ハムスターはやべえ
「どうも、匍匐前進今永です」
……誰?
本当に初めてだった。というかそもそも漢字が読めない。匍匐ってなに?ブドウ?ぶどうまえすすみいまなが?
「ほふくぜんしんいまなが、です」
名前は分かったが、しかし名前しかわからなかった。どんな人物かも、どんな生き方をしてどんなものが好きで嫌いなのか、なにもわからなかった。
そもそも性別は分からなかった。というか人間?
その匍匐前進今永、というか今永は簡単に言って人のなりをしていなかった。ハムスターの見た目をしていたが話し方は人間のようにスラスラと、変な訛りもない。そして見た目と不釣り合いなゴツイ名前。
もうどこから突っ込んでいいのか分からない。
しかし、その状態にあったのは僕だけではなかった。僕の横にいた大吾郎も同じような表情をしていた。
どうすんだこれ……。
真白さんの存在が急務であった。
きっとここに真白さんがいたならば、カワイイ~とかって言いながら片手でハムスターを握りつぶしていただろう。
ぐちゃあ、って。
まあ、これ以上の言及は避けるけども。ハムスターを握りつぶした時の正確で詳細で繊細な描写なんて誰も望んでいないだろうからやらないけども。
結局このハムスターは誰なのか。
今のところ、この惑星には人間が1人に、ハムスターとチンパンジーが1匹ずつ。全員会話ができる。
異様だった。
僕からしたら地球を飛び出して生活すること自体、異様そのものだったため、今更なんだっていう話でもあるが。
「それでハムスター」
「なんですか?」
「君は一体だれで、なんのために来たの?どうやって来たの?」
「え?ちょっと聞こえません」
どうやら僕とハムスターの間にはずいぶんと距離があったようで、というかハムスターと僕には身長差がだいぶあったため、どうしても聞こえ辛いようだ。
僕は地面に寝そべってハムスターと僕の顔が真横にあるような状態になる。このままハムスターにハムパンチを食らってしまえば鼻の穴にハムハンドが入ってしまいそうだ。僕はもう一度ハムに話す。
「あなたは誰ですか?」
「種族的に言ってしまうならば、私はハムスターです。所有者からは試験番号0800と呼ばれています」
「君は試験体なの?」
「はい。私は所有者と意思共有体です。私の言動は全て所有者と同じになるように制御されています」
「なんで君はここに来たの?」
「私は所有者に命じられてここに来ました。しかし私も所有者と意思を共有しているため、これは私の考えでもあります」
「なぜ所有者は君をここに連れてきたと思う?」
「それは私が及ぶことではございません」
…………。
なんかガチっぽい人が来たな……ハムスターだけどさ。
物語がガチガチに進みそうな気がするけど、正直言って今回の主人公は僕じゃないよね。誰かと聞かれれば分からないけどさ。
「それじゃあ、ハムスター」
「あの、できれば匍匐前進今永って読んでもらえますか」
「ハムちゃん」
「それならオッケーです」
「というか、匍匐前進今永って誰が名付けたの?所有者には試験番号0800って呼ばれてるんでしょ?」
「この名前は私が独自に名付けました」
名前をつけるセンス0かよ。とりあえず難しい漢字を使っておけばいいという、中学生的で不良的な発想だった。
「じゃあさ、ハムちゃん。僕はこれからどうしたらいいと思う?君の意見を聞かせてほしいんだけど」
そうすると、ハムちゃんは短い手で頭をクシクシと書きながら考えた。
そして閃いたように話しだす。
「結末から言ってしまうならば、全ては時間が解決してくれます。あなたはただ生存し続けることだけが、唯一のするべきことです」
やっぱりガチなやつだった。もういい加減そういうキャラに需要がなかった。少なくとも僕的には需要なかった。
いや、やっぱり需要ある。見た目がハムスターなだけあって、やはりカワイイ。みていて癒される。
癒しという概念すらないこの惑星に唯一の癒しがここにあった。
「ハムちゃんなにかカワイイことやってよ」
「ムキュ?」
「そんなにかわいくないな……」
そもそも僕はハムスターがあまり好きではなかった。めっきり小動物に過剰なまでに癒しを感じることもなく、それとて癒しを感じるとしたら、黒髪ロングの女の子にのみ尽きるというものだ。
というわけで次は女の子来てくれ!女の子!
「なあ、大吾郎」
バナナの木に登っている大吾郎に向かって話しかける。大吾郎はバナナキャッチに集中していたため僕の呼びかけを無視した。
僕はもう一度大吾郎を呼ぶが、しかし大吾郎は一度バナナキャッチモードに入ってしまうと周りが見えなくなってしまうタイプのチンパンジーだったようで、僕は仕方なしにバナナキャッチタイムが終わるのを見計らって再び話しかける。
「人間をこっちに呼べないものなの?」
「やっぱり無理ですねえ。生きてるものを運ぶのって結構難しいんですよね。主体ならまだしも。でも、腕とかをぶつ切りにして運ぶ分なら問題ないですよ。どうしても運びたいなら腕と足をぶつ切りにして運んだらいいんじゃないですか」
「そうなったらその人はこの惑星で蘇生したりとかできるの?」
「できるわけないじゃないですか」
……。
そんなの承諾するわけがなかった。もしもバラバラの真白さんが運ばれてきたら僕は失神して逆にぶつ切りになってしまう。
そこにはぶつ切りが2つ並んでいるだけだ。
じゃあいいです、と言って僕は草原に寝転がって空を見上げていると、僕の顔をよじ登ってくるハムスターがいた。
僕はハムスターの表情学に詳しくなかったが、しかしそんな僕にも分かるほどにハムスターは、私に聞いてくださいよというような顔をしていた。
しかし僕はそんなハムスターに構っている暇はなかったので、顔の上に乗っているそれを掴んで、そっと川に離した。
「えええええええええええ!!!!!!!!!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!!!!!!!!!!!!!」
そのハムスターは川の中でバチャバチャと泳ぎながら叫んでいた。
このままだと動物愛護団体に射殺されかねないので、よき頃合でハムスターを川から持ちあげた。
「てか、ハムスターって泳げるんじゃないの?」
「泳げません!」
どこかキレてるような表情で――というか普通に怒っているハムスターだった。自分が瀕死の危機にあったくらいでそんなに怒るか?
怒るか。
「それで、話はなに?」
僕はいよいよハムスターに問うた。
「ふふふ」
ハムスターはいよいよ聞いてくれた、というような表情をしながら不敵に笑った。というかハムスター、めっちゃ人の言葉ペラペラだな。その口のサイズで複雑な人間の言葉をスムーズに話すのがなんだかおかしくて笑ってしまう。
ハムスターは話す。
「私は地球から人間を呼びよせることができますよ」
え!
早く言えよ!
To be continued




