(二十二)慟哭
(二十二)慟哭
無数の篝火が夜空を焦がし、小田原城の城壁を赤々と照らし出している。
その男の顔は泥にまみれ、着物はボロ布のようになり、手足に無数の小さな傷を負っていた。
小田原城を包囲する軍勢は二十万。風魔の名で知られる忍者をもってしても、突破するのは至難の業だったことを、その痛々しい姿が物語っている。
氏政と氏照の前に引き出されると、片膝を着いて頭を下げた。
「八王子が…。落ちました」
辛うじてそれだけを言うと、小さく畳まれた油紙を両手で差し出した。近習が受け取ると、張り詰めていた糸が切れたように、その場で泣き崩れた。
氏照は近習に走り寄って、むしり取るように書状を手に取ると、外側の油紙を乱雑に破り捨てて、書状を開いて食い入るように見入った。
氏照の目がみるみる充血し、やがて手が小刻みに震えた。
「比佐…」
天正十八年六月二十三日、八王子城は落城した。穏便に開城することは許されず、多くの城兵が討ち死にした。この時代でも稀な、凄惨極まりない戦いであったという。
正室の比佐の方と侍女たちは、薙刀を振るって敵を数人討ち取った後、刀傷を負って、御主殿の滝に身を投じた。浅川の支流、城山川の水は、三日三晩、血で赤く染まったという。
城代の横地監物は、落ち延びて再起を図ろうとしたが、途上で討ち死にした。
氏照は書状を氏政に手渡すと、夜空を見上げた。氏照の目に映る北斗七星は、涙で滲んでいた。
七月五日、北条氏降伏。小田原城、開城。
七月十一日、北条氏政、氏照、切腹。
ここに、豊臣秀吉の天下統一がなされ、戦国が終焉した。




