⑥2回戦目・緑山グラント1
「グラント君は、どんな術式を使いたいんだい?」
“聖域”と呼ばれる場所に来た。急に意識が飛んでいったような感覚が正しいのだけど、気分的に来てしまった感がある。
グラントはアダム君から魔術の基礎や魔力総量の上げ方、魔術師として目指せる限界へ挑戦をしている最中、自分の術式について苦悩していた。
「よく分からないんだ。俺にとって最も正しい術式が何なのか、自分の本質と照らし合わせても納得のいく答えがなくてさ」
「まあ潜在的なものを見つけるに等しいからな。それを今急に見つけろって言われても難しいだろうね」
「うーん…………」
魔力運動を続けてかなりの聖域内での月日が経過した。それでも術式への取り組みはまだ進んで無い。進んでないから魔力運動に時間をかける、みたいな悪循環が続く。
魔力運動もやればやるほど成長には繋がるのだけど、術式への新しい開拓が出来ないままだと、魔力に対しての更なる発展も難しい。
「……………最終手段使う?」
「え、そんなのあるの?」
「うん、君の適正を調べる事が出来る技がある。それをここで使えば君の相応しい術式を見つける事も可能だよ。まあ最初は難色あるかもしれないけど、俺が見てきた魔術師の中でも使った人はいるから、恥じなくても大丈夫」
どうしても恥じてしまう。術式の相性は否が応でもある。その事実によって様々な術式を試してみたが、効率や出力の問題で納得のいくものはなかった。
それを見つけれられない人間として、証が出来上がってしまうのではないかと、恥じる自分をまた恥じる。
「でもこのまま何も進まないまま魔力運動だけをやるより、とりあえず任せてみろよ。アダムさんは頼りになるぞ」
そういうと彼は、手を翳した。
『本』
するとグラントの中から本が出てきた。分厚い”緑山グラント”の文字が記された本がアダムの手元にいく。
「ここには未来と過去から君の性格的な情報や技術、趣味趣向の情報が載っている。これは俺しか見ることは出来ないが、俺がある程度教えれば君にとっての”正しい答え”に近付けるかもしれない」
全てを教えるわけじゃない。未来や過去の僕の知らない情報を言うわけではなく、そこに記された傾向の情報を言ってくれる。俺はもう、腹を括った。
「有難う、じゃあ教えてくれ」
「オッケー、君ってさ……………………」
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「君は緑山グラント!!!!!!」
グラントは会場に入ると、知ってる顔がいる。
3-A組・豊田ミッシェル
彼女もアナベルの中では有名な人物だ。特出すべきはその剣技。魔剣士志望の彼女の腕前は何年も国内の学生剣術大会で優勝するほど、魔術なしの剣技なら随一の実力を有する。
グラントの家柄的にその大会に何回も出ていたから、彼女の腕前はよくわかる。何度も打ち負かされた記憶が、こうやって対峙すると蘇ってくる。
だが、大会では誠心誠意の戦いとなるのだが、一歩そこから外へ出ると、とても陰湿な悪戯をグラントにしてきた。負けた敗北者に資格なしと、周りを囲ってグラントを痛ぶった。
そんな彼女、グラントのことを痛ぶっていた先輩は目の前にいる。直接的よりは精神的にじわじわと俺の魔術師としての未来を否定した根源だ。
「あぁ、私の対戦相手は君だったか、それは良かった。先刻の彼みたいな、もっと大変な決闘を強いられるのかと思ったけど、勝ち試合を出来るようなら喜んで魔力を使おう」
「相変わらずですね、そうやって自分の地位を守る為に他人を卑下するのは。本当に貴方は変わらない」
「君も相変わらずのシケた顔だよ、私に負ける顔を私の前でしてる」
「…………そうですか、じゃあ俺は好きにやりますね」
実はこの対抗戦、2戦目から会場を変えるそうだ。
何でも会場維持が困難な可能性が見て取れてしまったらしく、俺と相手を全く別の場所に転移させて、そこから中継して審判が判断するらしい。
確かにこんな人がいる場所じゃなくて、人気のないやりやすい場所で出来るなら、大歓迎だ。
「ではこれより2戦目を始める!!それでは開始!!」
