二週目
凱旋パレードに引き続き、一週間もお祭り騒ぎが続いた。
俺はその期間中、ミルファに「ここの祭りの屋台は最高なのよ」と言われて、延々と連れ回されていた。
確かに、最高だったけど。
「いつの間にか、一週間たっていたわね。もう、次の竜が現れるころよ」
「え、またあのデカドラゴン出てくるの? この世界やばすぎない?」
「さすがに常闇をもたらす竜が連続で出てくることはないわ」
おい、ついに命名者が言わなくなってるじゃねーか。
「違う種類のドラゴンとはいえ、毎週あんなのが出てくるっていうのはやばいだろ」
「竜が毎週来るのは、そういうものなんだから仕方ないじゃない!私だって理由は知りたいわよ」
この世界ではそういうものなのか。
世界が違えば常識は違う。
俺の世界では毎日陽が昇り、毎月月が満ち欠けして、毎年季節が巡る。
それと同じように、この世界では毎週ドラゴンが来る。
そう考えれば、常識が違うだけだ。
いや、そう考えても全然良くないな。
考えていたら、ミルファが、今週も自信満々に宣言した。
「今週の竜は、エンシェントドラゴンよ!これも私が命名したわ」
え、普通じゃん。
普通にかっこいいじゃん。
どうしたミルファ。
チートチートチートつけなくていいのか?
いや、でも待て。
正式名称は絶対おばあちゃんの方だ。
「ちなみに、元の名前は? おばあちゃんがつけた方な」
「古より生きる竜、よ」
おばあちゃんのセンスは相変わらずだな。
でも今回は甲乙つけがたいかもしれん。
でもこっちが正式名称だろう。
古の方を覚えておこう。
「早速退治してきて! お祭りで遊びすぎて……じゃなかった、魔術の研究にお金を使っちゃったから、お金がないの! 退治すれば、世界も救えるし報酬ももらえるわ!」
おい、先週ずっとお祭り行って破産してるじゃねぇか。
まあ、この世界の金を持ってない俺にいろいろ買ってくれたから、俺のせいでもあるか。
仕方ない。
それに、この毎週ドラゴンが出てくる世界は、いくらでも名を立てるチャンスがあるともとらえられる。
そう考えると、まだまだ挽回できる。
いい仕組みだ。
「ところで、今週のドラゴンの戦闘力は?」
「ちょっと待ってね」
ミルファはそう言うと、棚の奥にしまってある水晶玉を大事そうに両手で抱えて取り出してきた。
ミルファは水晶玉を覗き込んだ後、口を開いた。
「えっと、エンシェントドラゴンの戦闘力は二十ね」
「弱! 弱すぎだろエンシェントドラゴン!」
「あなたが強すぎるの! 先週の竜も特別なの! 世界の平均は……二なんだから、十分二十でも強いわ」
途中で水晶玉を覗き込みながら、ミルファが言う。
ん?
ちょっと待て。
世界の平均が二?
この世界の平均が一なんじゃなかったっけ。
「世界の平均がなんか変わってない?」
「あら、時間がたったらいろいろ変わるのは当然じゃない」
まあ、確かにそうか。
神に騙されたような気もするが、一から二くらいなら俺にはまったく追いつけない。
許してやるか。
よし、とりあえず討伐に行こう。
一応アルトたちの様子を軽く見に行ったが、ずっと伝説の勇者としてちやほやされてやがる。
こいつらを連れて行ったら、また俺の活躍とはみなされないだろう。
同じ轍は踏まん。
今回は一人で行こう。
一人で冒険者ギルドに入ると、ざわめきが聞こえる。
まあ、伝説の勇者はアルトに取られたが、俺はそのパーティの一員だからな。
注目されて当然だ。
おい、あれ先週常闇を倒したチームの。
ああ、あの化け物を倒したんだ。やっぱり実力は本物だったんだ。
あの人、名前なんだっけ。
えーと、あ、デカドラゴン。
デカドラゴン言うなって。
クスクス。
俺の印象、デカドラゴンだけじゃねぇか!
