勝者を称えよ!
48対100。2倍の差をつけてカロナは勝利した。ダブルスコア、完全勝利だった。
「な、なんと……くっ、これではプロゴルファーお嬢様を名乗れないな……!」
クロナは、がっくりと片膝をつく。まるで決闘に負けた誇り高き騎士のようで、その姿もまた優雅である。カロナは勝ったのになんか負けた気分になった。
「これからプロゴルファーお嬢様の名はカロナ嬢、貴女のものだ」
「あら。別にいいんじゃありませんこと?」
「む?」
「私はプロスライムゴルファー、そしてクロナ様はプロゴルファーお嬢様。そういうことですわ!」
なのでカロナは格好つけることにした。そもそも別にプロゴルファーを名乗る気が無かったというのもある。
「か、カロナ君……くっ、やはり君をスカウトしたかった……!!」
「あら、クロナ様。そういうのはもっと上の人がやるお仕事ではなくて?」
「……なに、実はスカウトも私の仕事なのだよ。はぁ、本当に、このアバターは君の為にデザイナーに作らせた最高傑作だったんだがねぇ……そう言われてしまっては仕方がない、か」
ぐう、と拳を握り悔しそうにするクロナお嬢様。
作らせていた、とまで言われて、カロナは「んん、さすが本物は財力が違う……!」と畏れおののいた。
そしてクロナがアカリに向かってニコリと笑った。
「アカリ君。この子はとてもいい子だから、ちゃんと大切にしなさい。良いね? もし運営に行き詰まったらいつでも私に相談するんだよ」
「ふん! ボロが出たわね、どーして私があなたに相談しなくちゃならないのかしら? その笑顔といい中の人が透けて見えるわよ、パパ!!」
「え、パパ?」
「あー……アカリ? そういうのは分かっても言ったらマズイ話よ?」
「うっ、ごめ、今のは失言だったわ……」
ユキがアカリをたしなめるように言うと、流石に反省したのか言葉に詰まるアカリ。
その側でソラが黒川オセロに向かって頭を下げる。
「……なんというか、申し訳ない。ウチのアカリが」
「あ。いえいえソラさんも大変ですね。えーっと、どうしますか、クロナさん?」
黒川オセロがクロナに尋ねる。
「……うむ。別に隠す予定はないから良いんだが。そういうのはちゃんと確認してから発言してほしかったね」
「ぱ、パパ?……えーっと、どういうことですの?」
「ああ。自己紹介をもう一度しようか。カロナ君」
そう言って、鴉羽クロナは紳士的に、優雅にお辞儀する。
「アカリの父親。ファーストアバターはニコノワールの『黒井専務』だ。改めてよろしく」
「……ほえ?」
お嬢様にあるまじき間の抜けた返事。それに反してコメントがどどっと流れる。
[アカンゴン]:”やっべ、パパンだったか”
[@beruki]:”え? え? どういう事?”
[オコムーン]:”む、知らんのか。ニコノワールと星プロの因縁を?”
[コムーン3]:”まぁアカリちゃんってWikiも別に充実してないもんなぁ”
「ちょ、マジでどういうことですの!?」
「どういう事って……私とアカリは親子だということだが?」
「え、性別……」
「男がお嬢様になって何が悪いッ!! 私だってお嬢様になりたかったんだッ!!」
[@smallwind]:”B-Casterは性別自由だし……うん”
[Jack@]:”ええ? え?”
確かに、このゲーム、BCDのアバターはデブリ技術で作られている。それはデータ上の「もう一つの体」と言う形になり、性別の異なる身体になる事も人外の身体にも普通になれる。
戦闘にお金がかかっているこのゲームにおいて、少しでも有利をとるために操作感の都合で元の体に近いアバターにしている人が多いだけなのだ。
であれば、男がお嬢様にだってなれる。そう、BCDならね!
「つまり、ほんとうのほんとうに、黒井専務で、アカリ先輩のお父様であらせられるの?」
「ああ。その通りだ。アカリとのそういう発言はアーカイブからも削除されるようにしているから、君のメイドも調べきれなかったのだろう……おそらくここも後々カットされるな。そのつもりで頼むよ」
「あ、ハイ……」
[コムコムン]:”星プロってばバックにニコノワール専務が居るから、実質子グループなんよな”
[ユキダママ]:”だいぶ初期にニコノワールから独立したのが星プロなのよ”
[くさしげ煉牙]:”マジかよ、ちゃんとWiki編集しとけ!!”
[@tam323]:”知らなかった……!”
「……ん!? じゃあ実質私、どちらのスカウトを選んでもあんまり変わらなかったのでは!?」
「いや。元の体のままか、こちらのプロデュースを受けるかで大違いだっただろう。これからも『因縁のライバル』の立ち位置は崩さず、応援しているぞ」
スッ、と握手を求めて手を差し出すクロナお嬢様。カロナは今だ混乱しつつも、その手をがしっと掴んだ。
その際に小声で「対立している方が配信的に盛り上がるからな」と言われて、ああ、つまりこれプロレスでしたのね。と肩の力が抜けるカロナ。
「ではここを編集点として、視聴者の皆も合わせてくれたまえよ。んん――コホン。オーッホッホッホ! 今回は私の負けを認めましょう! しかし、次はこうは行きませんわよ!」
急な切り替えに反応しきれず固まるカロナ。そこにアカリがすかさず声を挟む。
「負けを認めたなら大人しく引き下がりなさい! ウチの新人、カロナちゃんはあげないんだから!」
「ふふっ、 その有能なお嬢様については、いずれ我が軍門に下らせて見せますわ……! では、ごきげんよう!」
そう言ってゴルフバックを背中に担いぎ、クロナお嬢様は颯爽と去って行った。
黒川オセロも小さく頭を下げつつ、それについていく。
[俺氏0436]:”……クロナお嬢様は強敵でしたね!”
[秋猫]:”ああ。クロナお嬢様、一体何者なんだ……”
[くさしげ煉牙]:”これが本物のお嬢様ってやつか。財力ありそうだな”
[アカリゴン]:”お、いいぞその調子その調子”
[コムンーン]:”いいノリです! あ、こういうコメントはアーカイブで消えます”
[幻龍斎]:”そういうシステムだったのかぁ……”
かくして、後でしっかりアカリ先輩に説明してもらおうと決意しつつ、カロナの初企業配信は終わった。




