四週目 ②
俺は、ニックに会うために宿屋に向かった。
宿屋に入り、前にみんなで話した部屋を訪ねると、ニックが出てきた。
ニックの姿は前から特に変わった様子はない。
良かった。こいつは王侯貴族になっていない。
「あ、ルインさん。どうかしましたか?」
「ああ、今日はニックがアルトとセリアと通ったっていう道場について聞きに来たんだ」
「どうしてまた?」
いきなり話を切り出すと、ニックは不思議そうに首をかしげてきた。
確かに急に道場の話を切り出しても、よく分からないか。
「ニックやこの世界の人たちが、どうやって強くなってるのか知りたいんだ」
「僕が? この世界って、どういうことですか?」
まずい。異世界から来たって話は、俺を呼び出したミルファにした通じないんだった。
説明しようとしたら、普通に思っていたことをそのまま言ってしまった。
ちょっと軌道修正しないと。
「いや、俺は魔術院で一人で修業したからな。みんながどうしているのか、知りたくなったってことだ」
「別にいいですけど、ルインさん、もう十分強いじゃないですか」
「今のままじゃダメなんだよ! もっともっと強くならないと」
なかなか話が進まないので、焦れてくる。
「すごい。すごいです、ルインさん! あんなに大きい竜も一撃で両断してしまうほどの強さなのに、まだ強くなりたいなんて! 僕もその姿勢だけでも真似しないといけませんね!」
相変わらず尊敬された。
そういえば、俺をちやほやしてくれるやつ、ミルファの他にもこいつがいたな。
それじゃ全然ダメなんだよ。
まあいい。その話は後だ。
今はとりあえず道場のことを聞かないと。
「ああ、普段とは違う修業をしたら、もっと強くなれるんじゃないかってな。その道場は有名なところなのか?」
「はい! 僕の出身の村にもあるくらい、この国ならどこにでもある道場です。一昔前の勇者、ガルド様が開いた道場です」
「どこにでもあるってことは、そのガルドって人が教えてるわけではないのか?」
「ええ。ガルド流武術道場といって、師範代になった人が道場を開けるので、どんどん道場が増えてます。今、冒険者になろうって人は、基本的にみんなそこに通ってますよ」
うーん。フランチャイズみたいな話かな?
仕組みはともかく、とりあえずその道場が国中にあって、みんなそこで鍛えているらしい。
だったら、俺もそこで鍛えたら、同じように強くなれるはずだ。
「よし、じゃあ早速そこへ行ってくる。助かった」
「もう行くんですか? ルインさんは本当にすごいです! 僕はルインさんのように強くなるのは難しいだろうし、姿勢だけ見習って、補助魔法の勉強をしようかな」
「おう、がんばれよ」
ニックが補助魔法について何か話し始めたが、それに付き合う暇はない。
とにかく道場に急ぐことにした。
どこにでもあると言っていたので、一番近いところを教えてもらって、そこへ向かった。
俺は、ガルド流武術道場の前に来た。
道場と聞いて、小さな平屋の建物を想像していたが、意外と大きい。
そして、道場らしい古びた木の看板ではなく、「ガルド流武術道場」と、垂れ幕のように建物へでかでかと書かれている。
その横には、本物の垂れ幕がいくつも下がり、さまざまな宣伝文句が書いてあった。
勇者ガルドの戦い方が、基礎から分かる。
あなたもここで鍛えれば、毎週二倍強くなる。
伝説の勇者を輩出!
Sランクチーム所属者 二十七名輩出!
Aランクチーム所属者 百五十八名輩出!
他、Bランク多数!
