一週目 ②
俺は、鎧と剣を装備して、冒険者ギルドに来ていた。
木製の机と椅子が並び、昼間だというのに酒を飲んでいる冒険者たちがいる。
奥には依頼書らしき紙が貼られた掲示板と、受付嬢のいるカウンター。
完全に俺が思い浮かべていた冒険者ギルドだ。
完璧だ。
ここで美女パーティを見つけて、最高の異世界ライフを送る。
意気揚々と受付嬢の前に行く。
「新規のご登録ですか? それでは、こちらにお名前を」
そう言われて、本名を書こうとしてふと止まる。
ちょっと待て。
せっかく異世界に来たのに、普通の名前じゃカッコ良くないな。
少し考える。
最強の俺にふさわしい名前。
そうだ。
破滅から取って、ルインにしよう!
あのちんちくりんには思い浮かばない、最高にかっこいい名前だ。
俺は書類にルインと書き入れた。
「しかし、このタイミングで新規登録なんて、運が悪いですね。まさか、あのドラゴンが出た時だなんて。新規の方には、他の依頼もありますけど……」
おお、ちゃんとミルファが言っていたドラゴンが、強いドラゴンとして認識されているぞ。
これは期待できる。
「大丈夫だ。問題ない」
そう言って、俺はついでに飲み物を受け取り、堂々と胸を張って受付嬢から離れてテーブルに向かう。
テーブルで飲みながら周りを見ていると、
「おい、あんた、なかなかいい体してるな。強そうだ。うちに入らないか?」
俺の最強ぶりが見た目からも分かってしまうのか、声をかけられた。
振り向くと、めちゃくちゃガタイの良い男三人組が立っていた。
一人目は、熊みたいな大男だった。
分厚い鎧の上からでも分かるほど肩幅が広く、背中には俺の胴体くらいありそうな大剣を背負っている。
二人目は、顔に傷のある無口そうな男。
腕を組んでこちらを見ているだけなのに、なぜか周りの空気が少し重くなる。
三人目は、髭面で豪快に笑っている男。
手には酒のジョッキを持っていて、すでに酔っているように見えるのに、足元にはまったく隙がない。
いやいやいや、このパーティは無いだろ。
強そうではある。
間違いなく強そうではある。
でも俺が求めている異世界ライフは、こういう方向じゃない。
男三人に囲まれて武勲を上げる未来は、どう考えても俺の理想と違う。
こいつらにいい体してるとか言われるの、怖すぎるし。
「悪いが、断る」
俺が断ると、周りがざわざわする。
おい、あいつ、Sランクチームの誘いを断ったぞ。
何者だ。
あのガタイのいい連中、有名なパーティだったのかよ。
もしかしたら、そこで無双したら名が上がったかもしれないが、あれは無理だ。
しばらく周りを見ていたが、なかなかいいパーティが無い。
やっぱり冒険に出るような女の子は少ないのかなぁ。
そう考えていると、また声をかけられた。
「なぁ、新入りだろ。俺たちも今登録したところなんだ。一緒に行かないか?」
残念ながら男の声。
しかし、振り向くとパーティに女の子がいる。
三人パーティで、声をかけてきた一人目の男は普通といった感じ。
もう一人の男は背が低くて気も弱そうで、少し後ろに控えている。
そして、最後の一人が女の子で、この子はスタイルもいいし、申し分ない。
よし、決まりだ。
「いいだろう」
また周りがざわつく。
おい、あいつ、Sランクを蹴って初心者チームに入ったぞ。
どう見ても田舎から出てきた仲良しグループだろ、あれ。
ふむ。
ちょうどいい。
このパーティで活躍したら、間違いなく俺の活躍ということが知れ渡る。
「なあ、いきなりなんだが、この時期に登録したってことは、あれに挑むんだろ?」
声をかけてきた男がそう言う。
あれというのは、あのドラゴンのことだろう。
当然だ。
ミルファが絶対に名前を覚えていかないとダメだと言うから、途中で何回かミルファの言う正解が変わった気がするが、何度も言わされて暗唱できるようにしてきた。
「ああ、当然だ。あの」
俺はそこで言葉を切り、一気に言えるように大きく息を吸う。
「エターナルダークネスウルトラスーパーミラクルチート最強チートホーリーアルティメットレジェンドゴッドハイパーインフィニティカオスファイナルブレイブエンシェントドラゴニックエクスプロージョン強すぎチートデカドラゴンを退治する!」
高らかに宣言すると、周りの空気が固まった。
しばらくすると、ざわつきが聞こえる。
クスクス。
デカドラゴンって。
あいつ、パーティ入らなくて良かったな。
あれ、かっこいいと思ってるのかな。
チートって三回言った?
