九週目
「ミルファちゃん、炎の剣をイメージするようにしてやるっていうのは、どうかしら」
「うーん。それはあまりうまくいきそうにないわ。属性魔法は、炎自体を呼び出すのではなくて、属性を付与するものなの。炎は、付与された属性から出てるだけで、魔術で炎が出てるわけではないわ」
セリアとミルファが、よく分からない話をしながら唸っている。
あれから、魔術の特訓は続いていた。
反転作用の制御方法は少しずつつかめてきたようで、ニックの成功確率は上がっていた。
しかし、セリアの反属性作用の方がうまくいかないらしい。
それで、二人でいろいろ話しては唸っている。
「なあ、あんまりうまくいってないのか?」
「別にうまくいってないわけじゃないわよ!魔術の研究は、こうしていろいろ考えながら試行錯誤していくものなの。時間がかかるのは仕方ないわ」
「一人一人違う、みたいなこと前に言ってたけど、誰かほかにできる人の話を聞くとかできないのか?」
「そりゃあ、同じものを使える人の感覚を教えてもらえたら、進みは良くなるわ。でも、そんな人、私は知らないもの」
なるほど。魔術って、派手なものだと勝手に思っていたけど、なんか研究は地味なものらしい。
「使える人って言えば、ミンダレイさんは使えなかったのか?」
「当然使えたわよ。だから、何か残ってないかと思って探してみたけど、属性魔法について書かれたものは何も見つからなかったの!」
なんか、いつもより本が散らばってると思ってたら、そういうことだったか。
でも、使えたのにこの魔術院にないっていうのはちょっと気になる。
ミンダレイさんにとっては、大したことのない魔術だったってことなのかな。
ミンダレイさんは、すごい魔術師だったということは分かったが、いろいろと謎が多い。
知り合いらしいガルドさんのところへ行って聞いてみるか。
というか俺、魔術の特訓中、基本的に何もすることないし。
二週間ぶりにガルド流武術道場の本店に来た。
ちゃんと看板は前の渋い看板に戻っていた。
潰れてはいないようで安心だ。
扉を叩くと、ガルドさんではなくて、また若い男が出てきた。
弟子もちゃんと残っているらしい。これなら大丈夫だろう。
「あ、ガルドさんに会いに来たんだけど」
「ああ、魔術院の。いいけど、名前はもう勘弁してくれよ」
ちょっと嫌そうな顔をされてしまった。
確かに、ここに来てる人は師範代クラスって考えると、自分の道場を持っているんだろう。
ガルドさんの指示とはいえ、あの名前をつけられて、かなり迷惑をかけたに違いない。
嫌がられても仕方ないが、今回は別に名前を変えようって話じゃない。許してくれ。
「君か。一体今日はどうしたんだ?」
ガルドさんのところに通されると、ガルドさんもちょっと警戒しているような感じだ。
「今日は別に頼み事じゃなくて、ただミンダレイさんの話を聞きたくて」
そう言うと、一気に警戒の色が解けて、優しいおじいちゃんモードになった。
「それなら、私が知っていることなら何でも話そう」
「ミンダレイさんが昔使っていた魔術で、属性魔法のことを知りたいんだけど」
「剣に炎をつけたりするやつかい?私もかけてもらったことがあるよ。元の剣の何倍もの大きさの炎の剣になって、びっくりしたものだ」
なんか、同じ種類の魔術を使っている気がしない。セリアのやつは、何回かたまたま成功したのを見たけど、普通に炎をまとってる、くらいだった。
やっぱりミンダレイさんは規格外だったらしい。
「多分それです。それを今ミルファがやろうとしているんだけど、記録がなくて苦戦してるみたいで」
「私は使い方は分からないな。あの当時使っていた魔術なら、あの広い魔術院のどこかにはありそうなものだが」
「広い魔術院?」
いつもミルファといる魔術院は、確かにミルファ一人で住むには広いが、そこまで広いというわけではない。
部屋が数部屋あるが、ごちゃごちゃといろいろな物や本が置いてあって、寝室とかも含めたらかなり狭く感じる。
