七週目
また、週が変わった。
俺は、ガルドレジェンドブレイブゴッドマッスルS級輩出アルティメットソードマジックアローチート最強勇者量産ハイパーインフィニティガルド流超絶チート武術道場の様子を見に行くと、想定どおり、閑古鳥が鳴いていた。
あえてもう一度名前を思い出してみたが、改めて見てもダサい。
我ながら完璧な作戦だった。
帰ってミルファに平均戦闘力を見てもらうか。
「おい、ミルファ、平均戦闘力を見てくれ」
「何よ。平均はいつも二倍なんだから、分かってるでしょ」
「いいから見ろって、今回は話が違うんだ」
そう言うと、ミルファは水晶玉を取り出して見てくれた。
「六十四ね!」
いつもの勢いで告げられた。
は?嘘だろ?普通に倍になってるじゃん!
俺の完璧な作戦が決まったはずなのに。道場でみんな鍛えてないはずなのに。
「何をそんなに驚いてるのよ。二倍になるのが普通って前も話したじゃない」
「いや、そうだけど、道場にみんな行かなくなって……」
「道場?そんなの関係あるわけないじゃない!あなた、体が重くなったって言ってたじゃない。世界全体が変わってるのよ」
確かに。人が強くなってるだけだったら、俺の体が重くなることはない。
それに、世界のいろいろなものが人に比べて弱くなりすぎる。
よく考えたら、道場のせいじゃなさそうだ。
「じゃあ、あの毎週二倍ってなんだったんだよ……」
「ただの宣伝文句じゃない。何、本気にしてるのよ」
なんかミルファに馬鹿にされるの、悔しすぎる。
「道場で鍛えるのは、意味がなかったってことなのか?」
「そんなことはないんじゃない?平均が二倍になるけど、その中でもちょっと強くなる、みたいな。普通に体を鍛えるのと同じよ」
宣伝文句が過大広告だっただけで、ただのまともな道場だったっていうのかよ。
あんなに怪しかったのに。
「それに、私はこの水晶で二倍になったって分かるけど、普通はそんなことに気づいてないと思うわよ。この魔術、おばあちゃんが開発したものだし」
確かに、自分も周りも二倍になってたら、実質的には何も変わってないのと同じか。
あれ?じゃあこの数値、あんまり意味がないんじゃ?
「何も変わらないなら、何のために作ったんだろう?」
「竜の戦闘力は変わらないから、それを調べるためじゃない?あとは、あなたみたいに他の世界からの召喚術もあるし」
なるほど。納得したような、納得してないような。
「俺だけ変わらないなら、周りが二倍っていうより、俺が弱くなってるだけじゃ?」
「そこは後になっていろいろ調べたけど、この世界の方が二倍になってるのは確かだったわ!」
「何でまた、世界全体が二倍に」
「全然分からないわ!」
自信満々に言うなよ。まあ、それがこの世界のルールってやつなのか。
分からないなら仕方がない。
とにかく、やらないといけないことがある。
ガルドさんの道場は、何も悪くなかった。あの人、めっちゃいい人だったのに。
「ミルファ、ガルドさんのところへ謝りに行くぞ!」
「どうしてよ!何を謝ることがあるのよ!」
「いいから来い!」
俺はわめくミルファを無理やり引き連れて、ガルドさんのいる道場本部へ向かった。
道場に着くと、あの木の札に、ミルファのダサい名前が達筆に書かれていた。
しかも、道場の前の目立つところに貼ってある。
完全に台無しだ。こんな目立つところに貼るなよ、これ。
扉を叩くと、ガルドさんが出てきたので、
「すみませんでした!」
と速攻で謝った。
「何を謝ってるのよ!」
と隣でミルファがまだ言ってる。俺が謝ったの、帳消しにするなよ。
「はは、君がミンダレイさんのお孫さんだね。ミンダレイさんの面影がある」
この前見たときよりも穏やかな顔をして、ガルドさんが声をかけてきた。
前はもっと武人のような顔をしていたが、今は優しいおじいちゃんって感じだ。
おばあちゃんのことも、ミンダレイ女史と硬く言っていたが、今はミンダレイさんと言っている。
「おばあちゃんのこと、知ってるの?」
「ああ、昔はいろいろとな。この道場もミンダレイさんに言われて作ったんだよ」
「え、そうなの!?」
頭を下げてたはずの俺がびっくりして、思わず頭を上げてしまった。
おばあちゃんの影響力、予想以上すぎる。
「ああ。一時期は、私は後進の育成が忙しいから、竜退治は任せたわって言ってたと思ったら、急に、竜退治は全部やるから、後進の育成は任せるわって言ってきて、参ったよ」
確かに、ノリと勢いにミルファの面影を感じる。いや、違うな。逆か。
というか、そんな軽いノリで作って、ここまで大企業みたいになってるのかよ。
「本当に竜を全部退治してしまうものだから、暇になってな。道場を開いてみて、人に教えていたら楽しくなってきて、気づいたらもうこんな年だ。この仕事が向いてたのを見抜かれていたのかもしれないな」
なんかしみじみと言ってるけど、多分ミンダレイさんはノリで言ってるぞ。
「だったら、うちの魔術院で名前をつけるのは、当然じゃない!」
おい、せっかく謝りに来たのに!本当にこのままじゃ、この道場潰れちゃうって!
