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・29・移動中の諸々のこと,2
地方の在来線とは案外暇なもので、通路を誰かが通ることもめったになく、イアンはずっと窓の外ばかり眺めていた。
小一時間ほど経つと、山に囲まれた田園地帯が目に入った。のどかな風景の中に一棟だけ、ビルが立っていた。何階建てかは定かではないけれど、とりあえず周りの山々よりは高く、山腹に建つ家々を見下していた。
しばらく見ていると、何やら黒い粒のようなものが家々から、ビルから白いそれが流れ出して混ざり合い、盆地全体に広がっていくのが見えた。イアンはすこし不安になって、向かいで寝ているジョヴァンニを起こしてみる。
「ん?どうしたの?」
「あのビルがなにか変なんですけど、あれ、なんですか?」
「どれ?」
まさか見えないわけがないと思い、窓の外を見ると、列車はもうトンネルに入ってしまっていた。
「ああ、さっきの盆地だと見えたんですけど。もう見えなくなっちゃったみたいです」
イアンがそう言うとジョヴァンニは少し首を傾げた。
「ああ、ごめん。僕が寝てる間、見張っててくれたのか。いいよ。変わろう」
当然そんなつもりはなかったけれど、安めと言うなら休ませてもらおう。そう思ってまぶたを閉じたとき、イアンの耳にジョヴァンニのつぶやきが聞こえた。あんなところに盆地なんてあったっけ、と。