なんか、道場っていうより予備校みたいな感じがする。
ちょっと、いや、すごく嫌だ。
世界が違っても、人を相手にする以上、宣伝文句は似てしまうのかもしれない。
それに、宣伝文句の中に、毎週二倍強くなるってあったな。
この世界の人はみんなここに通っているって言ってたし、これは期待できそうだ。
早速中に入ると、カウンターに受付嬢がいた。
「新規ご入会でしょうか?」
「ああ」
「コースはどちらをご希望ですか?」
コース一覧だと言って差し出された紙には、剣術コース、魔術コース、弓術コースなどと書いてある。
とりあえず、無難に剣術にしておくか。
「じゃあ剣術で。金はこれで足りるか?」
そう言って、ドラゴンを退治して手に入れた報酬の一部を適当にドサッと置いた。
受付嬢が一瞬固まる。
「え、ええ。大丈夫です。少々お待ちください!」
そう言って、ものすごい速度で俺が置いた袋を抱え、奥へ走っていった。
途中、別の受付嬢に何か耳打ちすると、その受付嬢まで驚いた顔でこっちを見る。
おお、迅速な対応だ。
これが人気の秘訣かもしれんな。
しばらくすると、さっきの受付嬢が戻ってきた。
「ご案内いたします」
連れていかれたのは、道場の中でも一番奥にある部屋だった。
途中、広い稽古場がいくつも見えたが、どこも何十人もの門下生がまとめて指導を受けている。
それなのに、俺が通された部屋には誰もいなかった。
「師範代、お連れいたしました」
受付嬢がそう言って扉を開ける。
中には、ガタイのいい、強そうなおじさんが一人で待っていた。
良かった。
ちょっとだけ、予備校みたいに机が並んでいて、勉強させられたらどうしようと思っていたところだ。
ちゃんと中は道場らしい。
「私がここの師範代をしております。基礎から、でよろしいでしょうか?」
師範代なのに、すごく丁寧だ。
さすが人気の道場。
「ああ、全然分からないから、教えてくれ」
「それでは、基礎から。まずは剣の握り方をお教えしましょう」
そうして指導が始まり、剣の握り方、体の鍛え方、剣の振り方など、いろいろなことを一対一で丁寧に教えてくれた。
とても分かりやすい。
それに、道場って怖いと思ってたけど、すごく優しい。
最強の俺だが、剣については知らないことだらけだったので、普通に勉強になった。
思いっきり体を動かしたらいろいろ壊してしまうのは学習したので、体に力は入れないようにして、教えてもらったとおりに型をこなした。
これなら、本当に強くなれそうだぞ。
俺は、それから六日間、真面目に道場へ通い続けた。
これで、俺も二倍強くなったはずだ。
ミルファに声をかけて、戦闘力を見てもらうことにした。
「なあ、ミルファ。俺の戦闘力を見てくれないか?」
「本当に体を鍛えてたの? いいわよ! 見てあげる」
そう言って、また大事そうに水晶玉を取り出してくる。
「あ、本当に戦闘力が上がってるわね! すごいわ!」
おお、やったぞ。
これで俺も最強を維持できる。
ずっと道場に通い続けるのはちょっと嫌だが、それも最強のためなら仕方ない。
「それで、俺の戦闘力は?」
まあ、二百万はかたいはずだ。
もしかしたら三百万とかいってるかもしれない。
何せ、六日間鍛え続けたんだからな。
「1,000,009よ!」
おおおおい! 九しか上がってないじゃねぇか!
二倍強くなれるんじゃないのかよ!
「でも、普通は八くらいしか上がらないんじゃない? 九も上がったなら、かなり丁寧に教えてもらったのね」
そこじゃねぇよ!
特別待遇で一多くなったところで、焼け石に水だろ!
二倍って、平均的な戦闘力八のやつが九上がったら、二倍以上になるって意味かよ!
百万の俺にも同じ九しか足されないなら、ほとんど誤差じゃねぇか!
「戦闘力も変わったし、また称号も変えてあげるわ!」
「おい、やめろ」
確かに九増えたけど、相対的に見たらめちゃくちゃ弱くなってるだろ。
「今のあなたは、伝説レジェンド最強チート強すぎダークネスアルティメットゴッドハイパーインフィニティブレイブチート勇者よ!」
うわぁぁぁぁぁ!
破滅だけ全部なくなった!
俺の名前を返してくれ!
ちなみに、道場はその後、速攻で退会した。
【四週目の戦績】
ルインの戦闘力:1,000,009
世界の平均戦闘力:8
現在の称号:伝説レジェンド最強チート強すぎダークネスアルティメットゴッドハイパーインフィニティブレイブチート勇者