「そのとおりだ。でも、ちょっとあの名前を背負うには、まだまだ実力が足りなくてな。実力が伴うまで、前の名前でいいかな?」
「確かにそうね。それなら仕方ないわ!」
おお、こうすればミルファを制御できるのか。
ミルファの扱いが完璧だ。さすが、ミンダレイさんとの付き合いが長そうなだけある。
「いやぁ、それにしても、後進を育てるのをやめたって言ってから、本当に弟子を一人も取らなかったのに。お孫さんが継いでるとはねえ。ミンダレイさんも、喜んでいるだろう」
昔は栄えてたっていうのは、単にミンダレイさんが活躍してたってだけじゃなくて、弟子も大勢いたのか。
何で弟子を取るのをやめたんだろうな。ミルファの感じからして、多分そのときの思いつきか。
「この私が継いだんだから、当たり前じゃない!」
「そうだな。また何かあったら、いつでも言うといい。できれば、名前以外で」
最後に本音が現れてた気がするが、ガルドさんは優しく言ってくれた。
この前すんなり受け入れてくれたのは、優しいだけでなくて、ミンダレイさんとの付き合いもあったからなのかもしれないな。
とりあえず、問題なく名前が戻りそうで良かった。
さすがに俺の作戦で、何の意味もないのに潰れたら後味が悪すぎる。
「今週の竜は、ウインドかまいたちウィンデーネちーとっとドラゴンよ!」
魔術院に戻るや否や、ミルファが高らかに宣言した。
くっそぉぉぉぉ!今週はこの下り、スキップできたと思ったのに!
でも、名前を聞いたらどうしても反応しちまう。
なんか全体的に風系っぽいけど、ウィンデーネ入ってるじゃねぇか!
名前がウインドに似てるから入れたんだろうけど、あれ、水だろ!
そして、最後のちーとっとってなんだよ!響きがだいぶかわいいなおい!
ダメだ。心の中で突っ込んだだけで、だいぶ疲れた。
ちーとっとはちゃんと倒しておくから、終わりにさせてくれ。
先週を振り返ったときに、気になったことがあった。
あのときは聞き流していたが、ニックが身体能力を底上げする補助魔法って言ってた。
「なあ、ミルファ。お前、魔術師だろ。身体能力を上げる補助魔法って知ってるか」
「当然じゃない!」
「お前も、使える?」
「私は錬金術と召喚術を先にやってるから、できないわ!」
「なんだ、使えないのか。何でまたその二つを?」
「面白そうだったからよ!」
うん。とてもミルファらしい理由でよろしい。
魔術師と一言で言っても、いろいろ種類があるんだな。
ゲームとかでも、攻撃魔法と回復魔法を使う職は、大体違うもんな。
「ちなみに聞くけど、その補助魔法って、やっぱり固定で九上がるとか、そういうやつ?」
「え?違うわよ。かけられた相手の元の力に応じて、効果が変わるわ」
「つまり、戦闘力が十倍とか、そういう意味だよな?」
「一気に十倍とかは無理だと思うけど、意味としてはそうよ」
おおおお!なんだ、道場に通ったりしなくても、すでに方法があったんじゃないか。
俺自身が鍛えなくても、補助魔法で強くしてもらえばいいんだ。
ミルファはできないらしいし、ニックのところへ行って試してみよう。
俺はまた、ニックのいる宿に向かった。




