五週目
「今週の竜は、セイクリッドホーリーシャイニング最強ミラクルチートゴッドジャッジメントブレス強すぎアルティメットドラゴンよ!」
いや、もうその下りをやってる余裕は俺にはないんだって。
ん?ちょっと待て。今週の竜の名前も長いな。デカドラゴン以来の最強と強すぎが入ってるし。
もしかして、結構強いのか?
「なあ、そのドラゴンの戦闘力は?」
「千六百ね!世界の平均が十六だから、百倍ね!」
うお、普通に最初のデカドラゴンを超えてるじゃねぇか!
この調子でいったら、近いうちに俺、負けないか?
ミルファだけがいつもの調子なのがちょっと腹立つ。俺の焦りを共有しろよ!
俺が倒せなくなったら、どうするんだよ、このドラゴン。
というか、毎週ドラゴンが出てくるのに、今までどうしてたんだろう。
「なあ、俺が来る前もドラゴンは現れてたんだよな?」
「そうよ」
「どうやって倒してたんだ?平均よりはずっと強いだろ?」
「そうね。現れてすぐに一人で倒すのは絶対に無理ね。大勢で倒すか、何週間かかけて倒すかのどっちかじゃない?」
「何週間かかけるっていうのは、どういうことだ?」
「一度現れた竜は、戦闘力がそのままなの。だから、毎週二倍になっていくから、そのうち簡単に倒せるようになるわ」
なぜそうなのかはよく分からないが、倒せる理屈は分かった。
今の千六百のセイクリッドも、数か月もすれば誰でも倒せる雑魚敵になるってことね。
「そのうち雑魚になるなら、それで別にいいんじゃ?」
「ダメよ!竜が引きこもってくれてるならいいけど、時々街の方に出てきて暴れるのよ!竜に暴れられたら大変だから、報酬を出して何とか冒険者に倒してもらってるの!」
確かに、あれが暴れたらって考えたら、災害どころの騒ぎじゃない気がする。
「よくこの世界、滅びずに済んだな」
「本当に大変だったのよ!だからあなたを呼んだの!」
なるほど。だったら、なおさら俺がドラゴンに抜かれたらやばいじゃないか。
俺だってドラゴンに怯える異世界ライフはごめんだ。最強無双がいい。
でも、手詰まりなんだよなぁ。普通の強くなり方じゃ、そのうちこの世界の平均と変わらなくなってしまう。
もしあの道場に通い続けたら、俺の方が百万は高い状態になるんだろうけど、何か月かしたら百万なんてきっと誤差だろう。
少なくとも平均の何倍もあるドラゴンには、絶対勝てなくなる。
「何か、道場みたいに固定値で強くなるんじゃなくて、本当に倍とかになる方法を探さないと……」
「戦闘力が倍になる方法?あるわよ?」
え、あるの?あるなら言ってよ!
だからミルファは焦ってなかったわけ?
「私が発明した、戦闘力が倍になる薬があるわ!」
ミルファ、すごすぎだろ。毎週それ飲んだら完璧じゃん。
「自分でたくさん作るのは無理だから、作り方を教えてあげて、王国運営の直売所で今は売られているわ」
早速そこに行って買ってこよう!
「あ、でもそんなに万能の薬じゃなくて、いろいろと……」
なんかミルファが言ってるが、戦闘力が二倍になる薬があるなら何も問題がない。早速出発だ!
俺は魔術院を飛び出して、直売所に向かった。
ちょっと走ったところで場所をミルファに聞くのを忘れたことに気づいたが、何とか人に聞いてたどり着いた。
酒場みたいな建物に、国営薬品直売所と書かれた看板が掲げられている。
薬を売っているはずなのに、なぜかめちゃくちゃ騒がしく、人が多い。
入ると、叫び声がたくさん聞こえてきた。
よっしゃー!きたきた!
うわわぁぁぁぁぁぁぁ!もう三連続だぞ!
どういうこと?何で薬屋でこんな叫びが聞こえてくるの?
人垣をかき分け、売り場に向かう。
売り場には、ミンダレイ魔術院開発 戦闘力即倍薬と書いてある。
ミンダレイというのは、ミルファのおばあちゃんの名前だ。
おばあちゃんがいなくなった後も、魔術院の名前はそのまま使っているようだ。
こんなふうに書かれるなんて、やっぱりおばあちゃんはすごい人だったらしい。
そして、薬の名前の下に、気になることが書いてあった。
薬は自己責任でお飲みください。いかなる効果があっても、王国は一切の責任を負いません。
何これ、怖すぎるんだけど、飲んだら死んだりしないよな?
