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一週目 ③

 まだ昼のはずなのに、辺りは夜のようだった。

 理由は簡単。陽の光が遮られているからだ。


 何にって?

 空を飛ぶ巨大なドラゴンにだ。


 空に浮かぶドラゴンは、先の方が見えないほど体が大きい。

 何キロ先まで続いているのかも分からない。


 体の色は基本的に漆黒だが、所々に白い部分がある。

 闇そのものみたいな黒い鱗の隙間から、聖なる光のような白い模様が浮かび上がっていた。


 暗闇に染まった体の後ろから陽の光がわずかに漏れていて、後光が差しているようにも見える。


 体の先の方では爆発が起きていて、その周りでは木や山肌が紙細工のように吹き飛んでいる。


 左右の先が見えない翼が動くと、竜巻が起きて土が空に舞い上がっていく。


 いや、常闇って物理的に陽が届かなくなるのかよ。

 そんなの想像しないじゃん。


 というか、デカすぎだろ。

 なんだこれ。


 なんか白い模様がホーリーっぽいし、爆発してるし、デカすぎるし。


 うん。

 確かにこいつは、常闇をもたらす竜じゃダメだ。


 全然やばさを表現できてない。

 チートチートチートデカドラゴンの方が合ってるわ。


 めちゃくちゃ長い部分も、意外と特徴に合ってるし。


「あわわわわわわわわわわ」


 アルトが、あわあわ言って震えるだけの機械になっている。

 これは仕方ない。

 剣とか持っていても、まったく届くわけないし。


 その時、デカドラゴンの頭がこちらの方に軽く動いた。


「人間どもよ。我に挑むか」


 地響きのような音だが、なぜか言葉が認識できる。

 そんな声が響いた。


 ドサッ。


 それを聞いて、アルトがしりもちをついた。

 その直後、水の流れる音がして、アルトの周りに水たまりができた。


 うん。

 これは仕方ない。


 昨日のデカドラゴンを流してくれたんだ。

 誰にも言わないよ。


 バタッ。


 セリアも目が半開きのまま固まって倒れた。

 気絶してしまったらしい。


 これも仕方ない。


 さて、そろそろ俺の出番か。


 というか、ほんとにこいつ、戦闘力三百で勝てるんだよな?

