⑦2回戦目・緑山グラント2
異国の武器”刀”
初見では把握が難しい”刀”、実際刀身が非常に細い為スピード重視の刃だと、よく見ればそこまで考察出来る。
ミッシェルはそれに気付き、術式効果で急に現れた点よりも刀自体の性能の脅威に注目していた。彼の武器のスピードに対応しつつ、我が剣でその剣を落とすと。
そこが最大の間違いだと、気付くにはもう遅かった。
グラントは次の準備をしていた。
「ここからは手品の時間です。見破れますかね?」
するとまた別の刀身のない柄を取り出した。右手に刀身がある刀、左手には柄だけ。これから何をするのか、今の段階では未知数であり、侮蔑の違和感しか生まれない。
「貴様、さっきから黙って聞いていれば!!」
今迄やる側として良い気分となっていた人が、やられる側として急に立つと、こうも冷静さを失ってしまう。
ミッシェルは未知の剣に対して、スピードに着目しながら、自身の振るう剣には魔力を、多めに纏う。彼の刀身自体を折り、反撃できない所を疾風術式で追撃をする算段。
たが、森林が多いこの場所はグラントとの、変換の聖地と化している。多くの素材を必要とする術式に最も合う場所であり、最も有利に戦いを進められる。
少しだけ冷静さを失ったミッシェルの大振りの剣に対して、本来剣術戦ではやらない低い姿勢となり、右の刀でそのまま剣を受け止めるが、しかし右手の刀はあまりの衝撃で折れる。
「ふん、案外脆いな」
「でもね…………」
だが同時に振るった左手では、地面に柄を着けて一瞬にして第二の刃を表す。
『疾風術式-鎌鼬道』
刀が折れた一瞬の間が生まれる時、ミッシェルはここぞの隙として鎌鼬を送り、グラントの体に風穴を開けるつもりの出力を放ったが、左手の流れは風を受け止めるために、既に振るっている。
身体を捻り左手の新しく作り出した刀で鎌鼬をいなすと、今度はその低い姿勢のまま、右手の刀身の折れた刀の柄の頭を地面に着けて、『変換術式』を使う。
「第二フェーズ、これから貴方を楽々に潰す」
柄の頭を引き上げると、今度は鉄の鎖が長々と出てくる。戸惑うミッシェルは咄嗟に避けようと剣を自身に引こうとした時、彼女の左脇腹目掛けて鎖が鞭のようにしなる。
「グバァッ!!!!」
その勢いのまま彼女の体は左に大きく吹き飛ばされて、延長線上の大木に身体を打ちつけた。幸い足元はまだしっかり踏み込めるらしく、打ちつけた後でも立ったままの姿勢を保つ。
しかし全く一瞬の出来事に自身の左脇腹を押さえながら動揺する。打撲骨折内出血。身体が吹き飛ばされるほどの衝撃が来たが、無意識の魔力防御の影響でこの程度の怪我で済んだ。
自分が吹き飛びながら踠いた足跡を見て、飛ばされた距離を確認する。すると今度は顔に目かけて、魔力で纏った鎖が上からやってくる。焦ってる暇はないと直様横に避けて、目の前のやってくる彼奴の姿を確認する。
「へー、結構良いの入ったと思ったけど、無事だったか。ミッシェルさん、意外としぶといですね。これはもっとやり甲斐がある」
青褪める。彼は三度見ると全く違う武器を持っていた。刀身のない柄が2本、両端に鎖のついた少し短い棒に繋がれている。歪な三節棍のような、出立ちだった。
中央の棒を持ちながら、片方の鎖を振り回して柄を空中で鳴らす。その音がどんどん近付くと、ミッシェルの動揺具合は更に上がる。
「…………………………くそ」
「初見では難しいですよね、魔力を込めて振り回した鎖が当たる衝撃なんて、俺でも想像したくない。ただ、こちら側としては、楽しいもんです」
「貴様、その細い剣で戦うのではないのか!!」
「そうですね。貴方と似たような剣で俺が戦っても、俺が使う刀で戦っても、楽に貴方には勝つのは難しいです。何故なら俺のような初級程度の剣術では、師範程度の貴方の剣術を超えるのは一生無理だ。でもこれは魔術決闘、貴方に他で勝てる準備なら幾らでも出来るんだ」
そう、魔術決闘は正式な魔術の喧嘩。魔術や剣術、様々な技術を利用して決闘する。魔術が関していれば、何をしても問題はない。ここにその”剣術”の美学や誇りを持ってきても、相手がそれに応えなれば意味がない。
