・24・面談
えーと、とりあえず行かないといけないよね、甲板に。でも道が本当にわからない。例えば、ずっとここは甲板より低いと思っていたけれど、そうじゃない可能性もある。うーん、遅く行って裁判官の不況を買う未来しか見えない。どうしたもんか
とりあえず外に出なければ何も始まらない。ドアを開けて廊下に顔を出し、外の様子を伺う。何の変哲もない、ただの廊下だ。さっきスタンレーについて行った廊下と比べると、同じ船どころか、違う文化圏に見えるほどにかけ離れている。一つおかしな点を上げるとするならば、船の中のはずなのに、まるでロンドンのアパートのような廊下になっていることくらいだ。
「あーした天気になーれ」
どちらに進めば良いのか全くわからないので、靴を飛ばして方向を決める。掛け声は日本のいとこに教わった。この占いでこれを言うと、絶対に当たるらしい。
「右、ね。じゃ左に行こう」
僕は占いのたぐいは信じない。むしろ嫌いだ。なので普段から、占いの結果が出たらそれと反対の行動を取るようにしている。ならそもそも今だってやらなきゃ良いのに。あれだ、これが人間の弱さってやつだ。面白いもんだな。
とりあえず左に行くと、階段があった。上に行くか、左に行くか、迷いどころだ。夕飯にパイを食べるか、パスタを食べるか悩むのと同じくらいなやんでる。夕飯に何を食べるかなんて大した問題じゃないと思うかもしれないけれど、そうでもない。人生は80年あるけど、そのうち何も気にせずに好きなものを食べられるのは5歳から40歳くらいまで。そのうち週一回くらいは誰かの家で食べなくてはいけないから、好きなものが食べられず、年10日くらいは病気で食べられない。あと、年10日くらいはママと喧嘩したり、お金がなかったりして好きなものが食べられない。そうしたらほら、もう一万回を切った。一生かけても一万回できないことなわけだから、夕飯に何を食べるかというのは、実はかなり重要なんだ。
つまり僕は今相当悩んでいる。血迷って大嫌いな占いを一時間に2回やってしまうくらいに。
「あーしたてんきになーれ」
まーたやってしまった。せめてもの抵抗として、結果と真逆の方向、上に行ってやる。
階段は全金属製のかなり無骨なやつだ。なんでこの船は場所によってここまでテイストが違うんだ?全く。登る音が反響しすぎて不気味だよ、ほんとに。
「あ、ドアだ」
とりあえずドアがあった。良かった、ここから多分外に出れる。
「おー、やっほー、早かったね」
あ、ほんとに着いた。これからは占いを信じても良いかもしれない。けど何だ、アルミナントのあの無責任なセリフは。自分で放り出したくせに。
「どうやって来たの?道わかんなかったでしょ」
「占いで来ました。」
「へえ、以外だね。占い好きとは」
「いえ、大嫌いです」
「え?ああ、そう」
うーん、思いっきり引かれてしまった。まあ、占いで道を当てたくせに占いが嫌いなんて言ってるんだから、当然か。2秒で矛盾してるんだもの。当然の反応だ。
「えーと、じゃあ、君の尋問兼裁判兼進路面談、始めるよ」
ん?最後の一つは何だ?進路面談?何だそれは?いや、進路面談がどういうものかは知っている。けれど僕がこいつらに面談される理由がわからない。というか無いはずだ。
「あのー、なんで進路面談なんですか?」
「あー、説明してる時間がもったいないから途中で言うよ。始める前にとりあえず自己紹介タイムといこう。僕はアルミナント・ライオネル。今日は司会も担当する。よろしく。」
そう言ってアルミナントが右を見た。けれど、隣の赤髪は何も喋らない
「おーい、サミュエル、自己紹介してよ。」
やっぱり隣の男は喋らない。何度かアルミナントが声を掛けたけど、全く反応しない。彼は諦めてその隣の男に声をかけた。
「リットン、自己紹介お願い。」
「マイケル・デ・ブルワー=リットン」
「え?それだけ?もっと他になんか無いの?ほら、役職とか」
「部外者に話すわけにもいかんでしょう。話せることなんてなにもないですよ。こんなのやる意味ないと思いますけどね」
「同感です。それにどうせすぐ死ぬやつに大したこと教える必要無いでしょ。」
左端に座っていた緑髪が付け加えた。
「武闘派が発言を間違えないとは珍しい。褒めてやる」
右端の男がタバコの煙を吐きながら言葉を投げた。その瞬間、さっきの赤髪と、周りの三人の目が、獣のそれになって、それをみたアルミナントが必死で場をなだめようと無駄な努力を続けていた。なぜかアルミナントが可哀想に見えてくる。
「ねー、みんなもっと新人くんに優しくしなよ。数年後には僕らと同じ、こっち側にいるんだよ?自己紹介くらいしてあげてもいいじゃない」
前言撤回。やっぱりこいつはクソ野郎だ。そんな話聞いてない。どういうことだ?僕が数年後にはそっち側って。なんだ、進路面談ってこの事か?
「あのー、アルミナントさん?状況が全く飲み込めないんですけど」
「あー、ごめんごめん。まだ言ってなかった」
彼は咳払いを一つして、続けた。
「君、ここで働かない?」




