ホワイトユニバースはやべえ
「Hi」
「いや誰だよ……」
僕の目の前に現れたのは白い球体だった。
というのも話は少し前にさかのぼる。
ハムスターが人をこの惑星に呼び出すことができるというものだから、じゃあやってみてくれ、と言ってみたら、カーボンが必要だ、リンが必要だ、ニトログリセリンが必要だ、オリハルコンが必要だと散々のワガママを言われた。
しかし大人しくそれに従うこと数か月、もうすっかり毒劇物についての知識を身につけて、もはやこの惑星で一番白衣の似合う男になってしまった。
というかニトログリセリンの合成、難しすぎるだろ。大吾郎に合成のイロハから教えてもらい、基礎的な合成から散々教えてもらい、いよいよニトログリセリンをつくってみたら驚きの収率の低さに途方に暮れて、しかしそれからも練習に練習を重ねて、やっとできたと思ったら、今度はまさかのオリハルコンだった。
オリハルコンって実在しないものだろ……とまたもや途方に暮れたのだった。
しかし大吾郎がオリハルコンなら古代ギリシアにまでタイムスリップすれば可能であると言ったものだから、わざわざタイムスリップして古代ギリシアにまで向かった。
そうしたら当時には珍しいチンパンジーと人種なものだから、様々なトラブルに巻き込まれて、パルテノン神殿の建設にうっかりかかわってしまったりもしたが、結果からいってゲットすることができた。
その時には既に1年が経っていた。
そうしてようやく全ての材料が手に入った。
1年経ってどこか老けたようなハムスターに全ての材料を渡して、じゃあ真白さんを転移してくれ、と頼んだら、真白さんって誰ですか?とぬかすものだから、仕方がないので髪が長くて……と説明したら、ああ!そういえば見たことあります!といわれた。
もしかしたら僕もハムスターとあっていたのかもしれない。
そうしてハムスターが魔法陣を書いてくれというので、言われたとおりにガリガリと地面に魔法陣を書いた。
さらに指定した材料を並べてくれというので、仕方がないなあと文句を言いながらも地面にニトログリセリンなりオリハルコンなりを並べた。
では、いきますよ。
と言った途端にハムスターは魔法陣の中に入り、なんだかよくわからない呪文を述べ始めると、魔法陣がまるっと光りはじめた。
その魔法陣があまりにも眩しすぎたので僕と大吾郎はサングラスをかけてその様子を見守っていたが、しだいにサングラスをつけていても眩しくなったので、いよいよ魔法陣に背を向けて将棋をうつことにした。
そこから1時間は経っていただろうか。僕は将棋が弱い訳ではないのだが、如何せん、大吾郎が強すぎるので僕はこの1時間の間で3回ほど負けていた。
そうしてこうして、光が止んだと思って振り返ってみたら、そこにいたのは白い球体とハムスターだった。
「おい、ハムスター。少し聞きたいことがあるんだが」
僕はすごみながらハムスターに話しかける。
「ハムちゃんです」
「おい、ハムちゃん。少し聞きたいことがあるんだけど」
僕はすごみながらハムちゃんに話しかける。というか匍匐前進今永という名前はどこへいったんだ。もう本人も呼んでほしいと思っていないのではないだろうか。自分で考えた自分のあだ名ほど定着しないものはない。
「えっと――ごめんなさい」
ハムちゃんは小さな頭をグッと下げて地面につきそうなほどに下げて、そして謝罪をした。
「私も想定外です」
こっちも想定外だった。というかこちらの方が想定外で予想外だった。僕はわざわざ化学的な知識を身につけて危険な薬品をつくり、古代ギリシアまで行っていざこざがありながらもオリハルコンを手に入れて、そこまでしたことが全て無駄になるとは。
もうなんだか、なんだかだった。
ということで今に至る。
「えっと、君の名前は?」
僕はその白い球体に話しかける。その白い球体のことを“君”と呼んでしまっていいのか少しためらう。
「My name is Johnson-First.my owner call me No.0001」
「ジョンソンファースト?」
「Yes」
「英語しか喋れないのか。不便だなあ」
「What do you say?」
「なんだかまた厄介なキャラクターが来たな。ハムスターよりも接しづらいなあ。せめて日本語で話してくれればまだいいんだけど」
「たぶん言語設定が英語になってるんじゃないでしょうか」
と大吾郎は言う。
「言語設定?」
まるで機械のようだな、と思ってしまう。いや、この白い球体を生き物だと思う僕がおかしいのだろうか。
サイズも今までに登場してきた人物の中でも最も大きい。体積的に考えるならば真白さん8人分くらいはあるだろうか。
ちなみに身長的に言うならば、シンギュラリティさんが頭1つ分身長が高く、次に僕、真白さん、大吾郎、ハムちゃんである。
大吾郎は白い球体に歩み寄って話す。
「言語設定、日本語」
「承知しました」
ええ……。
こうも簡単に日本語を話すのか。もしもここに大吾郎がいなくて僕だけだったとしたら、言語設定が英語になっているということに気づくこともできずに、ただそっと山の反対側によけていただろう。
じゃまだからすみっこによけておこう!って。
僕は白い球体に――ジョンソンファーストに話しかける。
「ジョンソンはなんでそんな形なの?」
「はい、私はオーナーが望みの通りの形になっています。私はオーナーによってのみ私を制御することができます」
まーた面倒くさいキャラクターだった。
もうそういうお堅いのはコリゴリだった。僕はもっと楽しくてにぎやかな日々を望んでいた。その結果が人間1人に動物が2匹、さらに機械が1体。
もうこのままだと今度に来るのは微生物とかじゃないだろうか。さすがに微生物が来たら困ってしまう。もはや会話どころの話ではない。無言で殺菌スプレーのキャップを外してその中に微生物をぶちこんでしまうだろう。
「ねえ、ジョンソン」
「はい」
「僕が次に何を言いたいかわかる?」
「……」
ということで、とどのつまり、やはりこの白い球体も、また同じように「私は人間を呼ぶことができますよ」と言ったのだった。
「どうせ出せないんでしょ」
僕は投げやりに白い球体――ジョンソンに聞いた。
「はい」
「ええ……」
もう最近は呆れてばっかりだった。その問いかけに肯定するなら最初から登場しないでおくれよ。もう人外ばっかりで嫌になってくる。
僕は仕方がないのでジョンソンを山の向こうへと投棄することにした。が、実際にジョンソンに近づいてみると、彼は僕の数メートル上に浮かんでいて、直径100mはあろうかというほどに大きかった。
こんなもの、どうやっても運びようがなかった。ちょっとでも雑な対応をしたらよくわからないビームを出して焼き殺されてしまいそうだ。
たった今をもって僕とジョンソンの主従関係が決定してしまった。
「ジョンソンさん、人間を呼びだすの、お願いしてもいいですか」
「分かりました」
なんかもうダレてきたので早く終わらしてくれ……と祈りながらジョンソンが人をこの惑星に呼ぶのを待った。
ジョンソンはその白かった体を少しずつ逃げようのない黒へと染めあげていく。それは数十分ほどで完全な黒へと変貌した。
その黒はジョンソンの体だけではなく、その周りの草木を、空を、山や花を、そして僕達をも染めあげた。
その黒に染められた僕の視界はなくなった。