さすがにこれを見て、すぐ飲もうという気はなくなった。
隣にいる人に、ちょっと話を聞いてみよう。
「なあ、この薬って」
「なんだ、あんたも運試しに来たのかい?」
「運試し?どういうこと?戦闘力が二倍になる薬じゃないのか?」
「おいおい、知らずに来たのかよ。確かにこれを飲んだら力が湧いてくるがな、それは運が良ければ、だ。運が悪いと、逆に力がなくなる。多分、半分くらいに」
なんだよそれ!薬の効果が運ゲーかよ!
もしかして、さっき叫んでたのはそれか?飲んだ後にうまくいったかどうかで騒いでるのか?
確かに強さが一気に倍になるか半分になるか、冒険者からしたら生死を分ける違いだ。
あれだけ魂のこもった叫びになるのも分かる。
どうする。俺も飲むか、飲まないか。
半分になってしまったら、ドラゴンに抜かされる日はさらに近くなる。
だけど、倍になる手段は他には思い浮かばない。
くそ……どうすれば……。
「なんだい、兄ちゃん。話を聞いて怖気づいたのかい?最初から失敗することを考えるなんて、案外度胸がないんだな」
俺が尻込みしていると、さっきの男にそう言われた。
確かに、ここまで来てビビってどうする。最初からうまくいかないと決まったわけじゃない。
うまくいけば、一気に倍、二百万。さらに最強だ。
一歩前に出て、店員に声をかける。
「戦闘力即倍薬、一つくれ」
「はい、どうぞ」
そう言って、水色の液体と緑の液体を手渡された。
「こちらの水色の方が、戦闘力即倍薬です。こちらの緑色は確認薬です。確認薬が甘ければ望んだ効果が得られていて、甘くなければ得られていない、ということになります」
なんかちょっとまどろっこしい説明をされた。
確かに、失敗とか成功とか、店員からは言いにくいか。
要は、水色を飲んで、その後緑を飲めば、成功か失敗かが分かるらしい。緑が甘ければ二倍、甘くなければ半分だ。
よし、飲むぞ!
一気に水色の薬を口に含み、飲み干した。
水色の薬の方は、すっきりしていて飲みやすい味だった。
ちょっと酸味があるけど少し甘いような、スポーツドリンクに近いかもしれない。
飲み物としても全然いける。
「おお!兄ちゃん、やるねぇ!本当に飲むとは」
さっきまで俺を煽ってた男が、そう声をかけてくる。本当に飲むとはって何だよ。
お前、危ないと思ってたのに俺のこと煽りやがったな。
まあいい。もう飲んじまったんだ。仕方ない。
その後、緑色の薬を口に入れた。
味は……。
甘い!甘いぞ!滑らかな果物みたいな甘さで、それでいてしつこくなく、いくらでも飲める甘さ。
このうまさを味わった上に戦闘力が二倍!
最高だ。最高の気分だ!
「よっしゃぁぁぁぁぁ!」
周りで叫ぶ声の雰囲気もあって、俺も大声で叫んだ。
周囲もそれでさらに勢いづく。
「おお、成功か!やるな!でも、一回だけじゃまだ終わらないだろ?倍になったくらいじゃ人生は変わらないぜ?」
また隣の男が言ってくる。
いやいや、何言ってるんだ。二百万だぞ。十六のお前らとは違うんだ。百万が二百万になったんだぞ。
もうこれで終わりだ。この後下がってしまったら、元も子もない。
俺がそのまま立ち去ろうとする。
「おいおい、本当にいいのか?俺は、連続で成功したってやつを何度も見てきたぞ。一発目でうまくいくようなやつは、何かが違うんだ。大抵、次もうまくいく」
何だって?本当か?それなら、やっておいた方が得か?
確かに一回成功して二百万は大きい。だが、倍は結局一週間。一週間、俺の最強が延びただけだ。
本当に最強を維持するなら、何度も成功し続けて、当分は追いつけないくらいにならないといけない。
それなら、一本ってわけにはいかないだろう。
「戦闘力即倍薬、五個だ」
「かしこまりました!」
店員が、明るい声で薬を五個出してきた。
よし、この五本も一気にいけば、六週分だ。だいぶ大きいぞ。
周りもざわついてきた。
あいつ、五本買ったぞ。
どうなる?
全部成功とか、あり得るのか?
ふふふ。俺がここでもまた、伝説を作ってやろう。
一本目の薬を一気に飲み、そして緑の薬を飲む。
ん?この味は……。
にっがぁぁぁぁぁぁぁ!
苦すぎる!なんだこれ、飲めたもんじゃない!
