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八週目

 魔術院で待っていると、セリアとニックがやってきた。

 アルトは、俺は魔術を教わっても仕方ないから久々に一人で道場で修業する、と言ってついてこなかった。

 あいつ、元々はかなりの努力家なのかもしれない。

 俺が強すぎて全然差が分からなかったが、戦闘力も平均よりは高かったのかもしれないな。


「よく来たわね!私は天才魔術師、ミルファよ!」


 ミルファがいつもの調子で、謎の液体が入った瓶を持ちながら宣言した。もう、これで二人が帰ってしまうんじゃないか。


「か……かわいい……!」


 なんかセリアが別方面で目を輝かせている。


「何よ失礼ね!私はもう十五になるのよ!」


「は?嘘つけ。十の間違いだろ」


「なんであなたが知らないのよ!あなたが最初に来た週が十五の誕生日だったんだから!お祭りを回りながら言ったじゃない!」


 そんなこと言ってたか?屋台に夢中であんまり記憶にない。


「レディに失礼なことを言ったわね、謝るわ」


「分かったならいいのよ!」


 女の子同士、合う波長があるのか、意外とすぐに打ち解けていた。


「ところで、その瓶に入ってる薬って?」


「ああ、最近ずっと頑張って研究してた薬が、やっとできたのよ!おばあちゃんが作り上げた薬を再現したものよ!」


「その独特な色、もしかして、それってあの……」


 セリアがゴクリと唾を飲み込む。


「とこしえの奇病を癒す秘薬……!?」


 なんかすごい名前出てきたぞ。ミルファ、何かすごいものを作ったのか?

 ミンダレイさんが開発したっていうんだから、戦闘力即倍薬なんかとは違って、本当にすごそうだ。


「違うわ!この薬は、グレートハイパービューティーミラクルチート最強エターナルヒーリング消滅エリクサーよ!」


 薬の名前もそうなるのかよ!

 何の薬か分からないけど、謎にビューティー入ってるし!

 薬の名前に最強入ってるし!消滅ってなんか怖いし!

 もうエリクサーだけでいいだろ!それだけで全回復するっぽい感じ出るから!


「確かに、この薬にはそのくらいの名前の方がいいかもしれないわ……」


「やっぱりあなた、分かってるわね!」


 セリアがなんか納得してる。嘘だろおい、全回復以上なのか?俺の想像を超えてくるのか?


「ちなみに、効果は一体何なんだ?」


 我慢できなくなって俺が聞く。

 それを聞いて、ミルファよりも先に、セリアがゆっくりと口を開いた。


「どんなニキビも一発できれいに治す薬よ」


 は?しょっぼ!しょぼすぎるだろ!

 そんなものにエリクサーなんて名前を使うな!

 確かにちょっと嬉しいけどさ。俺も、中学生の時はニキビができたら結構嫌だったし。

 それでもこの名前はないだろ。


「これを作るなんて、本当に天才だわ……弟子入りさせてくれないかしら」


「いいわよ!一年近くかかった薬だけど、特別に分けてあげるわ!」


「本当?私、髪で隠してるけど、ここのニキビがずっと気になっていたのよね」


 マジかよ。普通に弟子入りしちゃった。

 というか、その薬、一年かかってるの?

 俺が戦闘力を必死に上げようとしてる中、何かごちゃごちゃやってると思ったら、ずっとニキビを治す薬を作ってたのかよ!

 もう何週間かでドラゴンに戦闘力で負けそうって時に!

 無駄とは言わないけどさ、もっと危機感持ってくれよ!せめてもっと戦闘関係の薬を作ってくれよ!


 はぁ、でも、ミルファのこの調子を変えるのは無理か。

 セリアの反応からして、その薬作りは実際に難しいらしいし、話はまとまったし、もういいや。

 次は何か、戦闘に役立つ薬を作ってもらおう。


 ちなみに、ニックもその後、普通に弟子入りしてた。


「反転作用と、反属性作用で困ってるのね」


 二人がミルファに向けて魔術の話を始めると、ミルファの口から普通に魔術用語が出てきた。

 こんな難しそうな用語、絶対ミルファの口から出ないと思っていたのに。


「お前、本当に分かってるのか?」


「当然じゃない!私は、召喚術もできるのよ!」


 召喚術やってると、何の関係があるんだ。


「すごい……。召喚術は、属性魔法よりもさらに失敗要因が多くて、確か……三種類くらいあります」


 ニックが感心していた。え、ミルファ、本当にすごかったの?


