七週目 ②
ニックの宿へ行く途中で、ついでにちーとっとは倒しておいた。
「ルインさん、ガルド様に会えましたか?」
そうか、そういえば先週はガルドさんがどこにいるか聞いたんだった。
悪いが、もうそれはどうでもいいんだ。
「ああ、会えたぞ。それよりニック、お前、先週補助魔法の話をしてたよな?」
俺が言うと、全然話を聞く気がなかった先週の話を急にしだしたことに驚いているのか、それとも俺が意外と話を聞いていたことを喜んでいるのか、ニックが前のめりになる。
「はい!練習して、少し覚えましたよ!これで、僕もルインさんの補助ができるかもしれません!」
「へ?」
俺の補助?どういうこと?
俺が今からそれを頼もうとしていたから、それは助かるわけだが、なぜ最初からそれを?
「僕はあんまり前に出ていって戦うのは得意じゃないので、弓をやろうと思っていたのですが、この前の戦いで、僕が攻撃するのは意味がないなって思ったんです。あまりにも差がありすぎる」
この前の戦いって、一緒に行ったデカドラゴンの話か。
確かに、あの時は俺が無双してただけだったからな。
「だったら僕は、補助魔法を使って、ルインさんやアルトの力を上げるのに徹した方が、パーティの役に少しは立てるかなと思いまして」
「パーティ?」
「え……?僕たち四人って、まだパーティですよね?もしかして、僕があまりにも役に立たなかったから、もう解消されてるとか……?」
ニックが目の前で絶望のどん底みたいな顔をしている。
パーティって何だっけ。
あ……そうだった!
初日でデカドラゴンを狩ってからずっと一人でドラゴンを倒してたから忘れてたけど、俺、パーティに加入したんだった。
別に抜けるとか解消するとか、そんな話をした記憶はない。
俺は手柄がアルトのものになるのが嫌で一人で行動してて、アルトたちは王侯貴族になってるだけで、別に冒険者としてのパーティはそのまま続いてるんだった!
コイツ、俺たちが勝手に行動している間も、自分がパーティでどうやって活躍できるか、ずっと考えて行動してたのか。
健気すぎる……!
そして、デカドラゴン戦で一と百万の差を見せつけられたはずなのに、まだ努力を続けていたなんて、すごい根性だ。
「いやいやいや、そんなわけないだろ!ニックは弓が好きなのかと思ってたから、パーティのために補助に徹する決断をしたのに驚いていただけだ!」
俺が必死にごまかすと、ニックの絶望の顔が消えた。危ない危ない。
「そんなこと、気にしなくて大丈夫です!僕は、何か役に立てる方がうれしいですから!」
なんていい子なんだ……!
それに、補助魔法をかけてもらうっていうのは、完全に俺の目的にも一致している。
勝手にニックが俺のやってほしいことをやってくれていた。
「なら良かった。俺もちょっと自分を鍛えるだけじゃなくて、パーティでどう強くなるかを考えた方がいいと思って、補助魔法のことを聞きに来たところだったんだ」
本当は俺の最強を維持するためだが、パーティで強くなるっていうのは嘘ではない。
「でしたら、アルトとセリアとも話しましょう!セリアも補助魔法使いですから、合わせてみたいと思っていたんです」
「え、そうなの?」
「はい。僕は身体能力を高める補助ですが、セリアの方は属性を付加して攻撃力を高める魔法が得意なんです。というか、セリアがそれをやっていたから、そこは避けて違う魔法にしたんですけど」
なるほど、補助といってもいろいろあるわけだな。
二つ合わされば、相乗効果でもっと強くなりそうだ。それは素晴らしい。
「よし、それなら久々にパーティで集まるとするか」
「はい!」
あのうらやま宮殿に行くのはちょっと嫌だったが、強化のためなら仕方がない。
うらやま宮殿に着くと、今度はニックと一緒だったからかすんなり通され、メイドたちに迎え入れられた後、部屋で話すことになった。
俺の時は全然覚えられていなかったのに、ニックは認識されているのは解せない。
解せないが、今は置いておいてやることにする。
「へえ、ニックも補助魔法を覚えたの。私のと二つ合わせてやってみるって、面白そうじゃない」
さすがに毎日あれはきつかったのか、前よりは王侯貴族感が減ったが、それでも明らかに高そうなドレスを着たセリアは、意外と乗り気そうだ。
「別にわざわざやらなくてもいいんじゃないか」
逆に、まだあの時と同じ黒に金色の服を着たアルトは、全然乗り気じゃない。
「だって、さすがにそろそろ何かしないと、体がなまっちゃうわ」
「別にいいだろ、俺たちはもうすでに最強なんだから」
「ほら、またあの常闇が現れるかもしれないだろ。その時のために準備する必要があるだろ」
まさか、周りが強くなりすぎて次は弱くなるから準備をしたい、なんて言えるわけがない。
とりあえず、デカドラゴンに警戒してるって設定で俺が話を進めようとする。
「いやいや、何もしなくても余裕だろ」
アルトが全然乗り気になってこない。
コイツ、ほんとにちやほやされすぎて、もうおかしくなってないか?