くそ!しかも苦いってことは失敗か。せっかく増えたのに、元に戻ったか。
大丈夫。また成功すればいいだけだ。
水色を飲み、緑色を飲む。
にがががががが!
嘘だろ!?二連続失敗だと!?どうなってる。最初がいけたやつは連続でいける理論はどうなった。
おいおい。さすがに次は成功しないと、洒落にならないぞ。
震えながら水色を飲み、緑色を飲む。
甘い!甘いぞ!おおおおおおお!
うますぎる!なんだこの味は。あの苦みを乗り越えた後のこの味!さっきよりも格段にうまい!
うまい!うますぎるぞ、この薬!
次の二本はどっちも苦かった。
まずい。勢いで五本飲んだが、今のところ成功二回、失敗四回。つまり失敗が二回多い。
ってことは、元々百万が二回半分になって、二十五万!?
嘘だろ。俺の戦闘力、もう二十五万?
減りすぎだろ。一時期は二百万あったはずの俺の力が……。
「一気に五本はちょっとやりすぎたな。最初の連続が失敗したら、次は流れを読まないといけないんだ。俺はずっとここに通って、法則を見てきた」
さっきの男がまた声をかけてきた。
そうか。やり方が良くなかったのか。
さすがに五連続成功を夢見たのが良くなかった。一回流れが悪くなったのに、そのままいけると思ったのが失敗の元だ。
この男、いろいろ分かってるみたいだ。法則ってやつを教えてもらおう。
「なあ、その法則ってやつを教えてくれ」
「仕方ないな。この薬の成功と失敗には、流れがあるんだよ。よくここから観察してみろ」
しばらく、喜びや悲しみの叫び声を上げる連中を見ていたが、よく分からない。
普通に成功したり、失敗したりしてるような気がする。
「全然分からないな」
「まあ、素人じゃ仕方ないか。特別に教えてやるよ。今、失敗が四回続いてるだろ?」
「ああ」
「これは失敗の流れだ。これが五回続いて、次に成功が来たら、次は成功の流れになる」
「つまり?」
「五回失敗の後、成功が来たら速攻で買え。確実とは言わないが、かなりの確率でうまくいく」
おおおおおお!素晴らしい理論だ。
流れを読むっていうのは、そういうことか。なるほど。この男、天才かもしれないな。
次に薬を買ったやつは、失敗して叫んでいた。
そして、次は……成功だ!
よし、今だ。
「薬をくれ」
即座に薬をもらい、それを飲む。
甘い!本当に甘い!この男、本当に天才だったぞ!これならいける!
その後、俺は何度も男の流れ理論を使って薬を買った。
普通に成功したり失敗したりしたが、確実じゃないと言っていたから仕方ない。
うまくいくときはうまくいっているし、着実に戦闘力が増えているはずだ。
有り金を使い果たすまでやったら、いつの間にか男はいなくなっていた。
満足して家に帰り、ミルファに声をかける。
「なあ、俺の戦闘力は?」
「本当にあの薬を飲んだの?まあいいわ」
そう言って水晶玉をのぞき込む。
「31,250ね!」
は?三万?三万って言った?
嘘でしょ?あんなに成功したのに?
くそが!あの男、全然天才でもなんでもないじゃねぇか!
「だいぶ失敗したようね」
「そんなはずは……いや、というか、三万ってどうすればいいんだ、これ!」
「平気よ。あの薬、一日寝たら効果は切れるもの」
「何だよそれ!」
「だって、説明を聞かずに行っちゃうんだもん!それに、いくらでも戦闘力が増え続けるわけでもないわ!そんなに万能な薬、あるわけないじゃない!」
おいぃぃぃぃぃ!俺のあの時間、なんだったんだよ!
なんかミルファに話を聞いたら、冷静になってきた。
これに関しては完全にミルファの言うことが正しいな。
でも、ミルファの方が正論を言ってるの、なんか悔しい!悔しすぎる!
「ま、すぐに戻るとはいえ、今の状態の称号をつけてあげなくちゃ!」
「お、おい、やめろ。明日には戻るんだから、いいだろ、今のままで」
俺が抗議するも、ミルファは無視して続ける。
「あなたの称号は、伝説インフィニティブレイブチート勇者ね!」
うわあああああああ!めっちゃ短いじゃん!
まだチートは残ってくれたけど、割と普通になってきちゃってる!
ダメだ。もう、あの店に行くのはやめよう。
【五週目の戦績】
ルインの戦闘力:31,250(一時的に低下中)
世界の平均戦闘力:16
現在の称号:伝説インフィニティブレイブチート勇者