「四種類よ。逆にこの世界のものが吸い込まれる反転作用に、呼び出す魂が他の世界に行っちゃう別世界作用、呼び出した魂が全然違うところへ入っちゃう別物体作用、呼び出した魂の固定に失敗して体ごと爆発する爆散作用ね」


 え?召喚術って、俺を召喚した時に使った魔術だよな?なんかめっちゃ怖いこと言わなかった?

 一個目以外、呼び出される側が怖すぎない?

 別世界に飛ばされたり、物に入っちゃったり、しまいには爆発するの?

 気軽にもう一回転生したいとか思ってたけど、二度と思わないようにしよう。


 それにミルファ、普通に難しそうなことをスラスラ言ってるし。

 この子、本当に俺がいつも話してるミルファと同じ子?


「まずは、反転作用から始めるわ!」


 言葉は難しいが、勢いはいつものミルファだ。


「かける相手は……ルインは危ないし、私にかけてみなさい!」


「はい!」


 ニックが真剣な顔で返事をする。本当に真面目なやつだな。

 杖を取り出し、ミルファの方に向ける。

 力を込めているようで、先端が少し震えている。

 そのまま、声にも力を込めて詠唱を始めた。


「巡る力よ、身体を満たし、踏み出す足に速さを、振るう腕に強さを――フィジカルブースト!」


 ミルファを光が包む。


「うーん、ダメね」


 と思ったら、ミルファが即答した。


「まだ体を動かしてみてもいないのに、なんで?」


「長年魔術を見てると、光り方で分かるのよ」


 俺が聞くと、ミルファが当然といった感じで答える。

 言っている台詞は、俺が薬屋で会った男と似ているが、こっちは経験の重みみたいなものを感じる。


「あなたは、力が入りすぎね。反転作用は、使った魔力が反射して起こる現象なの。勢いよく水を飛ばすと、自分にも跳ね返ってきちゃうみたいな感じよ。水を静かに流すようなイメージで、余計な力を入れずにやらないとダメ」


 また別人状態になった。魔術のことになると、あのちんちくりんの感じが全然しないな。


「お前、補助魔法は使えないって言ってたのに」


「使えないけど、魔術の基礎は共通だもの!これくらい当然よ!」


「私も途中までは同じように聞いたけど、反転作用を抑えるには、跳ね返ってくる水を押さえつけるような感じって聞いたわ」


 横で聞いていたセリアが言う。同じ魔術といっても、考え方がいろいろあるのかな。


「それも一つのやり方ね。望まない作用を、一つ一つ魔力で抑え込んでいく。どんな種類の魔術にも、誰でも同じような考え方でできる、便利なやり方だわ」


「だったら、そっちの方がいいじゃん」


「まだ途中なの!」


 俺が言ったら、ミルファに怒られてしまった。


「でも、そのやり方は作用を抑えるために魔力を使うし、無駄が大きいわ。それに、何より大きな魔力を使う高度な魔術や大魔術には使えない。初心者向けのやり方よ」


 ミルファが、滔々と語り出す。もう口は挟まないでおこう。


「私のやり方は、基礎は共通する部分もあるけど、どの作用を抑えるかによっても、魔術の種類によっても、個人の感覚によっても、全部変わってくるわ。でも、その一つ一つ違うところが、魔術の奥の深さでもあるし、面白さでもあるのよ。それを追求するのが、私のような一流魔術師になるための道よ!!」


