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・17・入団試験

運良く近くにあったはしごを使って陸に上がる。大方作業員用だろう。錆びてはいたが、人間一人分くらいなら軽々支えられた。


 多分さっきの音でこっちの位置は知れてる。予定変更だ。とにかく走って躱そう。勝ち筋は潰れた。ならできる限り足掻いてやる。


地面に打ち込まれた炎の矢を0.5秒差で交わす。1歩1歩蛇行しながら、なるべく狙いを絞らせずに、走る。そうそう当たらないとは思う。けど、逃げ続けていたらいつかはあたる。やつを地上に引きずり下ろす方法を探さないといけない。今は40m位のところにいるからどうやっても届かない。けどあれが倉庫の屋根くらいの高さにおりてくれば、何とか届く。思うように攻撃が当たらない状態があと数分続けば、多分我慢できなくなって降りてくるだろう。つまりあと数分逃げ続ければ言いわけだ。もちろんそれが成功しても勝てやしない。けどそれでも構わない。あいつを地面に叩きつけることさえ出来れば。

ついさっき気づいた。僕はあいつが嫌いだ。顔も、話し方も。


後ろから犬の鳴き声が聞こえてきた。後ろを振り向くと例によって炎で出来た犬が追っかけてきていた。ついさっき排水口でやったイメージトレーニングがこんなところで生きるとは。幸いなことに身体能力は一般的な犬と変わらないようだ。なら三次元の動きを意識すれば勝てる。


 空調の室外機に足をかけて、窓枠を掴む。そのまま窓枠を蹴って蛍光灯に飛びつき、空中ブランコの要領で一度だけ揺らす。そのまま天窓に飛びつき、屋根に出る。オオカミたちが正面玄関にいるのを確認し、一度反対側の倉庫の壁を蹴って着地する。目指すは、港の管理事務所だ。



 上からアルミナントがずっと攻撃してくるが、もうなれた。あいつは多分肉弾がそんなに得意じゃない。地上戦に間違っても持ち込まれないように、倉庫の屋根+5mは確実に高度を取っている。そんなに離れてたら、流石にあたるわけがない。これでも、フリーランニングとパルクールで全英大会決勝まで行ったんだ。しかもあの矢はそんなに早くない。つまりあたる要素がまったくないわけだ。


 オオカミたちが追いついてきた。流石に身体能力では勝てない。さっきは屋根に登ったけど、なるべくあいつとは距離を詰めたくない。なんとかあいつらを処分しないといけない。でもそんなに悩むことじゃない。もう対策は思いついてる。火の弱点があれだってことはずっと昔から決まってるんだ。


 わざとスピードを落とし、障害物が殆どない通路に入って狼を引き付ける。壁の配管に沿って倉庫の間を進み、扉を蹴破る。勢いを殺さずに室内へ飛び込み、お目当てのものを探す。あった。都合よく壁の低いところについている。僕は全力で飛びつき、それ、つまりはスプリンクラーのバルブを掴んだ。走ってきた勢いに任せて、力の限りぶん回す。振り向くと、二匹の赤い狼が見えた。一瞬で消えたけれど。

 

 轟音が聞こえた。反応が一瞬遅かったら今頃灰に、いや空気中の塵になっていただろう。1秒前まで僕以外た倉庫にアルミナントの攻撃が命中して、倉庫は骨組みすら残さず弾け飛んだ。明らかに今までの攻撃とは違う。まさかこの瞬間を狙っていたのか?いや、考えるまでもない。今までの攻撃の中で、一発でもこれを打たれていたら僕はとっくに死んでた。今生き残ったのは、実力でも、うまく反応できたからでもない。只々、運良く近くにあった出口からとびだしたら、偶然その先に貯水池があったからだ。ちなみにその水はもう蒸発した。つまり僕は完全に遊ばれたわけだ。


「どうだ?ガキ。自分の実力の低さを初めて正確に把握した気分は?自分がただ粋がってただけだってことに気づいた気分は?」


 戦いが始まってから初めて、アルミナントが降りてきた。


「は?どうもこうもないだろ。だいたい何いってんだよ。自分をどうしたって?そんなセリフ、勝ってから言えよ。」


 口をついて出てきたのはそんな強がりだった。僕は最後の最後までプライドを捨てなかった。つまりあいつが言うような、ただのイキリキッズだったことを証明したわけだ。


「もう俺が勝ってるだろ?お前の考え当ててやろうか。多分お前は俺が肉弾を避けてると思っただろ?攻撃全然当たんないのに俺が近づいてこないから。それで高いところ登って俺のこと引きずり下ろせば勝てると思っただろ?浅はかだよ。」


一呼吸置いてアルミナントが続けた


「その小さい頭でよおく、考えてみろ。例えばだ。お前が俺を地面に落とせたとしよう。その後どうする?俺が全方位にさっきみたいな矢を撃ち出したらどうする?そうなったらお前に対抗策はあるのか?どうなんだ?ん?」


 やっぱり僕はこいつが嫌いだ。でも負けは負け。まあ良いや。どうせ勝てるわけない勝負だったし。こいつのせいで死ぬのは癪だけど、まあしょうがない。


「諦めるのか?」


「は?」


「諦めるのか?ってきいてるんだよ。何だお前。人語わかんないのか?」


「あ?黙っとけよ。諦めるも何もないだろ。諦めても死ぬし、戦っても死ぬだろ、どうせ」


「で、諦めるわけだ。なあ、俺がお前にキレた理由がわかるか?兄さんがお前が殺したスタンレーが結構強かったって言った時、お前どう思った?自分強いかもって思ったろ?まぐれかもしれないなんてツユ程も思わずに。」


 思わずうなずいた。今さっき自分で気づいたところだ。


「それだよそれ。俺はね、自分に才能があると思ってるやつが一番キライなんだよ。本当にあるかないかは関係なく。そういうやつを見るとさ、すぐに殺してやりたくなるんだよね」


 そう言って手をかざした。手のひらの中心で炎が小さく渦を巻き始め、一本の矢に収束した。なるほど。こうやって作ってたのか。人間はほんとに死が近づくと恐怖を感じなくなるって聞いたことがある。できればもう少し遅く知りたかった。それが本当だってことを。


「あ、そうだ。言い忘れてた。弱いって言ったけど、友達全員殺されて向かってきたときよりは強かったよ。一応成長したんだな、お前みたいなクズでも」


 

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