 三百と百万という数字でなんとか平静を保っているが、こいつの見た目からして勝てる気は全然しない。


 剣を握ると、


「我を見ても剣を握り続けるとは、なかなか骨のある人間よ」


 響く声と同時に、鋭い爪が振り下ろされた。


 剣の扱い方なんてよく分からない俺は、とりあえず爪に向かって剣を振り上げた。


 すると、俺の振った剣の先から、透明な刃のような衝撃波が飛んでいく。


 衝撃波は空気を裂き、竜巻をかき消し、デカドラゴンの爪にぶつかった。


 次の瞬間。


 スパッ。


 山を潰せそうな巨大な爪が、きれいな断面を残して切れ落ちた。


「何者だ……!」


 響く声に、はっきりと焦りが混じる。


 これ、ほんとに三百と百万っぽいぞ。


 確信を持った俺は、地面を蹴った。


 ただジャンプしただけのつもりだった。

 だが、足元の岩が砕け、地面に蜘蛛の巣みたいなヒビが走る。


 次の瞬間には、俺の体はデカドラゴンの顔の前まで飛び上がっていた。


 高い。

 怖い。


 でも、それ以上に。


 いける。


 俺は空中で剣を握り直し、そのまま横に振った。


 斬撃が走る。

 黒い鱗が、まとめて何枚も宙に舞った。


 もう一度振る。

 今度は翼の端が裂け、そこから漏れた黒い風が一瞬で霧散した。


 さらに振る。

 白い模様をまとった胴体に、光の線みたいな斬撃が刻まれていく。


「ギィィィァァァ!」


 もう響く声も、哀れな叫び声だ。


 俺は大きく息を吸い、剣を頭上に構えた。


 よく分からないけど、たぶんこういう時は上から振り下ろすのが一番強い。

 そんな気がする。


「うおおおおおおおお!」


 思いっきり、剣を振り下ろした。


 その瞬間、空が割れた。


 空に浮かんでいた雲が一直線に裂け、黒い影に覆われていた谷へ、まぶしいほどの陽の光が差し込む。


 斬撃はそのままデカドラゴンの頭から尻尾まで走り抜けた。


 一拍遅れて、巨体がきれいに二つに裂ける。


 左右に分かれた体の間から、青空が見えた。


 おお。

 なんかすごい。

 俺、今ちょっと勇者っぽいぞ。


 調子に乗った俺は、そのままブンブンと剣を振り回した。


 振るたびに斬撃が空を走り、デカドラゴンの巨体がどんどん細かくなっていく。

 黒い鱗も、白い模様も、爆発していた体の先も、全部まとめて光の中に消えていった。


 最後の一振りで、空を覆っていた影が完全に晴れる。


 昼の光が、谷全体に戻ってきた。


 ふぅ。

 いくらデカく見えても、所詮戦闘力三百。

 俺の敵ではなかったか。


 だが、どう見てもやばすぎる見た目、そして普通の戦闘力一の人間では絶対に倒せないドラゴンだったことは間違いない。


 これで俺も、伝説の勇者だ。



 翌日、王都で凱旋パレードが開かれていた。


 大勢の人に担ぎ上げられた神輿のような台の上で、先頭に立って手を振るのは、常闇をもたらす竜を退治した、伝説の勇者。


 アルト。


 俺はその仲間として、後ろに立っている。


 あれ?

 おかしくない?

 何で?


 あいつ、デカドラゴンが口開いたら腰抜かして漏らしてただけじゃん。


 セリアが、そのアルトの腕をつかみ、尊敬のまなざしでアルトを眺めている。


 おかしいだろ!

 そこ、俺のポジションじゃん!

 なにお前がちやほやされてるの!


 隣にいるニックだけが、俺の方を見て尊敬のまなざしを見せてきた。


「ルインさん、僕は見てましたよ。すごい活躍でした」


 おい、見てたならなんでこの状況に疑問を持たない。


「でも、その活躍をあえて話さず、手柄は譲るなんて、カッコよすぎます! 僕も、ルインさんの思いをくんで、あの活躍は胸に秘めておきますね」


 いやいやいや!

 秘めないでよ!

 もっと広めてよ!


 確かに、昨日のデカドラゴンを退治した後、伝説の勇者になるのを確信して、満足して帰って寝たけどさ。


 こんなことになると思わないじゃん。

 お前だけ尊敬のまなざしを見せてても意味ないじゃん。


「いや、広めていいんだよ?」


 とりあえず言ってみると、


「いえいえ、言いませんよ。僕が言いたがってるって思ってそう言ってくれてるんでしょうけど、全然大丈夫ですから」


 とニックは言って聞こうとしない。


 俺は全然大丈夫じゃねぇから。


 何故かアルトの凱旋パレードを見せられて、ミルファがいる魔術院に戻った。


「どうしてこうなった」


 俺がミルファに向けてつぶやくと、


「当然じゃない。パーティを組んで討伐したら、リーダーが伝説の勇者でしょ」


 確かに。

 見せつけるはずのセリアは気絶してたし、ニックは何も言ってくれないし。


 そうなったらリーダーのアルトが勇者になるのが自然……


「くそぉぉぉぉぉぉ! 俺が伝説の勇者になるはずだったのに!!」


 理解はしたが納得はできない。

 たまらず叫ぶ。


「大丈夫よ! 私はあなたの活躍をちゃんと見てたわ。そう言えば、あなた、名前はルインって言うのね?」


 お前に見られても意味ないんだって。

 そういえば名乗ってなかったな。


「ああ、そうだ」


「私が授けようとしていたケマルよりも、かっこいいわね」


 お、こいつ、俺のルインの良さが分かるとは、なかなかセンスあるな。


「それにしても、エター以下略を倒すなんて、ほんとあなたはすごいわ!」


 ちょっと待て。

 お前、名前略しやがったな。


 人間の口から以下略、なんて聞いたことないぞ!

 コメント読み上げの機械音声だけだろ、そんなの言うの!


「おい、俺にあれだけ呼ばせてたんだから、略すなよ!」


「何でよ。毎回正式名称を言ってたら、疲れるじゃない」


 そうだけどさ。

 ほんとその通りだけどさ。

 だったらそんな名前つけるなよ。

 そして俺に言わせるなよ!


「まあいいわ。あなたは、伝説の勇者になりたかったんでしょ?」


「そうだけど」


「だったら、私がもっとすごい称号を授けてあげるわ」


「おい待て。嫌な予感しかしない。やめろ」


「あなたは、伝説レジェンド最強チート強すぎ破滅ダークネスアルティメット破滅ゴッドハイパーチートインフィニティブレイブ破滅チート勇者よ!」


「やめてくれぇぇぇぇぇ!」


 一気にルインって名前まで恥ずかしくなってきた。

 普通にケマルの方が知的で良くない?


【一週目の戦績】

ルインの戦闘力:1,000,000

世界の平均戦闘力:1

現在の称号:伝説レジェンド最強チート強すぎ破滅ダークネスアルティメット破滅ゴッドハイパーチートインフィニティブレイブ破滅チート勇者


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