても……見られてたね!」
『視聴者数、先輩方のものもありましたからね。今までの配信では見たことない同時視聴数になっていました』
「やっぱり企業勢は強いね……でもまさか、アカリ先輩とクロノワールの黒井専務さんが親子だったなんて……」
『つまり、アカリ様は……黒井アカリ様ということですね』
「専務さんの苗字とアカリ先輩の名前がリアルならそうなるね。多分キャラネームだから違うだろうけど」
とはいえ黒井アカリと言う名前で考えると黒い灯り……ブラックライトか何かだろうか。と入浴剤のラベンダーの香りを堪能しつつ、益体もない事を考える沙耶。
「黒井専務さんも、実は良い人だったみたいだし……案外安心?」
『そうですね。意外でしたが。いわゆる八百長というか、慣れ合いだったようで』
「まぁ私としてはその方が安心できていいんだけど。少し騙された気分?」
ちゃぷん、と顔を半分湯につけて、ぶくぶくと泡を作る沙耶。
『お詫びに映画のチケットとかもらいましたし、同時視聴配信とかしてみてはいかがですか?』
「ぶくぶく……ぷは。なるほど、そういうのもアリだね……!」
顔をお湯で洗いつつ、沙耶は湯船から出た。
「あ。日常で常に配信ネタを考えてるって、ちゃんと企業勢っぽくない?」
『体を洗って、のぼせないうちにあがってくださいね』