 途中までめちゃくちゃかっこ良かったのに、最後で台無しにしてきた。

 最後のがなければ、完全に一流の魔術師だったぞ。理屈は分からないけど、多分合ってるんだろうし。


「魔術を一つ一つ追求する。考えたことなかったわ。ずっと、同じやり方でいろいろな魔術を覚えることを考えてきた。私も、基礎からじっくりやらないとダメね」


 途中までの話に感銘を受けたのか、最後の台無しはあまりセリアには響かなかったらしい。


「分かりました!僕も一流になるために頑張ります!」


 ニックの方は聞いてたのに、感銘を受けてるな。


「それにしても、こんなにすごいのに、この魔術院がずっと弟子を取らなかったなんて、どうしてなんだろう」


「言ったじゃない。息子さんが継がなかったって」


 そこでセリアがミルファの方を見て、言葉を切る。ミルファがちょっとうつむきがちになっている。


「ごめんなさい。無神経だったわね。本人の前で言うことじゃなかったわ」


 そうだ。ミンダレイさんの息子ってことは、ミルファの父親だ。

 息子がいたのに継がなかったのは、もしかしたら何かあったのかもしれない。

 まだ子供なのに、ミルファが一人でここに住んでいるのも、それに関係しているのかも。


「え?何を謝っているの?」


「いや、あなたのお父さんのことを口にしてしまって」


「パパのこと?それがどうして?」


 あれ、子供すぎて逆に分かっていない感じか?いや、本当に十五だとしたら、さすがにそれはない。

 セリアが、その続きは言いにくそうにしている。

 話の流れ的に触れないわけにはいかなそうだし、俺が代わりに引き受けるか。


「ほら、ミルファは一人でここに住んでたし、お父さんに何かあったんじゃないかって」


「え?パパは普通に元気よ」


「じゃあ、なんで一人でここに?」


「私が魔術が好きだからよ!一人でおばあちゃんのところに来て、そのままずっといるの!」


 なんだよ、ちょっと心配して損した。確かに、さっきの語りを見たら、魔術に関しては相当好きそうなのは伝わってきた。

 伝説の魔術師の家系で、好きで魔術を研究してるって、本当に天才魔術師みたいだな。


 いやいや、さすがにそこまでは認めたくない。


「パパは、魔術が大嫌いなのよね。だから継がなかったってだけじゃない?私に手紙を送ってくる時も、そういうことばっかり書いてくるのよ!」


 そう言って、近くに置いてあった箱を開けると、紙がたくさん入った中から、一番上のものを取り出してきて俺に見せてきた。

 家族の手紙を見るのは気が引けるが、向こうから見せられたら仕方ない。


『ミルファへ


元気に過ごしているかい?

こちらは、父さんも母さんも元気にしているよ。


魔術が嫌になったら、いつでも帰ってきて大丈夫だからね。

父さんたちは、ミルファが帰ってくるのをいつも楽しみにしているよ。


父より』


「ほら!魔術が嫌いで、私も嫌いになるのを楽しみにしてるのよ!しょっちゅうこんな手紙を送ってくるのよ!」


 いや、単純に心配してくれてるだけだろ、これは。いいお父さんじゃないか。


「返事はしてるのか?」


「毎回、元気よ!ってだけ返してるわ!」


 無視してたら心配をかけそうだけど、それならまあいいか。


「お父さんが継がなくても、ミルファちゃんが継いだんだから、もう大丈夫ね」


 セリアも特に何もなくて安心したのか、話を続けてきた。


「そうよ!私がまた、大魔術院にするんだから何も問題ないわ!あなたたちは私の最初の弟子なんだから、誇りに思いなさい!」


「そうね、いろいろなところで自慢しちゃうわ」


 セリアが優しく続ける。さっきまでの魔術モードの時との落差がひどい。


「早速特訓よ!反転作用を抑える練習を続けるわ!」


 今週も、ミルファを交えて魔術の特訓に費やした。

 俺はたまに実験台になったくらいで、あとはまた剣術の練習をしてたくらいだけど、補助魔法で俺も強くなるはずなんだから、何も問題ないだろう。


【八週目の戦績】

ルインの戦闘力:1,000,164

世界の平均戦闘力:128

現在の称号:伝説レジェンド最強ダークネスアルティメットゴッドハイパーインフィニティブレイブ勇者

※ミルファが初弟子に夢中で称号変更なし


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