いったん、二人で話してみるか。
「ちょっと、アルトと二人で話したいんだけど、いいか?」
そう言うと、セリアとニックは同意してくれた。
コイツの増長ぶりには、二人も辟易したのかもしれない。アルトは嫌がるそぶりを見せたが、無理やり連れ出した。
宮殿には部屋がいくらでもありそうだったので、適当に近くの部屋に入って話を始める。
「お前、ほんとにあの時のことを忘れて、自分に力がついたと思ってるのか?」
「そんなわけないだろ!俺はあの時、何もできなかった。忘れるかよ!」
なんだ、ちゃんと覚えてたのか。
「だったら、なんであんなことを。力がないのが分かっているなら、鍛える必要はあるだろ?」
そう言うと、急にアルトが語気を強めた。
「お前、嫌味で言ってるのか?俺は、自分が何もできなかったことも覚えているけど、お前があの巨大な竜を一発でぶった切ったのも覚えてるんだよ!あんなのを見せつけられたら、俺が何したってかなうわけがない!またあの竜が出たって、お前がぶった切ればいいだろうが!」
まずい、アルトの言葉に納得してしまった。
一の状態で百万を見て、まだ健気に頑張ってるニックの方が異常だよな。
俺もさっき、それでめちゃくちゃ感心したのを思い出した。
俺が普通の側だとして、あの最強っぷりを見せられたら、努力なんてする気が失せる側なのは間違いない。
いや待て、コイツ、そこまで分かっていながら、なんで自分が伝説の勇者になってるんだ?
俺に譲れよ。そのうらやまポジション。
「鍛える気がなくなるのは分かった。でも、そこまで分かっているなら、手柄を自分のものにするなよ」
「ぐっ……!」
俺が言うと、ちょっとアルトがひるんだ。
だが、その後、急に吹っ切れたように口を開いた。
「いいだろ別に!俺だって死ぬ思いをしたし、俺がパーティのリーダーなのは事実なんだ!俺は自分一人で倒したなんて、一言も言ったことない!」
た、確かに。パーティリーダーなのは事実だ。
また俺が押されそうになると、さらに畳みかけてきた。
「それに、あんなパレードまで開かれて国中から称賛されて、見たこともない大金を目の前にして、セリアが俺を尊敬の目で見ている。そんな状況で、何を言えって言うんだよ!本当は全部後ろにいるルインが倒した、俺は腰を抜かして漏らしてただけだって、そう言えって言うのかよ!セリアに、そんなこと言えるわけがないだろうが!!」
あー、いや、別に漏らしたことまで言えなんて、そんなつもりは。
こいつも、俺の手柄で王侯貴族してて羨ましいとだけ思っていたが、いろいろ思い悩んでいたんだな。
実際、その状況になって俺が言えるかと言ったら、確かに言えないわ。
ダメだ。普通に納得させられててどうするんだ。
もういい。アルトが伝説の勇者の手柄を取ってるのはもういいから、今は俺の戦闘力を高める作戦をやらないといけないんだ。
何か別の方法で説得しないと。さっきも言ってたけど、こいつが一応リーダーだから、説得しないとパーティとしてはやりにくい。
そこで、ふとあの戦闘力即倍薬のことを思い出した。
「なあ、アルト。戦闘力即倍薬って知ってるか?」
「は?なんだよ急に?飲んだら強くなるっていう怪しい薬だろ?あんな怪しい薬を飲むやつの気が知れないが、それがどうしたんだよ」
くっそ!コイツに飲むやつの気が知れないとか言われるの、めちゃくちゃ悔しい!
確かに怪しいよ。今考えたら明らかに怪しい。でも、あの雰囲気を目の前にしたら、きっとお前も飲むから!
いやいや、そうじゃない。今はただの説得材料だ。
「実はな、あの日。俺はあれを飲んでたんだ」
「な……!あれ、あんなにめちゃくちゃな強さになるのか?」
「いや、一回であれはない。あの日、俺は奇跡の十回連続成功を果たしたんだ。それで自信満々だった」
「十回?そんなのあり得るのか?あれ、元より強い状態でもう一回飲んだら、成功することはほとんどないって聞いたぞ?」
は?そんなのあったの?
あの後、ミルファには最大でも四倍よ、と聞いていたけど、その話は初耳だ。
だったら、俺が二百万になった後、失敗したのは当然じゃん。
あの男、何が一発目でうまくいくやつは大抵連続で成功する、だよ!
くそ!やられた!
ブンブンと首を振り、あの時の記憶がよみがえりそうになるが、それはなんとか振りほどく。
突然首を振り始めた俺をアルトが変な目で見ているが、無視して続けた。
「だから、奇跡中の奇跡が起きたんだよ。次は絶対にあり得ない」
「そんなことあるのかよ……。ってことは……」
「ああ、次、常闇が出たら、もう勝てない」
実際には今ならまだ勝てるだろうが、こう言っておかないとやる気は出ないだろう。
「それで、特訓ってことか……。いや待て、でも、それなら次は俺たちがやらなくても」
「何言ってるんだよ。お前、伝説の勇者なんだぞ。もう一回出たら、一番最初に話が来るに決まってるだろ」
「あわあわあわあわ……」
またアルトがあわあわ言う機械になったかと思ったが、すぐ機械は停止して、また続けてきた。
「確かにそうだ……。おい、このままじゃまずいじゃねぇか!すぐに特訓を始めないと!」
よし、これで話はまとまったな。
やる気になったアルトを連れて、セリアとニックが待つ部屋に戻る。
「よし、お前ら!特訓を始めるぞ!」
さっきまでの態度とは打って変わって、アルトが前の調子で宣言した。
「あら、急にやる気になったのね」
「良かった!セリアとも、昔の特訓に燃えてた頃のアルトはかっこよかったね、って話してたところだったんだよ」
「何!?本当か、セリア!」
「ええ、本当よ」
セリアがちょっと照れくさそうにほほ笑んで返すと、
「うおおおおおおおおお!やるぞ!!!」
アルトのやる気は、さっきとは比べ物にならないほど盛り上がっていた。
おい、俺の説得、なんだったんだよ。




