七週目 ③
「巡る力よ、身体を満たし、踏み出す足に速さを、振るう腕に強さを――フィジカルブースト!」
ニックが呪文を唱えると、アルトの体が少し光に包まれた。
おお、ちゃんと魔法ができているみたいだな。詠唱もちゃんとかっこいい。
俺たちは、あの後すぐに庭に移動して特訓を始めた。
アルトがやる気になりすぎて、俺に呪文をかけてくれと言って聞かないので、アルトを対象に呪文で強化する練習をすることになった。実際、俺は強すぎて力を測れないし、よく考えたら練習のためにはアルトの方が都合が良い。
今は、ニックの補助呪文を試しているところだ。
力がどのくらい増えたのかを測るために、庭に生えている木の隣でジャンプをして、呪文の前後でどのくらい高さが変わったかを見ようとしている。
このうらやま宮殿、何でもあるから本当に便利だ。
「おお!さっきより高いぞ!」
アルトが思い切りジャンプをした後、歓声を上げる。
倍とかそういうレベルでは全然なかったが、確かにさっきより高く飛べている。
ニックの魔法はちゃんと効いているようだ。
「成功ね、重ねがけもやってみる?」
セリアも少し弾んだ声で言った。
おお、この魔法、何度もかけられるのか。一回ではそこまでではなくても、何度もかけたらかなり強くなるかもしれない。
ゲームでも、守備力を上げる魔法をかけまくったら一しか効かなくなって余裕、とか結構あるもんな。
「連続はあまり自信ないけど、やってみるよ」
そうニックが言い、また呪文を唱え、アルトが光に包まれた。
その後ジャンプをすると、高さはさっきの魔法をかける前くらいに戻ってしまっている。
「うーん、やっぱり連続は厳しかったかなぁ」
「仕方ないわ。もう一回挑戦しましょう」
またニックが呪文を唱え、アルトがジャンプをする。
ん?最初よりも低いような。アルト、疲れてきてるか?
「だいぶ低くなっちまったな。でも、始めたばかりなんだろ?一回成功しただけでも大したもんだ」
「そうね、私が始めた頃は、こんなに早く成功しなかったかもしれないわ」
「あの時は、成功するまで延々と付き合わされたな」
「ちょっとぉ!」
なんか、当然のように和やかに微笑ましく進んでいるが、ちょっと待て。
初心者だから毎回成功しないっていうのは分かる。
分かるが、最初より低くなったのはどういうことだ?
なぜ誰もそれに触れない。ニックに気を使っているのか?
「なあ、今、最初より飛べる高さが低くなったよな?」
「ああ、失敗だったからな」
当たり前だろ、という口調でアルトが答えてきた。
「いや、失敗で高くならないのは分かるけどさ、低くなったのはどういうこと?」
「魔法が失敗すると、よくある現象なんです。望んだ効果と逆の現象が起きる反転作用と言います」
「その言い方、塾の先生に聞いた時みたいね」
なんかまだ軽く流れようとしたが、なんだよそれ!
この世界の魔法、全部あの戦闘力即倍薬みたいな感じなの?
だからあの薬も普通に受け入れられてたの?
敵を目の前にしてあのギャンブルは、さすがに俺もきつすぎるぞ!
「でも、セリアは反転作用はもう起こさなくなったんですよ」
ああ、なるほど、初心者特有の現象ってことね!
納得納得。戦闘力即倍薬も、あのちんちくりんが作った薬だからあんな効果なだけか。
だったら練習すれば解決する問題だ。何も問題ない。
「そうね、私も久々にやってみたいわ」
セリアも見せてくれるらしい。楽しみだ。
アルトが剣を構えたところに向けて、セリアも杖を構えた。
「赤き炎よ、その刃に宿り、敵を焼き断つ力となれ――フレイムエンチャント!」
ニックとは違って上品な滑らかな詠唱で、セリアが呪文を唱えた。
すると、アルトが持つ剣の刃の周りが、パキパキと音を立て始めた。
そして、パキン!と音がすると、アルトが持つ剣が、立派な氷の刃になった。
「おお、さすがだなセリア。立派な剣だ」
「久しぶりだから完全な成功とはいかなかったわ」
「それでもすごいよ!ちゃんと属性が付いてるんだから」
あれ?またなんかおかしくない?
セリア、フレイムエンチャントって唱えたよね?
どう聞いても、炎の呪文だよね?ミルファのウィンデーネとは違うよね?
目の前にあるの、どう見ても氷の刃なんだけど。
「あのー。セリアが今かけたのって、何の魔法?」
「フレイムエンチャントね。炎属性を付与する魔法よ」
俺の認識は間違っていなかった。じゃあ、なぜあの反応が?
「えっと……これ、氷の刃になってるよね」
「属性魔法は、さらに難しいんです。まず何らかの属性をつけるのが難しくて、反転作用で、その属性に弱くなってしまうことがあります。それとは別に、属性の付与には成功しても、狙った属性とは反対の属性が付いてしまうことがあるんです。それが反属性作用です」
は?なんだよそれ!運ゲーに運ゲーを重ねた魔法なの?
何か属性が付いたから、みんな感心してたってわけ?
