タイトルは難しい
タイトルつけるのって難しいですよね
僕は自転車と共に宇宙へと飛ばされていた。
急激な高度の上昇によって耳が痛くなるのかと思ったらそんなことはなく、急激な酸素絶対量の減少によって呼吸が出来なくなって苦しくなるのかと思ったら、そんなこともなかった。
自転車は後輪がグッチャリと潰れていて、自転車としての機能はとっくに期待できなくなっていた。
僕は宇宙へと飛ばされている最中、自転車に跨りながら考えた。
これからどこに行くんだろうか……。
僕も将来の予想をすることが得意な方ではなかったが、まさかまさかで宇宙に行くことになるとは思わなかった。
というより、予想できる人がいるのだろうか。
スペースシャトルにも人工衛星にも乗ったわけでもなく、まさかジープにぶつかって宇宙まで飛ばされてしまったという。
ジープを何キロまで加速させたら宇宙に行くことができるのだろうか。
というか、それ以上に僕の身体の頑丈っぷりに驚いてしまう。ジープにぶつかっても傷ひとつなく、酸素の薄い環境下でも呼吸することができる。
なんでもありだった。
自転車はダメージを受けてグッチャリしていることから、きっと僕の身体だけが超人的な硬さなのだろう。それか僕に主人公補正がバリバリに働いてチョッとしたことでは怪我をしない体質になっているのだろうか。
どちらにせよ、僕が今宇宙へと飛ばされていることに変わりはない。
さて、どうしようか。
なんだか、こんなこと前にもあったような気がする。いつだっただろうか、飛行機に初めて乗った時だっただろうか。それとも旭川でバスに乗った時だっただろうか。ああ、今となってはそれらも昔懐かしの思い出だった。
僕は富士山を横目に見ながら自転車の修理を試みようとした。しかし自転車は後輪だけでなくフレームもガタガタになっていて、せめて後輪とフレームの大部分を外してしまってカゴつきの一輪車としてならまだ活用できそうだ。
僕は主人公補正をふんだんに活用して自転車の後輪を外そうとした――が、しかし僕の主人公パワーでは自転車の後輪を外そうとして腕が疲れるので精一杯だった。
「はあ……」
僕は心からのため息をしてしまう。
やはり本当に暇だ。僕の最愛の生涯の伴侶であるところの真白さんは地球で僕のことを心配しているだろう。もう真白さんに会うことはできないのだろうか。やはり少し寂しくなってしまう。
もう会えなくなって初めて、僕は真白さんが本当に心の底から大好きだったのだと感じる。こんな、まるで友達感覚で結婚してしまったのだから、もしかしたら僕の真白さんに対する好きという感覚は友達としての好きなのではないか、と時々思うことがあったのだが、やはりこうしてもう一生会えなくなってしまう状況になってから、僕は真白さんを心の底から大好きだったと――愛していたのだと感じた。
しかしそんな思いとは裏腹に、僕は真白さんと会うことはできない。
いつもみたいに軽口を飛ばしあって、けなしけなされ、くだらないことで一緒に笑い合うことはもうできない。
なんだか、悲しくなった。
本当なら悲しくなる余裕などなく、これから始まる宇宙での生活にドキドキしなければならないはずなのに。
なぜそんな感想に至ったのかといえば、ひとえに時間が長すぎたのだ。もうかれこれ数十分は飛ばされている。
流石に飽きてしまった。
最初の方はワチャワチャと1人で焦り、その後に飛行機から地元を見ているような気分になり、いよいよもうすることもなくなった。
もう本当に暇だ。
じゃあ、真白さんの好きなところを挙げていこう。
まず1つ。
優しい。
これはある。
確かに、僕に対するおざなりな態度から、もしかしたら真白さんは性格が悪いのではないか、という感想を持ってしまうかもしれないが、それは僕と真白さんとの関係だからこそなせるものであって、例えば店員さんと話す時なんかは、非常に丁寧に接していた。僕もファストフード店でアルバイトをしていたことがあるから、真白さんのそういう態度は一緒にいた僕自身も嬉しくなってしまう。
次に2つ目。
話していて楽しい。
これはある。
僕と真白さんはことあるごとにペチャクチャと話しているが、四六時中、連日連夜話していても飽きることはない。話の内容としても難しい政治の話だったり、あまり人には話せないようなお通じの話だったり、ときには愚痴を聞いたり聞かせたりするときもある。しかしそのどれでも、話していて楽しいし、ついつい話したくなってしまう。その日にあったことや、僕の数日経てば飽きてしまう将来の夢、十八番の冗話、見切り発車してしまったオチのない単調な話でも嫌な顔一つせずにニコニコと聞いてくれる。僕はそれに本当に助かったし、僕もそういう人間になりたいと強く願ったものだ。
まあ、結果として僕はそのような人間になれたかどうかについては、それは僕の人間力の小ささから察してほしい。
さて、3つ目。
かわいい。
これはある。
結局のところ、結婚においてでも相手の顔が自分にとって魅力的かどうかというのは非常に重要なファクターである。例えば朝起きたとき、横に……いや、人の悪口を言うのは僕の趣味ではないから避けよう。これは僕の真白さんへの愛を伝えるためであって、他の人の悪口をいいたい訳ではない。とにかく、真白さんは本当にかわいくて、食事中に真白さんの顔を見過ぎて料理をこぼしてしまうこともあるくらいだ。もちろん、僕のパソコンやスマホの背景は真白さんの笑顔だ。
ん?スマホ?
僕はズボンのポケットをポンポンと軽く叩いて、その目的のものを探す。それはズボンの後ろポケットに入っていた。
あった。
それは大方の予想通りにスマートフォンである。
僕はスマートフォンの電源を入れて真白さんの笑顔を眺める。心の隅に眠っていた気持ちが目覚めたのが分かった。
それは、僕が知らず知らずのうちに緊張の糸で縛りつけていて、ずっと表に出すことがなかったものだ。
ああ、そうだ。
僕の両目から涙が流れる。
僕は本当の本当に、真白さんが大好きだったんだ。もう真白さんには会えないんだ。
寂しい。
悲しい。
もう一度声を聞きたい。
僕のことを覚えていなくてもいい。
僕を敵だと認識してぞんざいに扱ってもいい。
ああ、僕はどうでもいいから、もう一度真白さんの声を聞きたい。真白さんの姿を見たい。真白さんを抱きしめたい。
もう真白さんと会えないのは嫌だ。
地球を離れるのは寂しい。
僕はこれからどこに行くのかは分からないが、とにかく僕は真白さんと離れることになる。
ああ。
僕は地球に戻ることはないだろう。
しかし僕は、それでいて覚悟を決めなくてはいけない。これからどこの星に行くのか、それともどこにも行かずに宙をさまようだけなのか、僕には分からない。
たとえどんな場所に行こうとも、僕はそこでしっかりと成長して、もしかしたら僕のところへと再びやってくるかも知れない真白さんに顔向けできるようにしなくてはいけない。
真白さんは僕のどこに惚れたのか、結局一度も聞いたことはなかった。しかしこれだけは言える。
真白さんはすぐに諦めてしまう僕のことを好きではないだろう。
僕は涙で濡れていたほほを袖で拭った。
もう結構なほどに上空まで進んだためかその涙は固まって氷になっていた。袖で拭うと、パリパリと音がして、手にひんやりとした感触が伝わってきた。
覚悟を決めた僕の瞳で見た空は、地上で見るどの景色よりも青かった。