こうして少しずつ、ミッシェルの動揺が増えていく。しかし彼女とて無謀にそれだけを持って剣術や剣技を使って学生剣術大会を勝ち抜いたわけじゃない。
そう、動揺度が増えれば、彼女の”美学や誇り”の測りは無くなり、もっと魔力を解放していく。
「………………そう、分かった。今の貴様の振る舞いを見てると虫唾が走るぐらい、私は怒りで満ちていく。もう関係ないわね」
「えぇ、関係ないので、早くして下さいね」
グラントの無骨な返しが終わると、彼女は制していた魔力を全て解き放つ。彼女の剣からは魔力を帯びた影響で生まれる禍々しさが、否が応でも発している。
「こんなにイライラしたのは初めて。許さない!!」
『疾風術式-嵐乱の器』
そして、彼女を纏う魔力が嵐に変化した。木の葉を舞わせて、木々を揺らす。鋭い音が響き、彼女の魔力が激昂を物語る。
魔力を嵐に変化させて、身体を纏う技。ミッシェルのいる場が風で支配されて、グラントの肉体の制御を一部失う。確実に微動だにしない為に、魔力で足を強化する。
これをずっとやられると流石に消費量は洒落にはならない。このままなら魔力が呼吸での自己補完内には収まるが、これを運動しながらだと補完範疇を超えてしまう。
「………さぁ、フェーズ3か」
動く、グラントは手持ちの武器のことを合成武器《柄節棍》と呼んでいる。この武器の最大の利点は、術式の利点に通ずる。
《柄節棍》を振り回しながら、鎌鼬を正確に避けていく。暴風の影響で足が覚束ないが、リズムを作ればそれ程脅威にもならない。
眼に視える鎌鼬は彼女の無意識の慈悲に由来する。美学や誇りからなる剣技に準ずる戦い方で、彼女は本来卑怯を使わない。しかし目潰しや金的などの手段を選ばない戦い方を嫌悪する彼女が次にする戦い方は、彼女のその誇りに反するものだ。
『疾風術式-不視鎌鼬-』
咄嗟にくる風が鎌鼬だと分かっていたが、視覚から来る情報はそれを否定する。しかし魔力の練り具合や風圧では完全にそれの風。
思わず《柄節棍》で防御するが、鋭い不可視の鎌鼬は《柄節棍》すら通り抜けてグラントの肉体に届く。
魔力の防御が間に合わなかった。
「…………ふふっ」
だが、傷を受けた時にグラントは更に一歩前へ踏み出す。それは不可視の効果を追加した鎌鼬は然程威力が向上しないままの状態だったからだ。
足し引きを知っているグラントはそれを見越して、敢えて深手を負うことで間合いを詰める。不可視なだけのただの通常の鎌鼬では勝敗を決めるには至らない。
結局ミッシェルは自らの剣で決め切らねばならず、それを既に把握しているグラントは焦らず傷を負って間合いを作った。
たった少しの切り傷、なんの障害もない攻撃ではグラントの足を止めることは出来ない。
ミッシェルは近付かれたと、悟った瞬間には
「……………………なんだと!!!」
《柄節棍》の鎖が既にミッシェルの目の前まで伸びている。一端の鎖は先程まで本来あった長さよりも何倍で、それに魔力浸透率はほぼ一定的な具合となっている。
その伸びた鎖はまたしてもミッシェルの左脇腹を打つ。近付かれたと悟る瞬間に少しだけ防御による魔力量を上げたが、大きく振り回された鎖の遠心力には、そんなもの通用しない。
「グベッ………………ガバっ!!!」
しかも風による不安定な空間から吹き飛ばされるミッシェルは、今度はもっと遠い距離の不意の移動を観測する。鈍い声と顔がそのままに、しっかりと倒れ込んだ。
次には鎖は元の長さに戻っている。ぶんぶんと音を鳴らしながら、倒れ込んだ彼女にどんどん近付いていく。
「この術式は魔力を通せば、何度も変換可能なんですよ。魔力を通して片方の素材を片方に移動させれば、こんな風に長さすら調整出来る」
元から術式のタネを理解はしていなかった彼女はグラントが何を言ってるか、現状何も分からないだろう。だからつらつらと意味のなく開示した。
「刃の攻撃に注意した貴方には、打撃の警告が最も効きます。どうです、ただの打撃で倒れた事実は」
グラントの使う合成武器《柄節棍》の主な構成は、
『柄+鎖+木製棍棒(70cm)+鎖+柄』
となります。それを頭の中で想像していただければ、非常に分かりやすく読めます。