おい!!!!
全然正式名称じゃねぇじゃないか!
目の前の三人は、固まった後、優しい微笑みになり、
「えっと、俺はかっこいいと思ったぞ。その、デカドラゴン」
「私もそういうの、否定はしないわよ」
「僕は分かりました! 常闇で、エターナルダークネス、ですよね」
優しくされる方が百倍辛い!
いっそ、もう死にたい……。
もう殺してくれ……。
もう一回転生からやり直させてくれ……。
あと、今の三人目。常闇の方は正式名称なのかよ!
すごいの、あいつじゃなくておばあちゃんの方かよ!
まずい。
このままだと完全に痛い中二。
いや、もう中二どころか小学生レベルの奴だと思われてしまう。
しかし、この空気から今挽回するのは無理すぎる。
一旦ここからは退散した方がいいな。
「ちょっと場所を移さないか」
そう言うと、三人とも優しい目をして同意してくれた。
意外とこいつら、いいやつそうでそれは良かったけど。
そうだ、さっきのはあえてだ。
あえてこのパーティの性格の良さを確かめるため、賭けに出た。
あれを目の前で笑うような性格の悪い奴にちやほやされても、全然ダメだ。
見た目だけじゃなくて、性格も兼ね備えていないとな。
よし、だからあれは問題ない。
何も問題なかったんだ。
俺たちは場所を移動し、三人が借りているという宿に向かった。
宿の一階にある、食堂の隅の席に座る。
ギルドのざわつきから離れたことで、ようやく少しだけ呼吸がしやすくなった。
さっきの宣言は忘れよう。
忘れたい。
できれば世界ごと忘れてほしい。
「改めて、俺はアルト。剣士だ。まだ登録したばかりだけど、腕にはそこそこ自信がある」
最初に声をかけてきた男が、そう言って軽く手を上げた。
短い茶髪に、動きやすそうな革鎧。
顔立ちは普通だが、目つきはまっすぐで、人が良さそうな雰囲気がある。
なるほど、いかにもリーダーっぽい。
こういうやつが一人いると、パーティはまとまりそうだ。
「僕はニックです。弓と、あと少しだけ回復魔法が使えます」
次に、背の低い男がぺこりと頭を下げた。
こちらは気弱そうな顔をしていて、背中には自分の体に少し合っていない大きめの弓を背負っている。
小動物みたいな雰囲気だが、こういうやつほど意外と有能だったりする。
「それで、私はセリア。魔法使いよ」
最後に、女の子が胸に手を当てて名乗った。
肩の少し下まで伸びた銀色の髪が、窓から差し込む光を受けて柔らかく輝いている。
青い瞳は涼しげで、落ち着いた雰囲気があるのに、どこか人懐っこさも感じる。
まだ若いが、ミルファのような子供っぽさはなく、しっかりと冒険者らしい雰囲気があった。
白を基調にしたローブは派手すぎず、けれど安物にも見えない。
腰には小さな杖が下げられていて、身のこなしも上品だ。
ミルファのような「私は天才!」という圧はないが、こっちはこっちで普通に優秀そうに見える。
そして何より、ちゃんと美女だ。
俺の異世界ライフ、まだ終わっていなかった。
「よろしく、ルイン」
「ああ、よろしく」
俺はできるだけ余裕のある笑みを作ってうなずいた。
さっきまでギルドでデカドラゴンを高らかに叫んでいた男とは思えない、落ち着いた態度のはずだ。
たぶん。
そうであってくれ。
「それで、本当に常闇をもたらす竜に挑むつもりなの?」
自己紹介を終えた後、セリアが切り出す。
「当たり前だ」
俺は自信満々で答える。
ミルファ曰く、ドラゴンの戦闘力は三百。
対する俺は百万。
余裕すぎる。
「そう来なくっちゃな。あれを倒せば、一気にSランクどころか伝説の勇者さ」
アルトも同意してきた。
なかなかいいことを言う。
こいつも引き立て役としては役に立つな。
「なら、明日の朝に出発ね。常闇をもたらす竜は、王都の北にある黒霧の谷に現れるらしいわ」
出現場所もなんかいい響きだ。
よし、明日にはもう伝説の勇者だ。
これでセリアにも、いや、それどころか世界中からちやほやされること間違いなしだ。
完全に、俺の計画通りだ。