ああ、とりあえず氷でも炎でも、何か付けば強くはなるってことなのかな。
「ちなみに、属性が違うと効果は?」
「弱点を突けなかったら、あまり効果はないですし、相手の得意属性の場合は逆効果になってしまいますね」
ダメじゃねぇか!全然ダメじゃん!本当に運ゲーに運ゲーを重ねてるだけだった!
そりゃそうだ。あの炎に身を包んだクリムゾンとかに炎の剣で戦ったら、全然効く気がしない。
この世界の魔法、使うの怖すぎるだろ。
あの薬みたいなこと、ドラゴンの前でやらないといけないの、もしかして。
「だから、私もまだまだ特訓が必要ね」
「おう!いくらでも付き合うぜ!」
確かに、特訓でなんとかなるなら、まあいいか。
本当に大丈夫なのか不安だが、いいとしよう。
その週の残りは、ずっと特訓を続けていた。
アルトが受ける役をやり続けていて、俺は暇だったので、道場で習った剣の練習をしながら眺めていた。
何もしないよりは、きっとましだろう。
週の最終日。
あれからずっと特訓を続けていたが、成功率はあまり変わったようには見えない。
炎が出たり、氷が出たり、高く飛べたり、逆に低くなったりだ。
「なかなか簡単にはうまくいかないわね。私たちだけでやってても難しいかしら」
「大丈夫だセリア、セリアならきっとやれるって!」
セリアもちょっと弱音が見える。そしてアルト、俺が説得した時と本当に同一人物か、お前。
「仕方ない。今日はもう遅いし、終わりにしよう。俺も帰る」
「そうね。そういえばルイン、あなた、どこに住んでるの?ニックと同じ宿じゃないんでしょ?」
「ああ、えっと、知り合いの魔術院に泊まってる」
「魔術院?あなた、魔術師じゃないのに、そんなところに住んでるの?どこの魔術院よ」
「ミンダレイ魔術院だ」
そう言うと、セリアが持っていた杖をポトッと落とした。隣にいたニックも、あんぐり口を開けている。
アルトは、興味なさそうに剣の素振りをしている。
「ミ、ミミミ、ミンダレイ魔術院?それってあの?嘘でしょ?」
セリアがすごい勢いで食いついてきた。
「知ってるのか?」
「魔術をかじった人で、ミンダレイの名を知らないなんてあり得ないわよ!史上最高の、伝説中の伝説の魔術師よ!」
え、ガルドさんのところでもすごい反応されたけど、ミンダレイさん、そんななの?
「でも、確か息子さんが継がなくて、ミンダレイ魔術院は閉鎖されたって聞いたことが……。もしかして、魔術院じゃなくて、建物を使った宿みたいになっているってこと?」
昔はすごかったけど、今は寂れたっていうミルファの話は本当みたいだな。
あの薬とかは出してるから、関係してる人は知っているんだろうけど、他の街から来たセリアからしたら、もうなくなったという認識らしい。
「いや、今は、ミルファっていうミンダレイさんの孫が継いで、魔術院としてやってるよ」
「ま、孫!?あの方の血を引いた孫が、魔術師としてそこにいるの?そして、あなた、そこで生活しているの!?」
「ああ、そうだけど」
「なんでそれを早く言わないの!こんなところで私たちだけでやってる場合じゃないわ!明日からはミンダレイ魔術院で修業するわ!ルイン、許可を取っておいて!」
普段の落ち着いて柔らかい感じのセリアからは、考えられないくらいの圧で一気に話を進められた。
あのセリアがこうなるなんて、ミンダレイさんの力、恐ろしい。
そして、いるのがあのちんちくりんだって知ったらがっかりしそうだけど、今は興奮しすぎて話が通じなさそうだ。
とりあえず帰ったら、ミルファに話してみるか。
魔術院に帰ると、よく分からない魔術の何かをいじっているミルファに声をかけた。
「なあ、ミルファ。俺のパーティメンバーを、ここに連れてきてもいいか?修業したいんだってよ」
そう言うと、ミルファが目を輝かせてガバッとこちらを振り返った。
「それって、この魔術院の弟子になるってこと?いいわよ!」
弟子って言うと、ミルファに弟子入りする感じで、なんか語弊があるような気がする。
「おばあちゃんがいなくなってから、初めての弟子だわ!この魔術院も、また賑やかになっていくわね!」
ミルファがものすごくうれしそうにしていて、口を挟むことができない。
とりあえず許可は取ったし、いいことにしよう。
「あ、それで思い出したわ。あなたの称号、最近更新してなかったわね」
なんでここでそのくだり思い出すんだよ。別に思い出さなくていいから!
「あなたの称号は、伝説レジェンド最強ダークネスアルティメットゴッドハイパーインフィニティブレイブ勇者よ!」
おいおいおい!前の薬の時よりはまだ強いはずなのに、チートがなくなってるじゃねぇか!
くそ!早く俺を補助魔法で強化しまくってくれ!
【七週目の戦績】
ルインの戦闘力:1,000,059
世界の平均戦闘力:64
現在の称号:伝説レジェンド最強ダークネスアルティメットゴッドハイパーインフィニティブレイブ勇者




