ワンピースはやべえ
「ゴムゴムの!」
「待て待て待て待て待て待て!!!!!!!!!!!!!」
たしかに人間かもしれなかったが、もうこれなら他の人の方がよかった。かろうじて、ゴムゴムの続きを防ぐことが出来たのでセーフなはずだ。
というか、もうこれどうしたらいいのか分からない。
今までは新しく来た人とそれなりの話をすることが流れとなっていたが、できればこのワンパク少年とあまり会話したくない。どんなに僕が正論を言ったところで、うるせえ!という罵声と共に殴られてしまうのは目に見えていた。
というかそもそも、僕はこの少年がよく登場するマンガを読んだことがないので実際の距離かんとか分からない。
昔こんなことありましたよねエピソードもできない。あのときの気持ちはどんな感じだったんですかトークもできない。
ただ、持て余しているだけだ。
「えー、本当に困ったな」
と僕が呆れた声を出すと、
「どうしたんだ!?」
とワンパク少年は僕に食い気味に聞いてきた。
どうした?と聞くときにビックリマークをつけるようなタイプの人間はこの物語で初めてかもしれない。いつもどこでも誰でもなんだかけだるげな雰囲気をだしている人達しか登場していなかった。
もっと頑張れ。
もちろん僕もその1人なので頑張らなくてはいけないが。
めんどくさいなあ。
仕方がないから僕はワンパク少年を山の奥へと運ぼうと試みる。が、こんな体がビヨンビヨンに伸びる成長期の男と、たいして運動もせずに日常をいたずらに過ごしていた僕とでは筋肉の付き方が全然違ったようで、バンッと大きくパンチされた。
「うぜえ!」
と言いながらワンパクは僕にパンチした。
ゴムゴムを使ったわけでもなく、普通のパンチだった。ゴムゴムを使わなくて普通にボコボコにされた。というかこんなに強いんならゴムゴム使わないで戦えよ。普通にシュッシュッってパンチしろよと思いながら僕は気を失った。
「ハッ!」
僕は目を覚ましたとき、いつも生活していた場所とは違う場所にいた。なんだか視界が少し暗くて、草木もどことなく穏やかだった。
ここはもしかして……
「山の向こう!?」
まさか僕が山の向こうへと運ばれるとは思わなかった!
悲しい!
今まで自分が脅し文句として使っていた場所に、いざ自分が運ばれてみるとなるとなんだか複雑だった。
これが世代交代というものの正体か。
僕はどうしても仕方がなかったので山の頂上に登って向こうを見る。山、とは言っても実際は小学校とかによくある“つきやま”のようなものなので、大股歩きで登ってみると数歩で登頂することができた。
頂上からの光景は異様だった。
ゴムゴム少年が――間違えたワンパク少年だった。ゴムゴムと少年をつなげてしまったら集英社に怒られそうな気がするので気をつけなくては。
最悪、この惑星に集英社の人間全員が乗りこんでくるかもしれない。そうなったらもう僕は山の向こうに運ばれるぐらいで済まないだろう。僕がつきやまの一部になってしまいかねない。
大企業には逆らってはいけない。
この世の鉄則だ。
そうして、そうして。
この山の向こうでは、ワンパク少年がその自慢の腕をビロンビロンに伸ばして縄跳びをしていたのだ。その腕でできた縄跳びを飛ぶチンパンジーにハムスター、それに白い球体までも飛んでいた。
というか、白い球体は常時浮いているので縄跳びに参加しているというよりは邪魔しているというほうが正確だった。
「馴染んでる……」
まさかここまで馴染んでいるとは。やはり僕が無駄に先入観を持ってしまったから真正面からぶつからずに、結果として軋轢を生んでしまったのだろう。この点に関しては素直に反省しなくてはならない。
そうして僕も山を降りてあの集団に加わろう。
「いれてー!」
僕はにこやかに走りながら縄跳びをしている方向へと向かっていく。が、つきやまには大きな凹みがあったので、僕は派手にそれにつまずいて転んだ。
「うわああああああ!!!!!!!!!」
ゴロンゴロンゴロンゴロン!!!!!!!!!!!
もうなんか踏んだり蹴ったりだった。もしも僕が今、おみくじを引いたとしたら間違いなく凶だろう。
僕はゴロゴロと転がって、最終的につきやまの手前で大の字になった。仰向けになったので空がよく見えた。
この惑星は地球と違ってめったに雨や曇りの天気になることがない。
今日も雲1つない青空で、この空を見ながら草の上に寝転がるの、なんだかとても久しぶりだと感じる。
「大丈夫か!?」
と僕に声をかけてくれたのはワンパク少年だった。
「……いいやつだな」
僕はつい口にしてしまう。
「あ!?なにがだ!?」
ええ……。
この少年こんなに知能指数低いの?
なにがだって聞かれてもなあ……。この状況で察することができないのか?もっと空気を読もうぜ。
読もうぜ!?
とりあえず!?をつけておけばいい感じあるな。それと!を交互に使っていけば僕も少年ジャンプの主人公になれるんじゃねえの!?
「おい少年!」
僕は極力テンションを高めながらワンパク少年に聞く。
「なんだ!」
「名前は何て言うんだ!」
「俺の名前か!?俺の名前はゾルアだ!」
「え?」
「ゾルアだ!!!」
ええ……。
誰だよ!ルフィじゃねえのかよ!初めて聞いた名前だわ!じゃあゴムゴムとか使うなよ!麦わら帽子かぶるなよ!袖が不恰好に引きちぎられたような服装するなよ!後ろにトナカイみたいなやつ連れてくるなよ!
てかトナカイいるじゃん……。さっきいなかったのに……。
「ねえゾルア」
僕はもうテンションだださがりのやる気激減で、メガネなんかもバリッバリッに割れた状態でゾルアに聞く。
まあ僕メガネかけてないけどね。
「なんだ!」
しかしゾルアはテンション下がっているような様子もなく、つねにビックリマークがついていてウザかった。
少年ジャンプの主人公ならば、多少ウザいと思ってもそれが普通なんだろうなあ、と理解することができたが、しかし僕の目の前にいる麦わら少年はただの男の子だ。ウザいと思わざるをえない。
しかしこの少年は僕をパンチ1つで気絶させたので立場関係としてはやはり向こうの方が上だ。ウザいとは思ってもそれを行動には表さない。
「ゴムゴムの……」
ゾルアはいきなりゴムゴム神拳を使い始めた。やかましいやつめ。
「イリュージョン!!!!」
そうしてまた新しい人がこの惑星にやってくる。




