六週目
「今週の竜は、ドラゴンよ!」
ミルファ、だからその下りはって、ドラゴン?
「え、名前は?」
「だから、ドラゴンよ」
そのまんまじゃねぇか!カタカナにしただけかよ!
「ちなみに、おばあちゃんの方は?」
「竜よ」
おばあちゃんもそのままかよ!なんかもっとあっただろ、毎週ドラゴンが出る世界なんだから!
まあいい、その下りはもういいんだ。とりあえず倒しておくか。報酬も手に入るし。
ドラゴンは今までで一番小さくて、当然のように瞬殺だった。
今は毎週のドラゴンはどうでもいい。今なら、どうせデカドラゴンが来ても倒せるんだ。
さっさと倒して、金をもらうだけの存在だ。気にする必要はない。
重要なのは、俺の最強を維持すること。
今までは、俺がさらに強くなることを考えていたが、逆はないだろうか。
周りが強くなるのを防げば、結局俺は最強のままだ。
それを防ぐためには、周りが強くなっている原因を探らないといけないわけだが、普通に考えると、あの道場が怪しい。
道場自体が毎週二倍ってうたってたしな。しかも、どこにでもあって、誰もが通っている。
あの道場のせいで、みんなが二倍になっている、というのはあり得る話だ。
道場に通っていない人もいるだろうが、道場に通っている人が大半だったら、自然と周りの強さが上がるのに合わせて強くなる、というのはあり得ない話ではない。
ともかく、今のところ俺にはあの道場以外に怪しいところを見つけることはできない。
とはいっても、さすがに道場を物理的に壊すのはダメだ。
俺は最強だから能力的には簡単にできるだろうが、ドラゴン以上に危険なやつになってしまう。
そんなことをしたら、ちやほやされるなんて夢のまた夢だ。絶対にあり得ない。
じゃあどうするか、という秘策は、実は考えてある。
「なあ、ミルファ。この魔術院は、おばあちゃんの残したもので、今は寂れちゃってるのがちょっと悲しいんだろ」
「何よ急に!そうよ。おばあちゃんは、すごい魔術師だったんだから!それなのに、最近はこの魔術院のことを知らない人も増えてきちゃって、ギルドが竜の名称変更を断ってくることもあるくらいなの……」
うん。おばあちゃんがいなくなって、寂れてきちゃって悲しいのは同情するよ。
そこは完全に同情する。でも、名称変更を断られてるのは、お前の名前がダサいからだろ!
というか、断られてるのを知ってるなら、俺にちゃんと伝えとけよ!デカドラゴンの悲劇は起こらなかっただろうが!
とりあえず、今回の本題はそこじゃない。
「だったら、俺がこの魔術院を宣伝するようなことをしたら、協力してくれるか?」
その言葉に、ちょっとうつむいていたミルファが目を輝かせてこちらを見る。
「なになに!何かしてくれるの?この魔術院が有名になるなら、何でも協力するわよ!」
よし、言質は取れた。まあ、ミルファは多分大丈夫だろうと思っていたけど。
「後でまた言うから、期待しておけ。ちょっと出かけてくる」
「いってらっしゃい!早く教えてね!」
そう言って、いつも以上のテンションで送り出された。
次に会うべきは、ニックだ。
ニックが泊まる宿に向かう。
「あ、ルインさん!道場はどうでしたか?」
「ああ、いい道場ではあったな」
俺には何の役にも立たなかったけど。道場自体は悪くなかったのは事実だ。
「今、ルインさんを見習って魔法の勉強を始めて、身体能力を底上げする補助魔法を練習してるんですよ」
「おお、それは良かったな。がんばってくれ」
今はニックの話を聞いている暇はない。道場を何とかする必要があるんだ。
「その道場の話なんだがな。今でも経営は、そのガルドさんがしてるのか?」
「そうですよ」
俺の話の転換に、ちょっとニックが首をかしげたが、答えてくれる。
「どこに行ったら会えるかな?」
「ガルド流武術道場の本店に行けば会えるはずです。そこでは、ガルド様自ら今でも教えているはずですよ」
なんか、道場で本店って響きは嫌だな。
でも、あの予備校的な感じなら、本店の方が合ってるか。
とりあえず、経営してるガルドさんに直接会うことはできそうだ。
会ってうまくいくかが問題ではあるが、とりあえず行かないことには話は始まらない。
当たって砕けろだ。
「その場所を教えてくれ」
そう言うと、ニックは地図を書いてくれた。
俺はニックと別れて、地図にある道場本店に向かった。
本店っていうから、なんかガラス張りのでかいビルみたいなのかとちょっと警戒したが、そもそもこの世界にはそんなものないんだった。
それに、この前行ったところよりも小さくて、古びた建物だ。
最初に開いた道場の建物が、そのまま残ってるって感じだ。
近づくと、道場の前に掲げてある木の札に、ガルド流武術道場と達筆な文字で書いてある。
うん。これだよこれ。道場といったら、こっちの方がいいでしょ。Sランク輩出!とかよりずっといい。
扉を叩くと、中からガタイのいい若者が出てきた。
「何か用かい?」
「この道場のガルドさんに会いたいんだが」
「入門希望者か?悪いけど、ここは誰でも入れるところじゃなくて、他の道場で一定以上学んでからじゃないとダメなんだよ」
なるほど。あれだけ展開している道場だ。本店には人が殺到してしまうだろう。
きっと、他の道場で認められると、ガルドさん本人に見てもらえるってことなんだろう。
「いや、入門じゃなくて、ただ会いたいだけで」