辛い。
もうこのギルドの空気が辛い。
もう全部リセットしたい。
いや、でも俺が最強なのは間違いないことが分かったんだ。
今週一人で討伐すれば、デカドラゴンは消え失せるはず。
周囲の視線を切り開いて、受付嬢の前に行く。
「あら、今週はお一人なんですね。やっぱり退治するのは、あれですか?」
「ああ、当然だ」
そこでいったん区切り、また俺は高らかに宣言する。
「古より生きる竜を退治する!」
今度はちゃんと、おばあちゃんの方を覚えてきた。
完璧だ。
そのはずなのに、なぜか受付嬢が固まっている。
周りも、少しざわめいている。
おい、またなんか言ってたぞ。
いにしえ?
今週はわりとかっこいいな。
固まりが解けた受付嬢が口を開く。
「えっと? いにしえ? あ! エンシェントドラゴンのことですね!」
おい!
今回はエンシェントで合ってるのかよ!
ミルファのやつもちゃんと正式名称になるのかよ!
まともな名前だけ採用するなよ!
ちゃんとデカドラゴンも採用しろよ!
今度から、ミルファから名前を聞いて、かっこいいかどうかで正式名称かどうか判断しなきゃいけないってことかよ。
ミスったらまたあの空気。
ほんとに毎週退治して解消できるのか、これ。
ギルドを出て、エンシェントドラゴンの住処まで来た。
少し灰色がかった白色が美しく、細長い体は全長百メートルはありそうだ。
普通ならめちゃくちゃデカい化け物だが、先週のデカドラゴンを見た後だと、なんかしょぼい。
戦闘力も二十らしいしな。
何か威嚇してきたが、俺が剣も抜かずにグーパンチでぶん殴ると、そのまま吹き飛んで動かなくなった。
まあ、二十なんてこんなもんだ。
動かなくなったエンシェントドラゴンは、しばらくすると光に包まれて、自然と消えていった。
そういえば、先週のデカドラゴンも後には何も残らなかったな。
すぐにギルドに戻って討伐完了の報告をすると、また辺りがざわついていた。
おい、あいつもうエンシェントを倒したのか。
やっぱり伝説の勇者のパーティはすごいな。
デカドラゴンもやるじゃん。
よし、少しずつ名声が上がってきたな。
最後に余計な声が聞こえたけど。
もう忘れてくれよ。
だが、さすがにデカドラゴンに比べると小さかったからか、伝説の勇者というわけにはいかないようだ。
もっと討伐を繰り返す必要があるな。
ミルファのいる魔術院に帰ると、ミルファはさっきの水晶玉を大事そうに抱えていた。
俺が入ると、慌てて水晶玉を奥にしまう。
「その水晶玉、なんか戦闘力を見るやつだろ。また何か見てたのか?」
「そうよ! この世界の平均戦闘力と竜の戦闘力が分かる優れものよ!」
「それはすごいが、何でまた見てたんだ?」
そう聞くと、ミルファがちょっとうつむきがちになった。
「この水晶玉は、おばあちゃんの形見なの。私が最初に教わった魔術なのよ」
ミルファが少ししんみりした声で言う。
いつもみたいに胸を張るでもなく、偉そうに笑うでもなく、水晶玉を大事そうに抱えている。
その横顔は、普段より少しだけ静かに見えた。
なんか一瞬ミルファが可愛く見えたが、さすがにそれは気のせいだ。
いつも大事にしまったり取り出したりしてるのはそういうことか。
戦闘力百万の俺に、大事な形見を壊されたらたまらんもんな。
俺も水晶玉には近寄らないでおこう。
「それで、今週も討伐してきたんでしょ?」
またミルファがいつもの調子に戻る。
「ああ、報酬はこれだ」
硬貨が大量に入った袋をどさっとミルファの前に置く。
しょぼいとはいえ、この世界を襲う危険なドラゴンを倒した報酬だ。価値は分からんが、重さからしてそれなりにあるはずだ。
「さすがは私の呼び出した最強の勇者ね! これでまた屋台に行きましょ!」
おい、魔術の研究の建前どこ行ったんだよ。
ま、確かにうまかったし、それはいいか。
結局ちやほやしてくれるのは、まだこいつ一人だけのようだ。
【二週目の戦績】
ルインの戦闘力:1,000,000
世界の平均戦闘力:2
現在の称号:伝説レジェンド最強チート強すぎ破滅ダークネスアルティメット破滅ゴッドハイパーチートインフィニティブレイブ破滅チート勇者




