四週目
「今週の竜は、フロストブリザードチート最強アイスエイジドラゴンよ!」
ミルファが今週も意気揚々とドラゴンの名前を言ってくる。
悪い、ミルファ。もう俺には、その下りをやっている余裕はなくなった。
ずっと最強だと思っていた俺の余裕は、最強から転げ落ちる不安に染められてしまった。
とは言っても、竜は退治しないわけにはいかないか。
ギルドへ行くと、受付嬢がいつものように俺を見た。
「今週の竜は――」
受付嬢がそこで言葉を切り、俺の顔を見る。
周りも、俺がまだ何も言っていないのに静かになった。
「依頼書に書いてあるやつで」
名前は言わなかった。
誰にも笑われることなく、ギルドにざわめきが戻る。
そのまま竜を瞬殺して戻ると、普通に賞賛された。
あれ、最初から普通にこれだけやってたら良かったんじゃね。
まあいい。今はそれよりも、最強を維持することが最優先だ。
周りが二倍強くなっていくなら、俺も二倍強くなればいいだけの話だ。
この世界の人たちが、どうやって二倍ずつ強くなっているのかを知る必要がある。
久々に、アルトの所を訪ねることにした。
王都の一等地に、何とか宮殿とか名前がつきそうな、巨大な宮殿が建っている。
さすがにデカドラゴンと比べたら全然敵わないが、今日のフロストとはいい勝負かもしれない。
クリムゾンやエンシェントよりは断然大きい。
あれ、なんか、いつの間にか俺の中の基準がドラゴンになってるんだが。
完全にこの世界に毒されてしまった。
宮殿の正面には門があり、そこに門番が立っている。
くそ、完全に身分が違ってしまったな。
悔しいが、門番に声をかける。
「アルト様に会いたい? 何者だ?」
「同じパーティの仲間だよ」
「同じパーティのセリア様は中にいるし、ニック様?」
セリアも一緒にいるのかよ。もしかして、あのまま付き合い始めたのか?
早く俺の最強を維持する方法を見つけて挽回しないと、手遅れになってしまう。
「違う、もう一人の方だ」
「えっと……もう一人というと、あ、そうだ。デカドラゴン?」
おい! ギルドの外まで俺の認識はデカドラゴンになってるのかよ!
どこまで広がったんだよ。アルトのやつ、言いふらしたりしてないよな。
言いふらしてたら、漏らしたことを言いふらすぞ。
「ルインだよ!」
「ああ、失礼。ルイン様。仲間の方なら問題ありません。中へどうぞ」
そう言われて、中に通される。
門番に案内されて庭を通り、宮殿に向かう。
庭も広く、中には色とりどりの花壇があり、中央に噴水があった。
いいな、この庭。俺も伝説の勇者になって、早く住みたい。
宮殿の扉を開けると、天井からシャンデリアがつり下がり、赤い絨毯が敷かれた広い空間だった。
前には、やたらと幅広の階段がある。
「いらっしゃいませ。ルイン様」
扉を開けた左右にメイドがずらりと並び、俺に一斉に頭を下げた。
うおおおおおおお! なんだこれ、理想の生活すぎるだろ!
あそこで一手間違えただけでこれなの?
一手間違えていなければ、メイドに囲まれ、めちゃくちゃ広い庭のある宮殿に住んでいたはずなのに。
今の俺は、ちんちくりんが一人いる、ごちゃごちゃした魔術院暮らしだ。
一手の差が致命的すぎる。
「久しぶりだな、ルイン!」
そう声が上からしたかと思うと、中央の階段をアルトがゆっくりと降りてきた。
セリアも一緒だ。
アルトは、黒を基調とした金色の刺繍がついたパリッとした服に、勲章のような飾りをいくつもつけている。
実用というより飾りのような剣も腰に下げていて、こっちも金色だ。
なんか、普通にめちゃくちゃかっこいい。
確かに元々見た目は悪くなかったけど、この格好だと完全におとぎ話に出てくる王子様みたいな感じだ。
まさに伝説の勇者にふさわしい。
セリアは、そのアルトと腕を組んで歩いている。
完全に服装はドレスで、なんとかかんとか何世とかが着ていそうな、派手なやつだ。
黄色を基調とした硬そうな布でできたドレスだが、袖や胸元には白のふわふわしたフリルがついていて、柔らかさもある。
中に重ね着していると思われる白いひらひらしたレースのような布地が、足元から見え隠れしている。
元々上品な感じの服装だったような気がするが、そういう次元じゃない。
完全に、王侯貴族じゃん。
アルトと合わせて、お似合いの二人になってるじゃん。
俺が夢見た異世界ライフ、完全にアルトに実現されちゃってるよ。
俺、ここから本当に逆転可能なの?
「今日は王宮に招かれているパーティがあるんだ。ルインも来ないか?」
階段を降りきって俺の前に立ったアルトが、声をかけてきた。
王宮でのパーティとか、俺の知ってる世界じゃない。
そこでアルトがちやほやされているところを見て、その上でデカドラゴンとか言われたら、憤死するかもしれない。
さすがにそれは無理だ。
本題だけ聞いて、この羨ましいだけの世界から退散しよう。
「いや、それは今度にする。今日は、お前がどうやって鍛えて戦闘力を上げたのかを聞きに来ただけだ」
「戦闘力? まあ、伝説の勇者の俺の力に憧れるのは分かるが……才能じゃないか?」
くっそぉぉぉぉぉ! こいつ、完全に調子に乗ってやがるぞ。
ちやほやされすぎて思い上がってるだろ、完全に。そういうキャラじゃなかっただろ!
お前、自分で倒してないの忘れたのかよ!
「鍛えたと言えば、あれじゃない? 三人で通った、あの道場」
セリアが横から口を挟む。
王侯貴族になっても、ちゃんと修業時代を覚えているらしい。
さすがセリア。
「そういえば、そんなのもあったなぁ。なんて言ったっけ、あれ」
「名前は……何道場だったかしら。忘れちゃったわね」
「今、三人で通ったって言ってたな。ニックも一緒だったってことか?」
「そうよ。ニックなら覚えてるかもしれないわね。ニックもたまにここに来るけど、それまで待つ?」
「いや、いい。今どこにいるか知ってるか?」
「まだあの宿に泊まってるはずよ」
ニックは王侯貴族生活になってないのか。
俺と一緒に、パレードを後ろから見てたもんな。
もうここにいたくない。さっさとニックの所へ行こう。
俺は、二人のうらやま宮殿を後にして、ニックの所へ向かった。