その瞬間、会場上にグラントとミッシェルが転送術式によって全く別の場所に飛ばされてた。光に包まれて、視界が揺れる。気付くと、森林が覆う暗黒、”ムドリーの森”に来ていた。
「ここは普通のムドリーの森だよな」
「………………隙あり!!!!」
その掛け声と共に剣を向けていく突撃してくる彼女を、魔力で纏った素手で受け止めて、彼女をいなす。
死角からの剣技だけで、魔力の技術も籠ってない突撃に安易に素手で対応してしまった。しかし思ったより自身の魔力が強く覆っていたみたいで、無傷で彼女をそのまま止めてみせた。
「素手で受け止めただと、どういうことだ…………」
「意外と大したことのない一撃ですね、大きい掛け声なだけに驚いちゃいましたよ」
「………………くそ」
「さぁ、俺もやりますか」
懐からある物を取り出した。
それはいつかの見た本に載ってた武器”刀”の柄と呼ばれる部分、刀身が丸々ない柄だけを持って彼女に向ける。
「何の真似だ」
「俺の戦い方です。貴方に勝てる戦い方です」
「………………ほざけ!!!」
『疾風術式-鎌鼬道』
これも知っている。彼女は剣撃の幅を増やせる疾風術式を多用する。この技は剣に乗せた鎌鼬を何本も放ち、隙のない攻撃を発生させる。
だが、ここは森林。木々で障害物が多い場所、俺は少しだけ下がって”素材”を見つける。彼女の死角となる場所で、その材料となる大きな木を見つけると術式を発動させた。
これがグラントが見つけた、相応しい術式。
『変換術式』
自身の魔力で覆った柄で木に触ると、そこから木片を巻き込んで鉄に変えて刀身が出来上がる。
グラントの魔力で創り上げた刀は魔力浸透率が高く、ただ持つだけでも高濃度の魔力が生じている。
吹き上げる風の刃から柔軟な回避をして、彼女の懐まで近寄る。一瞬の鋼の存在を感知した結果、不意に彼女は一歩後ろに仰け反ったが、左目の下を目掛けて刃が通る。
「まだですよ…………」
彼女の顔面に大きく傷を入れた刀は、まだ魔力の靡きを止めない。また近付いて彼女の間合いからグラントの間合いと変えていく。刀は速く当てる刃。グラントは傷の深さを気にせず、一閃の有無だけを考えて刀を横に振るう。
「…………なんだ、その剣は!!!」
「速さに特化した、異国の刃です」
「なら何故、貴様が知ってる!!!!」
彼女の服の腹上を横に切り裂いた。動かぬ布を鋏で切るように、楽々と振るうと物が切れる。グラントの意に反してかなりの深さの切り傷が出来る。
「…………それが俺の得意な物だったからです」
『変換術式』
自身の魔力に触れた無機物を理想する物質に変換させる。工程は自分の魔力で素材を触る、そして理想する物質の構成を忠実にイメージするの2点。
万能に思えるこの術式は明確な難点がある。
変換する物質を理解しなくてはならない。例えば水を造るとき、水を構成する分子や原子、その他諸々を理解して、それを再現しなくてはならない。
なので希少価値が高い、あまり触れたことのない物質の構成はそもそも把握が出来ず、術式を発動しても不発で終わる。
だがグラントは物心ついた時から本を読むのが好きだった。無理やりやらされた剣術よりも図書館で本で知識を吸収することの方が好きで、よくそこで気分転換をしていた。
アナベル魔術学院にいた頃も、どんな人にどんな酷い事をされても図書館で知識を吸収する事をやめなかった。
それが最も自分を落ち着かせる方法であり、グラント自身を保つ唯一の手段でもあった。
そしてその気分転換が、今この術式に活かされている。グラントがよく変換する物質は図書館などの本で知識を既に確認済みで、戦いの準備は早い段階から終わっていたのだ。
「何か言いたげな顔ですね」
「貴様、何なんだその術式は」
「何でしょうね、俺もわからないですよ」
そう、こういう時ジーン君ならどうしていたか。彼は動揺した相手には、更なる動揺が生まれるように追加の言葉を何度も言っていた。先刻の戦いもこの前の決闘も、全ては自身のペースを作り出すため。
グラントもその流れを理解して、模倣する。
「ほら、戦いはまだ始まったばかりですよ。そんな顔しないで早くかかってきてくださいよ。いつもみたいに」