「どういうことだ?そう言われても、そう簡単に師範に会わせるわけには……」
なかなか通してくれなさそうだ、と思ったら、その後ろから声がかかる。
「何だ?私に会いたいって?今どき直接ここを訪ねてくるなんて、なかなかいないぞ。通してやりなさい」
後ろから渋い声が聞こえてきた。ガルドさんの声だろう。
それを受けて、若い男が、はい、と答えて俺を通してくれた。
ガルドさんは白髪で、だいぶ年を取っているようだが、体つきは年齢に見合わない、立派なものだった。
顔も若々しく、頬にある傷が歴戦の勇者といった感じを出している。
確かにこの人に教えてもらったら、なんかめちゃくちゃ強くなれそうな気がする。
「それで、用というのは何だね?」
圧に押されそうになるが、今は俺が最強なんだ。そう簡単に押されるわけにはいかない。
「実はな、うちの魔術院と提携してほしいんだ」
「魔術院?悪いが、うちの道場はこれでもそんなに小さな道場じゃないんだ。見知らぬ魔術院と提携なんてできないよ」
ガルドさんは優しく言ってくれてるが、当然だろう。
小さい道場じゃない、なんて謙遜気味に言ってるが、そんなレベルじゃないのは俺でも分かる。
だが、ここは引くわけにはいかない。ミルファの言ってる、おばあちゃんは有名だったという言葉を信じるんだ。
「ミンダレイ魔術院というんだけど、知らないか?」
そう言うと、周りの弟子たちがざわめいた。ガルドさんも目を見開いている。
おばあちゃん効果、あるぞこれは。
「ミンダレイって……あの?ミンダレイ女史が亡くなられてから話を聞くことは少なくなったが、まだ存続しているのか?」
「ああ、ミンダレイさんの孫が受け継いでな。その様子だと、知ってはいるみたいだな」
「当然だとも。ミンダレイ女史は、我々の世代では憧れそのものだ。彼女が屠った竜の数は、数え切れない。優れた魔術師でありながら、当代最強の勇者でもあった。こんな道場で名が知れたから、今では私の方が知られているが、私なんて足元にも及ばんよ」
マジかよ。おばあちゃん、想像以上にすごすぎるんだが。
この調子ならいけそうだ。
「それは良かった。それでな、その孫が、ミンダレイさんの魔術院が寂れてるってずっと悲しんでるんだよ。協力してくれないか?」
「ミンダレイ魔術院になら、喜んで協力したいが……君は一体、何者なんだ?」
「俺は、ルイン。あの魔術院で修業してる者だ」
「ルイン……当代の勇者パーティの一員か。気配からただ者ではないと思っていたが、納得だ。それもミンダレイ魔術院出身とはな」
お、俺の名前もちゃんと知られてるじゃん!
しかもデカドラゴンとしてじゃなく!この人、めちゃくちゃいい人そうだぞ!
「それでだ。提携といっても、簡単なことをお願いするだけだ。この道場の命名権を、ミンダレイ魔術院にくれないか?いくらか金が必要なら、当然払う」
「命名?道場の名付けをするということか?それだけでミンダレイ魔術院の役に立てるなら、お安い御用だ。金なんていらんよ。ミンダレイ女史がつけた竜の名は、どれも美しかった」
よし!すんなりうまくいったぞ!
この人がいい人すぎて、この後がちょっと申し訳なくなってくるが、俺の最強のためだから仕方ない。世界も救われるし、許してくれ。
なんか球場とかに企業が命名権を買うって話を聞いたことがあったから試してみたが、すんなりいったな。
後は帰ってミルファに頼むだけだ。
早速俺は魔術院に帰る。
「ミルファ、さっき言ってた話、いい感じにまとまったぞ」
「何?私は何をすればいいの?」
うんうん、ミルファも乗り気だ。
「ガルド流武術道場って有名なところ、知ってるか?」
「当然よ」
「あそこにミンダレイ魔術院が名前をつけていいことになった。めちゃくちゃ強そうで、最高にかっこいい名前をつけてやってくれ!」
ミルファが目を輝かせる。
「すごいじゃない!あれだけ有名なところに名付けられるなんて、魔術院の名も上がるわ!ちょっと待ってね、最高の名前を考えるわ!」
よしよし。期待どおりの反応だ。今回は俺の作戦がうまくいきすぎて、怖くなってくるレベルだ。
「あの道場の新しい名前は、ガルドレジェンドブレイブゴッドマッスルS級輩出アルティメットソードマジックアローチート最強勇者量産ハイパーインフィニティガルド流超絶チート武術道場よ!」
おおおおおお!いいぞ!めちゃくちゃダサい!
ガルドで謎にサンドされてるし、S級輩出が名前に入るとダサさが増すし、チートが途中に何度も挟まってる!
完璧だ。完璧すぎるぞ、ミルファ。
こんな名前になったら、あの武術道場、閑古鳥が鳴くに違いない。
これで、周りの冒険者たちの戦闘力が、全然上がらなくなるぞ!
早速ガルドさんのところへ持っていくと、ガルドさんは顔を青くしていたが、引き受けてしまった手前、何も言えないのか、そのまま名前が変わった。
今週の残りは焦りもなく、ゆっくり遊んで暮らせば完璧だ。
後は勝手に、周りが二倍じゃなくなるはずだ。
「おい、ミルファ。一仕事終えたし、屋台でも行こうぜ」
「それはいいわね!行きましょ!」
【六週目の戦績】
ルインの戦闘力:1,000,009
世界の平均戦闘力:32
現在の称号:伝説レジェンド最強チート強すぎダークネスアルティメットゴッドハイパーインフィニティブレイブチート勇者
※今週はミルファが新しい称号を授けなかったので、戦闘力が戻ったのに合わせてルインが勝手に復活