「ん?ミンダレイ魔術院にいるんだろう?あの、王都から出て少し離れたところにある、あの大きな」
なんか話がかみ合っていないような気がする。俺とミルファが住んでいる魔術院は、王都の街の中にあるし。
「もしかして、昔と場所が違うとか?」
「今は違うのかい?確かにあそこに弟子も取らずにいたら広すぎるから、弟子がいなくなってからは移動したのかもしれない」
なるほど。だったら、昔の魔術院に行けば、記録があるかもしれないな。
「昔の場所、分かりますか?」
「ああ、地図に書いてあげよう。昔は弟子をたくさん取っていて、広いのに賑やかだった。一度その頃に訪ねていったら、魔術師でもない私が宣伝に使われていて参ったよ」
「宣伝に?どういうこと?」
「私もいまだに分からんよ。確かにミンダレイさんにはいろいろ教わったし、頭が上がらなかったが、魔術師ではないのにな」
そう言ってガルドさんは笑っていた。宣伝の話はよく分からなかったが、ありがたく地図を受け取って、武術道場を後にした。
「おい、ミルファ。いい話があるぞ」
魔術院に戻ると、二人は唸り続けて疲れたのか、ぐったりしている。
ニックが二人にお茶を入れてあげている。本当に弟子みたいだ。
「何よ?」
ミルファの返事にいつもの勢いがあまりない。
「お前、ミンダレイさんの昔の魔術院って行ったことあるか?」
「昔の?ここ以外にも、魔術院があるの?」
「ああ、ガルドさんに聞いたら、昔は王都の外に広いのがあったらしい」
「本当!?知らなかったわ!」
「昔、ミンダレイさんが使っていた魔術の記録は、そっちにあるかもしれないってわけね」
「そういうことだ。属性魔法も、もしかしたらあるかもしれない」
「ルイン!よくやったわ!早速行くわよ!」
ミルファは一気に元気を取り戻したようだ。
すぐに支度をして、四人で古い魔術院に向かった。
ガルドさんが書いてくれた地図に従って、魔術院に着いた。
確かに、めちゃくちゃ広かった。ミンダレイ魔術院と書かれた門があり、その向こうに大きな庭があり、庭の向こうにたくさんの建物が建っている。
ずっと放置されていたみたいで、建物は石造りの頑丈そうな建物だが、ツタが絡まっており、庭は雑草だらけだ。
門は錆だらけで、ミンダレイ魔術院と書かれた札も、錆びていてギリギリ読める程度だった。
噴水とか花壇とかがないし、建物の見た目が宮殿っぽくないけど、広さだけならうらやま宮殿よりもずっと広い。
宮殿というより、学校という感じだ。それも大学。
元の世界なら、古いヨーロッパの大学にありそうだなと思うような、趣のある建物だ。
まあ、ヨーロッパの大学とか見たことないから、勝手に雰囲気で言ってるだけだけど。
よく考えたら、弟子を大勢取っていたというんだから、大学みたいな広さが必要になるわけか。
「門が閉じてますが、入ってもいいんでしょうか?」
真面目なニックが聞いてきた。
「もう明らかに放置されてるし、というか、ミンダレイさんの魔術院なら、今はミルファのものなんじゃ?だったらミルファがいいと言えば大丈夫だ」
不真面目な俺が適当に答えた。
「そうね!今は私の魔術院なんだから、入っていいに決まってるわ!ルイン、門を壊して!」
オーナー(多分)の許可も出たことだし、門を壊して中に入った。
建物の近くに来ると、無理やり引きちぎられたような垂れ幕が落ちているのが見えた。
書いてある文字が見える。
魔術師ミンダレイの直接指導
あなたの知識が、毎週二倍広がっていく。
勇者ガルドを輩出!
あの道場の予備校風垂れ幕、ミンダレイさんが発祥かよ。
宣伝に使われて参ったって言ってたの、これか。自分も真似してるじゃねぇか。
建物の入り口は、特に鍵がかかっておらず、そのまま普通に開くことができた。
入り口はホールみたいになっていて、よく分からない魔術に使うものが置いてあるだけで、がらんとしていた。
中には廊下が続き、左右に部屋がたくさんあった。
これだけあれば、何かヒントが見つかるだろう。俺たちは部屋の中を見て回ることにした。




