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『理論魔導 ~元理科教師が解き明かす、異世界魔法の仕組み~』  作者: 迫力くん


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第006話 不足ではなく差

 翌日の午後、俺は眠気をこらえ、昼寝の寝台から抜け出した。


 四歳の体は眠りたがっていたが、今日は祖父の手記の続きを読みたい。


 朝の粥を飲んでいる時も、ローザに髪を直されている時も、昨日の一行を思い出していた。


 同じものが、ある場所では多く、ある場所では足りない。


 祖父は何を比べて、そう書いたのだろう。


 書房へ行くと、扉は昨日と同じように少し開いていた。


 廊下に誰もいないのを確かめ、真鍮の取っ手を押して中に入る。


 古い紙と革の匂いがして、窓からの日差しが棚の下まで届いていた。


 日差しに白く照らされた埃の間には、淡い金色の魔素の流れも見える。


 俺は机に近づかず、昨日と同じ棚へ向かった。


 下から二段目の本を少しずらせば、奥に黒ずんだ革表紙がある。


 今度は探さずに手記の端へ指をかけ、棚板に片膝を当てながら両手で引いた。


 抜けた手記を腹で受け止め、床に座って膝に乗せた。


 表紙の内側には、ガスパール・ヴァルトラムという祖父の名があった。


 その次にある昨日の一行を確かめてから、俺は少し下へ目を向けた。


 紙の端は波打ち、文字もかすれているので、破らないようそっと押さえて読む。


「熱いと冷たい、動くと止まる、沈むものと浮くものは同じものの多さと少なさ」


 長い文を声に出すと、途中で息を継ぐ必要があった。


 熱い粥に舌を引っ込めることも、井戸の水で指が冷えることも知っている。


 木の車が坂を転がるところや、濡れた布が水を吸って重くなるところも見た。


 でも、何が多くなったり少なくなったりすると、その違いが生まれるのだろう。


 この世界の言葉をまだ覚えている途中の俺には、文全体の意味をつかみきれなかった。


 前世の知識とつながりそうなのに、祖父の言いたいことをうまく説明できない。


 もどかしくなりながら、俺は指を次の行へずらした。


 今度は短い文だった。


「呼び名は人が後からつけた」


 ローザは俺を坊ちゃまと呼び、父はリュカと呼ぶ。


 兄が弟と呼ぶ時も、指しているのは同じ俺だ。


 先に俺がいて、人は俺をそれぞれ違う呼び方で呼んでいる。


 それなら、火や水も同じなのだろうか。


 祖父はその名前を覚えるだけで納得せず、なぜ熱かったり冷たかったりするのか知ろうとしたのかもしれない。


 何と呼ぶかより、どうしてそうなるのかを確かめたい。


 それは俺も、ずっと考えていたことだった。


 俺は手記から目を離せなくなった。


 祖父がどんな人で、何を知っていたのかは、まだ分からない。


 それでも、この二つの文を書いた人なら、俺の疑問も聞いてくれたかもしれない。


 家族と一緒にいると安心するし、皆が俺を大事にしてくれているのも分かる。


 ただ、空気の中に見える薄い光のことは、まだ誰にも話せずにいた。


 洗礼の朝に大人たちが黙った理由も分からず、何を聞けばいいのか迷ってしまう。


 光を見ながら考えたことも、結局は一人で抱えていた。


 俺より先に、同じように疑問を持って考えた人がいたのかもしれない。


 そう思うと少しほっとして、同時に、もう会って話せないことが寂しくなった。


 泣くつもりはなかったのに、一筋だけ涙が頬を伝った。


 紙へ落ちそうになり、俺は袖で頬を押さえた。


 手記を持ち上げて、紙が濡れていないのを確かめる。


 そのまましばらく眺めていると、廊下の遠くで床板が鳴った。


 俺はもう一度、二つの文を目で追った。


 まだ全部は分からないが、ここで諦めたくはない。


 明日も来て、今日読んだ言葉をもう一度考えよう。


 俺は手記を閉じ、両手で抱えて立ち上がった。


 棚へ戻す途中で冊子の角が隣の本に引っかかり、少し引いてから斜めに差し直した。


 手前の本も元に戻すと、手記はまた棚の奥に隠れた。


 床に落ちた埃を袖で払ったので、袖も汚れてしまった。


 俺は扉を昨日と同じくらい開けたまま、書房を出た。


 鼻には古い紙の匂いが、頬には涙の通った冷たさが残っていた。


 明日もあの手記が待っていると思うと、廊下を歩きながら少し気持ちが軽くなった。


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